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425話 倉庫が欲しいんだけども……




 「っと……電話か、誰からだろう? ちょっと失礼します」

 「おう」


 そう言って槍一さん達に一言断るとポケットから携帯を取り出し確認をする。画面を見ると知らない所からの電話だった。昨日もそんなことあったな。

 そう思いながらも電話に出る。間違いならすぐ切ればいい。


 「もしもし?」

 『夜分に申し訳ない。そちらは石田将一さんの携帯でしょうか?』

 「そうですが……」

 『夕飯時にすみません、森田です。唯の父の園造です』

 「ああ、園造さんでしたか。こんばんは」

 『こんばんは。今お時間大丈夫ですかな?』

 「はい、大丈夫ですよ」

 そう答えながら席を立つ、周りがガヤガヤしてるからね。少し待ってくださいと言って皆から離れた。


 「お待たせしました。しかしどうされたんですか? 携帯に私の電話番号が入ってると思うのですが?」

 以前依頼を受けた際、お互いに電話をしたとあって電話番号は知っているはずだった。そっちは登録済みなんだけどな。


 『申し訳ない……携帯を部屋に置きっぱなしにしたようで。今は家の電話からかけておりましてな』

 「なるほど。というか、よく私の携帯にそちらから掛けられましたね?」

 電話番号を暗記でもしてるんだろうか?

 

 『娘に電話番号を聞いたのでね』

 「なるほど……」

 それなら納得だ。あちらも夕飯中かね?


 「後でこちらも登録しておきます。それでご用件は何でしょうか?」

 『娘からの伝言は聞かせてもらいました。靴が製品化した際にはぜひお求めください。コマーシャルなんかもするつもりですが売り出した時はご連絡しましょう』

 「ありがとうございます。予備と合わせて確保させてもらいますね」

 常時使うかどうかはともかくとして持っておくに越した事は無いだろう。脛の部分は金属で補強されるようなものだしちょっとした脚部防具だ。蹴りの威力低下の分は他の場所で攻撃を心掛けないといけないのが難点だけどな。


 『最寄りのお店でお求めください。それでですな、そちらの件はそれでいいのですが……問題はもう1つの方でして』

 「ああ……そっちは流石に難しいですか」

 そう言ってもう1つの用事……倉庫の1画を借りるという話へと移った。


 『流石に個人に敷地を貸すというのは難しいものがありまして……。少し検討をしてみたのですがこちらの方はなかなか色よい返事が……』

 「まぁ、そうですよねぇ……。私もお願いしておいてなんですが、おそらく無理だろうなぁ……とは思っていました。手を煩わせてしまい申し訳ありません」

 『いえいえ。その代わりと言っては何ですが……こちらでいくつか倉庫として使えそうな場所をピックアップしておこうかと思いまして。工業地帯の方でよろしければいくつか当てもございますので』

 「そうなんですか? 私としてもどこか探しに行かないといけないと思っていた所なので助かります」

 『良さそうな所をお見掛けしましたらご連絡いたしましょう。広さなんかはそこで不動産の者とお話されると良いかと』

 「助かります。ダンジョン街の土地に関しては詳しくないものでして。どこか適当な郊外辺りを~ぐらいしか考えていなかったものですから」

 『それではそちらの方で何か進展があり次第ご連絡を差し上げるという事で。電話をした内容としては以上になりますね』

 「わかりました。お忙しい所、手を煩わせるような事を言ってしまい申し訳ありません」

 『いえ、これぐらいでしたら全然構いませんとも。

 そう言えば我が社にある展示場の方をご覧になったそうで。この敷地の話もゴーレムに関係する話ですかな? 石田さんの事ですからゴーレムの製造場所の確保といった感じでしょうか?』

 「まぁ……そんな感じですね。後はダンジョンから取ってきたもろもろの素材置き場に使ったりですとか」


 流石に大型ゴーレムを作るとは現状言えないのでそう口にした。広さのごまかしの為に他の理由も必要だよな。別に素材置き場として使ってもいいっちゃいいんだけどね?

