288話 2層の探索予定
「おー、やってるやってる」
次の日の朝、朝食を食べながらテレビを点けると、1層の広場や地底湖を全て攻略し終えたというニュースをやっていた。
昨日の夜に緊急放送として差し替えられたニュースも見ていたのだが、今なおニュースとして大きく取り上げられていた。コメンテーターも朝から熱く語っているなぁ。
「やっぱりダンジョンの攻略って話題は大々的に取り上げるもんなんだなぁ…番組表見ても結構この話題が題名になってるわ。ん? へー、実際に潜った探索者に突撃取材かぁ。昨日はあちこちに探索者が居ただろうし、街頭インタビューとかでもしてたのかね?」
あいにくと早々に山の自宅へと帰ってきた自分はその現場を見ることはなかった。誰か知り合いでも居たら面白そうだし録画しておこうかな?
そんなニュースを見ながら朝食を済ませていく。今日もいい具合に出来たな。森林鮭の塩焼きをしてみたけどふっくらしてて美味しいなぁ…これ。
「ふんふん…2層もこの調子で頑張ってほしい…かぁ。まぁ、1層での経験もあるし? 効率としては上がるんじゃないのかねぇ」
コメンテーターの人がそう言うと司会者の人にカメラが移った。こんな感じで今日は結構ニュースになるんだろうな。
「まぁ、そっちはそっちとして、こっちはやること済ませないとだな。ご馳走様でした」
食べ終わった皿を魔法で綺麗にすると空間魔法に仕舞っていく。食器棚としても大活躍だなこの魔法。
朝食を食べ終わると出かける準備だ。一応管理部に寄って、あれからの進展が無いか聞いてから街へと繰り出そうと決めていた。昨日の今日でわかったこともそうないとは思うんだけどね。
準備を終えるとアパートへと跳ぶ。玄関から外に出たが、ダンジョン街は今日もまた暑い1日が続きそうだと若干げんなりとしてしまった。それとアパート内が地獄なのもなんとかしなければな…。
「あら? 石田さんお久しぶりねぇ、おはよう。なかなか顔を見なかったけど元気してたかしら?」
玄関に下りると、田村さんがアパート前を掃除している所に遭遇した。確かにお久しぶりって気がするなぁ…。
「おはようございます田村さん。ええ、特にこれといって問題はないですねぇ。まぁ、しいて言うのなら…現在進行形でこの暑さには参っているぐらいですか」
「今日も暑くなるんですって。水分はしっかりとらないとダメですよぉ?」
「そうですね、帽子も手放せませんし。それと水分補給については水の魔法が使えますので大丈夫ですよ。田村さんも気を付けてくださいね」
「ふふっ、そうね。ちょっと掃除してるだけなのに汗かいちゃったし、後でしっかり水分を摂っておくわね。石田さんはこれから探索かしら?」
タオルで額をぬぐいながらそう聞いてくる田村さん。とりあえず日陰に移動するか…。
「探索…というよりはその準備ですかねぇ。1層のごたごたも一応落ち着いたじゃないですか? なので階層攻略の方に手をかけようかなぁ…と。まだ2層に上がったばかりなので」
「あら? もう2層に行ってるのならそんなに遅いというわけでもないんじゃないかしら。だってモンスターの湧きが異常だったんでしょう? その間に2層へ行ったのなら順調なんじゃないの?」
田村さんはそう言って木の下の葉っぱを掃き集め始めた。
確かにモンスターの異常湧き中に次の階層に行ったと考えれば順調なのか? 前例もないから基準が分からんね…。
「モンスターの大半を無視してボス部屋へ直行したので何とも言えませんねぇ…。それに中堅クラスの人達が結構討伐してくれてたって言うのもあるでしょうし。2層はそこまで手が付けられてないのですんなりいけるかどうかはわかりませんね」
「でしたらまずは何にせよ、安全第一で行かないといけませんね。焦って無茶な探索だけは気を付けてくださいよ?」
そう言って心配そうな目でこちらを見つめてくる田村さん。
やはり自分がまだまだ初心者探索者だからだろうか…現状のダンジョンで階層突破をしようとしてるのが危うく見えるのかね? 潜りたくても手を控えてる探索者も居るし、そう見えても仕方ないか。
「ええ、十分気を付けて行ってきます。その為の準備なんかを今からしてくる予定ですからね」
「無茶だけはしないよう気を付けてくださいねぇ。それじゃあ行ってらっしゃい」
「ええ、行ってきます。探索から帰ってきたらまた書置きしておきますので」
そう言って田村さんに見送られながら車へと向かう。このやり取りも久しぶりにしたなぁ…と、最後にしたあの時を懐かしく思った。あれから結構時間が経ったもんだ…。
車に乗りこもうとすると、相変わらずの熱気に足を止められてしばらくの間熱気抜きに時間を取らされた。夏はこれが嫌だと感じながら管理部へと向かう。果たして新情報あるかねぇ?
