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243話 ダンジョン1層(討伐班) タグ取り付け




 場所は戻ってダンジョン内部。転移の順番が来た将一達は転送陣で1層へと向かった。

 事前の打ち合わせ通り即座に周囲の確認に動く倉田さん達。自分もそれに倣って土魔法で周辺の状況を探る。4回目ともなればこの作業もそれなりに慣れてきた感じがする。


 「紀田、どうだ?」

 「大丈夫みたいね。周囲にモンスターは見受けられずよ、警戒を解いていいわ」

 「足音や振動もないですね…。少なくとも地面にいるやつは近くに居なさそうですよ」

 自分で調べた結果をとりあえず口にする。探知能力者の紀田さんがそう言うならこの辺りにモンスターは0なんだろう。


 「へぇ、将一そんなやり方で調べてんのか?」

 「ええ、通常の探知能力がありませんからね。自分に出来る能力でどうやったら把握できるかなぁ…って考えた結果、これになりました」

 「水辺で私が似たようなことをしていただろう? それの地上版といった所だな。

 問題は空を飛ぶ相手は感知できんといった所か?」

 「ですね。まぁ、探知系の能力持ちが居るのであればやらなくていいでしょうけど」

 どうやら笹田さんはなにをやってるか理解しているらしい。ソナーのような探知をやったことがあるのならわかるか。


 「将一君はソロで潜ったことがあるのだったな。自分の能力で何が出来るかを把握するのは大事なことだ。今は慎重すぎるくらいでちょうどいいだろう」

 倉田さんがそういったことは今後も続けるといいと口にした。今はともかくダンジョンに慣れる時期という事だ。


 「しかし属性魔法は応用が利いていいですね。私も何か欲しかったです」

 「4つも持ってるのに属性魔法まで欲しいんですか? 朝田さんの直感の能力も大概インチキだと思うのですが…」

 「全くな…。コピーして自分で体感してみたが、アレは何というか…不思議な気分だな? 

 感覚が研ぎ澄まされるといった物とも違う感じだ。予測と言うのはすごいものだよ」

 「お前が一番すげぇことやってんだよ…」

 「ふっ…それほどでもない」

 「うぜぇ…」

 槍一さんが田宮さんをはたきたそうに見ている。最初会った時の事を見るにこういったやり取りは日常的にやってそうだな。


 「はいはいっ、警戒解除していいとは言ったけど無駄口叩いてるんじゃないわよあんた達。

 リーダー、たぶん現在地はここね」

 

 紀田さんがそう言いながら皆の注目を集める。今の間にも探知して地形から現在地を割り出していたらしい。これは真似できんよなぁ…似たような魔法でも使わんと無理だわ。

 紀田さんが全員に地図を見ろと促してきたので集まって地図を眺めた。地形把握するのも早いなぁ…。


 「おそらく私達が居るのはここよ。比較的近くに広場があるわね。

 リーダー、この広場は攻略済みかしら?」

 「いや、そこはまだだな。未攻略の広場近くに転移出来たのはありがたい…まずはここを目指すとしよう」

 自分の地図を見ながらそう口にする倉田さん。討伐班としては広場の近くで助かったって事だな。歩き回るのも時間食うし。


 「目的地了解! っと。

 あー…あー…こちら討伐班だ! 誰か聞こえてる奴居るかぁ?」


 槍一さんはそう言ってトランシーバーに向けて声を投げかける。誰か応答する人いるだろうか?

