41話 モンスター料理の感想、後ついで
「いやー! ソードチキンの親子丼美味しいですねぇ! 普通の鶏肉より素の味が濃いんですかね? 淡白なのに味が濃縮されてるように感じますよ。それに肉質も柔らかいし、噛めば噛むほど鳥を食べてるって実感できます。これは調理工程で何かひと手間してるのかな…。
それと卵も素の味が濃いですね。プルプルしてて柔らかいですし、玉ねぎもいい塩梅に出汁を吸ってて、カツを食べた後にご飯と一緒に食べると口の中が幸せです…。いくらでも入りそうなぐらいですよ。
丼ものはごはんにも味が染みてて本当一気に行けちゃいますから箸が止まりませんねこれ」
「食レポ様様だな。まぁそれだけ喜べたのならオススメした甲斐があったな。
素材の味が濃いからな、出汁が薄目でも丁度いいぐらいの味に仕上がってるのは私も好きなんだ。ほら少し一味をかけても意外と美味しいぞ」
「なるほど少し試してみますね」
机に備え付けされている一味を少しだけかけて食べてみた。
肉や卵、玉ねぎ甘味の中、そこに少しだけ辛味が加わってそれが更に食欲を増進させる。
上の旨味を吸い込んだご飯を最後に口に入れて味を調える。そのものだと少し味が濃く感じるが、ごはんも一緒に食べることで味がマイルドになる。やっぱり丼ものはいいなと再認識した瞬間だった。
「甘味の中に一味の辛味が少しだけ効いてていいアクセントになってますねぇ…私は胡椒を少しかけるのが好きだったんですけど一味の辛さもいいですねこれ」
「ちょっとした味変だが、辛味がいい具合に合うんだよなここの親子丼は。変わり種として粉チーズも合うぞ。こっちはもう少し味に塩気が欲しいと思う時に掛けるかな」
「チーズですか、それもよさそうですね。やっぱり卵系はアレンジが効くのでいろいろ味変出来ていいですよねぇ」
そう言って今度は備え付けのすりごまを少しかけてみる。ゴマの挽き立ての味も加わりまた違った味を楽しめた。
「次はオーク肉の生姜焼きいってみますかね。バラとロースどっちも盛られてるのはいいですねぇ。まずはロースから…」
1プレートの上に備え付けとして玉ねぎの薄切りに火を通したものを敷き、そこに デンッ! とロースの薄切りを2枚乗せ、手前にはバラの部分が置かれている。
バラとロースのどちらも食べれるというお得感を感じさせつつ、まずは脂が少ないであろうロースから口に入れる。
噛めば噛むほど肉の旨味がが口の中に広がり、それにショウガと味噌の味がプラスされる。肉が柔らかいが、火はしっかり通っている為変な味はしていない。最後に肉の下に敷いてある玉ねぎを口に入れて味をやわらげた。こちらも火を通している為甘味が感じられ、生姜焼きによく合っている。
しっかり噛んで味わうとそれを飲み込み、水で少し飲み口の中をさっぱりさせる。
「んんー、オーク肉って柔らかいんですねぇ。こちらも肉の味がしっかりしてるしショウガと味噌の味付けがいい引き立て具合です。それとやはり焼いてるだけあって香ばしいですし、生姜焼きはごはんほしくなりますねぇ。
これは単品でなくて定食として食べたいですよ」
「昼には定食として出ているぞ。夜はやはり飲む奴が来るからな。どちらかと言えば酒のつまみ扱いで頼む奴が多いか」
やっぱり夜は酒飲みが多いのかぁと料理を見て実感する。
とはいえごはん単品がないわけではないだろうし、自分で勝手にセットみたいにして食べることは可能だろう。少し割高になるかもしれないがそこは探索者として稼げという事だろうか…。
そんなことを思いながら次はバラの方を口に運ぶ。こちらもロースと同じ味付けだが、やはりバラの方が脂が多く味が少し濃く感じる。
付け合わせの玉ねぎを少し多めに食べ、口の中の脂と調和させる。
「うん…ロースは料理をしっかり味わいたい人向けでバラは酒飲み向けですかねぇ。ごはんがあればどっちも対応できるんでしょうけど…これは今度昼にでも来て頼んでみますか」
「少しさっぱりさせたいなら酢を少量掛けてみるのもいいぞ。脂分が和らぐからな」
「ですね。こちらも味変させるならそんな感じでしょうか。さらにガッツリいきたいならマヨネーズを頼んだりとかですかね」
再びごはんが欲しくなったのか、また親子丼を食べたりしながら田島さんと食べてる料理について花を咲かせる。