あれから管理部に着いたが…結果から言えば収穫ゼロだった。現在は調査隊が1層に潜ってる最中だそうだ。まぁ、なんとなくわかってた…。
「さて…それじゃあ次何処に行こうかね?」
車に乗りながら行き先を考え始める。しかし必要な道具はだいたいそろっていた。
トランシーバーも支給品として良い物を貰ってるし、着替えなんかも洗濯済みだ。解体のナイフもしっかり研いであるしOK。後は持っていく食料の補充ぐらいか?
「そういやダンジョンに潜る前にタグを持っていくよう言われてたっけか。潜る前に管理部でそれだけ貰わないとだな」
どこの層に潜るにしろ、洞窟エリアに行くのであればこいつの持ち込みを頼むと言われている。
あると助かるのは自分も同じだし、少し荷物は増えるが忘れずに持っていこうと頭の片隅に記憶しておく。
「どうせなら今回は最初からゴーレムを出して潜るか。これなら荷物がいくら増えようとかまわないしな」
2層という事はモンスターの討伐もそうされてない場所だ。戦利品が期待できるのならばゴーレムは最初から連れて行った方が良い。
それと、あれだけ居れば目立ってしまうのはもはや仕方がないだろう。ゴーレムそのものが珍しいっていうのもあるしな。
「調査隊の報告が来るとしたら早くて明日か明後日といった所か? 1層内を確認しながら見て回るとしたらそれぐらいかかるだろうしな…。1泊コースで考えて潜るか」
その間でどれぐらい見て回れるかを想像してみた。転送場所によっては3層まで行ってしまうのも悪くはない。こちらの戦力も1層突破の時よりは増えてるしな。
「まぁ、そう都合よく転送されるとは思えんけどね。何回か潜る必要はあるか。2層攻略の時と同じタイミングで行けばまだ移動が楽になるかもなぁ。
そういや理人さん達もその時に潜るって言ってたっけ? 行先は同じだし、どっかで会うって事もあるかも。さて…そろそろ移動すっかね」
とりあえず今から行くとすると、ダンジョンに持ち込む食料の調達、エアーマンティスの鎌を使った剣の見物、こんなものだろう。どちらも必須ではないが、行っておいて損はない。特に持ち込む食料に関しては気になってる所があるしな。
「時間的に剣を見てからでいいか。んで昼も兼ねて食料調達に行って帰ってきたら2層に行く荷物の準備と。そんなところだな。
明日はゴーレムを個人倉庫から出す真似もせんといかんからまずは個人倉庫と。
しかし…贅沢を言っちゃいかんのだろうけど、この手順も面倒っちゃ面倒だよな…。保険も掛けてあるしそろっとバレても大丈夫かねぇ? 使えなくても買い取るとか言われるのだけが唯一心配なんだよなぁ…」
周囲にこのマジックアイテムの存在がバレるメリットと言えば隠さず使う事が出来る点だ。2層の攻略でも大々的に使用ができるだろう。
唯一の心配は今口にしたように、他者が使えなくともこちらから買い取られる事だったりする。そんな無意味な事は流石にしないとは思っているんだけどね…。
「こいつが普及すればそんな無意味なことはしないと思うから最悪はこっちで仕込まないとだなぁ…。宝箱に自分の作ったマジックアイテムを入れて残るかどうかのテストもしないと…。それが出来れば例の盾なんかも仕込めるわけだし。
うーん…今回は宝箱巡りの探索に変更するかねぇ?」
どっちにしろ例のマジックアイテムの事もあって、宝箱の所に行くのは確定している。魔法の実験も兼ねて今回は2層の宝箱巡りをするのも悪くないかもしれない。宝箱からどんなマジックアイテムが出るのかというのも普通に興味があるし。むしろ気になると言ってもいいほどだ。
「調査隊に全部見つけられてないといいんだけどなぁ…。なんにしてもそれは明日のお楽しみっと。じゃあ行きますかね」
行き先を以前槍一さんに教えてもらったモンスター素材を扱っている武器屋へと決めて車を出発させる。
以前見た時は鎌全体を使用した剣だけだったが、果たして片手剣はどういう風になっているのだろうかと想像しつつ管理部の駐車場を後にした。
しかし見に行ったはいいが、今現在在庫はありません…なんてことも有りえなくはないと、そんな事態の可能性を運転しながら思ってしまった。
「どうか置いてありますように…」
運転しながらそう祈った将一だった。




