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209話 打ち上げパーティー 前編




 「皆グラスは持ったな? それでは…乾杯!」

 『カンパーイッ!!』

 理人さんの音頭に各々がグラスを持ち上げる。1層突破パーティーがこうして始まった。


 「いやー! 1月長かったなぁ! 最初はもっと早くに2層行けるもんだと思ってたんだけどさぁ」

 「仕方ないさ、実際にダンジョン潜ってみて安全性重視で行こうって決めたんだから。探索者になるまでは俺だってそう思ってたよ…」

 「学校に居た時は余裕余裕って思ってたけど実際に潜るとなったら全然違ったわねぇ…やっぱり経験してみなきゃわかんないものね」

 蔵人さん、理人さん、明日香さんの3人がそう言いながらグラスを傾けていた。こっちじゃもう成人扱いだから問題ないのだろうが…目の前でこうも飲まれるとねぇ…。早く慣れるしかないな。


 「3人共お疲れ様です。これで明日からは2層に行くPTの仲間入りですね」

 「石田さんもお疲れ様です。そうですね、皆同じ思いでしょうけど『やっと…』って感じですねぇ…」

 「1月だもんなぁ…長く感じたぜぇ…」

 「同期だとどんなものかしらねぇ…」

 3人が1か月前の自分達を思い出すかのようにしみじみと思い出にふける。ほんとお疲れ様です…。

 

 「私なんて3回目の探索ですから皆さん程感慨深いって思えないのが何とも…。とりあえず今は1月分の苦労をしっかりねぎらいましょう」

 「ですね。時間はかかりましたけど俺達も2層に行くことが出来ましたしそれで良しです」

 「3回目で2層って言うのも凄いわよねぇ…まぁ、それだけの力があるっていうのは道中で教えられたけど」

 「だなぁ。あれだけの力があれば早いか遅いかの違いだけだったろうさ。初心者探索者(ルーキー)って言っても呼び方だけだな石田さんはよ」

 「あはは…ありがとうございます」

 「ともかく石田さんだって1層突破の仲間です。今日はいっぱい食べて飲みましょう」


 そうして再びグラスを掲げてカンパーイ! と喜び合った。

 今飲んでいるのは食堂で買ってきた瓶のワインだ。お手ごろな価格で販売してるんだよなぁ…これ。

 そんなワインを4人で口にしながら1月の体験談などを聞く。やはり苦労をした探索もあったらしいな。

 

 「なるほど…やはり地底湖は近寄りたくないと」

 「全くよ…こけて服全部水浸しには参ったわ…」

 「定期的に由利さんの作った台に乗って休憩してたっけ…足の皮はふやけるし滑りやすいしであんまりいい思い出ないなぁ…」

 「端っこはほんと進み辛いしいざって時の戦闘がなぁ…水に浸かってる方がまだ咄嗟に対処しやすかったぜ。まぁ、こけて水浸しになるまでがセットだったけどな…」 

 「こけなくてもモンスターの攻撃を避けるのに激しく動くと水が全身にかかるしね。替えの服は必須だったわ」

 「日向さんの火と凜さんの温風にはお世話になったなぁ…」

 今日倉庫に来るまで服が濡れたこともあってかそんな話を思い出したようだった。地底湖はモンスターが嫌というよりは水が進行の邪魔ってことらしい。体温を奪っていくのが辛いとしみじみ語られた。


 「そう頻繁に着替えも出来ませんしねぇ…。

 ところで…いろいろ話聞いてて思ったんですけど、皆さんって同じ学校出身なんですか?」

 「そうですね。俺、明日香さん、蔵人さん、京谷さん、凛さんは同じ学校出身です。クラスなんかは違いましたけど」

 「ちなみに由利さん、奏さん、日向さんが同じ学校出身って聞いてるわ。親がこっちのダンジョン街に来たからそれと一緒に来たとか。探索者登録もその時にしたって」

 「あと先日亡くなっちまったあいつも俺等と同じ学校だ…。ここでPTとして集まるまで知らなかったのばっかりだったけどこの1ヶ月、皆で助け合って何とかこれたんだよなぁ…」

 「ほんと…それだけは残念で仕方ないね。まぁ、湿っぽくなるのもあれだしその話は今は置いておこう。

 それで…俺達の出身がどうかしました?」

 理人さんが亡くなったPTメンバーの話は置いといて…と、その先を促す。まぁ、パーティーの席だしね…。


 「いえ、顔見知りでなかったとしても同じ学校で同じ年齢…もっと砕けて呼び捨てとかでいいのでは? と思いまして。

 ほんの数歳上の私なんかには違和感ないのですけど、同年代で仲間内なんですし理人、蔵人、明日香っていう風に呼び捨てで問題ないと思いますよ。おかしいというわけではありませんからそこは好き勝手でしょうけど」

 その言葉に「あー…」となんとなく困った顔を見せる3人。どうした?