「そういえば田島さんの食べてるそれは海鮮丼ですか? 鮭とイクラっぽいですね?」
「こいつは森林鮭の親子丼と言ってな。これも11層からの森林エリアにある沢でとれるダンジョン素材だよ。
沢しかない所でなんで鮭がいるのか訝しがった奴が沢の下流はどうなっているのかと調べに行ったら、途中で見えない壁にさえぎられたそうだ。その先には行けなかったらしい。でも鮭はその向こう側に消えていったそうで複雑な思いで見送ったと報告書を読んだことがある」
「へー…そんなところになってるんですね。やはり食材としては11層からという事ですか?」
洞窟で可食できそうなものが思いつかない。キノコなんかはありそうだが魔物素材で食べれるものはなんかいるのだろうかと疑問を持った。
「そうだなやはり洞窟では可食できるものは限られるな。もちろんいないわけではないが。この国ではなじみがないが、別の国だとコウモリのモンスターの姿煮とかあると聞くぞ。
地上にいるコウモリは寄生虫だなんだのと難しいが、モンスターはそういうのがないらしい。見た目さえ気にしないなら食べれる奴は多いんじゃないか?
珍味としてモグラ肉のステーキとかたまに出るぞ。私は見たことしかないが味はいいらしいな」
寄生虫の心配がないというのはありがたい。料理をする上でもそれがいないだけでずいぶんしやすくなる。
この森林鮭も獲ってきたものをすぐ捌いてそのまま出せるなら楽なものだ。しかしモグラとかもいるんだな…。
「ただ気を付けなければいけないのは毒の有無だな。中には毒性の強い奴から弱い奴と色々いる。食べれるかどうかは、一度管理部にある資料を見てみるといいぞ」
「その資料室ですけど…昼見に行ったら鍵が閉まってまして。訓練室みたいに申請がいるんですか?」
「そうだな、受付でやっているぞ。探索者を続けるなら資料室は有効利用したほうがいい。あそこの知識量は為になるはずだ」
やはり今度時間が取れるときには資料室や倉庫の申請もしておかなければなぁと思わされた。
毒持ちの情報とかは事前に知っておきたい。治せるとはいえ、かからないならそれに越したことはない。
「今度時間ができた時にでもじっくり見てきますよ。倉庫とかも見てきたいですし」
「あの中の情報は完全に部外秘だからな。軍が管轄してるし、秘匿の義務も出るからネットなんかに流そうものなら一発で終わりだぞ」
「どれぐらいは普通にしゃべっていいんですかね? 今こうして話してますけど?」
「私は自分で見たことを話しているから問題ないぞ。それに探索者相手には多少は軍も目をつむるさ。ガチガチに秘匿するならそもそも探索者に情報開示なんてしないからな。
情報規制した結果、探索者がダンジョンでどんどん亡くなるとかになって困るのは国の方だからな。お互いに分別をわきまえてっていうところだろう」
探索者の理性に期待するといったところか? 中にはそんなの知った事じゃないっていう奴もいそうだし、ひそかに情報は流れてそうだなぁ…。
危険を承知の上でやるにはリスクが高すぎるからやってる奴は少ないんだろうけど、これからどうなるかはわからないか。
とりあえず詳しいことはその時に確認するしかないかな、これは。
「まあモンスターの名前程度は問題ないさ。じゃないと店でモンスター名を表示できないだろう? 詳しい生態や能力なんかを広めなければ何か言われることもない。
後はダンジョンの地図なんかもだな。自分や仲間内で知る分は構わないが、他のPTに配るなんかは注意の対象になる。話の上で口にするとかならばともかく地図そのものを拡散するのはまずいと知っておけばいいか」
「自分でも少し調べたんですけど、画像やちょっとした動画まではOKなんですね」
以前歴史を調べるときについでに見た現役探索者のHPを思い出した。地図はなかったが、ちょっとした画像や動画は載っていたことを。
あの時にも探したが、地図がどのページにもなかったという事は軍が見つけ次第削除していたんだろうな。載せた奴の未来は知らんほうがよさそうだ…。
「あれは探索者やダンジョン管理部の紹介も兼ねているからむしろ推奨されているぞ。やはり興味を持ってもらわなければ困るからな」
