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464話 ダンジョン3層(PT) リキッドを紹介




 「しっかし……ハンマースコーピオンの素材は勿体無かったよなぁ……」

 福田さんが先ほど倒したハンマースコーピオン2体の事を思い返しながらそう言葉にした。確かに2体分の素材を丸々置いてきてしまったからなぁ。


 「広場攻略の事もあるので出来る限り先へ急ぎたいですからねぇ」

 「あんなのを持って移動なんてしてらんないわよ」

 「ゴーレムに背負わせるのも戸惑うしねぇ……。いざ戦闘で必要となった際にあんなのを担がれてちゃね」

 「下ろせたとしてもその度に背負いなおしをさせないとだからね」

 「ゴーレムに担がせるとなったら帰還をする際だけにしたいわな」

 「それに背負わせるとなったら今担がせている荷物は自分達で担ぐことになりますしね。やはり移動が優先だと思います」

 「塚田さんの言う通り、ゴーレムを使って素材を運搬するのであれば急ぐ用事もない帰還時がいいですね。行きはどうしても探索で動き回りますから」


 皆も素材の事は惜しいとは思っているようだが、これに関しては仕方がないとも割り切っているようだった。

 自分達がするべきは3層内広場の攻略であって運搬ではない。攻略を一度中断し、素材を運んでからまた潜るというのは流石に選択肢にはなかった。


 「広場まで持って行って後は運搬班に運んでもらうわけにもいきませんしね。その場合だと広場で一緒に倒したっていう扱いになるんですか?」

 「運搬班に運んでもらうとなるとそうなるな。3層を攻略した時の報酬でそいつを貰う事は出来るが……それだとなんだかなぁ……」

 「まぁ、上位魔石2個で我慢するしかないよね。幸い怪我人もいない事だし良しとしないと」

 「怪我じゃないけどよ、石田さんの方はゴーレムを前面に立たせてただろ? そっちは問題なしでいいのか?」

 田淵さんがハンマースコーピオンの遠距離攻撃を受けていたゴーレムの損傷具合なんかを聞いてきた。


 「調べてみましたけど特にこれと言って問題はありませんでしたね。防壁の前に出していたとはいえ基本は大盾持ちが攻撃を防いでくれていましたから」

 「こっち側と似たようなもんか。まぁ、こっちのゴーレムは盾を構えていただけで攻撃はしてなかったから余計損傷はなかったみたいだけどな」

 「……私達も遠距離攻撃の手段を持たせるべきです。有ると無いとでは大違いなので」

 「5体を出していましたが後ろの2体はなにもやる事がありませんでしたからね」

 「アイアンゴーレム製であれば在庫もあるでしょうからそう難しい事は無いと思います。今は何かと製作所もお忙しいようなので予約待ちにはなるでしょうけども」

 「そうだなぁ……地上に帰ったら知り合いと少し話でもしてくるか」

 福田さん達もゴーレムに遠距離攻撃の手段を持たせようと何やら相談をし始めた。アイアンゴーレムでなくとも他の素材で遠距離攻撃が出来るのであればそちらでもいいと。手持ちの属性ゴーレム素材でも出すかと話しているし何かと高価な逸品になりそうだ。


