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358話 ダンジョン1層(ソロ) 自己紹介




 「では人数も少ないですし簡単に終わりそうなので私から。

 初心者探索者(ルーキー)の石田です。周りからはどうにもゴーレムのあだ名で覚えられてることが多いようですけどね……。

 能力は水と土を使えます」

 火の回りに作った石製の椅子に腰かけ、タグを見せながらそう自己紹介をした。連れはあのゴーレム達と指を差す。


 「石田さんね。俺達もゴーレムさんの噂ぐらいは知ってるけど名前は今初めて聞いたな。それでアレが噂のゴーレム達……と。

 んじゃあ次はこっちの番な。俺は花田だ。PTリーダーは俺ね」

 

 そう言って花田さんはタグをこちらに渡してきたので書かれている情報を見させてもらう。

 歳は23、探索者登録は5年前……やっぱり中堅って言われるぐらいだろうか? 

 

 「そこにも書いてあるけど、俺の能力は火と土、それと2段ジャンプね。石田さんとは土が被りだな」

 「良ければ使い方なんかを教えていただけるとありがたいですね」

 「ありきたりな使い方で良ければな」

 ゴーレムなんかはこっちが教えてもらう事になりそうだと、そう言って手を差し出してきた。火の上で互いに握手を交わし合った。


 「次は俺だ。石田さんとは名前が被っちまってるんだよな。

 俺も石田だ、石田土門。よろしくな」

 「同じ苗字でしたか……。私の名前は将一です、土門さん……と呼びしてもかまいませんかね?」

 「おうよ! こっちも名前の方で呼ばさせてもらうとするぜ、将一さん」


 呼び捨てでも構わないと言っておく。実年齢はともかくとして、あちらの方が探索者としては先輩だしな。

 なら気安くそう呼ばせてもらうと言い、タグを見せるついでに握手を済ます。倉田さん程ではないけど土門さんも背が高くてガタイが良いのよな。190ぐらいはありそうか?

 椅子へと腰を戻してタグに視線を落とした。


 「能力は土と怪力、それと物へと触ることなく動かせる能力だ。こっちも土が将一と同じだな」

 「よろしくお願いします。しかし怪力の能力に物へと触れずに動かせる能力……念力ですか? それを同時に持たれてるんですね」

 土の能力も持っている事だしと、工事現場ではどれも重宝する能力のセットだと思った。能力者は地上に出ても職には困らなさそうよな。

 

 「土と怪力の能力があるから俺自身がゴーレムのような働きを出来るな。そこに……念力か? そいつも使えるからトリッキーな戦い方も出来るってもんだ!」


 そう言って夕飯を取り出し終えた皆の荷物を念力で動かし、部屋の端へと持っていった。おおー、やっぱ動かずに色々操作出来るってのは便利だな。

 確かにゴーレムがそんな機能を使えたら便利になるだろう。あのメイスで射撃能力が加わったゴーレム達は一層便利になったしな。遠距離攻撃とはちょっと違うのかもしれないが遠くのものに手を出せるという意味では同じだろう。念力でモンスターの動きそのものを止めたり突進の方向をずらすといったことも出来るらしいしな。

 そういった超能力的なマジックアイテムなんかがあると今以上にゴーレム達も強力になりそうに思った。ハンドパワー的なものだとすれば手袋型とかそんなのだろうか? 怪力の手袋と重ねて同時に使ったりとかも出来たりすんのかね?

 とりあえずタグを土門さんへと返す。探索者登録日時が一緒なのは全員当時からの知り合いだからだそうな。


 「よし、なら次は私の番だな。水田だ。

 能力は水と氷、それと切断の能力を持っている。PTでの水分補充担当は私の仕事だ」

 そう言うと土門さんが作ったコップに水を次々と注いで皆へと配り始めた。自分の分もあるようで、水田さんから水の入ったコップを受け取った。

 

