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387話 ダンジョン1層(ソロ) 低確率との遭遇




 「ふむ……結構気づかれないもんだな」

 

 探知と念話(ぬすみぎき)で近くに居る他の探索者の動向を探り終えるとそう呟いた。ここも心配の必要はないらしいな。

 

 あれから何度目かの転移を行いその都度探索者の動きには注意を払っているが、今の所こちらの転移に気づいた者は居なかった。今確認したPTも、そろそろ帰還陣へ向かうか……と、そんな話をしているだけだ。こちらの転移の事は全く気にしたそぶりも見受けられないな。

 

 「やっぱり東田さん達のあれはゴーレムの害意? を感じ取ったって言う事でいいのかね? 自分1人の転移であれば問題はないっぽいな」

 宝箱とマジックアイテムを用意しながらそんな事を考える。そう言った情報を事前に知れたのはラッキーだったな。


 「あの時のことが無かったら自分がどう思われていたかってのもなかなか気がつかなかったかもだしな。

 良いことと言っていいのかはわからないけど……それでも情報が手に入ったのは自分にとっては有難かったわ」

 探知の能力にしてもいろんな感じ方があるんだなぁ……とまた1つ勉強になった。やはりいろいろと調べなきゃいけない事はまだまだたくさんあるって事か。


 「まぁ、駒の事さえ周知されれば気軽にゴーレムだって出せるからな。いきなり探索者(みかたがわ)の反応が出たとしても不審に思われる事もなくなるか。よし! これでOKっと」


 作り出した宝箱にマジックアイテムを仕込むとここでの作業は終了だ。転移の事も気づかれてないし、何も問題は無いな。

 そして次の転移先へ。近くの探索者に気づかれないとなれば巡る場所もかなり候補が増えていた。やっぱりこの方法はいいね!


 「じゃあ次はここにするかな。近くに探索者とモンスターが居るっぽいけど、戦闘中なら尚更こっちの事なんて気にもしないだろうし」


 視線さえ遮られているのであれば、たとえ壁を挟んだ向こう側だろうが大丈夫と、あまり気にすることもなく次の転移場所を決める。直接見られてなければそれでOKだ。

 地図に指を当て、これまでにやったのと同じ通りに転移を行う。押さえる場所の間違いだけは注意だな。

 そして視界が切り替わる。相変わらず真っ暗なのはもう慣れたよ。


 「……問題なし、かな? 探知にも変化は……」

 そう口にした瞬間、探知に反応していた探索者の青点が1つ消えた。これは……。

 

 「……やられたのか。まぁ……ダンジョンに居るんだし、1層とはいえ命の危険も無くはないか。

 それに1層は初心者探索者(ルーキー)が主だしな。そう言う事も起こりえるか……」


 ダンジョンに潜っている以上、相手が何であれ殺意を持って襲ってくるモンスターと対峙するのだ。油断や慢心は死につながる。たとえ注意をしていたとしても殺しにかかってくる相手がいる以上は必ずしも安全とは言い難い。ダンジョン(ここ)はそう言う場所だ。


 反応が消えた1人に黙祷を捧げつつ、続けて探知で状況を探る。

 こちらへ飛び火する事は無いだろう。転移でやることをやったらさっさと別の場所に行くしな。

 しかし、そんな考えも次の瞬間には吹き飛んでしまった。


 「はぁっ!?」

 探知で周囲を調べていると、近くに居る探索者の反応が1つ、また1つと消えていった……被害が増えてやがる!?


 「これ注意を怠ったとかそんなレベルじゃないだろっ!?」

 これはまずいっ! そう思った瞬間、残っていた探索者の反応が一気に探知から姿を消した……全滅だ。


 「おいおいっ!? 今の1層でこんな短時間で全滅するとか……相手のモンスターなんなんだよっ!?」

 少なくとも1層に湧く通常のモンスターとはレベルが違うと思った。これはあれか?


 「未だに湧くことがある上位勢モンスターって奴か? エメラルドゴーレムやエアーマンティスに遭ったこともあるしなぁ……そりゃ居るってのは聞いてたけどさ」

 まさかこんな近くにまた居るとはなぁ……と、今そのモンスターによって全滅させられた探索者が居た事もあってなんとも言えない気持ちだ。

 

 「しかし相手のモンスターは何だ……? 数的には2体だけども」


 最初に念話で会話を聞けていればよかったと今にして思う。完全に手遅れだ。状況的に支離滅裂な言葉ばかりだったかもしれないけどね……。 

 最初の1人が亡くなった段階で転移をしておけば後の人達はまだ助かったかもしれない。戦闘音を聞いて駆け付けたとでも言えばそれらしく聞こえるだろう。まさか全滅をするようなモンスターと戦ってるとは思わなかったからな……。

 今の1層の場合だとこれらのモンスターと出会う確率はかなり低そうだ。こんなに広いんだからそうそう遭う事は無いよな。


 「こうして自分も発見してるけどさ。まぁ、何が相手なのかは見てもいないから確定ってわけじゃないけども。だけど間違いなさそうだよなぁ……」


 発見してしまった以上は倒した方が良いように思った。

 幸いなことに通路としては広い部類だ。天井も5m以上と、戦力として大型ゴーレムが出せる。全部は難しいが前後で2体程度なら出せるだろう。後は通常サイズのゴーレムとリキッドでいけるはずだ。数的にはこちらがだいぶ有利だからな。


