480話 ダンジョン3層(PT) 小型モンスター殲滅
「後ろ飛んでるの誰かやれるっ!」
「今行きますっ!」
前田さんからの援護要請が耳に入ったのであちらに聞こえるよう大声で返事を返す。
直進をすると返事が返ってきたので狙いを付けてバットの先頭辺りに散弾を放つ。そしてすぐさま自分も移動再開だ。
相手を倒したことによってバット達のヘイトが自分に向いた。即座に移動したことで距離は稼げたがあちらにも遠距離攻撃の手段がある。直線的な移動を長く続けるのは危険だった。
そして案の定、バット達から遠距離攻撃が放たれた。直線的に追いかけてきてる事もあって先頭の十数匹からなのが幸いだ。それでも数は多いんだけどな。
このままではまずいと、避けようと思った瞬間後ろで何かにぶつかるような音が聞こえた。体と首を動かして何が起きたかを確認する。
そこにはうっすらと光っているよくわからない模様が描かれた壁? があった。物理的な結界という奴だ。
「石田さんっ! 援護するから直進をっ!」
「了解ッ!」
飛んでいると玄田さんの声が届いた。どうやら今度は自分が引き付け役をすればいいらしい。
こちらの声が届いたかどうかはわからないが、返事を返すと言われた通りに直進の時間を長くとってバットを一直線に並べる。このコースから外れないよう後ろ手で適当に直射弾を撃っておく。意外とこの牽制も効いているのか、チラリと後方を確認した限りだとコースから大きく外れた奴は居ない。順調か?
「対角上で撃つなよっ! 撃てっ!」
「キィィィッッ!?」
後方から様々な音が聞こえてきた。放った攻撃がバットに当たった音、攻撃同士がぶつかって互いにはじけ合う音、そして攻撃に当たったバットの断末魔や痛みのよる鳴き声。それ等が後方でしばらくなり続けている。
音が収まった事もあり、空中でターンを行って状況の確認を取る。まだバットが追いかけてきていれば引き続き移動だ。
「後方に居た奴はあらかた落とすことが出来たぞ。引き付け役お疲れさん」
「みたいですね……あ、さっきは結界ありがとうございました」
すぐ近くまで寄ってきていたのか、玄田さんがそう言いながら自分に声を掛けて来た。
「見た感じ回避行動は間に合っていたようだけどね。その調子その調子!」
「後ろを確認しながらの飛行はまだまだ慣れませんけどね。
しかし……結構減りましたか?」
こうして様子を見る分だと、最初の数に比べてかなりのバットが居なくなってるように思う。最初の頃は避ける先にも別の群れが居たりで進路変更も頻繁だったからなぁ……。
「今の一撃で大きな群れを落とせたからな。後もうちょっとだ!」
「でしたらこうしていると後で何か言われそうですね。さっさと残りを倒してしまいましょう」
「OKだ。バットも残りもうちょい、最後の一仕上げと行こうか!」
玄田さんとそう言葉を交わすと、自分に変わって追いかけられている理香さんの所へ向かう。
バットの数自体はまだいるが、ほぼあの群れのみとなっているのが現状だ。先ほど自分の後ろのバットを倒したように、皆で一斉に攻撃する事も可能となっている。皆で攻撃をすればそりゃ音も人一倍増えて聞こえるわな。
空の敵もほぼあれだけと終わりが見え始めている。生き残っているまばらなバットを倒せばそれで飛行班の最初の任は終了だ。結構無我夢中の内に終わっていったな。
バット達飛行出来るモンスターを倒せば次の作戦が待っている。なるべく早めにそちらにも取り掛かろうと、玄田さんの指示のもと残りの群れに狙いを定める。
飛行班の大きな仕事もこれで一段落だな。
「よし……モンスターの空中戦力排除終了っと。念話でリーダーに状況を報告してくれ」
「了解よ」
松田さんが玄田さんの指示を受けて飛行班討伐終了の報告を武田さんへと伝える。やはりトランシーバーが無くてもすぐ連絡がつけられる念話は便利だ。
「石田さんお疲れ! なかなかの飛行っぷりだったわよ」
「綾さんもお疲れ様です。いやぁ……我武者羅にやってただけなんですけどね」
「……だんだんラインは乱れてきてましたが飛ぶ速度に問題は無しです。最後はありがとうございます」
「理香さんもお疲れ様です。その前は自分がお世話になりましたしね」
綾さんとの会話にお姉さんの理香さんも混じってきた。最後の群れの始末は皆でやったものだからねぇ。
