381話 駒持ちは今後どうなるか……
「んん? 石田さんじゃないか。石田さんも今から潜って来るのか?」
次の日の朝。探索の準備をして広場へ向かうとそこで福田さん達とすれ違った。
「おはようございます。ええ、落ち着いた1層っていうのを探索をして来ようかと思いまして」
前回はゴーレムの靴の使用試験でいつもの感じで探索が出来なかったしね。ゴーレムを連れての探索だとあれが一般的らしいけどな。
背後にゴーレム8体を引き連れ、福田さん達にはそう言って潜ってくると説明をした。
「こっちは紙田君達がダンジョンへ向かったその見送りだ。ついさっき潜ってったぜ」
「石田さんももう聞いてるらしいけど紙田君達に資金提供をするかどうかの実力確認って事でね。うちからは長田さんと瀬田川さんが試験官として見に行ってるわ」
福田さんのPTからはその2人らしい。どちらも探知が使えるので周囲を見張っておくそうだ。万が一の保健って事かな?
「俺達の所からはリーダーと田辺の奴が付いていったな。リーダーは探知持ちだし田辺は遠見が出来るからよ。どこにどのモンスターが居るかすぐに調べられるぜ」
「今回はあくまで紙田さん達の実力を知る為なのでなるべく手は出さないそうなんですけどね」
「モンスターを自分達で調べるのも勉強という事らしいです」
「まぁ、無事に戻って来られるかどうかの生存力が大事なのでそこでの評価云々は無しなんですけどね」
「あえてそこまでは伝えてねぇからよ。その辺りも技量試験に関係してるか? って思ってるかもしれねぇがな!」
「言っておいてあげても良かったと思うんですけどねぇ……」
何事も勉強だぞ! と、口にする黒田さん。確かに戦闘前にやっておくことは結構あるよな。
「計4人が試験官としてついていったわけですか。紙田さん達には無事に合格してほしいものですね」
「俺等としても金を貸す意味はあるからな。石田さんからするとゴーレム作製の注文が増える事になりそうだけどさ」
「まぁ、そこは構いませんけどね。
そう言えば倉田さん達はお見掛けしましたか?」
倉田さん達もこのぐらいの時間に行くって言ってたからな。
「電話してみたけど誰も出ないからな。既にあっちのメンバーも探索中なんじゃないか?」
「紙田君達の前にもゴーレムを連れているPTが居たって話だからね。おそらく米田さん達の所と理人君達のゴーレムじゃない?」
「金属製が1体と石製が1体。数もあってます……」
「倉田さん達のは無理ですしね」
「あのゴーレムは出せませんねぇ……」
転送陣の建物に入らないからな。
「しかしなぁ……こっち側になってわかったけど、あれはどうにも気に入らねぇな……」
そんな話をしていると福田さんが突然眉を顰めてそう口にした。
「ん? 何かあったんですか?」
「いやな、紙田君達の連れているゴーレムが居るだろ? 昨日石田さんから受け取ったばかりって奴だ」
「そうですね、昨日の夜に渡しましたよ」
それがどうかしたのだろうか? と、話の続きに耳を傾けた。
「姿はよく見かけるロックゴーレムだけどよ、普通のロックゴーレムよりはちょっと小さめだったじゃねぇか。体長も体周りもよ。俺達は事情を聞いているからそれにも納得してたんだわ。
だけど周囲からの声って奴は結構容赦ねぇのな……」
「あんなゴーレムを連れて行ったところでお荷物なだけだろうってね……」
「探索に連れて行くには頼りねぇって言ってるのもいたっけか」
「かなり率直に言ってる人もいましたね……自分達も当時は思い当たる節があるでしょうに……」
「数を揃えるとなると結構しますしねぇ……仕方のない事だと思いますが」
「あの聞こえるように笑ってる声は不快……」
「私達もゴーレムを連れている人から見るとあのような感じだったのかと自己嫌悪ですね……」
「あんな感じで嘲笑はしてはいなかったと思いますが……何とも嫌なものを見た気分でしたね……」
そう言って溜息を吐く福田さん達。今度からは気を付ける様にしようと、以前の我が身を反省していた。まぁ、ただでさえゴーレム連れは目をひくからねぇ……。
「まぁ、それもアレ持ちだってことが周囲へと知れ渡れば態度も一気に変わるだろうけどな!」
小田さんが反省は終わり! とでも言うかのようにして、明るい声色でそう口にした。
「確かに紙田君達のゴーレムが普通のロックゴーレムより小さくてもアレ持ちって事になれば皆態度を変えそうだな」
「それだけの効果はあるわよねぇ」
「結構な大ごと……」
