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376話 駒の事はどうしようか?




 「ふむ……皆、駒の新たな利用法についてはこれで実際に見て把握したな? ならば今日集まってもらった話し合いに移行するとしよう」


 ゴーレムが背負っている背負子に会議室の長机を入れて、実際に仕舞ったり出したりを繰り返している所に倉田さんからそう声が掛けられた。

 今のテストを近くで見ていた槍一さんや塚田さんも自分達が元々居た席へと戻っていく。皆の視線がゴーレムから倉田さんへと移った。


 「効果の程は今ここで実験をしていた通りだ。詳しくはいろいろと試してみる必要はあるだろうがな。

 将一君の報告を聞く分に、俺達がダンジョンへと担いで行く荷物、こうして背負い籠に入れた物は問題なく仕舞えて取り出すことが出来るわけだ。

 だとすれば……今後の探索はかなり楽になること間違いなしだと俺は思う」

 その言葉にウンウンと頷く全員。持つのは武器ぐらいでいいわけだしな。


 「そしてこれは俺達だけでなく、多くの探索者にとっても利となる効果を発揮する。ダンジョンへと持っていく物資の量がだいぶ変わるだろうしな。当然、持ち帰ってくる素材の量もだ」

 「転送陣の大きさ以上の物を持ち運び出来るわけだからなぁ……」

 「予備の武器に消耗品、食料なんかの心配も取っ払う事が出来るってわけだ」

 「今まで取捨選択していた素材についてもだいぶロスを減らせるだろう。担げさえすれば丸ごと持ち運ぶことも容易なわけだな」

 米田さんが行きと帰りの荷物の量について心配をする必要が無くなると口にした。そのことに同意しながら福田さんと白田さんが言葉を付け加える。メンバーの皆も同意と頷いていた。


 「ゴーレムと言う戦力の増加に加え、誰もが望み欲していた物資運搬用のマジックアイテムだ。この駒を持つことで探索のしやすさは格段と上がるだろう。

 そんなマジックアイテムだ。探索者にとっては必須と言っていいほど装備品として扱われるだろう。管理部としてもこの駒のマジックアイテムは優先的に回収をするよう言われるはずだ」

 「亡くなってしまった探索者がこの駒を持っていたら多少の危険は覚悟のうえでも回収してくれって言われそうよねぇ……」

 「まぁ、それだけの価値がありますからね」

 紀田さんの呟きに朝田さんが答える。タグよりも優先してくれって事になりそうか? わからんでもないが……。


 「管理部としちゃあ、各1PTに最低1個は持っててほしいマジックアイテムだろうぜ。素材を持って帰ってきてもらうのには便利だからよ」

 「移動速度を落とす事無く重量物が運べるしな。それに中に入れていればそれ以上傷つくこともない。一応時間による劣化は起こるようだが」

 「それは内部の状態次第だな。少なくとも外の環境に左右されない隔離された保管庫は有難い。

 石田さん、氷はどの程度で溶けたんだ?」

 槍一さん、笹田さん、田宮さんがこちらに視線を向けてきた。


 「冷凍庫でよく見かけるあの四角い氷が10分ほどで水になってましたね。温度計でも入れればわかりやすいんでしょうけど」

 「あのサイズで10分か。まぁ、高すぎもせず低すぎもせずといった所か?」

 「よほど極端じゃなきゃそれでいいだろうよ。少なくとも森林エリアで倒したモンスターの肉が傷まない程度なら大歓迎だ」

 「洞窟エリアはその点気温が低めなのでそこまで劣化を気にしなくても大丈夫だがな。軽く保冷シートで包むだけで今までよりもいい状態の物が卸せそうなのは良きことだ」

 一々素材の安否を気にしなくていいというのがとても好評だ。森林エリアだと洞窟エリア以上に運搬に気を遣うらしいので、中堅クラスとしてはぜひとも欲しいといった感じだそうな。


 「洞窟エリアでも重量のあるゴーレムや金属、鉱石系を纏うモンスター多いですからね。それらを持ち運べるというのならとても楽で助かりますよ」

 未だ洞窟エリアしか知らない理人さんがそう発言をした。持っているのはあのロックゴーレム1体だけだが、それでも大違いという事なのだろう。


 「そうそう。いくら燃費が良い怪力の能力とはいえずっと持ちっぱなしだと結構疲れるんだよな。重けりゃその分消耗するのは当然だわ。それをゴーレムが肩代わりしてくれるんであれば休憩の時間なんかも減らせるってもんさ。

 こいつ等の素材には劣化ていうのもそこまで関係ないしな」

 「生肉じゃないしね。諦める事になっちゃったゴーレムの素材なんかもこれからは運ぶのがグッと楽になるわ。レア素材のゴーレムも余すことなく持ち帰って来れるわよ」

 理人さんに同意と口にする福田さん。永田さんのあの顔は以前運んだエメラルドゴーレムの事でも思い出しているんだろうか?


