258話 ダンジョン1層(討伐班) 挟撃 前編
「っ! 全員戦闘準備ッ! いつでも出られるようにしておけ!」
目的地の広場までもう少しという所で、広場方面から音が響いてきていた。明らかに戦闘音だ。
「戦闘中か! どうやら今回は手遅れってわけじゃないみてぇだなっ!」
「出遅れはしたようだがな。リーダー、どう動く?」
槍一さんが武器を手にしつつ、やる気が上がってきたとばかりに気合いを入れるよう声に出した。皆もどこか沈んでいた顔だったが、戦闘音が聞こえるな否ややる気が表情に出てきた。空振りでなかったことが嬉しいようだ。
そんな逸る気持ちの槍一さんにツッコミを入れつつ、田宮さんがこの後の動きを倉田さんに聞いた。
「紀田と田宮は音の発生源に向かって様子を確認して来い。トランシーバーに応答するならいいが無い場合はこちらの判断で横槍を入れる。
前田、探知しながらモンスターに気取られない位置まで接敵するぞ。一定の距離を保てるよう指示を出してくれ。
他の者は指示があるまでモンスターに近づきつつ様子をうかがう。紀田達から連絡が入り次第戦闘開始だ」
『了解』
そう言うと紀田さんと田宮さんが2人して戦闘をしているであろう所まで飛んで行った。
挟撃するにしても向こうの状態を確認してからでないと動くに動けないらしい。作戦のタイミング待ち中に突っ込んで向こうの作戦を台無しにしてしまう事を避けるためだそうだ。救援要請でもあればなりふり構わずらしいけどね。
「探知が終わったわ。どうやらモンスターは反対側に向かって移動中よ。移動している足の遅さから見てこっち側に居るのはゴーレムね」
「モンスターの後ろを取っているわけだな。このまま広場に行った場合モンスターが集まっている所に出ることになっていたわけか…向こう側で引き寄せてくれて助かったな。今広場に出て問題は?」
「大丈夫だと思うわ。最後尾のゴーレムともそれなりに距離はあるし」
「ならば気づかれない位置まで詰めるとしよう。皆、移動を開始するぞ」
『了解』
戦闘準備を整えると、皆して広場へと出ていく。挟撃か…ゴーレムは今回使えるかな?
一方、こちらは先に様子の確認に向かった紀田と田宮。モンスターを避けて、大回りで戦闘音のする所までやって来ていた。
「あそこか…なかなかに数が多いか?」
「あれタイラントスネーク2体居ないかしら? かなり面倒そうね…加勢するなら早くした方が良いわね」
空中から戦闘状況を確認したところ、探索者が築いた陣地に2体のタイラントスネークと思わしき姿が見受けられた。他のモンスターだとミノタウロス1体に小型モンスターが多数といった所だろう。
「探索者側は3PT程だな20はいるか」
「とはいえ数で見たらモンスター側の方は倍は居るわね。さっさとやることを済ませましょう」
「そうしよう。紀田さんは周囲の探知を頼む。話は俺がしよう」
「手早く頼むわ」
無言で1度頷くと、持ってきていたトランシーバーに向かって話しかけた。
「こちら討伐班の田宮だ。広場での戦闘音を聞きつけやって来た。13名いるが今から手出しをしてもかまわないか? 返答を求む」
≪…こちら討伐班の吉田ですっ! 加勢を感謝します! 現在どの辺りですかっ!≫
トランシーバーに語り掛けると少ししてから返答が返ってきた。戦闘しているからか少し大声でしゃべっているようだった。
「現在そちらの反対側にいるぞ。様子の確認にまずはこうしてきている。2名だ」
≪最後尾のモンスターから狩ってもらえますかっ! それと1名はタイラントスネークの気を逸らす役割をお願いしたいそうです!」
「最後尾のモンスターからだな、了解した。おそらくゴーレムだろう、そっちを狩ったら急ぎでそちらと合流するようPTに伝える。1人こちらの援護に残るというのも了解した」
≪そちらの無事を祈るとのことです!≫
「お互いにな、それでは切るぞ」
≪はいっ!≫
そう言うとトランシーバーは沈黙した。向こうも忙しいのだろう。
「と、いうわけだ。紀田さんはリーダー達と合流して今の事を伝えてほしい。俺はあちらの援護に回る」
「了解よ、じゃあ後で」
「ああ、なるべく早く頼むぞ」
「そのつもりよ。伝えたら私も先にそっちと合流すると思うわ」
「米田もそうなるだろうな。とにかく頼んだ」
そう言って田宮はタイラントスネークの方へと飛んで行った。こちらも今の話を伝える為に、モンスターへと近づいているリーダー達を探知で探しつつこの場を飛び去る。
モンスターもずっとあちらを気にしていたのか、結局2人の所に向かってくるものは1体も居なかった。
「リーダー、向こうからの伝言よ。後方のモンスター狩りつつそのまま前進、向こうで合流を…とのことよ」
前田さんの指示に従いつつゴーレムと一定の距離を保って進んでいた所に紀田さんが降りてきた。どうやら向こうと無事連絡が取れたらしい。
「仕掛けてもいいわけだな? では紀田は一足先に向こうの援護に入ってくれ。俺達もこちらを片付けたら急いで向かうとする」
「了解したわ。見えた限りだとタイラントスネーク2体にミノタウロス1体に小型モンスター多数よ。あっちの戦力は3PT程ね」
「タイラントスネーク2体か…それは面倒そうだな。なるべくこちらも急いで向かおう。米田、お前も一足先に向こうへと行ってくれ」