 「実は最初にPT組んだ時にその話は出てたんですけどねぇ…」

 「自己紹介で全員名字が同じってのが分かってインパクトすごかったわ」

 「だなぁ…確かに田中なんてありきたりな名前だけどこうも集まるもんかってね」

 「PT内だと田中さんって言えませんもんねぇ…」

 「ええ。それで名前で呼ぼうかって話になるのは自然な流れでした。そこでどうする? って話になりまして」

 3人が当時の経緯を語ってくれた。そりゃ集まった皆が田中じゃ困るよな…名前以外だとあだ名とかか?


 「学校も卒業したので社会人として○○さんって言う呼び方がいいんじゃないかとその時決まりましたね。それ以降皆さん付けで呼び始めたんです。丈さんだけは普通にさん付けですけどね」

 「そら俺等と10も離れてるしな。そっちは普通だし。石田さんもそんな感じなんだよなぁ…」

 「少し年上のお兄さん的な感じなんだけどね」

 「まぁ、こう言っといてなんですけど呼びやすい呼び方でいいと思いますよ。それにさん付けは誰に対しても無難な言い方ですし。

 私は基本誰に対してもこんな感じですね。本人から指定が無い限りはさん付けすることにしてます」

 「それが一般的ですしねぇ…」


 自分の話を聞いて少し考えだした3人。社会人としては何らおかしくないが、既にダンジョンに何度も潜ってお互いいろいろと信頼し合ってる中だ。仲間内ってことも考えれば呼び捨てがしっくりくるんだけどね。

 試しで互いに呼び合ってみてるが違和感なく受け入れていた。自分としても彼等にはこっちのがあっていると思うね。

 

 理人さん達は今度の探索時にでもそれで試してみると言っている。相変わらず丈さんだけはさん付けだがそこは歳の差、仕方ないと割り切ってもらうしかないね。

 最後に3人にお疲れさまでしたと言ってその場を離れた。さて次は何処に向かおうか?





 「石田さんお疲れ~! どう? ちゃんと飲んでますぅ?」

 「由利さん、お疲れ様です。ええ、ちゃんと飲んで食べてますよ。どうです? チーズフォンデュ等は?」

 「結構おいしいわねぇ! いつもより気温が低い所為かしら? 持ってきてくれたパンもチーズに絡めると美味しいわぁ…バーナーでちょこっと炙ってやると更に美味しいわね! お酒もゴクゴク行けちゃう!」

 「慌てて飲み過ぎないでくださいね? 度数は低いのを貰ってきたそうですけどペースが早いと一気に来ちゃいますよ?」

 経験があるからこそ口にする。既にチューハイとワインをチャンポンしているしペースが速いというのが怖いな…酔い止めでも飲ませとけば押さえられるかね?


 「由利さんここから更に日本酒も飲みたがって…流石に明日が心配ね。それとお疲れ様です、チョコレートフォンデュ美味しいですよ」

 「奏さんもお疲れ様です。この前買い物した時にこのセットが売ってましてね。そう悪い物でもないのでつい買ったんですけど早速役に立ったようで何よりです」

 「付けるものもパンに果物にお肉に野菜といっぱいあって飽きないわ。本当なら食堂から料理もっと頼もうかと思っていたのだけど…」

 「近くですし足りなければ頼めばいいんですよ。食堂の人達もこういった打ち上げパーティーを見越して食材を用意しているでしょうしね」

 流石に数十のPTが一気に打ち上げなんてことになったら足りないかもしれないがそんな話は料理を取りに行った時も聞いてないしな。追加で頼んだとしても余裕だろう。

 

 「それと購買にも食材は置いてあるんですよね? 数は限られるかもしれませんけど…打ち上げ用の料理が足りない事なんてことは起きないでしょう。今食べてる物と違う感じのが欲しければ追加ってことでいいんじゃないですか?」

 「私はこれ楽しいから満足してるわ。ホットプレートで焼いたホットケーキやたい焼きの生地なんかをくぐらせるのも美味しいし。結構なんでもいけるのね」

 「そうそう! このワッフルなんてそのままでも美味しいしチョコやチーズに付けても美味しいわ! イチゴのソースやブルベリーのソースをかけたらさらに行けちゃう! ボックスのアイスを焼き立ての生地に乗っけるのもグーよっ!」

 そう言いながら由利さんが奏さんの前に焼き立てのワッフルを置いた。いっぱい作ったな…生地はまだあるだろうけど一気に作りすぎだろう。


 「由利さん…また焼いたの? 自分で焼いていろいろトッピングするのが楽しいのに…」

 「まあまあそう言わないで! 石田さんも食べるわよね? 何ならいろいろ作ってあげちゃうわよ!」

 「由利さん…作るの気に入りましたね? ならたい焼きの生地にチーズを貰いましょうか」

 「はい! 注文いただきましたー!」

 そう言ってたい焼きのホットプレートの前に立って生地を焼き始めた。楽しんでいるなら何よりだ。


 「それで…このワッフルはどうするの?」

 「せっかくですしこれも頂きますよ。生地が焼けるまで少しかかるでしょうし」

 そう言ってワッフルの生地の上にコーヒーの粉末を少しかけ、その上にボックスアイスを少し乗っける。コーヒーの苦みとアイスの甘さ、生地のサクサク感が合わさって結構美味しいのだ。


