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314話 能力講座




 「すいません、受講料の事でご連絡を頂いた石田と言う者ですが…」


 時刻は午後7時頃。夕飯も食べ終わり、夜間学校の受付けに来ると職員さんへ用事を告げる。

 今日の昼間、調べをしてる所に連絡を貰ったのだ。月も変わったので一度受講料の徴収をしたいと。


 「はい、では受講者番号をお願いします」

 対応してくれた職員さんに受講者番号を口にする。職員さんはしばらくお待ちくださいと言って手元のパソコンを操作しだした。


 「確認しました、石田将一さんですね。前月は2コマ分になります」

 「ではこちらで」


 電話で事前に教えられていた内容と一緒な事もあって、用意していた受講料の入っている封筒を渡した。確認済みだから間違ってるってことはないはずだけどな…。

 職員さんが封筒からお金を出して確認しだした。


 「はい、2コマ分確かに頂きました。…ではこちらが領収書になります」


 そう言って領収書を渡してくる。既に払ったという事で大事にとっておかんとな。

 手続きはどうやらこれで終了らしく、なんともあっさりと終わった。初めての受講料徴収だからどんなものかわからなかったが、事前に連絡を貰っている分を用意しておけば問題は無いだろう。


 「さてと…なんか良さそうな講義ってやってるかね? ついでに受けたいものがあったら聞こうと思ってたけど…」


 校舎の玄関前に置かれている時間割へと目を落とす。流石にこの時間なら呼び出しの連絡が来ることもないだろうしね。講義を受けていても大丈夫だろう。

 ただ、基本的に24時間いつでも対応できるだけあって、今から来てくれと言われる可能性も無いのが少しだけ不安だった。探索者という職業上、こちらの世界だと結構当たり前な所があるからね…。

 連絡があったとして、この時間ならば明日に延ばされる事を祈って講義内容の確認する。


 「お? この能力についての話とかちょっと聞いてみたいな。これも調べなきゃとは思っていたし。能力のどういった話をするのかちょっと聞いてみるかね。

 えーっと…講義の部屋は…」


 時間割の横に書いてある部屋を学校の見取り図と見比べながら調べる。どうやら2階らしい。

 講義の時間までそうないとあって、少し駆け足気味に目的の部屋へと向かっていった。


 しばらく歩くと調べた部屋の前に到着したので入り口前の紙を取って中へと入った。


 「おお…それなりに人気の授業なのかな? 部屋の半分以上埋まってるわ…」


 部屋の中に入って最初に感じたことはそれだった。20人ぐらいが席に座っているのが見受けられた。これだけの人が参加している講義は初めて見たな…3回目だから当然っちゃ当然の気はするが…。

 とり合えず近場の空いてる席へと腰を下ろした。時間もギリギリだし自分が最後かな?

 そんなことを思うと同時に、前側の扉が開いて1人の男性が入ってきた。


 「はい、時間なので皆さん静かにお願いしますね。筒に紙を入れた席へと座ってください」


 自分とそれほど年が離れていないだろう若い先生がそう言って教壇に立った。まだ20代なりたてに見えるけどこんな若い先生も教えてるんだなぁ…。

 席に座りながらそんなことを思いつつ、紙に番号と名前を書いて筒へと入れた。ちゃんと名前が上になってるよな? 

 名前が逆さになってないか等を確認すると、筒を机へと置いた。


 「はい、皆さん用意は出来ましたね。まずは知らない人もいるでしょうから自己紹介を。

 今日の講義をする志田と言います。皆さん、どうぞよろしくお願いします」

 そう言って軽くお辞儀をする志田先生。やはり見た目通り若い先生って事なのかな?


