250話 ダンジョン1層(討伐班) 広場到着 今度は自分達が遅れたようだ
作りたてを直ぐに食べたからなのかダンジョン内という環境がそう思わせたのかはわからないが、タイラントスネークのから揚げはとても美味しかった。
唐揚げ粉に混ぜた山椒なんかもいいアクセントを出しており、量があったこともあってかとても満足した昼食だった。
「ふぅ…たまには甘い飲み物も良い物だな」
「カシスの甘酸っぱさと炭酸の爽快感は良いですよねぇ。俺も久しぶりに飲みましたけど美味しいですよ」
「口の中がスッキリするわね」
「ほんとほんと」
食後に全員へと配ったカシスソーダもいい評判だ。戦闘で激しく動くから炭酸系を持ち込む人もそう違ないだろう。ダンジョンだとこういった嗜好飲料も好まれるようだ。
「さて…腹も膨れたし気分もすっきりしたな。もうしばらくしたら出発再開するぞ。しっかり休んでおけよ」
『りょうかーい』
それぞれが好き勝手に食休みを取っていた。そう言う自分もトイレを済ませて出発までお茶を飲みながらマッタリしていた。それなりに急ぎではあるが休憩も大事だ。なにせ討伐班は戦闘が主だからね。
「まったりしているところ悪いのだが私にもお茶を貰えるか? それとフライヤーは端に避けておいたぞ」
「今入れますね。
どうせスライムが吸収するでしょうし、邪魔にならないなら動かさなくてもよかったんじゃないですか? まぁ、お疲れ様です」
笹田さんがそう言いながら自分の隣にやって来た。お茶を用意すると美味しそうにそれを飲み始める。
「ふぅ…やはり飲み物系は石田さんが一つ上をいくな。私もそこは見習うべきか」
「今まで飲んだことがあるかどうかってだけですよ。イメージできれば笹田さんもすぐ出来るんじゃないですか?」
「その為には良い物を飲む必要があるな。私はどちらかと言うと質より量派だったのでな。ありきたりなものならば出せるのだがねぇ…」
お茶1つ取ってみても量産された既製品と淹れたてのものではだいぶ味が違う。笹田さんは軽くため息を吐きながらお茶を口にしていた。
「嗜好飲料なんてそれこそ山のようにあるしな。笹田にはぜひとも良い物を出してもらいたいものだ」
「初めて飲んだがカシスソーダってのもなかなかうめぇもんだったしな。ぜひ頼むわ」
「気楽に言ってくれるものだ…良い物を探す旅なんぞしだしたらダンジョン探索が進まんというのに。それに田宮、どちらかと言えばお前の方がこういうの得意そうじゃないか?」
休んでいる所に田宮さんと槍一さんもやって来た。適当に駄弁りに来たらしい。
「なに…飲み物に関しては笹田の担当だと以前決めたからな。私が用意するのは緊急の場合だけだとも」
「むぅ…コピーでいろいろ忙しいだろうからとそんなこと決めなければよかったか…ならば私が出した飲み物をコピーするぐらいはしてもらわんとな。そっちはお前の担当であろう?」
「む…自分で全部出すのは回避しようという魂胆か。仕方あるまい…半分は受けおうとしよう」
「どっちでも構わんけどよぉ…そのためには笹田が良いもん出せるようにならないとだぜ? そこんとこ将一からレクチャーしてもらえや」
「試飲をするというのでしたらお手伝いしますよ。夏ですしどっかでBBQでも開いてそこでやるってのもいいですねぇ…」
「お、それいいな! そうなると食いもんの方も用意しなきゃだな…あの業務用スーパーで買い込むか?」
「槍一が以前話していた店か? 確かに量を揃えるのなら良さそうではあるか…」
「飲み物を出す練習にBBQか…忙しい日になりそうだな…」
乗り気な田宮さんと槍一さんと違い、今後PTの飲み物事情が向上するかどうかという機会とあって真剣に考えこむ笹田さん。まぁ、1回でダメなら何回かすればいいだけだしあまり気にせずともいいと思うんだけどね。
地上に帰って落ち着いたらいつかしようと約束する4人。ダンジョンの異変攻略に忙しいだろうけど落ち着いて開催できる日はいつになるかねぇ…?
