23話 施設での調査(10) 早くも新エリア!? 攻略部隊 初敗北
11層からの森エリアは、今までの比ではないくらいの速度で攻略が進んだ。
正直洞窟がきつすぎたのだ。部隊の集合もむずかしく、広さも限定されるため、数を頼りにする戦術も取れなかった。
その点森は逆で、今までとれなかった戦術が使えるようになったのが大きい。20層まで行くのに洞窟攻略の半分の時間もかからなかったのは、攻略部隊も各国もうれしい誤算だった。
士気も高まり、20層のボスを倒すのにそう時間はかからなかった。攻略部隊は早々と21層に向かうことができた。
21層もこのような感じであればうれしいと皆が思いながらも、どのようなマップになるかと気を引き締め転送陣に乗って先へ進む。
攻略部隊が転送先で見た21層の姿は、山から見下ろした大自然の光景だった。
ある部隊は山に、またある部隊森に川にと転送された。
21層は森が拡大され、山と川が追加された地形だった。新しく山と川ができたとはいえ、空の下であることに変わりはないと安堵する者が多く居た。洞窟の大変さが身に染みていた。
攻略部隊は11層と同じようにまずは空から調査し、全体図を調べてからの帰還を優先した。
しかし21層のマップは予想以上に広大過ぎた。空から確認した能力者はそのあまりにも広い大地に驚愕することになった。11層とは比較にもならない規模だった。
どうにか合流を果たした攻略部隊もここまでの広さとは思っておらず、何とかして足を用意しなければ厳しいと結論が出た。
止まっていた拠点作成案を動かす必要が出てきた層に、各国は頭を悩まさなければいけなかった。
しかし技術班も休んでいたわけではない。
森エリアを攻略部隊が進んでいる最中も研究は続けられており、小型車両の作成や休憩中の攻略部隊に技術指導をしたり、作られた地図をもとに工兵や技術者をダンジョンの奥に送り出すといった実験を挑戦し続けていた。
それと能力者の中に組み立ての能力を持ったものがおり、工兵が行けなかった時の保険として大型兵器を現地で組み立てる知識を授かるなど対策がとられた。
いろいろと手を打った結果、何とか現場で大型兵器の組み立てが出来るようになった。
攻略部隊は頑張って技術者や工兵を現地に送り出したし、技術指導も頑張って覚えた。兵器開発に必要な物資は能力者が広大な大地を頑張って運び、組み立てる力を持った能力者は資材が来た端からどんどん組み立て続けた。
皆の頑張りもあって、21層に車両やヘリ等の前線拠点は完成した。
そして、移動の問題も解消された攻略部隊はその足を更に進めることとなる。
21層は何もかもが広大だった。まるで自分達が小人にでもなったのではと錯覚するほどである。
モンスターは今まで見た種や新種が巨大になっていたり、ビルのような木がそこら中に生えてたりする。
そして11層などの森にもあったのだが、食べることのできる実などが子供の頭程の大きさでごろごろと生っている。本当にすべてが規格外なほど大きかった。ちなみにとても美味な果実だ。
しかし、全てが巨大故にそれが功を成したこともあった。
問題にされていたことなのだが、先に進むのはいいがここで作成した乗り物はどうするのかという話だ。
部品をばらしてまた持っていくしかないと懸念されていたのだが、ここでは転送陣も巨大になっており、各自が乗り込んだ状態で先に行けたのだ。
これにより、部隊は一度に多くがまとまって次の層へと行くことができ、合流も格段に楽になった。
が……その楽な思いも途中までだった。
空を行くことが出来て、部隊はまとまって移動することも出来た。大型の乗り物が出来たことで補給もずいぶんと手間が減った。
ここまで聞けば順調そのもの。誰もがこのままいくと思っていた。
しかし、人の行く手を遮るのはやはりモンスターだった。
巨大になったモンスターは厄介極まりなかった。ただでさえ狂暴だったものが、大きくなったことで更に厄介となった。いくら大型兵器を持ち込めたとはいえ、そう簡単に突破できるマップではなかった。