「人の事は言えないけど良い飛びっぷりだったんじゃないかしら? それといろんな属性が使えて羨ましいわね。私もクロスボウで出来ると言えば出来るけどさ……」
「前田さんもお疲れ様です。使える手段が多いのは嬉しいんですけどね。まだどれを使うべきかっていうのは迷っちゃいますよ。
クロスボウだとバットの相手は難しそうですね……だけど前田さんが使ってるハイドですか? 透明になるってのはいいなって見てて思いました。バットを撒けるのは便利でしょう、あれ?」
「まぁね。こっちは地上でも空中でも使い方は同じだし」
「風の層を作ることで風の能力者でも出来ない事は無いですがモンスターには結構位置バレしてしまいますからね。空中で自然に透明化できるのはやはり強みでしょう」
「田辺さんもお疲れ~、地上の様子はどう?」
こちらの会話に田辺さんが遠見を使いながら加わった。綾さんが田辺さんの後ろに回って遠見の光景を一緒に見始める。あの空中モニターも最初見た時は驚いたよなぁ。
「障害物エリアは予想通りと言いますかかなり集まってますね。ですがミノタウロスの姿はありません。リーダー達が上手くやったんでしょうか?」
「数も前のエリアより少ないから余裕あったんじゃない? ゴーレムも増えてるし」
「ですかね? まぁ、居ないならそれに越したことはありませんが」
「こちらでも確認は出来ないね。地上班が上手くやったんじゃないかい?」
遠見が使える田子さんも同じように地上の様子を確認しているがミノタウロスは見つけられずだ。倒れていたらラットや鎧蟻の下敷きになってる可能性もあるから死骸をどけないとダメかもな。
続けてゴーレム達の方も見せてもらったが見た感じ劣勢という様子ではない。ヘビトカゲに至っては背中に圧し掛かっているのがモニター越しで確認出来た。転がってなんとか振り払おうとしているらしいけど一度掴まれたら難しいんじゃなかろうか。
そしてタイラントスネークの方を見ようとしたところで念話をしていた長田さんから声がかかった。
「皆、連絡がついたわよ。飛行班は地上班を援護しながら陣地前に集合!」
「向こうの移動する準備も出来たようだね。それならさっさと例の仕掛けで地上のあいつ等をやっつけてしまおうじゃない」
「和田の言う通りだ。その後はゴーレムの方もあるしラットと鎧蟻の方はさっさと片付けるとしようか。皆、もうひと踏ん張りだ!」
「地上班移動準備出来たって。空中支援要請が来てるわ」
玄田さん声がけの後、地上班と連絡を取っていた松田さんから早く行くわよーと急かされた。元より移動する準備は出来てたけどな。
当初の予定ではミノタウロスの始末はバットを始末し終えた自分達の役割だったのだがどうにも1手省けたようだ。作戦は次の段階へと進めるらしい。
障害物エリアには前の広場で作ったような橋があらかじめ作られていた。それを渡って陣地前へと移動する手はずとなっている。自分達飛行班の次の役割は地上班が橋を渡り切る援護だった。
そしてその後に行われる地上の小型モンスター殲滅作戦。それを実行すべく、皆は地上班の居る障害物エリアへと一直線に降りていく。
あの仕掛け上手くいってくれるといいな。
「よし、地上班も合流したか。琴田、飛行班に連絡。ヘイトを稼いで陣地前の門に集合するようにとな」
「了解です」
武田さんの指示を受け、琴田さんが空中支援をしてくれていた飛行班に集合の連絡を入れる。
地上班は軽く水分補給を取った後、陣地の高台に登って迎撃の準備を行っていた。まぁ、迎撃と言ってもこちらは数減らしが目的だが。
しばらくして念話を聞いた飛行班が派手に攻撃を行って門前へとやってきた。これで全員集合だ。
「各自役割はわかっているなっ! ここで小型モンスターを一掃する! 事前に決めておいた役目を熟せ! あいつ等は直ぐにでもここへ到着するぞっ!」
門前に着いた自分達へ短く労いの言葉をかけた後、武田さんが高台の上から全員に向かってそう声を発した。
作戦に関しては全員が把握済みだ。その為の仕掛けを施した陣地も作成済みである。武田さんの言葉を聞くと各自が一斉に動き出した。
地上班は高台から迎撃をし、飛行班は空中から相手の数を減らす。そして数が減って来た所で外で戦っていた飛行班が門から陣地内部へと入り込む。入り込む際、最後までモンスター達のヘイトを稼ぐのを忘れてはならないとの事だ。