 「でだ、話は変わるが……石田さん?」

 「はい?」

 自分達のゴーレムに持たせるサブウェポンについてはそれでいいとなったのか話をこちらへと変えて来た。あの事かなぁ……。


 「引っくり返らなかったハンマースコーピオンを押し倒したあのゴーレムについて説明をしてくれないか?」

 「ですよね……」

 「ん? なにそれ?」

 話というのはやはりリキッドについてだった。こちら側に居なかった綾さん達待ち伏せ班は何の事と首をかしげていた。


 「ゴーレムがあの速さで走るなんて聞いたことがないぞ。ただの大き目なゴーレムだと思っていたけどあれ普通じゃないだろ?」

 「ですね。大きさだけなら自分達が使っているゴーレムと同じような物だけど何かが根本的に違ってる気がする。動きが非常にゴーレムらしくないというか……」

 「そもそもゴーレムは走らんぞ?」

 「早歩きが限界って感じだよね。それに音もなんか静かだったし」

 「あれが作れるのならゴーレム増強案はあのゴーレムを基本にしてもらいたいわね」

 こちら側でリキッドを見ていた福田さん達から説明を求むと声がかかった。まぁ、アイツもその内出てくるだろうから構わないけどさ。


 「それじゃあこの先にある広場でお見せします。前田さん達は実際に見てないですしね」

 「わかった。流石にあれを見た瞬間は唖然となったぞ……」

 「自分は槍を投げる手が止まりましたよ」

 「なんだありゃあ? って思ったな」

 「速さは人が走る速度とほぼ変わらなかったよね」

 「むしろ早かったんじゃない? 関節部分の摩擦を減らしたんだとしても不可解な速度だったわ」

 「皆が何を言ってるかわけわかんないわね……」

 「……ゴーレムは走ってもそんなスピードにはならないはず」

 「米田さん達の使っているゴーレムと同じぐらいという事はあの鋼色の3mサイズの奴ですよね?」

 「長田さん、念話で教えてくださいよぉ」

 「今のところ広場にモンスターの反応は無いから話を聞く分には問題ないけども……」

 「また奇っ怪なマジックアイテムでも手に入れたのか、石田さん?」


 広場までもうすぐという事もあってか福田さん達はその言葉で納得した。綾さん達は何の事やらさっぱりといった感じだ。田淵さん、その通りだよ。


 そんな疑問を感じたまま、既に攻略を終えた広場へと向かった。

 移動して来たモンスターが居なければこの広場は安全なはずだ。索敵班が周囲の様子を確認しつつ先へと進む。

 韋駄天ブーツの事なんかもあるし休憩がてらにそこでマジックアイテムの披露といくかね。





 「よし、とりあえず周囲は安全っと。ここで小休憩にするぞ」

 「石田さん、ともかく例のゴーレムを出して頂戴」

 「後で韋駄天ブーツの方も頼むな」


 休憩という事で各自に飲み物を配る。終わったらゴーレムを出すか。

 そして人数分の飲み物を配るとリキッドが入っている駒を取り出すとゴーレムを外へと出した。


 「これがそのゴーレムね。見た目は鉄系のゴーレムだけど……」

 「石田さんのゴーレムだとこれだけ鋼色なのね」

 「他のは黒系で艶消し入ってるもんな」

 「つまりこれだけ手を入れてないと。普通は統一させるものですが……」

 「他のゴーレムが一緒にいると目を引きそうですね」

 「……早速走らせてみて?」


 前田さん達、リキッドを見たことのないメンバーが何が違うのかと観察をする。瀬田川さんや宮田さんは鑑定を持ってるから使えば正体は一発でわかっちゃうんだけどな。

 ともかく走る所を見たいというので広場の中央に向かって走らせてみる。100mも行けば戻って来いと指示をしてあるのでしばらくしたらまた戻ってくるだろう。


 「なにあれ?」

 「ゴーレムじゃないわね……」

 「早すぎじゃね? ゴーレムにしてはって事だけども……」

 「何をどうすればあの速度になるんですか!」

 「はえ~……」

 「……あんなの見たことない」

 初めてリキッドの走りを見た面子が唖然とその後ろ姿を見つめていた。


 「やっぱり普通じゃねぇな」

 「ええ……」

 「俺達のゴーレムも大きさは一緒なんだがなぁ……」

 「鑑定したい……」

 「説明するって言うんだからもうちょっと待ちましょうよ」

 

 福田さん達も改めて見てやはり変だと呟いた。宮田さん、戻ってきたら説明しますんで。

 しばらくすると広場の真ん中に向かって走って行ったリキッドがこちらに向かって走って戻ってきた。その引き返しを見てまたもやみんなが唸りだした。


 「鑑定すればすぐなので早速説明しますね」

 「頼む」

 皆が頷くのを待ってから、それではとリキッドについて説明を始めた。


 「こいつはマジックアイテムのとある金属が素材となっています。1体だけ他と違うのはその所為ですね」

 「やっぱりマジックアイテムかぁ……」

 田淵さんがそうだよな……と呟いて頷いた。他の皆もマジックアイテムと聞いてリキッドをじっと見つめた。


 「こいつを構成してる金属ですけど……いわゆる液体金属って奴です。自分はそのまんまリキッドと呼んでます。モンスターで例えるならリキッドメタルゴーレムって奴に該当するんですかね?」

 『…………え?』

 皆が説明を聞いて一瞬呆けてしまった。今なんと言った? と……。


 「リキッドメタルゴーレムと言いましたけどモンスターのそいつとは少々違うようでして。大きさは3mが最大のようです。人間大、1,5mから3mまでの大きさに出来るとの事ですね」

 「いやいや!? ちょっと待ってくれ! 液体金属製だって?」

 「ええ」

 「液体金属のゴーレム……そのモンスターは自分達もまだ見たことないんだよね」

 「見た探索者のほとんどは死んでるっていう話だしねぇ……」

 「大きさはともかく性質はあれと同じって事?」

 「リキッドメタルゴーレムの情報が無いので同じと言っていいのかはわかりませんが……。少なくともこいつは似たような存在だと思います」

 そう言うと一番最初の形になれと指示を出した。すると、アイアンゴーレムの姿を模していた形が崩れ全体がつるっとしたのっぺらぼうの姿に。今までものっぺらぼうは同じか。


 「こんな感じで他の形へと姿を変えることが出来るようでして。後は……」

 以前ダンジョン内で試した大棘ムカデの姿に変われと指示を出す。そうすると人型から大棘ムカデの姿へと変化した。以前もしたからか最初の時よりスムーズになったか?