 しばらく声をかけて応答を待ったが、トランシーバーから返って来る声は一切なかった。PTの誰のトランシーバーも鳴らない、誰にも聞こえてないみたいだな…。


 「探知範囲を広げてみたけど他の探索者はいなさそうね。これは合流待ちかしら?」

 「そうだな、とりあえず広場まで行くとしよう。待つのはそこでいい」

 「了解です。さて…どのくらい待機になるでしょうか…」

 「最低1PTは待ちたい所ですね。広場にどんなモンスターがいるかはわかりませんし、せめて2PTならまだ楽なのですが…」

 「この合流が面倒なんだよなぁ、洞窟エリアはよぉ…。前回も思ったが、合流に時間かかりすぎだぜ。森林エリアより格段にひでぇぞ?」

 「あちらは目印を木の上まで伸ばせばどこにいるかが分かりやすいのでなぁ…。同じ方法が取れぬのよな、洞窟エリアは」

 「森林エリアを経験すると洞窟エリアの不便さが如実にわかるな。全く…森林エリアが探索の主でありがたい限りだ…。マジックアイテム探しを考えると何とも言えんがね」

 「やっぱり洞窟エリアって大変ですよねぇ…。まだここしか経験してませんけど自分も早く森林エリアまでは行きたいものです…」


 攻略をするには人数を集めるのが効率がいい。しかし洞窟エリアだと構造的にもその人数集めがかなり大変なのだ。目的地と決めた場所に到達するのですら一苦労してしまう。地下という場所は制限が厳しいな…。


 倉田さん達は近場にある広場を目的地と決めて歩き出した。

 その際に、支給された光石用のタグをわかりやすそうな光石へと取り付けた。これで次にここを通った探索者は現在地がどこかを見つけやすくなるだろう。残ってくれるといいのだけどね…。

 

 そうしてしばらく歩くと曲り角にぶつかった。広場まではもう少しって所か?

 

 「リーダー、これを見てちょうだい」

 「どうした?」

 先頭で探知をかけていた紀田さんが何かを見つけたらしく、後ろを歩いていた倉田さんを呼びかけた。なんだろ?


 「これ前回の討伐部隊の誰かが着けた光石のタグよ。やはり現在地は間違いないみたいね」

 「ふむ、書き間違いでなければ確かにそうだろうな。地形とこの場所は一致するか?」

 「ちょっと待って」

 そう言って紀田さんは探知をかける。少し無言で調べていると軽く首を縦に振った。


 「地形とも一致してるわ。どうやら間違いないみたい」

 「残っているか気がかりだったが、こうして実物を見ると信じざるを得んな。石自体にタグを取り付けるのは成功という事か…」

 「これで現在地把握がやりやすくなるかしらね」

 「へぇ~、便利なものですねぇ…。私達が洞窟エリアを探索していた時に誰かが考えだしてくれていれば今頃もっとタグを取り付けられていたでしょうに…」

 「あの時は位置把握も大変でしたね…。しかしこれから1層を探索する初心者探索者(ルーキー)にはありがたい物でしょう」


 曲がり角の真正面にある光石へと取り付けられたタグを見て皆がその有用性を口にする。

 ふふっ…発案者としては見ていて気持ちの良い物だな。


 取り付けられてから1日は経っているが、未だに残っているタグを見ると提案してよかったと思わずにはいられなかった。これから洞窟エリアを潜る探索者にはこれが持たされること間違いなしだろう。

 今は試しで1層だけだが、これが2層3層と今後もタグが取り付けられていくはずだ。自分がその階層に行った時にそれを見つけたとしたら現在地がわかるし、タグが普及しているというのも知ることが出来る。なんかうれしい気分になるよな。


 「よし、ならば俺達も曲がり角で1つずつ光石に取り付けていくとしよう。分かれ道になっている所は多い、時間は少しかかるが周りには他に誰も居ないしな。俺達と同じことをしながら進んでいるとすれば合流とて遅れるだろう。合流するまでに時間はあるはずだからタグを仕掛けていくぞ」

 『了解』

 

 そうしてこの場を離れて広場に向け歩き出した。

 タグは1人に付き20個支給されていた。自分達は8人だし計160個のタグがある。壊れたり外れたりを考えるとこまめに設置していっても問題はないだろう。

 それに討伐班だけでなく運搬班や護衛班も同様の物を持っているはずだし、これからは結構な頻度で見かけることが出来るんじゃないだろうか?