 その内いろんなものを置く可能性も無きにしも非ずだ。ゴーレムの製造場所だけど生活空間だって後々必要になってくるだろうしね。

 場所を確保したらいろいろ機材も揃えないとなぁ……と思った。休憩室のような部屋も作ってみるか?


 「個人倉庫を借りてはいるんですけどもずっとそこでゴーレムを弄るというのもなかなか……その内手に入れた素材で狭くなるかもしれませんしね」

 『ゴーレムで運んでいると早くに倉庫内も埋まるかもしれませんな。そんな狭い空間でゴーレムを作るとなると息も詰まりますか』

 「ええ。そんなわけで少し広めの敷地が欲しかったわけでして」

 『わかりました。それでは私は知り合いの不動産関係の者にでも聞いてみるとしましょう。良い返事が出来る事をご期待頂ければ』

 「はい、ありがとうございます」

 『いえいえ、それではまた。ああ、それと娘から聞いたかもしれませんが……是非また家の方にでもおいで下さい。ゴーレムの事を肴にでも飲むとしましょう』

 「唯さんにも言いましたがその時は事前にご連絡いたします。なにやら今まで作ったゴーレムの初期型を保管してあるそうで。よろしければそちらの倉庫? の方も拝見させていただけると有難いですね」

 『結構埃をかぶってるかもしれませんしなぁ……一度掃除をしておきましょう。見る方は構いませんよ。それでは連絡の方をお待ちしております』

 「こちらも早期に連絡が来ることを期待させていただきますね。それでは」

 そう言って通話を切る。忘れないうちに森田さん宅の電話番号を登録しておくとするか。


 「工場の一角を借りられないのはあれだったけど、その代わりに良さそうな場所を探してもらえるのは有難いな。土地勘とかまるでないもんなぁ……」


 探索者用に管理部の外部にもそういった貸し倉庫みたいなものは存在しているはずだ。もしかしたら管理部に問い合わせればそういった場所の案内をしてもらえるかもしれない。

 ただ、問題があるとすれば大型ゴーレムを作っても大丈夫なほどの倉庫はどれぐらいあるかという事だが……。


 「一応広さはあっても完全に寝かせた状態とかになっちゃうんだろうな。動かしてまわるって程ではないにしろ直立体勢ぐらいはさせたい所だよな」


 横にして寝かせておくにしても邪魔なのは間違いない。ある程度の高さは欲しいものだ。

 今後を考えると5m以上を作るという事もあり得るし広さの更新をしたとはいえ今の個人倉庫では厳しいのは確かだった。作業場所は作業場所でもゴーレム作製の作業場所としてはちょっとねぇ……。

 企業が使うような敷地なら広さの心配はないだろう。5m以上のゴーレムでも余裕をもって作ることが出来るはずだ。


 「問題は敷地を買う……借りるって事だな。金も相応に掛かるだろうし敷地に建物も作らないとな。土魔法でやっちゃ流石にダメよなぁ……」


 そこは建設関係の人間が絶対必要になってくることだろう。耐震設計とかだって必要なはずだ。崩れてしまって周囲に被害がどうこう言われるのはこちらとしても望むものではない。

 山の自宅と違って街中の場合は自分で作るといったことは許可されないだろう。

 その辺りを今後どうするかなぁ……と思いながら槍一さん達が居る所に戻ろうと歩き出した。

 しかし、少し歩くとポケットにしまったはずの携帯から再び着信音が聞こえて来た。


 「なんだ? 園造さん何か言い忘れた事でもあったか?」


 そう思って携帯を見るもそこには相手不明の着信の表示が。またか?

 今度はいったい誰だと思いながら電話に出る。最近多いな。


 「もしもし?」

 『夜分に申し訳ない。そちらは石田さんの携帯でしょうか?』

 「そうですが……どちら様でしょうか?」

 『望の父の幸作です。以前はまったくお構いも出来ませんで……。あ、自宅からかけたのでわからなかったですね、申し訳ない……』 

 これで相手が誰だかも判明した。園造さんに引き続き幸作さんからと来たか。


 「幸作さんでしたか、こんばんは。後で登録させてもらいますね」

 『よろしくお願いします。今お時間の方は大丈夫ですか?』

 「ええ、大丈夫です」

 そう言って先ほどまで園造さんと電話をしていた場所に戻り話をすることにした。幸作さんという事は望さんに頼んでた伝言の事かな?