 「俺達にも心当たりがあるよなぁ……あのミスリルゴーレムの胴体は今でも惜しく思うよ……」

 「ほんと、あれはゴーレムを手に入れて今となっては勿体無さ過ぎたわよねぇ……。このことを知らなくてもゴーレムさえいればもっと運べたでしょうし」

 「あたし達のPTって怪力の能力持ちが居ないもんねぇ……。塚田っちが怪力の手袋を持ってるとはいえそれだけだし」

 「必然的に俺が運搬役をすることが多いんだよな……少しは年長者を楽にさせてやろうとは思わんのか?」

 「ちゃんと手袋を交代交代でつけてるっしょ。今じゃおっさんのその役目もゴーレムがやってくれてるわけだし。

 前田の姉さんの浮遊と合わせて怪力の能力者が居なくても何とかなっちゃいるけど戦闘面での怪力の能力はやっぱ欲しいか……」

 以前のミスリルゴーレムを全部運べなかった無念を米田さん達は思い出したようだ。今であれば3mサイズのゴーレムがしっかり全部を運んでくれるだろうね。


 「皆なにかとゴーレムの運用において思う所があるのだな。こちらはまだ試していないからな……」

 「今日の攻略がそのゴーレム初お披露目だったわけだしなぁ……」

 「白田さん達はまだ使っていないんですか?」

 ゴーレムの運用が未経験と、他の皆のように使い勝手についてあれこれと思うことが無い白田さん達。そこに同じく未経験である紙田さん達が話しかけた。


 「まだですね。兄さんが今言ったように今日の探索が初披露でしたので」

 「福田さん達も私達と似たようなものらしいけど、以前に石田さんが使っているのを直で見ているそうだからね。少なくとも運用している所を見たことない私達よりは思う所があるのかも」

 小田姉妹が紙田さんの問いに答える。エメラルドゴーレムの事は知らないのでそんな感じに想像するぐらいしか出来ないのだ。


 「俺達は今ゴーレムの作製を頼んでる最中ですからねぇ……どういった運用をするかはその出来を見てからじゃないと決められないです」

 「後は起動待ちって事ですから今日が楽しみですね」

 「太一、石田さんから駒を受け取ったら僕の家に集合してくれ。ゴーレムのお披露目も兼ねて明日の話がしたいからね」

 「それじゃあ兄さんと一緒に夜お邪魔しますね」

 「1層でどれだけロックゴーレムと遭遇出来るかだなぁ……」

 「そこは光一君の探知次第だからよろしくね!」

 「2層の攻略結果の報告を聞くために人が減ってると競合相手も少なくなるんだけどその辺はどうなってるかしらねぇ……?」

 「攻略終了と同時に2層で探索を始める人達は増えそうですよね」


 紙田さん達は出来たばかりのゴーレムを連れて早速潜るという事だ。報告を聞くためにどれだけ人が減ってるんだろうな?


 皆ゴーレムの運用についていろいろと気になっているらしい。駒に余分があるPTとそうでないPTでいろいろ変わってきそうだしな。

 そんな話をしている所に倉田さんが咳を一つして注目を戻した。


 「今のお前達のように、駒を手に入れたPTはこれからどうするかといろいろ考えるはずだ。

 持ち込める物資の増加、持ち帰る素材の増加。これ等は多くの探索者達が求めるものだ。管理部としてはこのマジックアイテムを出来るだけ多くのPTへと持たせたいだろう」

 「つってもそう簡単にとはいかねぇだろうよ? ダンジョンで手に入れる以外に手段がねぇんだからよ」

 槍一さんがそう口にした。


 「だろうな。まだまだ普及の目安なんぞつきはしないだろう。現在までどれぐらい見つかっているのかも不明だしな」

 「マジックアイテムだもんねぇ……」

 宮田さんが見つけるのは至難だと溜息を吐いた。


 「それとだ、管理部がこの駒の存在を現在知っているのかどうかすらも俺達にはわからん。そんな動きはないし話にも聞かないのでな。知っていればこれ程のマジックアイテムだ。捜索にも力が入ると思うのだが……。

 そこで全員に意見を聞きたい。この駒のマジックアイテムの事を管理部へと知らせるか否か……」

 「それは……まずいんじゃない?」

 「うむぅ……」

 「どうなるか未来が見えるぜ……」

 「俺達にとっては良くない未来な気がするな……」

 管理部へと伝える……この一言を聞いて、皆はなんとも困ったような表情を見せた。


 「これだけのマジックアイテムだと強制買取の対象だと思うのですが……」

 「だよねぇ……」

 紙田さんと理人さんが不安そうな声でそう口にした。新しい効果を知った今、それは確実と思ってる事だろう。


 「管理部の動きが無いのは駒のことを知らないから……。管理部が組織として動き出せばかなり派手になる……」

 「これだけの効果があるマジックアイテムだからねぇ……しかもアイテムボックスのような効果だし。はっきり言って全世界の探索者……それ以外の人達も欲しがるシロモノよね」