 「さて、今日の講義…と言っても、私の講義内容は何時もこれなのですけどね。

 能力についてという事ですが…皆さんは能力が現在どのぐらいの数があるかご存じですか? 講師の私が初っ端からこう言ってしまってはなんですが…正直、正確にどれぐらいあるというのは私も知らないのですよね。あくまで能力者観察機関の調査結果を信じるのならば千と少しと言う話です。

 ですがいくら人口が激減してしまったとはいえ、あの悲劇から既に約29年が経とうとしています。正直な所、能力の数は見つかってないだけでまだあるのではないかと思うのです。

 日本の行政はその辺りをしっかりするようにしているので、各病院で生まれた子供達の鑑定も結構正確に行われています。しかし…海外では未だに鑑定もされていない赤ん坊がそのまま成長していると言う話もそう珍しくありません。

 自分がどんな能力を持っているのか…そのことを知らずに生きている人もおそらくいるでしょう。鑑定持ちの能力者がもっと広い範囲で活動が出来れば能力の種類ももっと判明するかもしれませんね」

 

 そう言って一度話を切った志田先生。

 確かに29年の間に生まれた子供の数からすれば能力の種類は少ないと見るべきなんだろうか? 世界中の調査だもんな…でもかぶりとか普通に居るだろうし、そう考えると多くも感じるけどね。

 志田先生が言うには、一般の人が鑑定してもらう場合はお金もかかるらしいので希望しない人もいるという。まぁ、誰でもかんでも鑑定してくれって押しかけたら鑑定の能力者の方が参るわな…。この辺が機械と人力の差でもあるかねぇ。

 一応ダンジョンで鑑定のマジックアイテムが見つかることもあるらしく、後々は鑑定もほぼ無料となっていくという話だが…それまでは今の状況がまだ続くって事だ。後の時代の方が楽ってのは仕方ないだろうね。鑑定の能力者の数次第だから確定ではないけども…。

 

 そんなことを思いながらも、志田先生の能力についての話は進んでいく。

 ダンジョンに関わる能力者が増えるのは良いことでもあるが、その分地上で働く能力者が減るのはいかがなものかといった話には少し考えさせられるものがあった。

 探索者の多くは地上だと副業的な考えになりがちなのは否定できないしな…。


 そしてしばらくすると、話は能力者の仕事という話題に切り替わった。


 「さて、今度は能力をどのようにして活用するかといった話をしたいと思います。

 皆さんの中で能力持ちの方はいらっしゃいますか? 強制ではないので、言っても大丈夫と言う方は手をお上げください」


 そう言われると受講者の中からちらほらと手が上がった。結構素直に皆教えるな…自分もあげておくか。

 別に知られても問題ないので手を上げておく。


 「はい、ご協力ありがとうございます。それでは今の方達を例に話していきましょう。まずはそちらの男性の方、能力はなにかお聞きしてよろしいですか?」

 「岩を壊す能力ですが…」

 一番前の席に座っている男性に志田先生は聞いてみたようだ。岩を壊すかぁ…。


 「岩を壊すとなれば…やはり土木作業や建設作業向きの能力と言っていいでしょうね。しかし救助隊としてもその能力は活かせそうです。瓦礫に押しつぶされ身動きが取れなくなっている方を助けるのにも役立ちそうですかね。瓦礫もいけますか?」

 「あ、はい」

 「でしたら一番活躍の場があるとすれば廃墟街となっている市や町の解体作業でしょうか。未だに手付かずな場所はまだまだありますからね…。機械だと壊しにくい所なんかも人であれば入っていけたりしますし。