 「ありがとうございます。自分のPTだと水を必要とするのは私だけですからね。こうやって誰かに配るなんてことも普段は無いんですよ」

 「以前他のPTと組んでいる所を見かけたがその時に使えるだろう? それと1層攻略の時に給水のボランティアをしていたようだしな。使い所なんてものはいくらでも出てくるものだ」

 「見ていましたか……」

 そう言ってボランティアをしていた記憶を思い出す。炎天下で皆大変そうだったよなぁ……。


 「私もボランティア要員として広場に居たのだけどな。まぁ、石田さんとの面識は当時無かったので気にする事はなかったと思うがね」

 「水田さんもボランティアに参加なされてたんですか……。すいません、ちょっと記憶になくて……」

 あんまりボランティアの人数はいなかったはずなんだけどなぁ……暑さで自分の記憶も逝っちゃってたかな?


 「こちらが少し見ていたというだけだからな。それに近くで見かけたのは1回ぐらいだ。

 広場もそれなりに広い。担当している人間がいるのなら別の所に行こうと思ってしまうのは仕方ないさ」

 「確かに場所が被らないようにと動いてましたしねぇ」

 「なので石田さんの姿を見たのもその1回限りだ。私が参加していたかを覚えてなくとも仕方ないわけだな」

 そう言って水を1口飲む水田さん。こちらも頂くとしよう。そう思いコップに口を付けて飲んでみる。結構美味しいな! 自分が出すのとはちょっと違うけども名水とかそんな感じだろうか? 出してもらったのを飲んだ中では今までで1番の美味しさに感じた。 

 

 「美味しいですねぇ……どこかの名水をイメージされてるんですか?」

 「地元で湧いていた所の水をイメージしている。やはり一番飲み慣れている水がイメージしやすいな」

 「美味い水を知っている奴は水の能力を使う上で重要だよな。おっと……悪いけどお先失礼」

 カップ麺の待ち時間が来たようで、花田さんはそう一言言ってから蓋を取った。


 「もう少し後でお湯を入れればよかったじゃん……。

 あ、次私ね。私は田桐って言うの、よろしく石田さん」

 「田桐さんですね、よろしくお願いします」

 花田さんが麺を啜る横で自己紹介を再開する。まぁ、もう入れちゃったもんは仕方ないよな。


 「能力は風と遠見の能力よ。PTの役割は勿論先行偵察ね」

 「遠見ですか……離れた所の様子を確認できるのは良いですよね。特に洞窟エリアなんかじゃ重宝しそうです」

 その能力を技術的に再現しようとゴーレムにカメラを仕込んだはいいのだが、どうしても現地まで向かわせないといけないという手間がかかってしまう。やはりその能力は使い勝手良いよなぁ……。


 「範囲的には300mって所かしら? それでモンスターを発見して飛んで釣って来るなんて事もやってるわよ」

 「飛べるとモンスターを釣り出すのも楽ですよね。それに足場を気にしなくていいですし」

 「洞窟エリアだと結構制限が掛かっちゃうけどねぇ……。まぁ、PTで一番の移動速度を持ってるのは間違いないわよ」

 「空を飛べると障害物が無視できるからなぁ、田桐は。俺の2段ジャンプじゃ限りがあるし……」

 麺を啜りながらそう答える花田さん。それはそれで便利そうなんだけどね。


 「よく言うぜ……土魔法で作った足場を元にぴょんぴょんと飛び回るくせによぉ。障害物とかあってないような動きしてんだろうが?」

 「いやいや、それほどでも」

 「誉めてねぇっての……」

 「花田はいつもそんな感じだろう。ああ、私は毎回宙に浮かばせてもらって感謝しているぞ?」

 「お前だって似たようなもんだろうが……」

 まったく……と、そう言って溜息を吐く土門さん。土魔法での足場作りに念力での人物運搬ね……。移動の補助は土門さんの役割って感じかな。


 「まぁまぁ……土門君の運搬にはいつもお世話になってるよ。森林エリアでも洞くつエリアでもね。

 どうしたって風子以外は地面に足を着けなくちゃいけないんだし」

 「空を飛べなきゃそうするしかないもんね。あ、ちなみに風子ってのはあたしの名前よ」

 改めて田桐風子です。そう言って田桐さんは自己紹介を終えた。残りは後1人だな。


 「最後は私ですね。下田って言います。よろしくお願いします、石田さん」

 「こちらこそよろしくお願いします」

 最後の1人と握手を交わしてタグを見せてもらう。


 「能力の所を見ればわかると思うけど私は他の皆みたいに戦闘系ってわけじゃないの。攻撃に関してはマジックアイテムに頼らざるをえないって感じかな。戦力としてみるとちょっと頼りないかも……」