 『娘から石田さんがある程度の広さがある建物を希望していると話を聞きましてね。そちらのお話の返事をしようかと思いまして』

 「早くに返事がもらえて助かります。実は倉庫のような建物が欲しいなぁ……と思いまして。幸作さんは建設関係にお勤めという事でお力になって頂けると大変ありがたいのですが……」

 『以前お約束しましたからね。私でお役に立てる事であればお話なり実際の建築なりお力になりますとも』

 「ありがとうございます」

 一応敷地を手に入れた後の事も考えてはいた。倉庫の建築は幸作さんの所にお願いするとしようか。


 『そういった倉庫をお求めという事で石田さんに少しお話がありまして。知り合いの不動産に勤めている者から良さそうな話を聞いたんですよ』

 「早速ですか? それは有難いのですが……」

 なにやら既に紹介したい物件があるとの事だ。園造さんに頼みはしたけど建築関係に勤めている幸作さんの方がこの手の情報は持っているらしいね。


 『明日お時間ございますでしょうか? 今なら借り手がついてない倉庫があるという話なのですけども』

 「明日ですね。問題ありませんよ」

 2層の報酬分配は自分に関係ないしね。


 『それでは明日の10時に家へ来ていただくという事で大丈夫でしょうか? 現地までご案内しますので』

 「10時に幸作さんのお宅にですね。わかりました」

 『いきなりで申し訳ありません。なるべく早めにお伝えした方が良いかと思いまして。倉庫の方に買い手が出てくるかもという事でしたので』

 「いえ、むしろこちらからお願いしていたわけですので。早期のご連絡ありがとうございます」


 明人さんにしろ園造さんにしろ、早くに連絡を貰えて感謝してるのはこちらの方なのだ。明人さんなんて伝達を頼んだ次の日すぐだったしな。

 ともかく、見てほしい物件については明日、現地で不動産の人が待っているのでそこでという話になった。幸作さんが言うにはお得な物件には違いないと。広さの割に掛かる費用はそうでもないという話だ。

 どうにもうまい話に思えるが話を聞いてみるまでは何とも言えない。明日、不動産の人の話をしっかり聞こうと思いながら幸作さんとの通話を切った。こちらもすぐに登録しておこう。


 「明日の予定もこれで決まり……っと。どういう物件を紹介されんだろうなぁ?」


 期待と不安を抱きながら明日紹介してもらうという倉庫について想像をめぐらす。買い手がすぐに付くかもしれないという事は確かに良さそうではあるのだけども……。不動産の人の常套句な可能性も捨てきれないのだけどさ。

 ともかく、詳しい事は明日の説明を聞いてからにしようとあんまり期待しすぎないようにした。立地なんかもわからないわけだしな。

 この事は明日の説明次第と思いながら槍一さん達の居る席へと戻ることにする。なんだかんだ時間経っちゃったしな。


 ちなみに、槍一さん達と合流した後は皆で食堂に移動し夕飯を取ることになった。皆お腹も減っていたようだったしね。

 その際に、風牛の料理があることを告げると駒を見つけたお祝いと言って皆で注文する羽目になった。皆この素材について知っていたらしい。

 そして丁度人数分を頼むと券売機に売り切れの文字が……ギリギリだったけどあって良かった。明日の分はこれでなしと。

 自分の分は無かったのだが、昼に食べたという事でそれじゃあ仕方ないとなった。昼夜続けてはちょっと重いからね。食べれない事は無いけどさ。


 自分がいない間にもう食べ終わってるかなぁ? と思いながら席へと戻る。夜はさっぱりおろし蕎麦にしたので既に食べ終わっているので気にする事はない。

 明日は素材の分配で朝から忙しいだろうからと早めに解散する流れになっている。また食堂でやきもきしながら待機することになるのかねぇ?

 

 「槍一さん達は普通に飲んでそうだけどな。そういや祝いだからって一升瓶を買ってたけど大丈夫か?」

 なにやら席に戻るのが少しだけ不安だ……今のちょっとの間でなにもないことを祈るしかないな。





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