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298話 素材を卸すのは終了っと




 「すいません、先に来たはずのゴーレムの所持者なんですけども…」

 「ああ、あなたが石田さんことゴーレムさんですね。探索お疲れ様でした。

 ゴーレム達は建物の前で待ってますよ。ほら、あそこです」


 転送陣を降りて建物の入り口にいるスタッフさんに話しかけるとそんな風に言われた。やっぱその二つ名ここのスタッフさんの間で定着してるんですね…。

 スタッフさんが指差している所に目を向けると確かに先に戻ったゴーレム達が居た。やはり人の目は引いてる感じだなぁ…。

 

 「対応ありがとうございました。ゴーレム達はしっかりメモを渡しました?」

 「ええ、最初は何事かと思いましたけどね。こちらに紙を差し出しながら近づいてきたので読んだあとに許可を出しておきましたよ。私の言う事しっかり聞くんですねぇ…」

 「お手数お掛けしました。ここに居るスタッフさんの指示に従うように言っておきましたからね。ちゃんと言うこと聞いて安心しましたよ」

 「メモにも書いてありましたけど素直に聞いてくれるか見た時は心配だったんですけどね。この3回目が最後ですよね?」

 「はい。全部でゴーレム8体と私になります」

 「了解しました。タグだけ見せていただいていいですか?」

 「ではこれで」

 腰のポーチからタグを伸ばしてスタッフさんに見せる。


 「ありがとうございます。…これでよし…っと。記録しましたのでもう行かれて大丈夫ですよ」

 「それではこれで、お疲れ様です」


 そう言って転送陣の建物を出てゴーレムが居る所に向かう。うん…視線をひしひしと感じるね…。

 今もゴーレム1体を連れているのでこのゴーレムの関係者だというのは丸わかりだろう。建物を出てから視線が刺さる刺さる。

 いつか当たり前の光景にしてやるからなお前等…。


 視線を気にしないふりをしながらゴーレム達の所にたどり着く。うん、荷物もちゃんと持ってるな。

 今回は運び役のゴーレム達がいるので運搬車はいらないだろうとそのまま倉庫の方に向けて歩いていく。とりあえず個人倉庫に入れるもん先入れてしまった方がいいかな?


 「大斧は切断しないと運び込めんか…ちょっと解体所で3分割ぐらいにさせてもらうか」

 

 このままでは運べんと思い、切断する為に解体所へと向かう事にした。流石に外での切断はやっちゃダメよな…。

 以前エメラルドゴーレムを解体した時に一度行っているから今回もそこに向かう。解体所にいる人に使用していいかを聞くと、空いているので使っていいと許可を貰った。スタッフさんもゴーレムが持っている物を見ると、いっぱい持って帰ってきたなぁ…と驚いた表情をしている。全部卸すわけじゃないんですけどね。


 「さて、手早く終わらせてしまうか」


 大斧を台の上に置くと、水圧カッターを斧の太さの分だけ伸ばして切っていく。エメラルドゴーレムを切断した時と変わらないような硬さしてるんだけど…それだけむっちゃ硬いってことよなこの斧。加工大変だったりするのかねぇ?

 1分もしないうちに、個人倉庫へと運び込めそうな大きさに分割し終える。これで良し…っと。やることをやったので水を片付けて外に出た。


 「あれ? もう終わったんですか?」

 あれだけの物を持っていたにしてはやけに早いと、不思議そうな顔をしてスタッフさんは尋ねてきた。


 「個人倉庫に入れられなさそうな奴を切っただけですから。後は大丈夫でしょうし」

 アイアンゴーレムも自分のゴーレムが通れる以上通れないという事はないだろう。でも足ぐらいは落としとけばよかったかな? まぁ、いいか。


 「そっちの大棘ムカデは解体されないのですか? そのまま卸すと解体費用が天引きされますよ?」

 「ああ…そこはしっかり引かれるんですね。まぁ、今回はいいです。

 疲れてますし、下手に解体して必要な所を失敗したら余計報酬から引かれそうなので」

 「そうですか…卸す方がそう言うのであればそのまま引き取ることになりますかね。丸々1体の運搬ご苦労様でした」

 「ゴーレム任せですけどね。それではこれで」

 「はい、探索お疲れ様でした」


 スタッフさんにそう言うと解体所を後にする。これで次は個人倉庫だな。

 解体所から個人倉庫に移動してくると、管理人さんに頼んで鍵を受け取った。

 アイアンゴーレム2体を丸々運んで来たことに対し、壁にぶつけんようにとだけ注意を受けると受付けを通り過ぎる。そうそうぶつけるような事は無いと思うけどね。

 しばらく進んで自分の個人倉庫に着くと、中に大剣のマジックアイテム、アイアンゴーレム2体、大斧(3分割)を入れていく。エアーマンティスの鎌をお店に出すときに大剣以外も持っていった方がいいかな?


