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280話 ダンジョン1層(護衛班) 護衛終了




 「…何というか…あっけなかったな?」

 「良いことのはずではあるんだけどねぇ…」

 「私達の考え過ぎだったという事か?」

 「なんだったのかなぁ…広場と通路のあのモンスターの違い」

 「どうなんだろう? 正直よくわからないね…」

 「ウチ等んとこにタイミング良く…悪く? 湧いただけやったんやろうか?」

 「ここまで1体もモンスターと遭遇しませんでしたねぇ…」

 

 そう言いながら、皆して帰還陣前の通路を歩いていた。


 広場のモンスターを倒してここまで進んできた自分達護衛班。

 広場では鹿田さん予想通り、そのモンスター内容ならば田町さんと須田さんと田谷さんの3人で速攻終わらせてくれと田上さんから通達があった。特に問題なく処理してきた田町さん達。そこに居たモンスターの面子を不思議に感じながらも、広場の制圧はすぐさま終了した。

 田町さんと田上さんの配置を再び変えて、再度帰還陣へと向けて移動を開始したのもそれからすぐの事だった。

 モンスターの湧きに再び異常を感じ、福田さんを交えて少し話をしたが現状は不明という事で判断は管理部に任せるという事となった。まぁ、実際よくわからないし今ここであーだこーだ言っても仕方ないのは確かだったしね。


 そしてそんな不安要素を考えながらも運搬班を護衛して進んでいた自分達。通路に上位のモンスターがいるという前提で、今までより警戒をしながら進むことになったのはそうおかしなことではないだろう。 

 しかしその心配はどうも杞憂で終わったようだ…。

 

 「まさかあの広場との戦闘からこっち、1体としてモンスターと遭遇しないとはなぁ…通路には湧いてたのではないのか?」

 モンスターが湧かないと言われている帰還陣前の通路を振り返りつつ、田上さんはよくわからん…といった表情でそう口にした。皆同じ気持ちですよ。


 「運搬班も先に通したし、それも後1転送で終了という事だ。私達護衛班の仕事ももう終わりだな」

 「一応湧かないかここで警戒してましたけどそれもなかったですしねぇ…。ほんと、あの湧きの違いは何だったんでしょうか?」

 「うち等が運悪く遭遇しただけであのエメラルドゴーレム達が異常やったんかなぁ? なんか今にして思うとその可能性も出てきたで?」

 「1層の湧きが正常に戻った少し前に私達の所に湧いちゃったって事? ありえなくもないのかなぁ…?」

 「ここまでモンスターと遭遇しない所を見るとねぇ…。私達の前に他のPTが倒したって言う可能性も無くはないけど…」

 「戦闘跡もなかったのよねぇ…。別の広場も通ったけど湧いていた形跡もないし…ほんと、よくわからないわ…」


 通路はいろいろ通じてる別の道を通って来たから見てないとしても、広場にすら戦闘跡がないのはちょっと不可解だった。タイミング悪くスライムに全て吸収されたと言われればそれまでなのだが、モンスターの解体跡や戦闘跡がちょっとは残っててもいいのではなかろうか? なにも見当たらなかったからなぁ…そもそも湧いてないのだろうか? そうしたら自分達が広場で見たあのモンスターはいったい…。

 なんとも変な気持ちだった…。


 「うーん…とりあえず1層の今後は調査隊に任せるしかないだろうな。現状ここで悩んでいても解決しなさそうだ」

 「そうだな。変に勘ぐっていたが…湧きが正常に戻ったというのであればそれが一番いいことなのだし。そこについては調査隊の今後の報告を待つとしよう。最後に戻ってくる討伐班の遭遇状態なんかでもわかるかもしれんしな」

 「そうするしかないわなぁ…なーんかしっくりこぉへんけど」

 「今後の情報に期待だねぇ…」


 そう口にして帰還陣へと歩く。もう帰還陣の前まで来てる自分達ではこれ以上知りようがないのは確かだしね。

 そんなことを思っていると、トランシーバーから音声が聞こえてきた。


 ≪あー、あー…こちら運搬班です。田上さん達護衛班聞こえますかぁ?≫

 「ああ、聞こえている。どうかしたか?」

 どうやら運搬班からのようだった。なんだろ?


 ≪こちらは最後の転送に取り掛かります。もう戻ってこられて大丈夫です。護衛任務ありがとうございました≫

 「そうか、それならばこちらも帰還陣へと向かう。先に地上に行っていてくれ」

 ≪了解しました。それではまた地上でお会いしましょう≫

 「ああ。福田に荷物は無事持ち帰ると伝えておいてくれ」

 ≪わかりましたー≫

 そう言うとトランシーバーから声が聞こえなくなった。転送最後のちょっとした時間で知らせに来てくれたのかね?