そして、いつかはやってくるのではないかという不安がこのマップでついに的中した。
モンスターを退けながら転送陣を探す攻略部隊の前に巨大な物体が近づいてきた。
空を飛んでいる攻略部隊と同じ空に生きるモンスター。ドラゴンが障害として立ちはだかった。
一応竜種と目される存在は11層でも目にすることが多々あった。だがこちらには能力者もいたし、武装も整え迎撃する準備ができていたこともあってなんとか出来ていた。
しかし、今目の前に立ちはだかるこれは規格外にすぎた。乗っているヘリの優に倍はある。
その存在をこちらが確認したときには逃げ切れるものではないと即座に悟った。
足であるヘリを壊されるわけにはいかぬと何とかして気をそらし、どこかで再び合流して先を目指す。隊長たちの頭にはこれしか浮かばなかった。それほどまでに、今の自分達でどうにかできる相手ではないと思い知らされた。
ドラゴンが相手では、流石に今までと同じとはいかなかった。
攻略部隊はおとぎ話に出てくる英雄ではない。いかな能力を持ってるとはいえただの人間だ。
ヘリを逃がし、地に下りた人間と空を飛びながら戦う竜の間には能力では埋められない差があった。
もしここにヘリが複数あり、ミサイルや機銃で航空支援してもらえていればまだ何とかなったかもしれない。だが、現状でその航空支援は望めない。空を飛べる能力者達も、強力なブレスを見てからは遮蔽物がない空中に上がろうとは考えなかった。
対空ミサイルを積んだ車両もなく、個人装備はロケット砲が限度だ。それも当たればいいが、竜は回避もすれば迎撃だってしてくる。能力者の攻撃も当たるが頑丈過ぎたのか、あまり効いてる気がしなかった。
とにかく逃げて合流の指示を出す。彼等にできたのはそれだけだった。
(ついにドラゴンのお出ましか…21層からの巨大化エリアね。
人の行く手を阻むのはまたしてもモンスターってことになるわけか。こりゃその存在を公表してないだけでもっと手ごわいモンスターもいそうだな。なんか地球を防衛するゲームでそんな感じのやった覚えがあるぞ…)
攻略部隊はここにきて初めて撤退を余儀なくされた。
合流するまでずいぶんと遠くに逃げてきたが、合流を果たすことができなかった者が何名もいる。
空を飛べるからと、大型兵器があるからと楽観視などできるものではないと思い知らされた攻略組は、自分たちの居場所を逃したヘリに伝えると、この層から一時撤退することになった。
帰還を果たした攻略組はすぐさま会議を開く。
ヘリが使えるようになったのはありがたい。しかしあのエリアには空を住処にする強大なモンスターが存在している。倒すにしても現状の装備だけでは心もとなく、またそれを運ぶのも容易ではない。
では回避して進むのは可能なのか? 地上は地上で大型のモンスターが闊歩しており、空と地上どちらがより簡単なのかは何とも判断がしにくかった。
それと別の問題も発生した。
ヘリを作成し、前線拠点を作ったところにモンスターが突如湧いたのだという。
幸い拠点は帰還陣の近くと、作業員たちに犠牲を出す事無く帰ることができたが拠点で作っていた武器や機器がどうなったかまだ分からない。最悪全て壊れていることも予想された。
ダンジョンの事だ。休憩場所ぐらいならともかく、大型の拠点を作っているとなるとモンスターをそこに湧かせて破壊するぐらいの事はしてきかねないと。
このことから、ダンジョン内で大きな施設を作るのは危険すぎると判断された。
それらの話が各国に伝わるのにそう時間はかからなかった。
国は今一度考えることとなる。大型兵器の使用が制限された中でこれ以上進むことは可能なのか? と。
今回、初めて攻略部隊からそれなりの死者を出したことや、立ちはだかる相手が強大すぎることが各国を揺るがせた。
確かにダンジョンの攻略、最下層は何処なのかという確認は大事だ。
しかしダンジョンがモンスターを排出する条件も確認された今、1つのダンジョンにこれ以上時間をかける必要があるのかという疑問の声も上がり始めた。
