328話 お宅訪問 森田家 ゴーレム製造会社
「なるほど、ゴーレムを主に使っているのですか。それはまた…今時珍しいことですな」
「みたいですね。自分以外で連れてる人を全く見ませんよ」
自分の探索の仕方について話を聞かれたのでそう答えることにした。ある意味このゴーレム達が居たからこそ唯さん達を運べたわけだ。自分1人じゃなかなか大変だったろうしね。
もしゴーレムが居なかったとすれば能力をもっとフルに使う事になっていたと思う。そもそもその場合だと、ソロで潜るという話自体が選択肢から消えていたかもしれないわけで…。
「ソロの場合だと他のメンバーを気にする必要はありませんしね。自分にとっては探索のいいお供ですよ」
「ゴーレムは移動でどうしても難が出てきますからな。人は通れてもゴーレムが通るのに支障があるとすればルートの変更もしなくてはならない…。探索は移動が大部分という事もあり、どうしてもその移動に支障をきたすゴーレムは敬遠されがちですしね。使う人はあまりいないのでしょうな…。
勿論、利点は理解されてると思いますが。素材を持ち帰るという点においては人以上に活躍してくれるでしょうから」
「ええ、運搬はとても楽ですね。持ち運べる量もかなり違ってくるかと」
大棘ムカデを丸のまま運んで来た時の事を思い出しながらそう答える。
能力ありきで考えたとしても、ゴーレム1体が運ぶ量以上となれば難しいものがあるだろう。
基本は戦闘があると考慮して力はそちらに割くという方針なのだ。運搬に人手を割くとなれば帰りは戦力ダウンの状態と言っていい。それで結果的に休む回数が多くなるとすれば、普通にゴーレムを連れている場合とそう変わらない気もする。ゴーレムが通れないルートも通れるという利点はあるだろうけどね。
「やっぱり1回で持ち帰れる量が多い方が嬉しいですからね。ゴーレムにはこれからも頑張ってもらいたいものです」
「ふむ…。探索者の方に使用してもらうというのはなかなか厳しくてですなぁ…。地上でならばそう問題もないのですけどね。開発も頑張ってはいるのですが…」
「開発ですか?」
「おや? 娘から聞いておりませんかな?」
何の話かと思い、唯さんへと視線を向けた。
「そう言えば言ってませんでしたね。父の職業はゴーレム製造関係なんです」
「技術者ではありませんがね」
そう言いながら園造さんは名刺を差し出してきた。
「森田ゴーレム製造所…」
名刺に書かれている会社名を見ながらそう呟いた。役職は社長だ。
「園造さんってゴーレムを作っている所の社長さんだったのですか。どうりで…」
そりゃこんな規模の家に住んでいるわけだ。もしかして前庭に飾ってあった石造ってただの飾りじゃなくてゴーレムか? 普通は門近くに置いとくもんじゃね?
すっごい違和感もなく飾ってあったので普通に飾りと勘違いしていた。ゴーレム会社の社長さんの家なら当然って気もするな…。
「ゴーレムは様々な場所で活躍しておりますからな。単純に人手の解消から重機代わりと、地上では見る機会は結構多いと思います。
家先や店先に飾っておくというブームもあったので割と街中でも見かけますでしょう? お店なんかだとマスコットキャラの形で作って呼び込みに一役買ってたりしますしな」
「確かに見かけますねぇ…」
アレ等もゴーレムの一種だったのかと今更ながらに納得してしまった。動いてるカー〇ルおじさんとかそういや見かけたなぁ…。
てっきり電気仕掛けの人形かと思ってたんだけどね。ゴーレムも浸透してるなぁ…。地上は……か。
探索者としてはあまりにも人気が無さすぎる所為で忘れがちだが、ゴーレムというのは地上だと大人気商品なのだ。それこそ個人の家の門番から警察の手伝いとして街中に配備されているほどだ。
園造さんの会社でも動く監視カメラとして、各階に複数のゴーレムが歩いているのだとか。用途として警備面が大きいのは確かだが、先ほど例えにした店先のマスコット役だったりと、いろんなところで目にする商品だ。
(探索者で連れている人は居なくても管理部内では居たよなぁ…荷物運びには最適なわけだし)
そう言えば昨日の倉庫裏でも動いてるゴーレムは居たかと、昨日の記憶を思い起こした。見かけないのはダンジョンぐらいなものなのではなかろうか? モンスターとしてならゴロゴロいるけどさ…。
「しかしそんな大人気商品を作っている所の社長さんだったとは…。昨日の今日でお時間をとってもらいましたけど、大丈夫だったんでしょうか?」
「まぁ、その内挨拶に来られると言うのは聞いておりましたからな。予定を先に延ばしたり、私が必要な仕事は終わらせておく等の調整はしましたので問題はありませんよ。副社長も優秀で助かりますな」
どうやら問題はないらしい。会社に負担行ってないといいんだけどね…。まぁ、ダメだったら断られてただろうし本当大丈夫なのかな?