 「周囲には他の探索者も居ない事だし転移を使っても大丈夫か。戦闘があった手前の通路まで飛べばいいな」


 宝箱とマジックアイテムを仕込むだけのつもりがまさかこんな事になろうとは……。効率のいい仕込み方を発見したと思った矢先にこれだよ……運が良いのかそうじゃないのか。

 少なくとも他の探索者の死体を見る事になると考えれば良くはないだろうね……。

 

 駒の入ったケースを確認すると、地図で戦闘があった通路の手前を指定して飛ぶ準備にかかった。少し歩けばそこはもう死地だ。いったいぜんたいどんなモンスターが待ち構えている事やら……。

 

 「駒はOKっと。使わないだろうけど片手剣とマジックブレードも大丈夫だな」


 咄嗟に取り出すことが出来るよう、時間がある時に練習はしている。これを使う状況ってのはあんまり考えたくないけどな……。

 準備は完了と、地図に指を当てて飛ぶ場所を口で指定する。近くのモンスターに探索者の遺体と目印には事欠かないな。


 そして切り替わる視界。光石の明るさに目を慣らしつつ、通常サイズのゴーレムとリキッドを出していく。大型ゴーレムはあっちの通路に入ったらすぐに出すとしよう。手ごわそうなモンスターが居るのはもうわかってるしな。

 目も慣れたところで前進を開始する。真っ暗な通路からこういう光のあるところに出るのだけはやはり困り所だな。


 歩いていくとモンスターが居る通路の入り口に辿り着いた。しかしこれは……。


 「これ……蜘蛛の糸か? まるでピアノ線だな……。しかもずいぶん厳重に張り巡らされてやがる」

 通路の入り口は向こう側が見えない程の密度で何かが張ってあった。触ってみると少しべたついている。それが蜘蛛の巣状になって幾重にも張り巡らされていた。

 

 「いったい何のモンスターだ? まぁ、蜘蛛っぽいのは確定だけどな。2体の内1体は把握と……」

 

 自分がまだ知らないモンスターなのは確実だ。これは鑑定もしっかりやらないとな……。


 ともかく通路に入ろうと、まずはその張り巡らされている邪魔な糸をどかそうと考えた。こっちにはゴーレムが居るので大盾持ちがぶつかれば突破は容易だろう。生身だと触れるのは躊躇うな。

 そうして指示を出そうとしたところ、ふと思いついたことがあった。


 「何かに使えるかもだしこれは仕舞っておくか。破壊する事は無いよな」


 なによりこちらの方が手っ取り早い。体ごと触れるのはご免だが、手を当てて空間魔法に仕舞うぐらいであればどうって事は無い。

 手で触って空間魔法に仕舞うイメージを行う。やはり若干べたついているが、防具を着けているので手の表面が切れるなんて言う事も無い。そもそも軽く触れているだけだしな。

 そして空間魔法に仕舞うようイメージをすると目の前からその厳重な壁は一瞬にして消え去った。撤去にも便利だよな、空間魔法って。

 なにやら一番最初に山の自宅で行った除草作業を思い出した。あれもその内出して燃やしてしまわないとな。


 邪魔な壁が無くなったところで通路へと足を進める。ゴーレムは例の靴のおかげで足音もほとんどしない。これなら静かに接近することも出来るな。

 両手には大型ゴーレムが入っている駒を持っていつでも出す準備はOKだ。天井の高さ的にはもうちょっと奥か。

 探知を使いながら更に先へと進んでいく。そこに2体のモンスターと物言わぬ探索者の死体が転がっているはずだ。

 そしてモンスターが居る所へと辿り着いた。それと同時に大型ゴーレムも出しておく。向こうもこの大きさのゴーレムが出てきた事で気がついたらしい。

 

 「グォォォォォッ!!」

 そんな雄たけびを上げながらこちらへと猛突進してくるモンスター。こっちは何度か見たことあるな。


 「ゴーレムッ! 足元に気を付けてミノタウロスを牽制しろ! 今は押しとどめるだけでいい!」


 1体にそう指示を出して先へと向かわせる。

 ミノタウロスを1体で抑えておけるのは広場で確認済みだ。回り込めると言うほど広くはないので、大型ゴーレムを突破しない限りこちらに来るという事は無いだろう。

 そして問題の正体不明なもう1体のモンスターだが……。


 「やっぱ蜘蛛って言ったら其処だよな」


 光の魔法を使って通路中を明るく照らし出す。これで通路全体が良く見えるようになった。勿論天井もだ。

 そこには、上下反転状態で張り付いている大蜘蛛が真っ赤な目を光らせながらこちらへと迫ってきていた。大人しく地上を這ってたりはしないわな。


 まずは地上へと落とすべきか……。そんな、このモンスターの倒し方を想像しつつ、天井の大蜘蛛へと注意を向けた。





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