290話 ダンジョン2層(ソロ) 宝箱を目指そう
「光石用のタグはダンジョン前に居るスタッフから受け取ってください」
「そっちですか、わかりました」
次の日の朝。準備を終えて管理部までやって来てタグを受け取ろうとしたら、そう受付けのスタッフさんに言われた。確かにそっちで渡したほうが楽か。
「んじゃあゴーレムを取ってきたら広場に行くかね。なんか久しぶりの探索って気がするなぁ…」
今までは1層の事に関わっていた所為もあってか、自身の探索作業が手つかずだったことに久しい気持ちを抱いた。
ソロというのも最初ゴーレムを連れて行った時以来だ。ドキドキとワクワクを感じてしまっている。
「やっぱりこうやって探索を進めるって言うのは1層を安定化させようとしていたのと違って興奮するなぁ。先に進むっていう好奇心がどんどん出てきちまう。久しぶりだから余計になんかね?」
自身の中からあふれてくる逸る気持ちを押さえつつ、今の心情を小さく呟いた。久しぶりの探索再開に知らず知らず、心は興奮しっぱなしのようだった。
まだ進んだことが無い場所…何があるかわからないという冒険心をくすぐる行いに、久しぶりに感じる高揚感があふれそうになっていた。ダンジョン探索の醍醐味を再認識したな。
個人倉庫に着くと、管理人さんから鍵を受け取り内部からゴーレムを出す演技を行う。道々で目立つが、こればかりは仕方ないと諦めた。もうそう言うスタンスでいこうと。
「とはいえ…このぎんぎらぎんな鋼の体は夏の暑さもあって目に毒だわなぁ…。米田さん達に渡したゴーレムみたいにつや消ししておけばよかったか。とりあえず今はこれで我慢するか…」
そう呟くと、召喚魔法を使って畑なんかに敷く黒いシートを取り出した。とりあえず応急処置としてこれで体を覆っておけばいいだろう。なんか不格好だけどな…。
全部のゴーレムにシートを羽織らせると、ハサミを使ってチョキチョキと足元等辺で切っていく。地味に手間がかかるなこれ…。
そしてしばらくして、何とも言えないゴーレムの集団が出来上がった。襤褸を纏ったゴーレムと言えばいいんだろうか?
「まぁ…応急処置だしこれでいいか。鋼の体むき出しよりはよかろう」
とにかく今はこれでいいと、使った道具を空間魔法に仕舞う。帰ってきたらつや消しせんとな。
そしてそのゴーレム達を部屋の外へと出して鍵をかける。とりあえず行く準備は出来たと。
受付けに戻り鍵を管理人さんに預けるのだが、やはりこの異様なゴーレムの集団を目にすると唖然とした様子を見せた。一応見た目を気にしてボディを隠したのだと説明をしたのだが苦笑いを返されてしまった。まぁ、こちらのやりたいことは理解してくれたらしい。
そしてそのまま個人倉庫を出るとやはりというかなんというか…人の視線にさらされた。ゴーレムというだけでも珍しいのにこんな姿だしな。
(気にしててもどうしようもないし行くか…)
これもわかっていたことだと周囲の視線を諦めて広場へと向かう。
正直素の状態と今の状態、どっちが良かったかなんてのはわからんし、何か言いたいことがあれば言ってくるだろうと視線を無視して広場の列に並んだ。
1層が攻略されたとは言っても探索者の活動が減ったなんて言う事はない。一応人が多い朝の時間はずらして並んでいるのだが、1層に潜らない探索者が今は多い所為かそこまで減っている気はしなかった。並んでいる間もゴーレムに刺さる視線はかなりのものだ。はぁ…。
そんな視線に耐えていると、ついに自分の順番が来た。
暑いしさっさとダンジョンに入りたい…人の視線もダンジョンに入りさえすれば無くなるのだし。
「久しぶりにゴーレムのあんちゃんを見たなぁ。ゴーレムを連れての探索再開か?」
いつぞや見たことがあるスタッフさんがそう言ってタグの提出を促してきた。
「1層の方も一応落ち着きましたからねぇ。しばらくは自分の探索を進めようかと。というかゴーレムのあんちゃんって…」
「わかりやすい二つ名じゃないか。それだけゴーレム連れてるのなんてあんちゃんぐらいなもんさ。それとそれだけ居るんだ…戦利品は期待させてもらうぞ?」
「あはは…今回は目的がそっちではないんですけどねぇ。まぁ、持ち帰れる物は持ち帰ってきますよ」
「あんちゃんが戻ってきたらすぐわかるだろうし、噂なんかは早めに聞けそうだな。何を持って帰ってきたか楽しみにしてるよ。
…よし、もういいぞ。転送陣に進んでくれ。無事な探索をな。それとこのタグもよろしく」
「ありがとうございます、それでは行ってきますね」
手続きも終わり、光石用のタグを受け取るとゴーレム共々転送陣へと向かう。帰りは適当な素材でもゴーレムに持たせて帰ってくることにするかね。