正直、ダンジョンからとれる魔物の素材や資源がフリー達によって地上へと出てきている。これ等は地上でも有用に使われており、復興にも多大な影響を及ぼしていた。
1つのダンジョンに潜るより、手を広げて複数のダンジョンを潜って素材や資源を集めるほうがいいのではないか? そんな話が各国の間でされるようになった。
その話が攻略部隊に届く。自分達が潜っている間に地上はそんな風になっていたのかと考えさせられる。
正直、自分達がここにいるのは大国がダンジョンを攻略したいと言い出したからである。かの国が諦めるというなら自分達も自国に帰り、フリー達と一緒にダンジョン攻略に関わるべきなのではないのか。攻略部隊の間でもそのような話をしている姿があちこちで見受けられた。
ダンジョン攻略を始めた大国も次第に悩み始めることとなった。
正直、最初はこうなるなんて予想はしていなかった。ダンジョンとは、ずいぶんと富をもたらす存在だとこの頃思うようになった。
ドラゴンという難しい相手に物資と人員を使って先が見えないダンジョンを攻略する必要はあるのか? と。
もちろん、中には自分達から始めたのだからいけるところまで行くべきだという声も出た。ダンジョンが拠点にモンスターを湧かせたというのなら地上でもそれが起きるのではないかと。間引きだけで済んでいる今と状況が変わる恐れもあると。
数年経って、どこのダンジョンも攻略しなかったからモンスターを排出させるようになったとしても不思議ではないと力説する者もいる。
他のダンジョンに手を伸ばしてダンジョンの品を地上に広げようという者と、危険の排除はやり切るべきだという者。正直どちらの言い分もわかるため議論は決着をなかなか見せなかった。
(んー…確かにこれは難しい選択だなぁ。物資と人員が集まっている今行きたいのもわかるけど進む先がなぁ…。
今集まってる戦力を各国に戻してダンジョンの品を地上に普及させ、国力を回復させるのも大事だわなぁ…。けど攻略再開する前にダンジョンから再度モンスターが排出される可能性も言い切れないし…何とも言えんな。
攻略部隊はこの大国の意向しだいって感じだけど、混成軍だから内部で考えがバラバラにならなきゃいいけどな…)
能力者が加わるも、初めての敗退に惑いを見せる各国。そして難しい判断を迫られる大国にその後どうしたのかという思いを抱く。
話が壮大になるにつれ、どんどんに引き込まれてしまう。情報収集だというのに、そのようなことは関係なしに知りたいという気持ちが強くなってしまった。
難しい選択に迫られるも大国は1つの決断を下した。今は31層をまずは目指すことにすると宣言したのだ。
モンスターが脅威だというのは今の世界に生きる人なら誰もが理解しているはずだ。もしまたモンスターが全世界のダンジョンから排出されるような事態になれば、いかに能力者が現れた現在でも対処は難しいものになる。
ダンジョンの先を目指さすというのは、未来を得るかどうかという事と同じはずだと。
とはいえ、今攻略部隊の眼前に立ちはだかっている脅威はそうやすやすと抜けるものではない。
21層で多少時間がかかってもいいから足と装備を整えて挑んでもらいたい。攻略部隊にはこのダンジョンの真相を探るという重大な使命があるという事を今一度思い出して挑んでほしい…。それが大国の発表だった。
攻略部隊は混成軍であり、1つの指揮下にあるわけではない。が……それでも明確に意向を示してもらえればそれを受け入れることができた。
ここにいる者たちは大戦を生き延びた経験を持ち、どこの誰より対モンスター戦を知っている者たちだ。
モンスターの脅威を無くし、ダンジョンを解明しろと言われれば自分たち以上の適材はいないという自負もあった。
ならばやるしかないと、気持ちが伝播するのにそう時間はかからなかった。
本部は作戦を考えた。研究者は装備がより良いものにできないかと討論を交わす。実働部隊は決められた作戦通り21層に再び物資を集積してそれを維持する。いつでも作戦決行ができるようにと準備を進めていった。