 「移動用の軽トラでも借りといた方がいいかな? それか八田さんに頼んでお店まで運んどいてもらうか? 頼むなら早めに言っといた方がいいよな…」

 おそらく宅配サービスに空きはあるだろうが、念のため後で連絡をしておくことにしようと頭の片隅に置いておく。宅配サービスやめてないといいけどな…。


 「よっしっ…これで後は大棘ムカデだけだな。こいつ等はもういいからここに置いていくか」


 そう口にすると、周りから見えない事もあって順次駒に仕舞っていく。全部連れて歩くと邪魔だし目立つからな。今更だけど…。

 ゴーレムを仕舞い終えると鍵をかけて受付けに戻る。鍵を返したら倉庫だな。

 さっさと終わらせたいという事もあり、足早に受付へ向かうと鍵を返す。帰りはゴーレムが居ないからすぐだわ。


 「倉庫前で少し待ってろ。スタッフさんを呼んで来たら指示に従って運ぶぞ」


 ゴーレム3体にそう指示を出して倉庫の方へと向かう。なるべく早めにスタッフさんを呼んでこんとな。この天気じゃ傷むのも早そうだし…。

 倉庫前でゴーレム達に待機を命じると、早速倉庫内に入って受付に向かう。とりあえずさっさと移動させてしまわんと。


 「すいません、買い取りをお願いしたい素材があるんですけども…」

 「はい、物は何でしょうか?」

 「大棘ムカデ3体です。邪魔になりそうなので倉庫前に置いてあるのですが…」

 「3体ですか? それは結構な量ですね…。すぐに運搬車を回しますので。素材の所でお待ちください」

 「よろしくお願いします」


 怪力の能力者とて3体を運び込むことはそうないだろう。複数のPTでの討伐ならともかく洞窟エリアじゃね…。広場攻略作戦が開始されればそういったことも当たり前になりそうだけどそっちはまだだしね。

 スタッフさんに言われた通り、倉庫の前でしばらく待っていると1台の運搬車がやって来た。スタッフさんの指示で運搬車へと積み込む。

 こっちのゴーレムが居たから鎖で吊るして持ち上げなくていいと感謝された。いえいえ、これぐらいは…。


 「査定を出しますのでしばらくお待ちください。それと1体丸々を卸しますと解体費が掛かるのですがよろしかったでしょうか? 解体されるのであればこの段階でしていただくことになりますが…」

 「ああ、大丈夫です。解体費用を引いた値段でお願いします」

 やはりここでもその注意をされた。普通は卸す部分を解体して持ってくるもんだしな。


 「では解体費用込みで計算させていただきますね。この他に買い取りをご希望する素材はございますでしょうか?」

 「後は魔石をお願いします。それと鑑定の能力者の方に後でお願いしたいことがあるのですが…」


 買い取りよりもこちらの方が大事と、後でいいから鑑定の能力者の手配をお願いする。

 魔石の鑑定をする人が一緒にやってくれれば早いんだけどどうだろう? そっちは魔石に忙しいから別の人になるかな?


