26話 調査終了 換金は何処でしよう…
「申し訳ありません。そろそろ当施設は閉鎖の時間となりますので、続きはまた後日いらしてください」
コンビニで買った雑誌に目を通していると廊下からいつの間にか職員さんが来ており、ただ1人残っている自分に向けて注意を促してきた。
「ああ…すいません、長居してしまいましたね。
えーっと…調べもんはこれで一通り見終わったか。ならそろそろ出るか」
職員さんが来るのに全く気付かなかった将一はコンビニで買った物の確認ももう大丈夫だろうとバッグに急いで詰め込み始める。
知識として知った以上これらの価値はだいぶ下がっていた為扱いは適当だ。
荷物の詰め込みを終えると忘れ物がないか確かめる。飲み終えたペットボトルはここのゴミ箱に入れていけばいいかと、そのまま机の上へ出しておく。
「うん、忘れもんはないな。パソコンはこのままでいいんですよね?」
「はい。私たちが最後に消しますのでそのままで大丈夫です。ご利用ありがとうございました」
職員さんはそう言って頭を下げ、将一が出ていくのを見届ける。
パソコンルームを出ると廊下を通り受付前まで戻ってきた。受付にいた職員さん(最初と同じ人)に終了ぎりぎりまで残ってしまった事を一言だけ謝ると施設を後にする。
「自分がいなかったらパソコンの電源落とす作業ももっと早くに出来ていただろうしな。最後まで居座わるとなんか悪いことした気分になるなぁ……。
クローズの作業をやってたからわかるけど閉店時間ぎりぎりまでいられると結構面倒くさいんだよな、あれ」
車へ戻って来る最中にやっちまったなぁ…と、小さいことではあるが少しだけ後悔してしまった。
差し込んでいた夕日もいつの間にか消えかけており辺りは夜へと変わり始めていた。道路上の電灯もぽつぽつと付き始めているところが見える。
雑誌で読んだ情報にあったのだがこれらの電力も火の魔石を利用した熱発電で賄っているらしい。電力会社では変換の能力持ち募集とあったけどどういう風に変換しているのだろうか?
状況が落ち着いたら職業見学みたいなものでもあれば行ってみたいと思った。知識として得たものと実際に見るとではまるで違うはずだし、能力を実際どのようにして活かしているか未だよくわからない部分も数多くある。
今日パソコンで調べるだけでは限界があった。それこそ1日中でも詳しく調べていなければ理解できないのが辛い。
この世界で生きていくにあたり能力を活かした仕事をこれからもっと知っていく必要があると強く感じた。
とはいえ、今日知ったことで知識欲が更に刺激されたことも確か。見ること聞くことが初めてなものばかりだ。
まずはダンジョンで探索者だが、その内にいろいろな分野でどのようにして能力を活用しているのかなんかも見てみたいと思った。
「魔石を使っての道具開発なんかも楽しそうなんだよなぁ…。ダンジョンで魔石手に入れたら管理部で売らずに自分でいろいろ実験してみるのもいいかもな」
自分が持っているのは魔法の能力ではあるが、使い方次第ではいろんなことができるだろうと知っているので楽しみが増えた。魔石が手にはいれば独自のマジックアイテムを作ってみたいとも思ってしまう。
見せびらかすようなことはしないが、ダンジョン攻略にでも使ってみるか…と、ひそかに考え始めた。
そんな今後の生活について考えながら歩いているともう車の所に着いてしまった。
担いでいた荷物を助手席に置き、自分は反対側に回って運転席へと乗り込む。そしてエンジンをかけようとした所、ふと気がついて手が止まってしまった。
今からどうしようか……。予定していた銀行はもう開いていないはずなのだ。
「金の支払い方法を何とかしないとなぁ。どっかでそれなりに両替してくれる店あるか…?