武田さんが言ったように小型モンスターの群れはすぐさま陣地の前へと押し寄せた。
陣地前で迎撃をしていたゴーレム達は本当に陣地のすぐ目の前、その端っこに集められていた。ゴーレムの役目は陣地の他へ向かわせないようにする為にこの配置にしてあった。全部の小型モンスターを陣地へと入らせるよう、両側から中央に圧をかけてもらう。
基本は人間を追うのであまり心配はいらないかもしれないが念の為だった。モンスターも人との間にゴーレムが立たないのであればそう優先して攻撃しない事もわかっている。あくまで群れから外れるモンスターを狩る程度の仕事しかさせないに止める。
「攻撃開始ッ!」
陣地へ押し寄せたモンスターに全員から攻撃が放たれた。モンスターの先頭集団に様々な攻撃が降り注ぐ。攻撃を受けたモンスターの中から耐えきれなかった者がその場で命を落としていった。
とはいえ、自分達人間側は30人ぽっち、それに対して向こうは何倍も数が居る。本気ではあるが全力で対処しているわけではない。減る数も目に見えて少なった。
「なんだかあからさまに攻撃頻度が少ないと奇妙な気分ですね?」
「そういう作戦だからな。この1発の攻撃で相手を屠れる威力を込めている以上モンスターにとっては気が気じゃないだろうけどさ」
「特に上を取られてるんだからねぇ。地を這うモンスターにとって空中にいる自分達はさぞかし目障りだろうさ」
近くにいる玄田さんと和田さんと会話をしながら地上のモンスターに向かって攻撃を繰り出す。
全力を出さない、使う能力を限定するという行為は今までもやってきた事なのだが何やら不思議な気分だった。これだけの数を相手にこんな程度でいいのだろうかと、そんな気持ちを抱かずにはいられないのだ。後の手はずは知ってるんだけどね?
「作戦的には理解してるんですけどなかなか……今までが結構忙しかった反動と言いますか……っと」
こちらに向かって飛んで来た攻撃を鉄板を出して防ぐ。そして攻撃を防いだ鉄板が重力に従い地面へと落ちていく。
これだけでもラット達には十分脅威な攻撃と、地上のモンスター相手に使う防御手段は攻守を兼ね備えたこいつを使っていた。空から鉄板が降って来るとか普通に考えて怖いよな?
「下がモンスターだらけだから仲間に当たる心配もないしこれで十分だよね。大きさ次第じゃ複数を巻き込めるしさ」
「土魔法はそういう所良いよな。まさに一石二鳥だ」
「当っているかどうかは自由落下任せなので何とも言えませんが。
攻撃が下からのみなのでバットの時みたいに動かなくていいのは楽ですよね。あの群れに近接で挑むとか正直想像出来ないんですが……」
「基本後衛をしてる人間はそうだと思うけどね。僕だってあれに接近戦をしろって言われても無理って答えるよ」
「いや……石田さんはともかく和田は頑張れよ。お前リーダーと訓練してなかったか?」
「護身術程度だよ。流石にあの規模は無理だっての……」
和田さんがお前と一緒にするなと口にする。脚力強化と物理的な結界の能力を持ってる玄田さんは近接も時々やるそうだ。通路戦だと飛ぶのが難しい場所とかあるもんな。
そんな会話をしながらも地上に向かって攻撃する手は止めない2人。2人にとってはただの作業感覚だろうしな、これ。
「リーダーから連絡が来たわっ! そろそろ陣地内に入れって!」
玄田さん達のそんな話を聞きながら攻撃をしていると、松田さんが自分達にそう声を掛けた。作戦の最終段階か……。
「よしっ! それじゃあ門に向かって最後に弾幕をばら撒くぞ! 陣地入る時に攻撃を受けて負傷なんかするなよっ!」
『了解ッ!』
待ってました! と言わんばかりに、玄田さんが皆へ活を入れる。地上に近づけば被弾の確率も高まるからな。
皆に続いて門へ向かって一直線に下りていく。殿を玄田さんが勤めいつでも結界を張れる用意を取っていた。先程までの作業をしていましたといった雰囲気はもう微塵もないらしい。
飛行班全員が門から陣地へと入っていく。高台に武田さん達の姿が無い事から既に移動を終えた後だろうと推測する。門も全開だったしな。
「一気に奥まで行くぞっ! 低空飛行だっ!」
『了解!』
門から先はそう複雑な作りとなっているわけではない。小型モンスターを誘い入れる為に大部屋状のフロアが1つあるだけだ。天井は格子状と、外が見える作りとなっていた