 「聞いた通りだ。私達も帰るとしよう」

 『りょうかーい』


 モンスターの事は不可解だが、無事地上に帰れると聞いて皆の声に明るさが感じられた。自分達としてはこのことを報告するだけで、後の調査は任せる気満々らしい。仕方ないわな…。

 ゴーレムに持たせた荷物を持って帰還陣の所へと足を進ませる。これで終わりと思うと足取りも軽くなっている気がする。なんだかんだ言ってもダンジョンから地上に戻れるとなれば嬉しいし、それも当たり前かもしれないな。

 何の障害もない通路を軽い足取りで先へと進んでいく。広場の攻略自体はこれで一段落なので、気持ち的にも一区切りついたといった所だ。

 

 田上さん達は温泉でも行こうかという話をしていたし、地上に戻る楽しみが待っているとなれば既に休暇気分だろう。思いがけないお土産自体も出来た事だしね。どう分配するかはわからないが、各自一定量のエメラルドの塊を貰えるという事で皆満面の笑顔だ。

 自分にも分け前が来るはずだけどいったいぜんたい何に使おうかねぇ? と、使い道を考えながら帰還陣目指して歩いて行った。





 「ふぅ…帰還終了っと…」

 洞窟の暗い所から地上の光をダンジョンの入り口で目にすると、帰ってきたぁ! という気分になる。まぁ…いきなり地上のムワッとした気温に内心うへぇ…とも感じるのだけどね。


 「それでは私は管理部に帰還したことを報告してくる。荷の事は任せたぞ」

 田上さんはそう言って、1人管理部に向かおうとした。報告は大事だよな。


 「わかったわ。そっちの事はお願いねー」

 「しっかり報告してきてくれ。特にモンスターの湧きについては頼んだぞ」

 「魔石以外の荷はとりあえず個人倉庫でいいよね? 分けなきゃいけないし」

 「とりあえず浮かせて外まで運ばないと。木乃香と佳奈芽、手伝って」

 「よっしゃ! 任せときっ! 石田さんはトラック借りてきてくれへんか? とりあえずウチ等で表まで運ぶさかいに」

 「わかりました。ちょっと待っててください」


 ここまで来ると人目もあるからとゴーレムは回収済みだ。田町さん達の浮遊魔法で表までは出せるから助かったな。重量次第で魔力の消費も変わるらしいから重いゴーレムなんかはそう運べないらしいけどこのぐらいならばどうという事もないそうだ。

 とはいえなるべく早くトラックを持ってくるに越したことはないし、出来るだけ急いで表まで回そうと先にダンジョンの建物から出た。


 「あら? そちらも戻って来てたのね。リーダーからの伝言よ」

 「永田さん…でしたか? お疲れ様です。福田さんから伝言ですか?」


 建物から外に出るとすぐに声を掛けられた。確か福田さんのPTメンバーで副リーダーをしてる永田さんと言ってたはず。正直福田さん以外とはあまりしゃべらなかったからちょっと自信がないんだよね…。

 どうやら先に運び出した荷物の指示を出していたらしく、今最後のトラックを倉庫へと送り出していた。運んだものは全部無事に持ってかれたみたいだな。


 「よし、終了っと。ああ、それで伝言なんだけどね? 護衛班の持ってる荷物も運ばないといけないだろうからってトラックを1台もう借りてきてるってさ。あそこに止まってるの使っていいそうよ」

 「あ、そうなんですか? ありがとうございます。今からちょうど借りに行くところだったので助かりました」

 「物が物だから落として壊したりなんてしないよう気を付けてね? それとあたし達の分を貰っておいてって言われたんだけど…」

 「それでしたら田島さん達が今持ってきますので受け取っていただけると…そちらの分はもうわけてありますので。

 それではトラックをこちらに回してきますね」

 「了解よー」


 そう言って永田さんと別れた。トラックを確保していてくれたのはありがたいね。

 用意されていたトラックに乗ると、田島さん達がいる所まで動かす。後で福田さんにお礼言っておかないとな。

 人に気を付けて荷の近くにトラックを停止させると、そこにエメラルドゴーレムとエアーマンティスの鎌を乗せた。浮遊魔法を切った際に、トラックへと重量がかかってわずかに沈んだのが伝わってきた。これ全部で重量いくらになるんだろうなぁ?


 「このまま個人倉庫の建物へ行ってくれ。着いたら田町達が荷を下ろすから石田はこのトラックの返却を頼む」

 「わかりました」


 助手席に乗り込みながら田島さんがそう指示を出してきた。皆も荷台に乗ったのを確認するとトラックを動かす。荷もあるし一層気を付けて運ばなくちゃだな…。

 個人倉庫前に向かう傍ら、先ほど永田さんに聞いたことを田島さんにも話しておく。当の永田さんは、田島さん達から受け取ったエメラルドゴーレムの重みを抱きしめて嬉しそうに歩いて行ったそうだ。途中で落としてないといいけどな?