スーパーだと嫌がられそうなんだよなぁ…そんなわけでコンビニも無理だな。
んー…ゲーセンなら行けるか? もしくはパチンコ店とか? 近くにあるかはわかんないけど一応探しに行ってみるか」
横に置いていたバッグの中から地図を取り出す。ゲームセンター等が載っているかわからないが闇雲に探すよりはいいだろう。
そして案の定地図には載っておらず、もうどこかで聞いた方が早いと車を発進させる。
ライトは点いてはいるが夜の運転はやはり気を使ってしまう。初めての道ならなおさらね。
一先ず大通りに出て適当に店を探す。
周囲が住宅地の所為なのかなかなかお店が見つからずそれなりに走ることになってしまった。
「お? あそこのコンビニでいいか。ついでにこのあたりのよさげな地図でも買っておくかね」
エンジン音を響かせた車が入ってきたことに店の前で休んでいたドライバーが驚いた顔でこちらを向いた。もうこの視線にも慣れたと言わんばかりに、気にすることなく車を駐車してコンビニの中へと入っていく。
「すみません、少々道をおたずねしたいのですが?」
雑誌コーナーでこの近辺が載っている地図を手にしレジへと向かう。他のお客もおらず暇なのか、のんびりと商品の補充をしている店員さんにゲーセン等が近くにないか聞いてみる。
「そうですねー…うちのコンビニの横の道をまっすぐ行っていただいて、しばらく行くとレンタルビデオ屋があるんで、そこの前の道を右折してしばらく行くとラーメン屋さんがあるんです。そこの斜め向かいにちょっと大きめのゲームセンターが見えると思います。
あー……ただ最近工事をしてたので今開いてるかどうかはちょっとわかりませんねー」
「そうですか…ありがとうございます、とりあえず行ってみることにします。あ、これ会計お願いします」
手にしていた地図を店員さんに渡して会計を済ます。値段的にそこまでしなかったおかげか、500円玉での会計には何とも思っていないようだ。
「あ、それとちょっと聞きたいんですけど…」
「なんでしょう?」
「魔石って在庫置いてあります? 値段をちょっと聞きたいんですが…」
「魔石ですね、少々お待ちください」
そう言って店員さんは奥のスタッフルームに引っ込んだ。一般に出て回ってるとはいえ貴重品なのか見えるところにはおいてないようだった。
戻ってきた店員さんは少し高価そうな箱を抱えてそれを自分の前に出して見せる。
「普通サイズの魔石がこれになりますね。あ、普通サイズので良かったですか?」
「ええ、それで構いません」
普通もそれ以外もよく知らなかったのでとりあえず頷いておく。サイズで値段が決まるのか……と、新たな情報も手に入った。
箱に入っている魔石は基本の火、水、土、風の4種類だった。それぞれピンポン玉より少し小さいかな? というぐらいのサイズで、どうやらこれが普通のサイズらしかった。
「サイズを言っていただければ奥にもう数種類はありますよ。後、ここにある品質は並ですね。高いやつは取り寄せになります。それと珍しい魔石はお昼ごろには売れちゃいましてね…うちに今置いてあるのはそんなところでしょうか?」
「品質かぁ…ちなみに取り寄せだとどのくらいかかるもんなんです? 値段はともかくこちらに到着するまでなんですが…」
「本店の倉庫にあればそこからですのでそう時間はかからないかと。
ただ、倉庫になかったりしますと管理部宛に依頼という形での取り寄せになりますね。ちょっとお時間はかかるかもしれません」
依頼ってこういう風にして入り込むんだなぁ……と、ちょっと気になっていたことが分かって納得した。
高品質な魔石を何に使うのかはまだ知らないが、性能のいいマジックアイテムを作る場合はいつか依頼をするか自分でとって来るかしないといけないなと思った。
「この普通の火の魔石はいくらになりますか?」
「これだと25万ですかね。熱発電の元として各家庭で水の魔石と同じぐらい使われている魔石になりますね。需要がありますよ。
それと予備としていくつか買われるお客様もいらっしゃいますね。手荒に扱わない限りは割れることも少ないですし、買い替えずにずっと使っておられる方もいると聞きます」
「へー。水はいくらですか?」
今は手持ちがアレなので、まずは4種の値段だけを聞こうと思う。うん十万を500円玉で出すのは流石にしたくない……。
「こちらの水ですと30万になります。
皆さん貯水タンクに入れて満杯になったら取り出してってされてますよね。最近だとウォーターサーバーを設置してそこに入れてるって話ですよ」
「ふむふむ…土はこれいくらです?」
「土は40万ですねぇ。車のエネルギーとして1家に1つはありますよね。それとあまり各家庭ではしませんが、ゴーレムを門番の代わりにしたりですとか?