「了解しました」
紀田さんと共に足の速い米田さんが先に向かう事となった。まぁ、こっちに残ってるのは足の遅いゴーレムだし、移動速度が速い2人は先に行くべきだろうね。
「では向こうで会いましょう。向こうからの伝言でこちらの無事を祈るとのことよ」
「むしろこちらのセリフだろうがな…ゴーレムを倒して直ぐに着くと言っておいてくれ」
「了解したわ」
そう言うと紀田さんは再び飛行魔法を使って飛んで行った。やっぱ空をいけると早いな…。
「聞いての通りだ、最後尾にいるゴーレムを手早く倒して向こうと合流するぞ」
『了解!』
「将一君、今回は指示を出すまで大型ゴーレムは出さないように。必要とあれば受け取ったこの1体を出すからそれを見て残りを出してくれ。通常サイズのゴーレムは最後尾のゴーレムに限り自由に出して構わない」
「わかりました!」
「よし…それでは突撃するぞ! 各自突っ走れっ!」
倉田さんのその一言を合図に、一定の距離を保っていた位置調整を崩した。各自が最後尾を移動していたゴーレム目掛けて駆け出す。
とりあえず最初が肝心かと、皆が走る先の地面を均して走りやすいように整えた。ともかくゴーレムの早期撃破が重要だろう。
急に走りやすくなったことに驚いた皆だが、これに覚えがある田淵さんと宮田さんが自分の支援だと口にすると皆も納得したようだ。まぁ、土魔法と言えば倉田さんか自分のどちらかだもんな。
走りやすくなった地面を駆けてゴーレムに接近する。どうやら今回はルビーゴーレムのような希少種は居ないようだ。
最後尾を移動していたゴーレム達もこちらの走っている音に反応したのか自分達の方へと振り返った。どうやら向こうよりも近いこちらを優先することにしたらしい。
全部で10体のゴーレムがこちら目掛けて遠距離攻撃を仕掛けてきた。
「壁を張るっ! 気にせず壁まで走れっ!」
倉田さんが走りながらゴーレムと自分達の間に壁を作り出す。相手の姿が見えなくなったがこれで向こうの遠距離攻撃は全て防げたようだ。
倉田さんの言葉通り皆は壁まで速度を落とさずに走り込んだ。今は遠距離攻撃も止み、ゴーレムがこちらに近づいてくる足音が壁の向こう側から聞こえて来る。
「ゴーレム出しますっ!」
「頼むっ!
米田! ゴーレムの展開と同時に駆け抜けろっ!」
「了解ですっ!」
ここまでくれば後はお互いにぶつかり合う事になるだろうと、こちらもゴーレムを出すことを全員に伝える。それに合わせる形で米田さんを一足先に向こうへと行かせるようだ。向こうのゴーレムに攻撃させないよう米田さんの援護に回らんとな。
駒を取り出すと次々にゴーレムを出していく。向こうより数は少ないが、人の数を合わせればこちらの方に分があるだろう。
「今だっ! 各自ゴーレムを撃破しろっ! 米田は振り返らず先に行けっ!」
『了解ッ!』
8体のゴーレムが向こうのゴーレムと対峙する陰に隠れてこちらも前に出る。
米田さんと笹田さんの能力で2体は楽に撃破できるだろう。宮田さんに核を鑑定してもらえばもっと早く終わらせられそうだ。
そのゴーレムとの対峙に合わせて米田さんが相手のゴーレムの横を駆け抜けていく。まるで飛び出していった銃弾だな、あれ…。
その駆け抜けていった米田さんを狙おうと、数体のゴーレムがこちらに背を向けて遠距離攻撃の態勢を取った。
「攻撃をさせるなっ!」
「はぁっ!」
「セイッ!」
「オオッ!」
「ふっ!」
「ぶっ飛べっ!」
怪力の能力組や、笹田さんと米田さんの一撃組、そこに交じって自分も攻撃を加えた。
寺にあるような大鐘を突くぶっとい棒のようなものを土魔法で作ると、それを背を向けているゴーレムにぶち当てる。結構な威力で撃ち出したからか、背中からまともに食らったゴーレムは前方へと吹っ飛んで行った…。威力強すぎたか?
それぞれの攻撃で頭や腕、体を破壊されたゴーレムが続出した。米田さんを狙わなかったゴーレムは他の人達が自分のゴーレムと協力して押さえこんでいる。一瞬にして形勢がだいぶ有利になったな。
「核を発見したわっ! 2人共、どんどん機能停止させてっちゃって!」
「了解ッ!」
「任せろっ!」
ゴーレムの核を探していた宮田さんがその位置を鑑定し終えたようだ。数も減っているし、ゴーレム達で取り押さえてから核に止めを差して回ればすぐに決着はつくだろう。
そしてその想像通り、核の在りかを宮田さんが2人に指示しつつそれを破壊して回った。向こうのゴーレムの数が減る度こちらのゴーレムが押さえに回る数が増えるので、そう難しいものではなかった。
しばらくして10体居たゴーレムはその全てが機能を停止し、地面へと倒れ込んでいた。
「よし、先を急ぐぞっ! 全員駆け足ッ!」
『了解ッ!』
ゴーレムを撃破した倉田さん達は先に向かった紀田さん達と合流する為、地面に倒れたゴーレムをその場に捨て置いて走りだした。回収は後でゆっくりできるだろうしな。
紀田さんの話しだと残りはタイラントスネーク2体にミノタウロス1体、それと小型モンスターが多数という事だ。万が一を除き、大型ゴーレム抜きでこれらと対峙する場合いったいどういった戦闘になるのかと、少し不安に思いながらも必死に走った。
相変わらず進行方向からは戦闘音が響いているのだが向こうはどんな感じなのだろうか…。