 礼については田上さんが後で言っておくとのことだ。今度自分でも見かけたら言っておくとしよう。


 個人倉庫前に着くとトラックから荷を下ろす。出していいと言われたので、皆を降ろすとそのままトラックを個人倉庫前から動かした。

 倉庫で魔石の換金をしているから返却をしたら倉庫に来るようにとの事だ。終わったらお昼にしようと言われている。うーん…昼はなにを食べようかねぇ? 

 約1日半ぶりの食堂のご飯に今から期待が高まる。タイラントスネークは運び出されているけどまだ蛇肉のお勧めは続いているんだろうか? 結構美味しかったのでまだあるのならば今度は違う食べ方にしようかなぁ…と思いつつ、トラックの返却に向かった。



 

 「それでは無事の帰還を祝して…乾杯!」

 『かんぱーいっ!』

 その掛け声とともに注文した飲み物を皆は口にした。やっぱりこの1杯は格別だなぁ!


 魔石の換金も終えた自分達は、ほぼ同じタイミングで食堂にやって来た田上さんと合流した。

 自分達の他にも戻ってきてるPTはいるらしく、管理部も1層の状況はある程度把握しているようだ。

 自分達の懸念した湧きの報告をすると今回の作戦が終わったら調査隊を出すと言ったそうな。何らかの動きがあればこれから戻ってきたPTからも話が聞けるだろうとのこと。今は休んで良しと、そう時間もかからずに解放されたらしい。まぁ、これから調べてみないと何とも言えないよね。

 

 「そんなわけで1層攻略の私達の役割はこれで終了だ。後はこれから帰ってくるPTの話を聞いて管理部が発表するらしいな」

 「私達の考えが杞憂ならいいんだけどねぇ…」

 「少なくとも広場に大型モンスターが湧かないだけでもそうなってほしいものだけどな。全体に1層とは思えないモンスターがいるよりかはいくらかマシになるはずだ」

 「まぁ、それはそうなんだけどねぇ…」

 「それで初心者探索者(ルーキー)達が希望を感じて1層へと更に潜るっていうのがダンジョンの筋書きだとしたら嫌だよね」

 「ホンマにねぇ…」

 「ダンジョンの事だからそんな感じでやりかねないって言うのが不安の種ですよね」


 昼食を取りながら今回の感想をそれぞれ口にする。

 やはりおかしな湧きに遭遇した所為か、皆の1番の興味は今後の湧きについてだった。エメラルドゴーレム達と出会わなければこんな風に思う事もなかったんだろうけどねぇ。


 「まぁ、いつまで気にしていても仕方のないことだ。私達は続報を待つとしよう」

 「せやな、せっかくの打ち上げ会なんやし。そうなったらなったで対処するしかないって事やね!」

 

 心配ばかりしていても仕方ないと、意識を切り替える田谷さん。地上に戻って来たんだから今はモンスターも関係ないとばかりに酒を一気に呷った。

 だからと言ってその飲み方は直ぐ酔っぱらっちゃわないか?

 

 「とりあえず今は帰ってきた事をお祝いしないとね。ほらっ! 皆もっと飲んで食べましょう!」

 「ととっ! 入れすぎだ、真理!」

 「そうだね、今は食べて飲もうか」

 「今ここで心配しててもしょうがないしね。石田さんは何食べる?」

 「ではタイラントスネークの味噌漬けステーキを貰いましょうかね。今日のお勧めでしたしまだ食べたことないので」


 鹿田さんは田島さんのコップに追加のワインを注ぎ、田町さんと須田さんはテーブルに置かれている料理へと箸を伸ばす。

 取ってくれるというので、柔らかくなっていい具合に付け込んであるという今日のお勧めでもあるタイラントスネークの味噌漬けをお願いした。

 

 今の自分達に出来るのはこうして今を楽しみ、今後の探索に精を出すことだと、ダンジョン内から地上の生活へと意識を切り替える。ずっと考えていたら身が持たないという事だ。

 気にはなるがそれはそれこれはこれと、無事帰還した打ち上げパーティーを満喫し始めた。


 所詮ダンジョンなんてものは人の考えでどうにかなるものでもないのだと、なるようにしかならんの精神らしい。ダンジョンが完全に攻略されない限り、人はダンジョンに振り回されるのが当たり前という事だ。

 何とも後手後手だなぁ…と思いつつ、自分もまた、今この一時を皆と一緒に楽しむことにした。





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