門番用のゴーレムは万が一だと壊れますしね。基本は乗り物に使ってる方が多いでしょうか。農作業してる農家の人達はトラクターなんかを動かすのにも使ったりしてますし」
そういえば車に使えるんなら重機とかもありだし、電車や新幹線だってこれが使えるはずと思った。乗り物系の動力として土の魔石は優秀すぎるなと感心する。
飛行機なんかは万が一があるとあれだし、メインとは別の動力として使われてはいるんだろうなぁと思う。
「土の魔石はいろんなところで大活躍してますねぇ。最後の風はどうです?」
「風ですが……一般家庭ではあまり利用されてないんですよねぇ。この魔石だけ他と比べるといつも残っちゃうんですよ。どちらかといえば業者さん向けなんで、仕方ないと言えばそうなのかもしれませんけどね。
値段の方は20万になります。個人的に使用する人がいるくらいで、一般向けとは言いがたいのが売る側としては困りどころでして……」
他の3種に比べるとどうにも使い道がはっきりしない風の魔石。業者向けという事で需要はあるんだろうけど、一般向けのコンビニで置いておくにはどうにも扱いが他とは違うようだ。
風で何ができるのかを少し想像してみる。浮かすか吹き飛ばすかといったことは思いつくが、これで活用できるのは何だろうな? と。ダンジョン街で聞くべきことかと思い想像はいったんやめにした。
「どれもそれなりの値段がしますね。今まで魔石を使った生活をしていなかったのでどれも気になる所です」
特に何も考えずそう言葉にすると、店員さんは驚いた顔を見せた。やはり今の時代、魔石利用をしたことない人などいないのだろうか?
やっぱり珍しいのかな……と思い店員さんを見ていると、驚いていたかと思えば今度は同情するような表情を見せる。
流石にそんな表情をされるほどの事だったんだろうか?
「もしかして…ご家族の方にモンスター拒絶症の方がおられたりしますか? ならば今まで魔石を利用できなかったのも仕方ないのかもしれませんね…」
「えっと…モンスター拒絶症ですか? あまり詳しく知らないんですがどういった症状で?」
なんかの病名だろうか? 聞いたこともないので逆に聞き返すことになってしまった。
「モンスターの被害に遭った方に発症すると聞きますね。モンスターの素材や魔石を利用するのも嫌だという方がおられるそうですけど……お客様の近くにそういう方がおられたのでは? 魔石の利用が初めてと言われましたし」
「そういった病気…と言ってしまうとあれかもしれませんけど、そういう人もいるんですね…。
私の場合は田舎過ぎて魔石を利用する生活空間ではなかったんですよ。知ってはいましたけど、使うのはこれからになりそうなんです。なので値段だけまずはお聞きしたくて。買わないのにすみません…」
「なるほど…そういう事ですか。あまりお気になさらずとも大丈夫ですよ。置いてある魔石の状態を知りたいから見せてほしいというお客様は結構いらっしゃいますので」
店員さんは、買わないが物は見たい……というお客に慣れているのか普通の反応だった。
そういう品定めするような客がコンビニに来るのかと、自分だったら大きい店に行ってした方がいいんじゃないかと思ってしまった。
本当に気にしていないのか、見ていた魔石を奥に仕舞うと買った地図を袋に入れてこちらに渡してきた。
「お買い上げありがとうございました。もし魔石がご入用になった際はまた気軽にお声掛けくださいませ」
「ええ。その内買うかもしれません。なんかすみませんね、道をお聞きしたり魔石を見せてもらうのに時間取らせてしまって」
「いえいえ、幸い……と言ったらダメなんでしょうけど、お客さんも今はいらっしゃいませんしね、構いませんよ」
確かに店としてダメかもしれないが、いろいろ聞けて助かったと軽くお辞儀をして店を出た。ちょうど駐車場に車が数台入って来てタイミングもよかったかなと思った。
コンビニを出ると車に乗り込んでエンジンをかけ、先ほど教えてもらったコンビニの横の道に車を進ませた。
つい最近まで工事をしており営業をしてるかはわからないという事だが行くだけ行くかと、夜の道に注意しつつ運転をする。
「ちゃんとやっててくれるといいんだがなぁ…。
換金出来たらどっかビジネスホテルでも探してそこに泊まるか、それか漫画喫茶にオールで入ってから、家に転移してみるのでもいいかもな」
これも全ては営業してくれていればの話であり、していなければ会計を500円玉で支払うことになる。
とにかく無事に営業していることを祈りつつ教えられた道に沿って走り続けた。




