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210話 打ち上げパーティー 後編




 「日向さん、お待たせしましたね」

 「おおう! 来た来た! とりあえず駆け付け1杯と行こうじゃないの」

 「あ、じゃあ持ってきたこのワイン飲んじゃいますか。さっき乾杯しましたけどもう1回いっときましょう」

 「いいねぇ! んじゃあ2層これから頑張りましょうってことで…乾杯!」

 「乾杯!」

 

 そう言って互いにグラスを掲げて酒を飲む。今度は半分ぐらいまでとりあえず減らしておこう。

 コクコクと喉を鳴らしてワインを飲む。アルコールの他にワイン独特の渋みと甘味が口の中に広がった。赤はやっぱこんな感じだよねぇ。


 「うーし! とりまゆっくりしようぜぇ、ツマミも酒もまだまだ残ってるしなぁ」

 「ですね、しっかり味わっていただきましょう」

 

 日向さんが解けたチーズにクラッカーを突っ込んでツマミにし始めた。クラッカーも箱で大量に買ったからなぁ…こういう時に吐き出しておかないと。

 クラッカーもダンジョンでオヤツになるかなぁと思って大量に買っておいた。適当になんかを塗ったりすればそれだけで結構お腹膨れるしね。

 最初は割れるかなぁ…と思っていたのだが、クッキーが入っているような缶に移せば案外平気な様子だ。缶に入れてれば多少濡れても大丈夫だし。


 こちらはテーブルに置いてあるチータラをおつまみにした。槍一さん程ではないがこんなおつまみも自分で買っておいたのだ。家で飲む際のツマミが欲しかったからね。

 やはりチーズとワインの相性は最高だな。バーナーで炙ったチーズもいいし燻製も美味しい、チーズフォンデュのようなトロトロのチーズも実によく合う。カビ系のチーズは少し苦手なんだけどこういったチーズは大好きだ。赤ワインにはやはりチーズだね。


 「いやぁ! チーズフォンデュなんてまともにやったの初めてかもしんねぇなぁ! 溶けたチーズをこうやって食いもんにくぐらせて食べると何とも言えないのな、これははまるわ」

 「美味しいですよねぇチーズフォンデュ。惜しむらくはこういった人数がいないと気楽に食べれない所ですね。1人じゃ余っちゃいますし」


 まぁ、余れば空間魔法に入れておけばいつでも食べれたりするし今度からは家でも気にせずに食べれるんだけどね。だからこうやって買っておいたわけだし。ミニパーティをやるのに丁度いいよね、チーズフォンデュ。

 日向さんはその他にもウィンナーだったりナゲットといったおつまみ系のチーズフォンデュを食べていった。はまったというのは間違いではなさそうだな。

 

 「ングッ…ングッ…。ぷはぁっ! それと酒が美味い! やっぱ地上で食べる食事サイコーッ!」

 「ぶっ倒れるのだけは注意してくださいよ? 今更か…」

 「ん? なんか言ったぁ?」

 「いえ、味わって食べてくださいね」

 「モチっ!」

 もうかなり酔ってきているのか、ビーフジャーキーをチーズフォンデュに突っ込みながらそう答える日向さん。歩き回って絡みに行かないだけまだマシなのかね?


 「よぉ! 石田さん! こっちきてたのかっ」

 「あははははっ 石田さんが2人居るぅ!」

 「凜さん酔いすぎでしょ…どれだけ飲んだんだ…」


 日向さんと飲んでいる所に瓶を片手にやって来た京谷さんと凜さん。2人ともかなり出来上がってるっぽいな。

 とりあえず椅子を2人に勧めて座らせる。凜さんなんて椅子に座った途端、テーブルにグデェ~と体を投げ出した。顔は随分幸せそうだし気持ち悪くなってないならいいんだが…。


 「おっ! 石田さん、ワインか。もう半分近く無くなってるな、追加だ!」


 そう言うと京谷さんは手に持っていたワインの瓶をこちらのグラスに傾けて中身を注ぐ。銘柄が違うワインなんだけど…なんか混ざっちゃったな。

 とりあえず入れて貰ったままなのもあれなので礼を言って口を付ける。お? 意外と美味いな。ワイン同士のカクテルも案外悪くない…。

 なんか先ほどまでも飲みやすくなった所為か、ついついグラスを傾け続けてしまう。うん…やっぱ美味しい。


 「いい飲みっぷりだな! 次白いってみるか!」


 テーブルに置いてある新しいグラスを取ると、京谷さんは瓶の封を開けて白ワインをそこになみなみと注いだ。入れすぎ入れすぎっ!?

