340話 ダンジョン3層(PT) 渡しゴーレム
施設での調査についてまとめを追加しました。
ここは書いてあった方がいい…ここが本文と違ってる…なんてのがありましたらご報告をいただけるとありがたいです。
休憩を終えた自分達は、3層への転送陣に乗って先へと進んだ。
今は転送後の周囲警戒なのだが…奏さんが居るから楽だよな。
「……明日香、奏」
「大丈夫。範囲内に反応は無し」
「……反応は無いんだけどねぇ…」
「……なに? その切れの悪い言い方?」
「なんかあったのか?」
「???」
探知の結果、周囲にモンスターの心配は無いようだった。
しかし、探知を行った明日香さんは何とも微妙そうな表情をしていた。どうしたんだろう?
「現在地に当たりを付けられそうな目印を発見したわ…。この通路を道なりに行けばわかるからとりあえずそこに行く?」
「なんかもったいぶるね? まぁ、まずはそこで現在地を確認するっていうのは別にいいけどさ?」
とりあえず行ってみるかと、明日香さんに教えられた通路をそのまま進み始めた。
しかし現在地がわかる目印か…。
「あー…なんか既視感あるなぁこれ…」
「石田さんはわかっちゃったか……まぁ、そう言う事ね」
「なんだ、いったい?」
歩いているとどことなく思い当たる節が出てきた。だとしたらこの先は…。
そうしてしばらく歩き続け、明日香さんの言う目的地に着いた。
「なるほど…こういう事ね」
「こういう事よ」
「そりゃ確かに微妙そうな顔をするよなぁ…」
そこを視界に納めると、さっきまでの明日香さんの反応に理解を示す理人さん。蔵人さんの言葉を聞き、皆もウンウンと頷き返す。
目の前には大量の水……地底湖が広がっていた。
「地底湖なら数もそう無いし、現在地の当たりが付けやすいのは確かなんだけどねぇ……」
そう言いながら明日香さんは地図を取り出し、今まで通って来た通路の形状と地図通路を照らし合わせ始めた。しかし今回は2層に続いて3層も地底湖スタートかぁ…。
「なんか地底湖が続くなぁ…」
「そう言えば石田さんは、ボス部屋に向かうまで地底湖を通って来たんでしたっけ? 普通だとまず近づくことをしませんからねぇ…。
正直な所、僕等も地底湖を見たのは片手で数えるぐらいですよ」
「その内通過したのは1回だけだけどな。あの1回でもう懲りたよ…」
「滑るは転ぶはで散々だったな…。その結果、全身が水浸しだ」
「端っこの石筍の所通ったんだけどさ。歩きづらいわモンスターに襲われても対応しにくいわでひどい目にあったよ……。
途中から浅瀬を歩くことにしたけど靴の中までぐっしょり。濡れるのが嫌とはいえ裸足だと危険すぎるからねぇ……」
「凜はまだいいじゃない…飛べるんだからずっと水場を歩かなくて済んだし。私達は通過し終えるまでずっとよ?
ほんと、サンダルを常備するかどうか悩んだわよ……」
「そしてそんな状態で歩きづらい石筍の道はもっと危険よ。最悪足をひねって移動に支障をきたす恐れがあるから。嫌でも水の所を歩く方がまだマシね」
「まぁ、その結果? 皆仲良くすっ転んで、全身水浸しになりましたとさ。渡り終わった後の焚火は一段と温かかったねぇ…」
「日向の火の能力のありがたみをあれで痛感したな。今では私も腕輪の力で使えはするがね。
まったく……ずっと水に浸かっているというのは体に堪えるものだ。体温を持っていかれると体の動きが鈍っていかんな……」
そう言って皆は、当時地底湖を通った時の事を思い出したのか重そうな溜息を吐き出した。やっぱ探索にとって水場は鬼門か……。
「探索者が近づきたくないわけですねぇ……。足をやってしまうのは探索において致命的でしょうから。まぁ、それを言えば洞窟エリア全体が足場悪いんですけどね。それに輪をかけてって事ですか」
「ですね。
で……明日香? 現在地はどう?」
「判明したわ。まあまあってところね。ただねぇ……」
そう言って溜息を吐く明日香さん。またもや切れが悪くなってるな。
「帰還陣とはそこそこ近いけれど、それは地底湖の反対側の通路に出た場合ね。ここから迂回して帰還陣に向かった場合は結構な遠回りになるわ。その場合は広場も通ることになるかしら」
「出来れば地底湖は通りたくないんだけどなぁ……。遠回りってどのぐらい?」