 永田さん(姉)……理香さんがボソっと言葉を漏らした。それに妹の綾さんが言葉を付け足す。ゴーレムの方はともかくとして、アイテムボックスの効果は誰だって欲しいという。そりゃそうだわな……。


 「管理部がこのマジックアイテム探しに精を出すってのは普通に有難い事なんだろうけど……今は絶対強制買取の対象になるだろうし、私達にとっては痛手過ぎませんか?」

 「買い取られるのは勘弁だよなぁ……」

 明日香さんと蔵人さんは駒を買い取られるところを想像したのか、非常に嫌そうな表情でそう口にした。これが強制買取をされる探索者の素直な気持ちだわなぁ……。


 「伝えると同時にこちらが持っているのは確実にバレるだろうしな……。それで管理部が総力を挙げてマジックアイテム探しをするとなれば他の探索者もいずれは手に入るかもと嬉しいだろうが……」

 「あたし達にとってはかなり迷惑な事だよねぇ……」

 「持ってかれるのは却下よ!」

 「由利としてはあのゴーレムに愛着が湧いてきただろうしそう言うわよね」

 「いやいや、由利だけじゃなくて俺だってそうだぜ? これから荷物や素材だって持ってもらえるかもってわかった所だしさぁ」

 「私としても良い盾役をしてくれているので買い取られるのは困るのだがな……」

 京谷さんを始め、凛さん、由利さん、奏さん、日向さん、丈さんも買い取りされるのは困ると口にする。しっかりと役に立ってくれているようで渡した側としては満足だ。

 

 「管理部に伝えるのは反対な奴ばっかりだと思うぜ?」

 「まぁ、倉田の言わんとしている事も理解は出来るがな……。だが私達としてはまだ使ってすらいないのに強制買取は困るぞ?」

 「俺達はゴーレムすら今作ってもらってる所だしなぁ……」

 福田さんと白田さんと紙田さん、駒を未使用の3PTがメンバーの気持ちを代表して言葉を発した。全員がしっかり頷いてる事からもそれがわかる。


 「まぁ……そう言うだろうとはわかっていたのだがな。

 実際俺としても国の強制買取というシステムには物申したい所がある。ゴーレムが使えなくなるのは普通に痛い……」

 言った本人の倉田さんも軽くしかめっ面だ。効果的にも多くの探索者に広まって欲しいという気持ちは確かなのだろうが……。

 

 「他の探索者が管理部に知らせるのを待つというのはいかんのか? 少なくともここにこれだけ駒を持っているPTが居るのだから他にも居よう?」

 「うむ、俺達以外にも駒を手に入れたPTは存在しているだろう。だが結局は今の俺達と同じ心情だ。

 現に、誰も管理部には伝えていないと見える」

 「言い出せば割を食うのは自分達とわかっているからなぁ……」


 塚田さんの問いにそう答える倉田さん。隠し通すだけなら駒はそうそう見つからないだろうしね。


 全員が軽く溜息を吐いた。倉田さんのしたいことは皆理解出来てはいるのだ。各PT、最低でも1個は駒を持てるようになれば探索の効率はかなり上がるだろう。その為に管理部を動かそうというのは間違ってはいないはず、と。

 自分が仕込んでいる奴以外だとどれぐらいあるのかはわからないが、人手を集めて階層の宝箱巡りをさせるのであれば国や管理部にこの存在を明かすのは最適のはずだ。


 (不安要素はあるけどアイテムボックスを探索者に持たせたいという思いは確かだろうな。地上に流れる素材だってその分増えるわけだし。

 軍のPTが駒を発見してくれるのならそれが一番手っ取り早いんだけどそっちは不確かだしねぇ……。この感じだと探索者から言いに出てくるのは望み薄よな)


 塚田さんも先ほど口にしたが、言えば割を食うのは自分達だと理解しているのだからよほどの愛国心でも無いと誰も言いださないだろう。ほんと、このシステムは何でこうなったんだか……。

 そんな溜息を吐いて若干沈んだ空気になっている所、どうせならこのことを明かしておこうかと思った。正直時間の問題だろうしな。


 「……倉田さん、実は駒についてもう1つ気になったことがありまして」

 「ん? まだ何かあるのか」

 「はい。荷物を仕舞えるとかそう言った効果ではないんですけどね」


 そう言うと自分の駒と鑑定の虫眼鏡を取り出して倉田さんに渡した。とりあえず見てほしいと。

 鑑定の虫眼鏡越しに駒を見る倉田さん。そして少しすると、バッ! と顔を上げた。


 「それなら強制買取の諦めにも繋がりそうに思うんですけど……」 

 例の使用制限を含んだ一文をここで伝えておくことにした。 

 




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