 とりあえず少し飲んでこぼれない位置にまで減らす。やはり白は赤より飲みやすいな。渋みが消え甘さが増えたワインだ。

 8分目まで飲み干すと一旦テーブルに置いた。飲みやすいからって一気に行くとまたやっちまいそうだ。


 「悪い悪いっ。じゃ、仕切り直してっと…1層突破を祝してっ! カンパーイッ!」

 「乾杯」

 「かんぱーいっ…」

 グラスを掲げる自分と京谷さん。そこに凜さんが体を伏せながら声だけで参加してきた。


 「どうです、しっかり堪能してますか?」

 「もちろんだ! 石田さんの持ってきてくれたパーティーセットずいぶん食べて飲ませて貰ったよ。チーズフォンデュとか初めてやったな!」

 「面白いねー」


 そう言って2人はツマミのイカ下足を口にする。凜さん、寝ながらは流石に行儀悪いぞ?

 そう口にするが凜さんは聞こえていないのか、にへらーと笑いながらムグムグと幸せそうにイカ下足をしゃぶっていた。まぁ、本人が楽しそうだからいいか…。

 こちらもイカ下足をおつまみに白ワインを飲む。やっぱり白には海鮮系のおつまみが合うよな。


 「京谷さん、向こうはどうだったよぉ?」

 今度は自分の能力で焼いた切り餅を串にさし、チーズに絡めている日向さんがそう聞いてきた。餅もいいよね。ただ酔っ払った勢いで火の能力はちょっと怖いな…。


 「リーダーたちも思い思い楽しんでるぞ! ほら、明日香さんがキャーキャー言いながらワッフル作ってる」

 そう言われて指差した方向に視線を向けると、由利さんと一緒にワッフルを焼くホットプレートの前に立っていた。確かにキャーキャー言ってるな。

 

 「珍しいからいろいろ触りたいんだな! オリジナルのワッフルやたい焼きを作ると意気込んでたぞ」

 「ほうっ! そいつはぜひ見てやりゃなきゃな! ちょっくら行って来るぜ!」

 そう言って酒を片手に近寄っていく日向さん。あー…奏さんがまた溜息つきそうだなぁ…。


 「しかし石田さん、良くこれだけの器具持ってたな。パーティーよくするのか?」

 「料理が趣味なんで器具は知らず知らずのうちに増えていくんですよねぇ。良さそうなものが出たらもうあるのに新しく買ってしまったり」

 「うんうん、わかるぅ…気になっちゃうと買っちゃうよねぇ」

 未だにイカ下足を横になりながらムグムグと食べている凜さんがそう言ってきた。凜さんも料理するのかな?


 「ちなみに凜さんはなにを買うんです?」

 「あたしはぁ~化粧ひん~…いろんな種類あるんだぁ~」

 「なるほど、化粧品でしたか」

 「メイク下手なくせに良く買うよな…」

 京谷さんがボソッ…と、そう口にする。凜さんメイク下手なのか…。

 

 「へたじゃな~い~! いろんなの試してるだけぇ!」

 「それで皆の前に出てきたことあったじゃないか。由利さん大笑いしてたぞ」

 「由利さん化粧ほとんどしないんだもん~。自分だって化粧したらおかしくなるんだからねぇ~。お泊り会で見ちゃったも~ん」

 「そういうのやるんですねぇ…」

 女子会という男にはわからない集まりだ。どんなこと話してるのか気になるよなぁ…。


 「ちなみに奏さんは化粧むっちゃうまいよぉ…」

 「そう言えば前も奏さんに直されてたっけなぁ…」

 「あんまり想像できませんね…女性の皆ほとんどすっぴんじゃないですか? 化粧の必要性が無いと思うんですがねぇ?」

 「まぁ、まだ若いし! 練習みたいなもんだよぉ」


 ほっぺ触っていいよぉ…と自分の頬をつつく凜さん。

 これで本当に触ったら事案だろうか…? いや、許可が出てるしもう成人した女性だ。問題はない…が、ここはスルーしておくのが大人の対応だな。

 

 「いえいえ、見ればすべすべしてそうなのはわかりますからね。まだまだ肌に潤いがしっかりしてる証拠でしょう。

 ダンジョンで体もしっかり動かしてますし、健康な体そのものですね。いや、お綺麗ですよ」

 「えへへ~、それで地上に戻ってきたらしっかりと食べるしねぇ~! 若いおんにゃの子の体だよぉ~!」

 綺麗という言葉に気を良くしたのか、起き上がると目の前にあった自分の白ワインをゴクゴクと口にした。そしてぷっはぁっ~と大きな息を吐く。若い女性ならもう少しつつましい仕草をしなさいね。


 「おいおい、石田さんの酒が無くなったじゃないか。ほら石田さん、新しい酒だ」

 「ありがとうございます」

 そう言って京谷さんは再びなみなみとワインを注いだ。こっちも実は結構酔ってるだろ?