内部へ入ると大部屋の奥に武田さん達の姿があった。全員所定の位置だ。自分達も部屋の奥へと行き位置に着く。
「よしっ! 格子壁を降ろせ!」
つっかえ棒状態の柱を壊すと自分達の目の前に格子状の分厚い壁が上から下りてきた。入り口側から見れば頑丈な折に入ってるように見えるだろう。
その更に手前には普通の防壁を作る遠距離攻撃対策だ。
「モンスターが入って来るぞっ! 読み通り門の中へだ!」
「ほぼ入り口を目指して直進している! 外れたのはゴーレムが処理中だ!」
田辺さんと田子さんが遠見で門付近の様子を見ながら皆に伝える。こちら側の天井に上へ出る階段があるので飛行班の何人かが天井へと上がっていた。ゴーレムの処理以上に外れれば手伝いが必要だからだそうだ。
「よぉぉし、来たぞっ! 各自! 狭いが最後の迎撃だっ!2人の合図があるまで耐え抜けよ!」
『了解ッ!』
入って来たモンスターが格子の壁でせき止められる。モンスターはこの邪魔な壁を壊そうと必死だが、厚みもあってそう簡単にどうにかできる代物ではなかった。
これが自分達の安全に左右するからと特に念入りに作ってあった。突破されれば正直ひとたまりもない作戦とあって、最初にこれを聞いた時はマジかよ……と、思わざるをえなかった。
格子壁の向こうがモンスターの姿で埋め尽くされるまでそう時間はかからなかった。こちらにそれだけ殺意を覚えているという事でもあるのだろう。
用意されていた槍、遠距離攻撃で最後の抵抗とばかりに攻撃を繰り出す。モンスターからすれば追い詰めたように見えているはずだしな。
「モンスターが入り切ったぞっ!」
「支えを破壊しろっ!」
田辺さんのその報告に武田さんが一言そう告げる。
少しすると陣地に振動が伝わった。入り口に用意していた支えが破壊されたのだろう。天井に上がっていたのはその最後の支えを壊す意味もあった。
「全員脱出だっ! さっさと天井に上がれっ!」
武田さんのその言葉を聞いて用意されていた階段を皆が駆け上がる。
モンスター達からすれば、壁にしか見えなかったところに全員が消えていくとあって呆然という感情があれば呆気に取られていたかもしれない。
「全員出たなっ!? ……良しっ! 最後の仕上げと行くぞっ!」
「各自、格子の天井から退避ッ! 作業要員以外は近づくなっ!」
仕上げ班のリーダーである白田さんが言葉を引き継ぎ作業班へ指示を出す。
部屋の中に伝わる細い通路の弁が開け放たれる。その瞬間、部屋の入り口付近から地面に向かってある液体が流れ出ていった。
モンスター達、特に獣型のラットは臭いにも敏感なはず。地面を流れる液体の匂いをいち早く嗅ぎ取ったらしい。そうでなくとも、触れればその液体の事を気にせずにはいられなかっただろうが。
液体は次第に入り口側から自分達が籠城していた格子壁の所へと到達した。最前列の地面に足を付けていたモンスターもその存在に気が付いた頃だ。
その正体を知って暴れまわるモンスター達。もっとも、既に自分達こそが檻の中とどうしようもない状況ではあったが。
次第に液体が地面を覆い、格子壁の穴を伝って自分達の居た防壁の所まで到達する。階段の下を伺う事でこちらまで到達したことが分かった。
「来ましたっ!」
「階段からも離れろっ! 水の能力者達は仕上げだっ!」
「上からも滴らせろっ!」
白田さんの指示のもと、天井に残っていた水の能力者達が部屋の中に向かって地面に流した液体……油を上からぶっかけた。
部屋の中に直接出し、モンスターへとぶつける白田さんと田野倉さん。天井の穴から部屋の中へと零れ落ちるように出す松田さんと理香さん。自分は部屋の中で弾けるイメージをし、広範囲に油をばら撒いた。
「着火ッ!!」
「行きますっ!」
そして燭台へ火を灯していたごとく、伊豆田さんが発火の能力で部屋の中に火種を発生させた。
天井が燃えた……文字通りに。松田さんと理香さんが流し込んだ所まで火の手が上がった。
格子状の天井から炎が燃え上がる。部屋の中は確認をするまでも無く火の海と化しているだろう。中にいるモンスター達も火達磨状態だ。
油を纏った体に火が回る。狭い部屋の中で暴れる為被害はどんどん広がっていった。足場に溜まっている油にも引火してるだろう。
武田さんが立案した、足湯ならぬ足油の作戦はこうして自分達の目の前で形となった。