「暗くなる前には……ってところ? 3層の新しい通路がまだ網羅されてないでしょうから、時間を食えば夕方は過ぎるかもしれないわね」
地底湖を行くのなら3時のおやつには間に合うぐらいという話だ。まぁ、うまくいけばの話だそうだけども。
「明日香さん。それは地底湖を歩いて渡った場合ですか?」
「まぁ、歩く以外に手は無いから。こういう時ボートでもあればいいんだけどねぇ……」
「ボートではないですけど…一応手はありますよ。大型ゴーレムに乗っていくというのはどうです?」
「ゴーレムに?」
「んー……5mのとはいえ厳しくないか?」
「安定も悪いんじゃないの?」
何やら皆、疑惑のまなざしをこちらにへと向けていた。
「直接はあれですけどね。ここって水深はどれぐらいですか?」
「深い所で4mって所かしら? 一応あの大型ゴーレムなら水面に出るわね」
「ならば大盾を持った腕を上に延ばさせてその上に座ればいいかと。これならばある程度安定した足場が確保できると思います」
「あー、大盾の上ねぇ」
皆、大型ゴーレムの持っている盾を思い浮かべ始めた。確かにあれならばそれなりの足場になりそうだと。
「5体いるので1体に対し2人乗れそうですね。とりあえずこれなら地底湖を濡れずにいけそうです。
通常サイズのゴーレムに運んでもらうって言う手もありますけど、これは身動きがほぼ取れませんしね」
「ですね。ゴーレムで渡るのなら前者の方がいいかと思います。
皆の意見はどう? 回り道か、石田さんのゴーレム案か」
理人さんが皆に意見を募った。地底湖を渡るとなればそれ相応に思う所もあるだろうしな。
しかし、意外にも皆はゴーレム案の方に賛同していた。地底湖嫌だったんじゃ?
「濡れるってのが嫌だから地底湖は行きたくないんだよ。
その案だと濡れることもなさそうだし、移動も大型ゴーレムがしてくれるってんなら反対する理由はあんましないかな」
蔵人さんの言葉を聞くと、皆がそんな感じ…と言って頷いた。まぁ、一番困るのはそこか。
「俺達が端っこを移動するより、大型ゴーレムが最短距離を歩いた方が着くのも早そうだしな。
それに滑っただの濡れただので時間を食うことが無い分帰還陣へ到着するのも早まるんじゃないか? 所々での休憩と、渡り終えた際に体を乾かす時間も省けるだろう?」
京谷さんが明日香さんにそう問いかけた。
「そうなるわね。予想よりも早く地底湖が抜けられるなら早く帰れそうだわ」
「なら決まりでいいんじゃない? 反対する人もいないわけだし」
「そうね。少なくとも地底湖の移動が苦じゃないのならそれでいいと思うわ」
「私も問題はない。それと乗り物に弱い者は誰も居なかったはずだな?」
丈さんはそう言って皆に確認を取った。乗り物酔いってゴーレムでもやっぱりなるのかね?
どうやら問題のある者は誰も居なかった。ならば移動を開始しようか。
大型ゴーレムを段差の下に出して盾を頭上に掲げさせる。
一応転落防止用として、盾の縁に腰程度の手置きを作っておいた。これなら座ってる分には盾から転がっていくという事もないだろう。
各々が盾の上へと乗りこんでいく。
探知で周囲の確認もしてあるし、搭乗後即戦闘という事はないだろう。水場に出てからはわからんけどね。
「では進ませますね。お前達、この状態を保って前進しろ」
皆が返事をしたのを確認すると、ゴーレムへそう指示を出した。揺れるっちゃ揺れるけどこれぐらいなら大丈夫だろう。
少し歩かせて移動に問題が無いことを確認する。皆もこの状態は新鮮なのか、顔に笑みを浮かべて「おおー」と、驚きを口にしていた。普通はこんな経験しないだろうしな。
そしてゴーレム達は、水辺に向かってそのまま足を進ませていった。
ゴーレム自身にパワーがあるおかげか、水中での歩行の速度にそこまでの変化は無いように感じた。その分、水中では水が勢いよくかき分けられてるんだろうけども。
大型ゴーレムでの地底湖移動は自分にとっても初めての事であり、今回こうしてぶっつけ本番をするとは思わなかった。2層の時にちょっとは試しておけばよかったかと、少しだけ後悔の念がよぎる。まぁ、今更だな。
こうして歩かせているぶんには問題は無いように思う。問題は戦闘があった場合だが……岸に寄せた方がいいのかねぇ?
これも試してみなければわからないな…と、今は静かな水面に視線を落とした。