 「いやー! お酒美味しいねぇ! おつまみたくさんでついつい手がすすんじゃうよ」

 「それについては同意だな! 種類がいっぱいあっていろんなものに手を伸ばしてしまう。結果、酒が進むな」

 「買っておいてよかったですね。皆さん満足されてるみたいですし。

 そう言えば丈さん静かですね? 自分の中では1番お酒を飲みそうなイメージなんですが…」

 「ああ、丈さんならあそこだな」

 そう言われて指が差された方を見た。なんか壁際で1人で飲んでるな…。


 「丈さんお酒が入ると皆から離れて1人ゆっくりと飲んでるよねぇ。なんかしみじみ~って感じで」

 「決して楽しんでないというわけではないな。実際おつまみも酒も確保して結構飲んでるし。あれが大人の飲み方か…」

 「じっくり味わいたいってことですかね? でも日向さん達と飲んでたらしいですし…適度な休憩かな?」

 「石田さんちょっと聞いてきてよ~。一番年齢近いんだしなんか分かり合えるかも!」

 「報告よろしく!」

 「ええ? まぁ、構いませんが…。ではちょっと席はずしますよ」

 2人に頼んだ~と言われて丈さんの元に向かう。一応酒もつまみもあるようだけど追加で持っていく分には困らんだろう。


 「丈さん、お疲れ様です。どうですかパーティの方は?」

 「ああ、石田さん…。勿論楽しんでいるぞ、1層突破記念だからな。石田さんの持ってきたツマミも存分に味わわせてもらっている。

 チーズフォンデュ…なかなかどうして侮れん料理だ。酒がすすむな、これは…」

 「口に合ったのならよかった。チーズがダメという人もいますからね」

 「確かにな。だが私も言うに及ばず酒飲みの1人、チーズは大好物だ。特に燻製が良い…あの深みのある味わいは実にいいツマミになる。飲むかね?」


 そう言うとウイスキーの瓶をグラスと一緒に差し出してきた。

 少しだけ…と言ってグラスを受け取ると、そこにトクトク…と注ぎ入れる丈さん。あの…少しだけでいいのだけども…。

 ロックグラスになみなみと注がれるウイスキー。酔ってないフリしておいて実は相当きてんじゃないか?

 こぼれる前にグラスを水平に戻し、こぼれないよう少し口に入れる。ウイスキーは流石に少しでも結構来るなぁ…。


 「そしてこの燻製を食べてみるといい。実に燻されてるのが味わい深く感じるというものだ」

 差し出された燻製チーズを口に入れた。よく噛んでその味と香りを味わう。確かに美味いなぁ…。


 「それとこの炒ったアーモンドもなかなかだ。日向君に頼んで少し手を加えて貰ったのだがこれもまたいい味になっているぞ」

 「香ばしい香りしてますねぇ…ナッツ系って炙ると美味しいですよね。ああ…こいつもいいなぁ…」

 「だろう? 火を入れることで味も香りも一段と良くなる。イカ下足なんかも美味いし、マシュマロも意外とツマミに合う。いやぁ…実に良い物だ、パーティーとは。お酒がより美味く感じられるね」


 皆とは離れていたが実にパーティーを楽しんでいるというのが良く分かった。今目の前にいるのは完全にただの1人の酒飲みでしかない。

 自分の好きなツマミを目の前に並べそれを口にしつつ、パーティーの雰囲気を味わうというスタイルなのだ丈さんは。

 ウイスキーは持参なのだろう。PT内でもあまり飲む者が居ないからこうして1人距離を取っていただけっぽい。あるいは1人でこっそりと楽しむつもりか…。なんにせよ、いろんなツマミをこうして食べパーティーを満喫しているのだけは確かだろう。


 自分も元は30のおじさんだ。丈さんの様に酒を楽しむやり方もわからないこともない。若い皆が料理にお酒にワイワイしているのを眺めながらのお酒も良い物だ…と、2人して静かに乾杯していた。

 しかし…端から見ると見た目若い癖にずいぶんおっさんくせぇよなぁ…。





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