 「鑑定の能力者ですね。何かマジックアイテムでも手に入れられましたか?」

 「まぁ、そんなところです…」

 「畏まりました。ではまずは魔石の方をお預かりいたしますね。その待ち時間に鑑定の能力者の方に見てもらうよう手配いたします」

 「よろしくお願いします」


 こちらへどうぞと言われて倉庫の一角に案内された。魔石を見せてくれとスタッフさんに促される。

 とはいえ、軍隊蟻の魔石全部は流石に多いだろうからと、とりあえず今回は半分ぐらいの魔石を卸すことにする。大棘ムカデの魔石だってあるんだしな。

 荷物から軍隊蟻の魔石を半分、大棘ムカデの魔石が入った袋を机の上に置く。机に置かれた袋の音を聞くと、スタッフさんが少し驚いた表情を見せた。

 全部が普通の土魔石とはいえ計60個以上だからな。それなりに重い音が机から聞こえて来るのも仕方ない。


 「これは少し時間がかかりそうですね…。それでは鑑定の能力者を呼んでまいりますのでしばらくお待ちください」

 「お願いします」


 そう言うとスタッフさんは魔石が入った袋を持って目の前から去っていった。さて、どのぐらいで鑑定士さんは来るかな…。

 とりあえず空間魔法から例の小箱を荷物の中に出していつでも取り出せるよう用意をしておく。

 自分については無事に? 鑑定失敗の結果が出るといいんだけどねぇ…。





 「やあ石田さん、お久しぶりだねぇ。なんかまたマジックアイテムを見つけたって? 羨ましい程の探索っぷりじゃないの」

 「あなたは…以前はお世話になりました」

 しばらくして、自分の前に姿を見せたのは腕輪の鑑定なんかをしてくれたあの鑑定士さんだった。まぁ、職場はここですもんね。


 「鑑定してほしいって聞いたから来たんだけど物はなにかな? また面白い物かい?」

 「それを見てもらいたいんですけどね。これなんですけど…」

 そう言って例の小箱を取り出す。そしてその状態を見て目を丸くする鑑定士さん。まぁ、この見た目ではねぇ…。


 「えーっと…面白いものではあるね? 鎖でぐるぐる巻きだなんて相当厳重にして持ち運んできたわけだ。いやー、何をどうしたらこういう風になるんだい? パンドラの箱でも拾っちゃったかな?」

 「そんなの拾ってたらダンジョン内に捨ててきたいですよ…。実はちょっと開けてみたら煙が出てきたんです。

 それで以前、モンスターを引き寄せるっていう香炉の話を聞いたことがありまして。こいつもその類なのかなぁ…と。無事だったので効果は違うんでしょうけど…漏れてきたら大変と思いこうして厳重に封をしてるわけですね」

 小箱がこんな状態である事を鑑定士さんに説明した。その話を聞いて心当たりがあるのか首を縦に振って頷いている。納得してくれたか…。


 「なるほどねぇ…。こいつがこんな状態になっている理由については納得したかな。

 じゃあ早速調べてみようか。煙ねぇ…」

 

 鑑定士さんはそう言うと箱を持って意識を集中し始めた。どうだろうか…。

 果たしてどんな効果を言うかとドキドキしながら口が開くのを待つ。あれについてどれぐらい詳しく調べられるか…。


 しばらく様子を見つつ、鑑定士さんが調べ終わるのを待った。そして鑑定を終えたのか、目を開くと何やら難しい顔をして見せた。果たして結果は…。


 「石田さん…たぶんまたもや当たりを引いちゃったかもしれないよ。支部長案件だと思うね…これ」

 「えっと…どういったものでしょうか?」

 鑑定士さんの言葉から推察するにかなりのレアものという事が伝わってきた。つまり調べることは出来たというわけだ。自分の情報は出てないよな?


 「ちょっと連絡してくるから待っててくれる? 魔石の査定は後でになりそうだね」

 「支部長案件ですか…ほんとにパンドラの箱でも持ってきちゃいましたか?」

 「後で説明するよ。まぁ…簡単に言うと悪い物…ではないと思う。ちょっと判断は難しいかもだけどね」

 そう言って少し待つよう鑑定士さんは口にすると、魔石鑑定をしてる所に離席の承諾を取りに行った。支部長案件と言えば断るなんてことはないだろうね。

  

 (あの様子だとマジックアイテムの効果はわかったけどこっちの事についてまではわかってないようだったな…もし自作だなんてのが分かったらもっと驚いてそうだし。隠すのがめちゃくちゃうまいとかだとわからんけど…。でもそんな感じはしなかったからそれは無いと思うけどなぁ…)


 戻ってくる間にそんなことを内心で思った。まずはそこがバレない事にずっとドキドキしっぱなしだったのだ。それが分かってないなら後は何とかなりそうだな…。

 少しすると鑑定士さんがこちらに戻って来て増田支部長の所に行こうと促してきた。荷物を持って鑑定士さんの後に続く。


 ここからはどういう話になるかわからんけどとりあえず何とか乗り切ろうと、内心で気合いを入れた。





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