「私達も人の事を言えなくなりそうですけどね」
「だなぁ……。石田さんなんてこうしてこのゴーレムを見せてるわけだし、結構あちこちから引っ張りだこかもしれないぞ?」
駒持ちという事で駒を持っていないPTからは羨ましがられ、PTにも誘われるという昨日紙田さんとちょこっと話していたあの事だ。確かに見方は変わるのだろうが……。
「いろいろ言われなくなるのは有難いんですけどねぇ……。しかしだからと言ってそんな引っ張りだこになんてなるでしょうか……」
「ん? どうしてだ? 俺達もそうだろうが……石田さん達だってアレ持ちって事になればいろいろと声を掛けられると思うぞ?」
福田さんが不思議そうな顔でそう聞いてきた。
「いえ……昨日紙田さんにも言われたので少し思ったんですけどね? 私や紙田さん達って初心者探索者じゃないですか。
福田さん達みたいに中堅クラスってわけでもないですし、広い範囲から声が掛けられるって言う事はそうないんじゃないかと。まだ3層までしか行けませんし……」
「あー……そういやそうだな」
「行ける階層が限定されてましたね」
「確かに3層までだとそんなにかぁ……」
今思い出したと言って頷く福田さん達。自分達基準で考えてたのか?
「3層まででもそれなりに声はかかるかもしれないがそう多くはないか。モンスターの取り合いみたいになってる現状じゃあなぁ……」
「声がかかるとしても3層までだったら初心者探索者達が主となりそうだよな。しかも攻略済みの階層はモンスターの湧き具合も元に戻っちまってるし……。俺等にしても今からそう言った所で素材集めをしようとは思わんしなぁ」
「マジックアイテム探しでなら人も来ていそうですけどね」
「流石に連日泊り込みで洞窟エリア内を回るのは気が滅入ってきそうですよ……」
「2,3日で一度引き上げたい……」
「そこは人も多いから空振りも多いでしょうし……」
「アレをそこまで必要とはしませんわねぇ……」
これが福田さん達であれば上位が出てくる6層からだったり森林エリアの素材を大量に確保となるのだけどね。あいにくとこちらは未だに3層までしか行けないもんでして……。
小田さんが言うようにモンスターの湧きが大人しくなった今の1層2層で素材集めをする探索者は限られてくる。多くはマジックアイテム目当てだ。
「その声を掛けてくる初心者探索者にしても私だとどうなんですかねぇ……」
「あー……石田さんその話知ってるのか。あんまり気にしない方が良いぜ?」
「だな。運も実力の内ってね。あんまり気にしてると禿げるぞ?」
例の自分についての話を知っているのか、福田さんと小田さんはそう言ってフォローをしてくれた。そこまで気にしてるって程ではないんですけどねぇ……禿の心配されるほどに見えたのか?
「紙田さん達の方は私と違ってそんな事も無いので声がかかりそうですよね」
「んー……でも紙田君達の方はゴーレムがアレだから声はかかるとは思うんだけど……」
「新しく作るゴーレム次第ではないでしょうか? 今回の事がうまくいけば今のゴーレムを更新するか別の用途のゴーレムを用意するかでしょうし……」
「私もそっちの出来次第だと思いますよ。石田さんが今連れているこのゴーレムを数体用意すれば声がかりは確実かと」
自分の問いにまだわからないと答える綾さん。桜さんと緑さんは新規で作るゴーレム次第だという。確かにこいつ等であれば3層までのモンスターだとしても結構余裕で運べそうだな。
自分達の荷物を今のロックゴーレムに預けて新規のゴーレムを大型なり3mクラスにすることで素材運搬用にすることも出来る。
資金に余裕が出来れば紙田さん達も一気に大型を注文するという事も選択肢の1つとして考えていそうだよな。
「紙田さん達に声がかかるかどうかは今回の探索の結果次第という事ですか。私の方はアレなのでぜひ紙田さん達にはそうなってほしいですね」
「いや……石田さんの方だって頼まない人が居ないってわけではないと思うぞ? 別に初心者探索者の全員が全員ってわけでもないんだし」
「まぁ、それはわかってますけどね。けれど紙田さん達みたいに初心者探索者がアレを手に入れているって事もありそうです。周知されれば表に出すって人も居そうですよね」
今まで配置してきた駒の数からして持ってる人達はもっといるはずなのだ。まだゴーレムを調達中なのか隠れて使用しているのか……。これからさらに駒を配置していけば自分へ声を掛ける必要もないんじゃないかな?