「しかしソロの場合だとゴーレムは有用ですか…。ですがソロの探索者というのも珍しいのでは?」
「基本は他の能力者の人とかを集めて出来る手段を増やすのが定石だから…。マジックアイテムとかを使って人数をカバーしてるっていう話は聞いたことあるけどね?」
園造さんの疑問に唯さんが答えた。今の自分が後者なんだろうね。腕輪ゲットは本当に助かるよ…。
「自分で水と土の能力が使えるというのが大きいですね。
探索に必要不可欠で重量のかさばる水分を出せるという事と、狭いですけど地形を把握出来る探知が使えますから。
探知がもっと広範囲で分かるのならば言う事はないのですが…」
「十分羨ましいですよ…水と土なら戦闘面でも十分に応用できますし」
「探索に必要な能力はご自分で。ゴーレムは運搬用としてフルに使えるわけですか…。何なら水はゴーレムに持たせることで解決が出来なくもなさそうですな。戦闘でも使えるでしょうし…。
うーん…ダンジョンでの要の能力はやはり探知という事か…」
園造さんが難しい顔をしながらそう口にした。唯さん達がああなった原因も探知系(地図含め)がなかった故…という事も関係しているのかもしれない。
地図と探知能力…最悪この2つがあれば、ゴーレムを連れる事でダンジョンにソロで潜ることは出来ると思う。それでマジックアイテムでも見つかれば言う事はなしだしね。
「その能力を前提として考えるのなら探索者用ゴーレムとして最低限求められるのは戦闘面と運搬面ですなぁ…。やはり移動面については二の次になりますか…。
正直移動を強化したゴーレムなら作れないという事はないのですが…」
「えっ? 作れるのですか?」
その一言に驚かされることとなった。ゴーレム製造会社の人がそう言うってことは可能なんだよな?
「作ること自体は可能ですよ。要は軽くて丈夫であればいいわけです。ただそのためには風の魔石の粉末、土の魔石の粉末を結構な量使用するでしょう。
それとダンジョンにゴーレムを連れていけば最悪の場合壊れてしまいます。連れて帰れない状況というのも出てくるでしょうな。そうなった場合は大損害になるではないかと…。
地上で壊れたのなら回収は容易に出来ます。再利用して生まれ変わらせることだって出来でしょう。しかしダンジョンではそれも無理です。回収に向かう頃にはスライムに吸収されているでしょうからね」
「まぁ、そうですね…。
んー…魔石の粉末を大量に混ぜ込んだゴーレムですかぁ…」
軽いという事は移動速度がかなり上がるだろう。戦闘面を考えるのであれば軽すぎるゴーレムというのは見ていて心配ではあるけども…。その分頑丈なら問題は無いのか?
自身を軽くすることで速さと引き換えに攻撃力は低下しそうに思う。武器で補うという事も出来なくはなさそうだけど…どうだろうな? ゴーレムと言えば重量を活かしての重い一撃ってイメージなんだけどね。
それと重量のある素材を持ったらこけたりとかしないのだろうか? なかなかに疑念が尽きない仕様だな…。
「軽くするのはいいのですけど、それだと攻撃面が犠牲になりませんか? それに運搬面も重量物を持てるのか怪しいのですけども…」
「まったく…。ものの見事にソロ探索者用とは真逆のゴーレムですな…。
探索者に求められる移動性を考慮した場合ゴーレムとしては使い物にならなくなってしまうわけです。いくら移動性が上がったとしてもこれではお話になりません…」
大きさを変えることで人と同じところを通れる可能性はあるという。移動速度は人が歩く程度には出来るという話だ。一時期、それはそれで使おうかどうしようかと一考する探索者は居たらしい。
だがいざ戦闘となり、逃げなければいけない時に人が歩く程度ではどうにもならんという話になった。戦闘面を低下させ移動を優先させたゴーレムだ。壁としての役割も期待できない。
だいぶ金がかかったゴーレムだ…置いていくという選択肢は出来るなら避けたい。そんな理由から買う者も少数に止まったという話だ。
「戦闘さえなければある程度は荷物を持ってくれてそれでいて移動がスムーズってことなんでしょうけど…」
「戦闘は人間が行い、ゴーレムには運搬を人並の速度でやらせる…一応そういう売り文句で発売はしたのだがね。
まぁ…人気は出なかったわけだ」
やはりゴーレムに魔石の粉末をそれなりに使うというのが使用者の話だと困る所だったそうだ。直す際にコストがかかるというのも頭が痛ったそうな…。
攻撃面と運搬面…それと移動面を考慮したゴーレムの製造は現段階だと厳しいという話を聞かされた。
ソロ探索者という存在が少ない以上、探索者の間でゴーレムが不評な現状は変わらないだろうなぁ…と溜息を吐く。移動面が変わらなければどうしようもないと…。
(行きだけになるけど駒でその現状は何とかなりそうなんだよなぁ…。帰りの時は素材を持ってるとどうしようもなさそうだけどさ。
でもいざ逃げるって時に、これからはゴーレムを仕舞うことが出来るわけだし、そうしたら使用者は確実に増えるよな?
それと大量に運ばないんであればその移動強化のゴーレムも人気が出たり? ゴーレムを放棄することは無くなるわけだしな…)
移動を強化されたゴーレムの話と、自分が仕込んできたマジックアイテムを組み合わせた場合の事を考えてみた。それならまた再販の可能性も出てくるのでは? と。
それにゴーレムを持ち運べるというだけで戦力強化は間違いなしなのだ。運搬では使わないにしても、確実に探索者がゴーレムを利用する可能性は上がると思う。
今の内から探索者用のゴーレムを作っておいた方がいいんじゃないかなぁ…と、内心でそんなことを考えていた。まぁ、駒の話が伝わるまではわかんない事だから仕方ないんだけどねぇ…。