 倉田さんの指示で曲がり角に来るたび光石へとタグを取り付ける。

 地図全体は細かく分けられており、左上なら1-1という風にして区切られている。対応する数字を調べてタグに〇-〇と書き込んでいく作業を広場への道すがら行う。

 3回目の討伐ではどれぐらいのタグがあるのかと想像しつつ、次の曲がり角に向かった。





 「紀田、どんな感じだ?」

 「こっち側にはいないわ。ちょうど反対側を巡回してる所よ」

 

 広場に到着した倉田さん達は紀田さんを先行偵察へと出した。飛行魔法で空を飛びつつ探知で上空から探るという慣れたやり方だそうな。

 探知と風魔法の相性はいいだろうね。さながら哨戒機みたいなものだろうからさ。

 そしてたった今紀田さんが偵察を終えて戻ってきた。その結果を倉田さんへと方向し始める。


 「モンスターの構成はラット系複数に通路に入れそうなゴーレムが5体。大型がタイラントスネーク1体にミノタウロス2体って所ね。

 バット系が居なかったから結構近寄って観察できたわ。空を飛ばない構成だしまだやりやすいかしら?」

 「気づかれてはいないな? ご苦労だった、休憩してくれ」

 「紀田さん、お茶どうぞ」

 「ありがとう、将一君」

 戻ってきた紀田さんにお茶を渡す。偵察に出る前の休憩でお茶を出したこともあって、その時聞いた好みのレモンティーを渡す。ミルクを少しがベストなんだとか。


 「ふぅ…水魔法使ってほんと便利よねぇ…いつでもティータイムが出来ちゃうんだから」

 「飲み水に困らんのは探索者としてありがたい限りだな。しかも水に限らないというのだから尚更だ」

 「ここからは皆さん万全の態勢で行ってもらわないといけませんからね。サポートできることはさせてください」

 そう言って倉田さんにもお茶を渡す。渋めの緑茶が好みらしい。見た目に合ってるな…。


 「飲み物は完全に笹田さんを超えていますね。とても美味しい紅茶ですよ」

 「結構良い物飲んだことがあるのですね。このコーヒーも酸味や苦み、香りが大変すばらしいです。お店でドリップしたてのような物が飲めるとは思っていませんでした」

 「全くだ。これが酒ならもっと言うことが無いんだけどよ」

 「それは地上まで我慢するのだな。しかしノンアルでも結構美味しいのがあるものだ…。同じ水魔法使いとして負けるのはちと悔しいものがあるぞ。

 やはり1度名水や名酒を味わいに行くべきかもしれん…」

 「探索はどうするつもりだ、お前は…。

 とはいえ各地を巡ってイメージを膨らませるのは重要だな。このシークヮーサージュースは合格だ」

 「あはは…ありがとうございます。

 元から料理は好きでしたから飲み物についても勉強はしてたんですよ。水魔法でこうして出せることが出来て自分でもうれしいですね」


 全員に戦闘前の休憩を取ってもらう為好みの飲み物を提供する。こういう所も士気上げに重要だよね? 

 紀田さんの報告を好みの飲み物を飲みながら聞き入る。

 

 探知やトランシーバーに反応が無いのでしばらくは待機だそうな。出来れば1PTは合流してほしいそうだが、こればかりは待つしかないと半ば休憩タイムだ。

 既に戦闘経験もあるからか、皆中々に余裕な態度をしている。慣れってすごいな…こっちとしてはいつ戦闘が始まるかとコップを持つ手すら落ち着かないというのに。

 

 連絡はトランシーバーに来るからとさっきから握りっぱなしだ。自分に与えられた役目とあって緊張が続いている。

 そんな中、静かに深呼吸をしつつ皆の様子をうかがう。

 果たして皆のように慣(成)れる日はいったい何時なんだろうなぁ…と、静かに行っていた深呼吸がだんだんと溜息になってしまっていた…。





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