しばらくして倉田さんから出発するという声を聞き用意を整える。
広場まではもう少しかかるが、やっぱりそこもモンスターが溜まっているのだろうかと考える。流石に広場に近い所だとそんなにいないと思うんだけどなぁ…前回もそんな感じだったし。
出来るなら広場までは楽に行けるといいなぁ…と思いつつ休憩場所を後にする。一番いいのはすでに広場が攻略されてることなのだが果たしてどうなのだろうか…?
≪こち…護衛…田…だ。討伐班…ないか?≫
「っ! こちら討伐班の倉田だ。2PT居るぞ!」
広場までもう少しという所でトランシーバーに反応があった。どうやら近くの他の探索者が居るようだ。
≪ああ…討伐班…ましか。…こちら…の田…だ。運搬班…一緒…そちら…ていたぞ≫
「もうすぐ広場に出る。今は通路だな?」
≪出口に…をやる。目印…探知で…見つけ…≫
「広場に着き次第向かう。もう少し待っていてくれ」
≪了解…お早い到…期待す…≫
そう言うとトランシーバーから反応が消えた。早めに合流しないとな。
「リーダー、反応があったわ。左3つ先の通路よ」
探知を済ませた紀田さんがそう報告をする。今度は自分達が遅れてきた形だな。
「場所もわかった事だし少しスピードを上げるぞ。紀田は先行偵察を頼む。モンスターの反応はどうだ?」
「こっちでも探ってみたけど近くにはなしよ。合流するまでは大丈夫なんじゃないかしら?」
前田さんがモンスターは大丈夫だと報告する。通路に引き連れていくわけにもいかないししっかり調べとかないとね。
倉田さんに言われて紀田さんが先行偵察を開始した。それに合わせて自分達も移動速度を少し上げる。
討伐班を待ってたって事は護衛班と運搬班だよな。既に一緒みたいだし、自分達待ちってのはなんか気まずいな。待たせてしまった感が強いな…。
皆もそう感じているのか若干移動スピードが速い気がする。なんにしろ合流は早く済ましてしまわないと。
広場に出るとその足はさらに上がり駆け足程度になった。これ以上待たせるのも忍びないって事だろう。どれくらい待ってたのかわからないし急ぐとしようか。
「お早い到着ですね、倉田さん。私が護衛班リーダーです」
「待たせてすまんな、田上。現状討伐班のリーダーは俺だ」
「まぁ、合流できたし良しとしようじゃないか。運搬班のまとめ役は僕だ。顔見知りが来てくれて少し安心したよ」
各班のリーダーが集まって話を開始した。どうやらあの3人は顔見知りらしいな。
「槍一さんはあの2人知ってますか?」
「ああ、どっちも中堅クラスだな。頻繁に会うわけじゃねぇが何度か森林エリアで見かけたことはあんぞ」
「運搬班のリーダーをしているのは桐田という。初心者探索者の指導もかねて運搬班に交じっているという所だな」
横から笹田さんがそう付け加えてきた。槍一さんが今から言おうとしてたんだぜ? と笹田さんに野次を言う。言われた笹田さんは気にするそぶりもない。まぁまぁ、槍一さん落ち着いて…。
「たくっ…。見たところPTの半分を引き連れてんな。その残りが運搬を請け負った1層から5層をメインにしてた探索者って所か…。運搬班は2PTっぽいな」
「護衛班も2PTだな。田上の所の6人と源田のPTの8人か、14人もいれば十分だな」
「通路での戦闘になるでしょうしね。ここからでも十分護衛できる人数かな」
「あのメンバーなら問題ないでしょう」
「だねぇ」
皆が向こうのメンバーを見てそう口にした。顔見知りって事ならある程度の実力は知ってるだろうし問題はないらしい。まぁ、1層だし中堅クラスならそうだろうね。
「おい、石田! お前なんでそんなところに居るんだ!」
「ん? え…? 田島さん?」
突然名前を呼ばれたのでそちらに注意を向ける。すると田上さんのPTだと言われている中に知り合いの顔を見つけた。田島さんのPTだったのか!