転送陣の上に乗り装置を起動させた。光が充満した次の瞬間には視界が切り替わるだろうと、ゴーレム達に指示を出して転送先の警戒を強める。
無いとは思いたいが、この前みたいな即戦闘という万が一があるかもと予想して。
「はぁ……出来れば穏便な転送でありますように…」
「……ふぅ…モンスターの反応は無し…っと。どうやら一番心配していた事態は避けられたか」
転送後、周囲の状況を魔法で調べると安全という事がわかり、とりあえず息を吐いて気持ちを落ち着けた。前回みたいな転送はごめんだよ…。
「さて…まずは現在地把握っと。最近は探知能力を持っている人達に任せっきりだったからなぁ…ソロの時に練習しておかんと」
そう言って地図を取り出すと、再び探知をかけて自分が今どこにいるのかを調べ始める。まずは通路の形状からだ。
「どうやらマップ端って事はなさそうだな。自分を中心に通路が広がってるみたいだし…まずそこだけは安心したわ」
今回の探索予定は長くて1泊としているので、現在地が端でないのは助かった。初探索時みたいなペースはソロでしたくないし。
とりあえず少し先に行けば突き当りにぶつかるようなのでそこまで行くことにする。現在地把握はただでさえ慣れていないのだ、1回の探知でわかるようになるにはもっと経験を積まないとだな。
少し歩くと目的地としていた突き当りまで来た。再び探知を使おうと思ったところ、何やら目の前の光石に見覚えのあるものが…。
「…タグが付いてるな…という事は…ここは誰かが既に来た道という事か。いつ来たかまではわからんけど…」
とりあえずタグを確認してここがどこかを確認する。現在地把握の練習をしようと思っていたけれど目の前にヒントがあるのだからありがたく使わせてもらおう。セットしてくれたんだから有効活用しないとな。
「んーっと…ふんふん…だいたいこの辺りか。それでこの突き当りと一致する通路は…っと」
階層を区分けした際の数字をヒントに、この通路がどこかを探知で確認する。こうしてだいぶ絞り込めているのならば現在地把握もかなり難易度が下がるものだ。
「ふんふん……良し! ここだな!」
探知の結果と地図をにらめっこし、絞り込みのヒントを元に現在地の通路の割り出しに成功した。地図の通路と探知結果もぴったり重なっているし間違いないだろう。
「ってことは今ここにいるわけか。んー…帰還陣からはそれなり…ボス部屋は反対側か。なら3層に行くのはやっぱなしだな。最初に決めてた通り宝箱巡りに決定! と。だとして一番宝箱が近い所は…地図だとここか…。おそらく他の誰かがもう見つけた後だろうけど行ってみるか…再び湧いてる可能性も無くはないしな。
そういや2層の宝箱の中身は通路の方がレアリティが低い扱いになってるんかね? 広場攻略前なら統計的に見るとこのパターンか? まぁ、あくまで統計でみるとだから? 良い物が入ってるって事もあるんだしそこは考えんでいいか。
こればかりは開けてみるまでわからんわけだしな。良い物が入ってるに期待しよう」
宝箱の位置を確認し、とりあえずの目的地は決定した。あのマジックアイテムを使うためにも宝箱のあるところにさっさと行くとしよう。他にも実験したいことがあるしな。
「っと…どうせだから今のうちに地図上に帰還陣までのナビ魔法を掛けておくか。地図の確認も楽になるしな。
それと調査も完全じゃないだろうし新しい通路の見逃しもあるかもなぁ…近場にあったらそっちもメモして報告できるようにしておかないと。未発見通路なら宝箱も期待できるな…どっかにあるかね?」
1度仕舞った地図を再び取り出すと、ナビ魔法をかけ帰還陣までのルートを確認しておく。宝箱巡りをするのであればこの通り行くとはならないだろうが…。
そして未発見の新しい通路もどこかにないかなぁ…と、地図上に黄色の光点で表示させた。いくつかはあるようだが、残念なことに近場には表示されていなかった。ガックシだ…。
「でもこのルートなら比較的近くを通るな。自分より先にこの通路を通った人達は別ルートで帰還陣まで行ったのか? それか見逃したって所かね?
なんにしてもまだ残ってるならラッキーだな。最新の地図更新で載ってない通路だ、宝箱には期待させてもらおうか」
再び地図を仕舞うとそれと一緒にゴーレム達も駒に戻し、今度こそ近場の新しく出来た通路へと向かった。宝箱は湧いてないかもしれないが念のためだ。あればラッキーといった程度の気持で通路を進む。
この有るか無いかの時間もダンジョン探索の醍醐味とワクワクしていた。
無論、その間も探知は欠かさずに行う。楽しみではあるが、今はダンジョン内だという緊張感も忘れる事は出来ない。
適度な緊張と気の抜き方も勉強しつつ、目的の通路へと歩いて行った。