 風魔法を使う方でしたり、ものを浮かばせる能力の方に手伝ってもらいながら高所の破壊なんかが安全に出来るでしょう。

 現在のお仕事は工事か何かをしてらっしゃいますか?」

 「そんな感じですね…」

 「まだでしたら管理部で探索者登録をしておくとそういった仕事の時に声がかかるかもしれませんよ。現在どこも復興作業で人手は欲しいでしょうから。

 では次にそちらの女性の方よろしいですか?」

 「あ、はい」

 そう言って志田先生は別の人に聞いてみた。


 「私の能力は花の調子を整えるといったものなんですけど…」

 「なるほど。ちなみに現在はお花屋さんかどこかに勤めておいでですか?」

 「はい、花屋で仕事をしてます」

 「先ほどの男性の方と同じなのですが…もし能力を他の仕事にも使ってみたいとお考えならば管理部で探索者登録をなさっておくといいですよ。

 名称こそダンジョン管理部ですが、あそこの仕事は能力者の支援も多分に含まれます。能力者の方に仕事を割り振るといったこともやっておりますので。

 私も登録はしておりますけどダンジョンに潜った事はありませんしね」

 「ダンジョンは関係ないんでしょうか?」


 女性が不思議そうにそう聞き返した。

 確かに名称がダンジョン管理部だからそう思っても不思議は無いか…。


 「ダンジョン管理部の仕事が主にフリーと呼ばれる人達のサポートをしていた名残が強い所為か今でもそう思う人はそれなりに居るようですね。簡単に言ってしまえば職業の斡旋所としての機能も持っております。運営に能力観察機関が関係してる事もあってか、どちらかと言えば能力者の方に重きを置いてるようですけど…。

 しかし、無能力者の方も探索者になる分に何ら問題はありませんので、能力者の方も無能力者の方も利用自体は誰にでも出来ます。利用をするために探索者という肩書の登録が必要と言うだけですね。もし私の話を聞いて興味を持ったのならば一度行ってみるのがよろしいかと。

 さて、少し話がずれましたが花の調子を整える能力でしたか?

 花の調子を整えると言う事はお花のお医者さんみたいなものでしょうか? それでしたら幅広い所でお仕事が出来ると思いますよ。

 花と言う物はそれこそ私たちの身の回り何処にでもあります。花瓶に飾ってあるお花でしたり、お庭に咲いているお花でしたり…公園にも様々なお花が植えられていますよね。そう言ったお花の回診なんてのもいかがでしょうか? 

 結構お花の手入れと言うものは何かと大変だと聞いた覚えがあります。綺麗に咲かせるには手間がかかるでしょうし、その調子を整えてあげられる能力は幅広くお願いされると思いますよ。

 それと農場に行かれるのもよろしいかと思います。野菜は花を咲かせてそこに実を実らせますからね。花の段階でしっかり咲いていれば実りも良くなったりしそうではありませんか? うまくいくかはわかりませんが、非常に便利な能力だと思いますよ。

 それとお医者さんとしてお仕事をされるのならばかなり忙しくなるかもしれませんね」

 「農場ですかぁ…それと花の医者…」

 「そう言ったお仕事なんかも管理部では承っているかもしれませんし、一度行かれてみるのがよろしいかと。探索者登録の削除自体も比較的簡単に出来るそうですしね。

 それでは次の方に…」

 そう言って志田先生は別の人を指名していった。


 (んー…能力者の人にどんな仕事が良さそうかの推薦がこの講義の本分なのかね? 能力を持っていても何をやるのがいいのか迷う人も居るだろうしな…。進路指導の相談か?)


 今度の人は金属を溶かす能力を持っているらしい。ダンジョン街においては武器防具の作成に欠かせない能力のような気がするな。

 そう言った作成の前段階の仕事であったり、最初の岩なんかを破壊するする能力の人と組み、コンクリと鉄筋の解体をしたりも出来るなんて話をしていた。瓦礫を破壊した後は鉄筋が残るからそれの回収にも役立つだろうと。

 受講者の人は鍛冶場で働いているらしいのだが、現場でそう言う仕事もあるのかと志田先生の話に頷いている様子だった。金属なんてそれこそどこにでもあるだろうし、火花を起こさず振動も与えない切断(溶解)は使い勝手もいいのではないかと。こちらも救助に役立つのでは? という事だ。

 

 この講義に来ている人達は自分の能力で何をしたいかまだ決まっていない人が多いのかなぁ…と、そんなことを考えながら志田先生の能力説明に耳を傾けていた。





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