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241話 神判




 場所は変わってダンジョン街にある裁判所内部。今日これから、ここで神判が執り行われようとしていた。


 「石田さんはなんて言ってきたっすか?」

 同室で待機している苗が聞いてきた。

 

 「タイミングが悪かったわ…」

 「どういうことだ?」

 

 同じく同室で待機している望がそう聞いてきた。

 私は返事を貰った携帯を2人へと渡す。


 「あっちゃー…これからダンジョンっすかぁ…。確かに間の悪い時に連絡しちゃったっすねぇ」

 「ん? 今日これからという事は2回目の討伐作戦じゃないのか? 石田さんはそれに参加しているのか?」

 「それはわからないけど…この時間にダンジョンへ潜る所ってなるとそうなんだと思う。タイミング悪いったらないわね…」


 そう言って3人して溜息を吐く。

 携帯の画面にはこれからダンジョンだから連絡がつかないという文の他に短く一言だけ書かれていた。


 「『自分を信じる事』、か…。石田さんからすればそれ以外言いようが無いものね」

 「ここまで来たらそうする以外に手はないッスからね。あたし等の発言にすべてかかってるっすよ」

 「自分達の証言が正しいと信じて臨むしかないからな。言われずとももう覚悟は決めてあるさ」


 神判の申請を親に何とか認めさせて今日許可が下りた。これから行われる神判によって私達の未来が決まるのだ。私達は自分が正しいと思ってる証言を最後まで言い切ると既に決めていた。

 少なくともアイツの証言が正しいなんてことは絶対にないっ!


 「まぁ…ダンジョンに潜ってしまう前に知らせることが出来て良かったんじゃないっすか? 最悪全てが終わってしまってから結果を知ることになるかもしれなかったんすから」

 「いや、これから例のモンスター達の討伐に動くんだぞ? むしろこんな直前に知らせてしまってはかえって気にさせてしまうだけな気がする…。やはりタイミングが悪いとしか言えんだろう?」


 何も知ることなく神判が終わって、私達がどうなったのかを聞くだけの結末もありえただろう。それを思えば、たとえ一言だとしてもこれから神判を受けてきますと伝えられたのは私達にしてみると良かったと言える。

 石田さんには命を助けられいろいろお世話になったのだ。どうせなら私達のこの結果も知っていてほしい。


 ダンジョンから帰ってきたらいつの間にか神判も終わっていて、私達も亡くなっていたでは何かと虚しいものだろう。

 正直一言だけのメールだったけどこうして返事がもらえて少し気分が落ち着いた。気にしてくれているというのが今もわかるのだし…。ダンジョンに行ってしまっていてはこの一言すらわからない所だった。


 しかし逆に…これからあのモンスター達を討伐に行くという大変な場面で自分達を気にさせてしまったという後悔もまた出来てしまった。

 気にしてくれているのは確かに嬉しいのだが、その分余計な思いをダンジョンに持っていってしまったという事だ。変に気にして怪我なんてしないといいのだけど…。


 「過ぎたことをこうして後悔していても仕方ないわね…。石田さんにはあのゴーレム達も居るんだし無事だと信じるしかないわよ。

 それと運搬班でしょうから護衛の班も着くって話よ。直接戦闘が無い分危険も少ないと思うわ。護衛班の人達とかと合流するまでが気がかりではあるけどね」

 「あのゴーレム達が居れば運搬も楽そうっすよね。いざとなったら戦闘にも使えるんすから大丈夫そうッス」

 「石田さん自身も結構能力凄かったからなぁ…大丈夫だとは思うが心配は心配だぞ」

 運搬の手段や戦力としてあのゴーレム達が使えるのは自分達の身をもって知っている。現状では石田さんの身は安全だと思うほかない。どうにか再び会える事を祈ってます…。


 「正直私達ではどうにもならないような相手も石田さんなら何とかしちゃうと思うわ。余計なお世話なんじゃないかしら。

 それに石田さんもこちらの事を心配するよりかは自分達の方をしっかりすることって言いそうね」

 「それもそうっすね…。人の事心配してる余裕はないッスよね、あたし等」

 「証言の間違いが無いか最後まで打ち合わせをしておこう。

 石田さんにこうして知らせたんだ…後は帰ってきた時にうまくいきましたと報告できるようにしないとな」

 「石田さんの倉庫にあるメンバーの荷物も片付けないといけないっすからね」

 「アイツが何を言おうと私達は私達の証言を最後まで言う。それに迷いはないものね」

 そう言って携帯を仕舞うと私達は最後の打ち合わせを始めた。

 時間が来れば呼びに来るという事だし、それまでに3人の話をまとめて神判に臨もうとあの時起きた事を思い出していた。





 「ではこれより神判を執り行う。両者は質問されたことにのみ発言するように」


 画面の向こうから裁判官の人がそう言ってきたのでしっかり頷いて答えた。いよいよ始まるのね…。


 あれからしばらくして検察の人が私達を呼びに来た。準備が出来たようだ。

 私達は検察官の人に連れられて1つの部屋に通された。

 正面に画面のある部屋だが、私達の座らされている場所は土魔法の能力者が作ったのか鉄格子で包まれている。なんか牢に入れられた気分で嫌な感じだ…。どうやらここで私達は証言するらしい。

 普通は裁判官の人が居るところで行うらしいのだが、私達は互いに能力者だ(私は違うけど…)。能力者としては距離があったところでいざとなれば能力を使って被告人、被疑者への攻撃が出来てしまう。故に能力者が相手の場合はこうして相手の場所がわからないようにして裁判を行うのだと説明を受けた。