 そう言われて、タグの能力が書いてある所に目を落とした。


 「回復、探知、望遠、隠蔽、直感、って……すごいですね。 確かに戦闘系ではないかもしれませんけど能力が5つもですか?」

 「そうなのよ。柳……って、下田さんの名前ね。能力がこれだけ持ってるってのはそうそう居ないのよね」

 「今の所、下田の5つを越える能力を持つ奴は見たことないんだよな。探せば居るのかもしんねぇけどな?」


 そう言って田桐さんと土門さんは、とんでもない……とでも言うかのようにして下田さんを見つめた。その視線を受けて下田さんは、あはは……と照れながら笑っている。確かに5つは聞いたことないかなぁ?

 自分の事はとりあえず置いておくとして、能力を5つ持っているという下田さんを見つめた。

 

 「回復や探知は言うまでも無しにダンジョンだと滅茶苦茶便利だよな。

 それと戦闘系じゃないって言うけど望遠はモンスターをいち早くに見つけるのに役立つし、狙いだって正確に付けられるわけだ。隠蔽も隠れながら攻撃が出来るし戦闘系って言っていいと思うんだわ。直感に関してはそれを戦闘に活用してる知り合いが同じ中堅クラスにいるし、戦闘向けって言っても間違いないって」

 花田さんは食べるのを一旦やめるとそう口にした。確かに聞きようによってはそれらの能力も戦闘系になるわな。


 「近接は私には無理だよぉ……。皆みたいにモンスターに近寄ってっていうのは苦手だし……」

 「まぁ……下田があの人みたいに近接でばっさばさとモンスターを倒す姿はどうにも想像できんよな」

 「あれは真似しなくてもいいんじゃないの? 私だってどちらかと言えば遠距離が主体だし?」

 「近接は自分達に任せてもらって下田は遠距離に徹してくれる方が良いさ。回復持ちなのだから立ち位置は後衛向きだ。

 モンスターの遠距離攻撃を察知して避けてもらう。直感の使い方はそれでいいだろう」

 「俺も柳にあの人みたいな立ち回りは求めちゃいねぇよ。ただ、戦闘でも普通に有用な能力だって言いたいだけだっての」

 「それに関しては花田の言い分通りだと思うけどね」

 「おう。マジックアイテムでそれ等の能力を活用出来てるんだから十分戦力になってるっての。心配する必要なんてねぇって前から言ってんだろうよ?」

 「そうは言っても……能力での直接攻撃が無いとマジックアイテムが使えなくなった時にどうしようもないよ。

 能力を紹介する時には毎回ちょっと不安がね……」


 そう言って下田さんは苦笑いをして見せた。確かに攻撃能力が皆無だとマジックアイテムが使えなくなった時に不安に思うか。

 まぁ……逆を言えば? 能力頼りだと力が使えなくなった時に同じような事が起こりそうだけどね。その為にある程度は武器も扱えるようになっておいた方が良いんだよなぁ……。

 自分の場合は魔力切れといった心配をしなくてもいいのだが、それでも最低限の武器の扱いぐらいは出来るようになっておきたいと思った。

 

 下田さんの不安は無能力者の全員が抱えている不安だろう。彼等もマジックアイテムや武器が無くなれば戦闘力のがた落ちは確実だろうしね。

 しかし、PTに土の能力者が居るのであれば武器の心配だけはしなくていいと思う。苦手だとは言うが武器の扱いの1つでも覚えておくのが良いんじゃないかと自己紹介を聞いて思った感想だった。





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