「なんだ? 将一、田島と知り合いだったのか?」
「ええ、こっちに来てから知り合いになりまして。結構アドバイスくれたりもしましたので」
「へー」
槍一さんにそう聞かれたので素直に知り合いだと答えた。仲のいい探索者の内の1人じゃないかな。
そんなことを話していると向こうから田島さんがやって来た。やはりPTメンバーらしいね。
「石田、なぜお前が討伐班にいるんだ? どういった経緯でそうなった?」
「お久しぶりです、田島さん。実はこちらの杉田さんに一緒に行かないかと誘われてまして。
一応目的としてた2層に最近到達したこともあって、目的達成したのなら一緒に行こうぜ…と。一応前から誘われてはいたんですけど、今回PTの皆さんからも誘われる機会がありまして」
「そういうこった。久しぶりだな、田島」
「むぅ…先を越されたか…。久しぶりだな、杉田」
一応理由は納得したのか、しぶしぶと受け入れた田島さん。
そういえば自分達とも行こうって話してましたもんね。まぁ、PT全員で誘われたから気にせず槍一さんのPTに入れたってのが大きいかな?
「槍一さんとはこのダンジョン街に来てから何かとお世話になりまして。それと自分の特殊性? も知っているので話をする機会がそれなりにあるんですよ。PTの皆さんも知っていますしね」
その自分の言葉に槍一さんや皆に対しチラリと目を向ける田島さん。それを言うという事は田島さんも自分のことを知ってるうちの1人なのかと理解し、皆が「へー」と声を漏らした。
「お前の事について知っているわけか…石田、意外と口が軽いのか?」
「いえ、私は槍一さんにしか話してないんですけど、いつの間にかPTの皆も知っていまして…」
「あっ! おい!」
何やら急に慌てる槍一さん。いったいどうしたのかとそちらに目を向けると…。
「お前はなんだってそう口が軽いんだ杉田っ!」
「ちょっ! 待てっ!? 許しはもう…ぐえっ…」
田島さんが槍一さんの首を掴んで前後に揺さぶっていた。しかも結構激しく…止めないとまずいか。
皆は止める気配がないんだけど…なんで?
「あー…田島さん? 一応もう許しはしたんで…」
「いや、こいつは昔っから口が軽くなる時があるんだ。今回もそうなんじゃないのか?」
「あー…まぁ、槍一が話題に出したからってのは間違ってないわねぇ…」
「やっぱりじゃないか!」
「ちょ…落ちつけ…」
更に首をがくがくとするスピードが上がっていた。
田島さんって怪力の能力あったよね? 止めないとそろっとまずいのでは?
そんなことを思っていると後ろから声がかかった。
「祥子…あなた何をやってるんです?」
「止めてくれるなリーダー…少し仕置きをしてやらんとこいつは治らんのだ」
「他の皆の前ですよ。それぐらいにしておいてあげたらどうです?」
「むぅ…」
田上さんの言葉を聞いてようやく槍一さんの首から手を放す田島さん。しかし昔っからって…田島さんと槍一さんいつからの知り合いなんだ?
手が離れ、むせている槍一さんを横目にそんなことを思った。なんにせよ収まってよかったな…。
「うちのメンバーが何やら面倒をかけましたね」
そう言って軽くお辞儀をする田上さん
「まぁ、槍一の自業自得だし? 私達は何回か見てるしねぇ…」
「石田さんが何も言いませんでしたし? 代わりに田島さんがお仕置きしたと思えばいいだけかと」
「ですね」
「それほど気にすることもないだろうしな」
「お前等…人ごとだと思って…」
「実際被害が俺達にあるわけではないからな。お前にはいい薬だろう」
田上さんにそう言葉にする紀田さん達。槍一さんが恨めしそうな顔をしているが田宮さんに切って捨てられている。これもよくある光景って奴なのかねぇ?
「ところで槍一さんと田島さんって昔からの知り合いで?」
「ああ…専門学校が一緒でクラスも一緒といういわゆる腐れ縁って奴だな。故に昔のこいつの事も知っているのさ」
「なるほど…」
「嬉しかねぇぜ…ったくよぉ…」
理由を聞いて納得できた。昔からってそういう事だったのね。
「話はそれで済んだか? こっちの話も済んだぞ。終わったのなら作戦会議を始めるとしよう」
「まぁ、僕等は討伐班がやり終えるまで待機するしかないんだけどねぇ…」
田上さんが来たという事は倉田さん達との話も終わったという事だ。少しハプニングはあったけどそれほど気にすることでもないようだし作戦会議を開くとしようか。
田島さんが後で少し話があると耳打し、いったん自分のメンバーの元へと戻っていった。さっきの話もあるしなんとなく想像は出来るけどねぇ…。