 

 私達の方だと望の怪力の能力を使えば簡単に相手の所まで行けてしまう。

 アイツの方は火の能力だ。たとえ離れていようと動くことなくその場からこちらに手が出せるのだから直接顔が見える距離は危険すぎる。

 実際海外の方では裁判中にそういう事件が起きたという話も聞いているし…。


 (それにアイツの顔を見なくていいっていうのはありがたいわ…直接顔なんて見ようものなら怒りが爆発しそうよ…)

 その思いは2人も同じらしく、この形式を聞いた時に安心した顔をして見せた。ここまで来て台無しになると困るしね…。

 こちらからはわからないが別の場所でアイツが認めたのを確認したのだろう。裁判官の人が別の方向に目をやって頷くのが分かった。


 「それでは神判を開始する。まずは原告側から証言をしてください」

 「はい…」

 

 一度つばを飲み込むと、3人で何度も練習した証言を口にし始めた。間違うことなくあの時起きた出来事を覚えてる限り説明する。

 私たちに出来る事は証言する事のみだ。神判の能力がどう判断するかはわからないがそれしか手はない。お願いだから私達が間違ってない事を証明してほしいと、ただただそれだけを願って説明を続けた。


 そしてしばらく話してこちらの話は終わった。裁判官の人も何かを見ながら頷いている。

 時間は少なかったが管理部に問い合わせてこちらの話の裏を取っていたのだろう。同じ部屋にいる検察の人も特に何を言うでもなく頷いてるようだ。この時点では私たちの身に何か変化があるわけでもない。向こうの証言待ちでどうなるかといった所かしら…。


 「それでは続いて被告の側、証言を」

 「……」

 こちらの話は一度これで終了と向こうに切り替えたようだ。アイツの証言を聞いて神判の能力がどうなるか…心臓が痛いぐらいにドキドキしていた。


 「どうしました? 証言を始めてください」

 「?」

 裁判官の人がもう一度向こうに証言を口にするよう問いかけた。私達の声は裁判官の人達が居るところにしか届いてないらしく、アイツがいる向こうの話はこちらには届かないようになっている。

 検察の人達はイヤホンで向こうの言葉を聞いているらしいがそこから聞こえて来る声が無いらしい。ジッとイヤホンに耳を傾けた姿のまま黙っていた。


 「田代被告、黙っていてはそちらに掛かっている容疑が晴れませんよ。言いたいことがあるのなら証言を」

 再度の呼びかけが裁判官の人からあった。しかし向こうは相変わらずのようだ。


 「あの…何が起きてるんでしょうか?」

 気になったので小声で部屋にいる検察官の人に聞いてみた。


 「どうやら向こうの方は黙秘を続けておられるようですね。実はこちらに来てもらった時からずっとそうでして。誰とも口を利かないのです」

 「はあ…」

 それをして何の意味があるのかわからなかったのでそう口にするしかない。何がしたいのだ? アレは?


 「田代被告、ご自分の証言を言わなければどうにもなりませんよ。証言が無いのなら終わりになります」

 最後の通告が裁判官の人から言われた。これどうなるの? もう一度検察官の人に聞いてみた。


 「私達の集めた話だとあちらの方は管理部にその時の報告を済ませていますね。それが証言として取り扱われます。またその時の事を不特定多数に話しているとの情報もあります。この後証人の方からの話もあるでしょう」


 既に向こうの証言は決まったものがあるという事でそれが採用されるらしい。

 証人は管理部だろう。私達の話も管理部には伝えてあるし証人はどちらも管理部となるはずだ。

 

 裁判官の人が管理部に報告されたアイツの証言を口にしている。何も言わないならこれが証言らしいが…とんだ出鱈目だ!


 「これについて付け足す事などはありますか? ないのであればこれが正式なものとなりますよ?」

 裁判官の人の話にも応える気が無いらしい。画面上の裁判官の人も少し困惑してるように見えた。


 「それでは証人の方に聞きます。管理部支部長、発言を」

 「はい。

 双方の発言は管理部に提出されたものと一致しております。少し補足等の聞いていなかった話もありましたが概ねは先の通りだと認めます」

 「最後に聞きます。双方の証言に嘘や間違いはありませんでしたね?」

 「はい、間違いありません」

 

 支部長がそう発言したその瞬間、裁判官の人の体が光った。画面の向こうでだが体が光っているのがはっきりと分かる。

 そして次の瞬間、部屋にいる検察官の人が着けているイヤホンからかすかな声が漏れ聞こえてきた。だが全員がイヤホンの電源を切ったのはその後すぐだった。


 「なにが…」

 「…向こうの部屋で田代被告の体に電撃が奔った様です。神判が発動しました」

 

 そう言って小さくため息を吐く検察官の人。神判が発動って…。

 その言葉に私は自分の体をぼんやりと見つめた。特にこれといって何も変化が無い。


 「神判が真実と判断したようです。

 森田さん、田々良さん、浅田さん。3人の証言が正しいと認められました」


 検察官の人の言葉を聞いて私達は互いの体を見た。誰も何も問題はない…私達は互いに無言で抱き合うと静かに涙を流した。

 神判が終わった…それも3人共無事に。この事実によって私達と亡くなったメンバーの汚名が消えたことを理解すると胸のつっかえが取れた気がした。

 これで胸を張って堂々と皆を弔うことが出来る。私達の騒動がこれで終わったことに内心で深い溜息を吐いたのだった…。

 




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