 「とまぁ……こんな感じで人型以外にもなれるようでして。大きさが3mまでと決まっているのでモンスターの大棘ムカデとは違って見えるかもしれませんが」

 「……マジかよ。変化の機能は本当にリキッドメタルゴーレムみたいだ」

 「3mという制限はあるみたいですけどね……」

 「いやいやっ!? 制限があってもこれ凄いじゃん!?」

 「液体金属のマジックアイテム……またもや頭の痛いものを見つけちゃったわね」

 「こいつも知られたら強制買取コースじゃないのか?」

 「液体金属ってなると武器はあるんだけどなぁ……。ゴーレムは初めてだろうしおそらくそうなると思うぜ?」

 「そちらの武器の方も最初は強制買取という噂がありましたしね。実際は個人の装備にしかならないので物珍しいが強制買取の対象には値しないとなったんでしたか。武器も壊れずいろんな場面に対応できると探索者には嬉しいマジックアイテムらしいですが」

 「用途はそれに限定されてるからねぇ……」

 「ですけどこれがゴーレムとなれば話はいろいろと変わってきますよね。特に人型以外にも変形出来るってなると……」

 「間違いなく軍は欲しがるでしょうねぇ……」

 「……強制買取コース……です」

 リキッドの事を知った皆は、驚いたり興味深いと視線をリキッドへ集中させた。液体金属製の武器の事も知っているようでそれと比較もしている。田島さんが持ってるあれだよな。


 「えーっと……その強制買取についてなんですが……。宮田さん、瀬田川さん、リキッドを鑑定してもらえませんか?」

 「え? もうOK? じゃあ遠慮なく!」

 「強制買取と何か関係が? ともかく見させていただきます」


 そう言って2人にリキッドを鑑定してもらう事にした。他人に見てもらうのは初めてだからやっぱりこの瞬間は緊張するな……。

 大丈夫だと思いながら2人の鑑定結果を待つ。果たしてどうだ?


 「なにこれっ!? これじゃ石田さん専用にするほかないわよ!」

 「この説明ではそうと見るしかないですね……これも登録制ですか……」

 「どうした?」

 「2人で納得しとらんでこっちにもわかるよう説明してくれ嬢ちゃん達」

 「えーっと……皆さんにはこいつで見てもらいましょうか」

 ゴーレムを出すと自分の荷物から鑑定の虫眼鏡を取り出す。まずは自分で1回見ておくか。


 『ゴーレム用の液体金属。約1,5mから3mまでの大きさのゴーレム作成に使用可能。他の用途では効果を発揮しない。

 内部に土の魔石とゴーレムの核を入れることにより、液体金属製のゴーレムとして使える。

 液体金属故、ゴーレムであれば定型を必要としない。不定形のゴーレム作成が可能。

 使用した魔石内にある魔力に反応する。以降はその魔力反応を感知して動くことになる』

 

 鑑定の虫眼鏡で見た所そんな説明が頭に伝わってきた。よし、これなら大丈夫そうだ。

 

 「要は最初に使用した魔石内の魔力を感知してでしか言う事を聞かないって事よね? 使ったのは石田さんの魔力が入った魔石でしょ?」

 「まぁ、そうなりますね。減っていた魔石のエネルギーを補充して入れたので魔石内の魔力は私のかと」

 「どうやって感知しているのかはわかりませんが……一度その魔力の波長を覚えてしまったからにはもう石田さんの言うこと以外聞くことはないでしょう。石田さんから譲渡をされても魔力の波長が違うとなれば……」

 「駄目って事か?」


 鑑定の虫眼鏡でリキッドを見た福田さんがそう問いかけた。そしてその問いに頷く宮田さんと瀬田川さん。自分でやっておいてなんだけど融通利かなくなっちまったよなぁ……。

 そんな事を思いながら皆が鑑定を終わるのを待った。ともかく紹介はこれで終わったな。

 

 「リキッドの詳しい性能まではどこまで説明すればいいかわからないので今は省略を。私自身、何が出来るかの確認はあまり出来ていませんので」


 モンスターへの模倣は先程の大棘ムカデを見たとおりだ。その状態で走らせて動きを見てもらう事で皆には納得してもらうしかない。移動が大棘ムカデ並みと皆またもや唖然としていたが。

 少し小さいがミノタウロスに変形する事も出来るだろうし、他のモンスターへも擬態できるはずだ。それ等のモンスターの数だけ模倣をしていたら時間がいくらあっても足りなくなってしまう。そもそも自分が知るモンスターの数はそう大したものではないけどな!

 ここでそれ等を検証している時間は無いだろうとリキッドについては現状これだけと説明した。走る速度がゴーレムにあるまじきなのも液体金属故と。


 正直持ち主ではあるけども、リキッドについては自分ですら未だによくわかっていない事の方が多い。リキッドの検証には途方もない時間を必要としそうなんだよねぇ……。

 軍も早くこのマジックアイテムを手に入れてくれないかな? 





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