「実際にダンジョンの中の情報は皆気にしますよね。私も見ていて楽しかったですから」
「軍や探索者を護衛にした、テレビ局によるダンジョン内の撮影放送もあるからな。そういう依頼を今後見つけるかもしれないぞ」
「そういうのもあるんですね…そっちは私は見てないですねぇ」
「特番を組んでいるテレビ局もある。気になるなら新聞の放送欄で確認しておくといい」
自宅の貸し物件に帰ればテレビはあるし、色々見てみるのもいいかもなぁ…と今の話を聞いて思った。実際に潜る前にそういうところで知っておいて損はないだろうと。
そんな貴重な情報を田島さんに聞きながら、残りの食事を続ける。冷めてきてもこれはこれで味が染みて美味しい。
モンスター料理にすっかりはまってしまった。まだまだいろんな種類があるし、やはり食事は楽しいと改めて感じた。やはり自分でも作ってみたいものだと。
しばらく田島さんといろんな話をしながら夕食を終える。田島さんはデザートと言って、縞牛というシマウマのような牛のようなモンスターから絞った乳で作ったアイスを食べていた。
モンスターは基本人を襲うから、拘束してからの乳しぼりは大変らしい。意外とモンスター産の乳製品は高いらしかった。
田島さんとは食べ終わると解散した。今日はこれでアガリらしい。
自分も今日はこれで帰ろうかなと思い受付に向かう。どうせすぐ終わるだろうし、ついでを片付けてから帰ることにした。
「すいません、管理部から紹介できる武器防具屋さんの場所がわかる地図とかってあったりしますか? もしくはダンジョン街でのオススメのお店でもいいんですけど。
それと夜間学校ですか? それをしている施設がどこなのかも教えて頂きたいのですけども」
「武器防具屋の場所がわかる地図と夜間学校を行っている場所ですね。少々お待ちください」
受付の人についでの用事を頼む。とりあえず場所さえわかればいつでも行けるようになる。
しばらくして後ろの扉から戻ってきた受付さんはプリントアウトされた数枚の紙を渡してきた。
「こちらが管理部からオススメしているお店の地図になります。剣のマークがついているお店が武器屋さんで、盾のマークが防具屋さんですね。それと銃のマークがついているのが銃を取り扱っているお店になります。普通の武器屋さんでは銃は取り扱っていないので必要な場合はこちらにお行きください。
それとこちらが夜間学校をしている施設の場所になります」
「どうもです。ところで…このスパナのマークは何でしょうか?」
「そちらは修理屋さんですね。実物を持っていってそちらで預けますと修理してくれますよ。損傷度によってはしばらく日にちがかかるかもしれませんけど」
「なるほど…ありがとうございました。今度行ってみることにします」
「お疲れさまでした。当施設内の隣の倉庫にもお店はありますのでそちらもよろしければご利用ください。今後のご活躍を期待しております」
受付さんはそう言ってお辞儀をしてくれた。こちらも軽く頭を下げて受付を後にする。
しかし隣りの倉庫にも武器防具屋や修理場があるとは知らなかった。だがダンジョンのすぐ傍、それも管理部にそういったお店があっても確かにおかしくはないかと思った。緊急の場合はここで直してもらわなければいけないのだから。
「とりあえずこの街の武器防具屋の位置はわかったんだし、今度街散策したときにでも行ってみるとするかね。
武器使うとしたらなに持ちゃいいんだか…」
夕飯も食べ終わり、ついでの武器防具屋と夜間学校の情報も手に入れた。これで後は自分の好きなペースで進めることができるようになったと笑みを浮かべる。
あと残っているのは上田さんからの電話待ちか…と思い出すが、こればかりはこちらからどうにかできる事ではないので大人しく待っていることにする。その間に街散策などができるだろうし困ることはないはずと。
「そういや山の電波もなんとかしとかないといけないんだっけか。そっちもどうするかねぇ…」
これも結局は市に電波塔なり基地局を設置してもらう案件であり、将一を悩ます問題だった。
どっちでもいいから何とかならんもんかなぁ…と頭を悩ませながら車に向かう。とりあえず今日はもう帰って休もうと決めていた。