その為にも今は更に置いてこないとな……と、転送陣がある建て物へ目を向けた。
「どうなるかはアレが周知された後の様子を見てみるしかないですね……。さて、それでは私も行ってくるとします」
「それもそうだな。引き留めて悪かった。もし中でリーダー達に遇ったら試験官頑張ってくれと言っておいてくれ」
「志保の奴がさぼってないかも頼むな」
「長田さんなら大丈夫でしょ。瀬田川さんも一緒だし」
「彼女は真面目……」
「ちゃんと試験官役やってますよ」
「そうかぁ? あいつの事だから手伝ってやろうって感じでなんかいろいろと口を出してそうな気がするんだよなぁ……」
面倒見はいいのだが試験官としては人選をミスったかもしれん……。そう言って若干不安そうな顔を見せる福田さん。瀬田川さんが真面目そうだからそこで相殺してることを祈うrといった様子だった。
「ダンジョンも広いですからねぇ……そうそう遇う事は無いかと。まぁ、見かけたら伝えておきますね」
「頼んだ」
「んじゃあ気を付けてな」
「頑張ってねぇ~」
「気を付けて……」
「地上の出来事は私達で見ておきますね」
そんな感じで皆に見送られながら転送陣の列へと並んだ。何ともにぎやかな出発になったな。
他のPTに激励を送ること自体は珍しくも無いのだが、ゴーレムがいる事でそれ等の見送りにも注目が集まっていた。必然的にゴーレムを連れている自分へと目が向けられる。
一応ここしばらくで見慣れた人もいるらしく「ああ、あいつか」で済ます人もいるようだが。
(他のダンジョン街からやって来た人とかなのかねぇ……ゴーレムを見てそんな驚かんでも……まぁ、今時分は珍しいかもだから仕方ないんだろうけどさ)
しかしその驚きももうしばらくすれば自分以外でも結構見られる事になるだろう。この視線もそれまでの辛抱だな。
しばらく待つと自分の転送の番となった。係の人からなんかゴーレム連れが増えてるといった話を聞かされたが笑顔でスルーをしておく。そう言う事もあるんじゃないかな、と。
光石用のタグを受け取って転送陣へと進む。1層なのでもうかなりのタグがセットされているとは思うのだが光石が落ちてタグも紛失している場合だって出てくるだろう。
「どうせだから光石設置の依頼でも受けてみればよかったかな? 花田さん達はあれからどうしてんのかねぇ?」
以前1層で出会った中堅クラスの花田さん達の事を思い出す。暇があれば光石の設置依頼を受けてみてくれと言われていたな……と。
「どうせマジックアイテムのある通路を通るつもりなんだし受けておけばよかったかも。人手はいくらいてもいいってことだしな」
今はもうここまで来てるので戻るに戻れないが、今度探索をしに行く時は1回受けてみるかと頭の隅に記憶しておく。どうせそんな荷物になるわけでもないしね。
以前にもやったように、天井付近まで支柱を伸ばして高さを稼ぐ。とりあえずこのやり方でどこに飛ばされるのかのテストを兼ねて転送を開始する。広場とかだとわかりやすいんだけどねぇ……。
「今度は何処に飛びますかねぇ……っと。お前達、警戒の準備をしておけよ」
ゴーレムに転送後の指示も出して準備完了だ。さてさて……いったいどうなるかねぇ。
装置を起動させ転送されるその時を待つ。次第に光が強まり、自分もまた警戒をするべく身構えを取り始めた。