 「その組み合わせ美味しそうね」

 「少しコーヒーの苦みは有りますけど美味しいですよ。甘すぎるのが苦手な人に好評でした」

 「コーヒーはあまり飲まないのだけどこういった感じのならパクパク行けそうね」

 そう言うと奏さんも同じ作り方でアイスコーヒーのワッフルを作った。

 

 「…うん、少し苦いのがあるけど生地とアイスの甘さがいい感じ。練り込むのもありかしら?」

 「それもまたいいですね。ただこちらはかけるだけとお手軽ですし、コーヒーの苦みが大丈夫ならこっちがこういった場だと簡単に作れます。コーヒーの味も混ぜ合わせるよりしっかり感じますしね」

 「確かにお手軽なのは重要ね。ダンジョンで食べるのに慣れたら時間かけて作る料理が手間に感じてしまう時があるわ…」

 「ダンジョンだと手早くって感じですもんねぇ…インスタントにお湯然り、レトルトを温めるだけ、みたいな。私なんかは地上に戻ってきたら時間かけた料理を作ってみたいと思う派ですが」

 「男の人って面倒臭がって外食するって印象だったわ。これらの器具を見るに石田さん料理好きなの?」

 「ええ。趣味ですかね」


 奏さんが「いい旦那さんになるわ」と言ってワッフルをまた食べ始めた。奥さんの料理にケチ付ける旦那にならないといいんだが…自分からすると。その前に結婚だけどねぇ…。

 そんなことを思いながらワッフルを口に運ぼうとしたその時…。

 

 「ようっ! 石田さん飲んでる? 食ってるっ?」

 「ぶっ!?」

 後ろから背中を叩かれて口に入れようとしたワッフルは鼻頭にくっついた。手で運んでいてよかった…。


 「日向さん…もう酔ってますね?」

 奏さんがティッシュをこちらに渡しながら後ろにいる人物に注意するような目を向けた。


 「いやぁ! まだ全然だ! おつまみ食いながらの酒はまだまだいけるぞぉ!」

 「絶対酔ってるじゃないですか…どれだけ飲んだんです?」

 「丈さんと2人で日本酒1本だけさ!」

 「1本も飲めばだけではないでしょうに…」

 顔の汚れをティッシュでぬぐい取って後ろにいる日向さんを見ながらそうつっこむ。その顔を見れば酔っているのは明白だった。真っ赤じゃないか…。


 「ほんとに1本なんですかね?」

 「どうせ飲んだ量なんて適当です。さっきワインの瓶を手にしてましたからね…」

 「あーあー…なるほど」

 そりゃ酔ってるわ。動けなくなるタイプじゃなくて歩き回るタイプだったか…そういや丈さんが絡み酒がどうとか言ってたような気が…。


 「ワイン…? そういや最初に飲んだような覚えがあるような無いような…」

 「持ってましたよ。ふぅ…酔っぱらいは由利さんだけで手いっぱいです」

 「え? 由利さん酔ってたんですか? テンション上がってるだけじゃ…」

 今もルンルンと楽しそうに生地を焼いている。手元がおぼついてる感じもしないし顔が赤くなってるわけでもない。いや、少しは赤いか…でも酔ってるのか、アレ?


 「由利さん表に出ないタイプなので。テンションは上がりますけどそんなところです。ハイテンションすぎるのが少し困りますけど…」

 「まぁ…それぐらいなら大丈夫ですかね? 大声で騒いだりするんでも無ければ」


 自分もあのホテルでハイテンションになってたようだし由利さんと同じ感じか? いや、顔は赤くなるから素面に見える由利さんの方が良さそうか?

 どちらもあまり変わらないような気がするが迷惑をかけなければそれでいいだろう。日向さんのような絡み酒はどうするかね…?


 「なんだ石田さん…もうデザートか? 持ってきてくれたツマミはまだあっちにあるぜ。酒も食堂や購買で追加できらぁ! もっと酒を飲もうじゃないか!」

 「ではお言葉に甘えて」

 そう言ってテーブルにあるワインの瓶からグラスにドポドポと注ぐ。グラスに7割ぐらい注いどけばいいか。


 「いい注ぎっぷりだ! よっしゃっ! 1層突破を祝して! カンパーイッ!」

 「乾杯!」

 日向さんは持ってきていた日本酒を掲げこちらはグラスを持ち上げる。互いに口を付けて酒を飲んだ。まぁ、こちらはフリだけでちびちびとだけどね。


 「由利さんが焼いてくれたものを食べたら後でそちらにもお邪魔しますのでツマミ開けて待っててください。乾きもんがあれなら食堂から串物でも取りましょう」

 「いいねぇ! 焼き鳥とか俺好物よ! 縞牛の牛串とかめっちゃうまいんだわっ! じゃああっちで待ってるぜ、丈さんや京谷さん凜さんもいるからなぁ!」

 そう言って日向さんは戻っていった。こっちがどのくらい飲んだかなんて気にもしていない。うん…酔ってるね。


 「うまくかわしましたね」

 奏さんが良くやった…といった感じでそう口にした。

 

 「酔ってるなら乾杯するのと飲んでる仕草で何とかなります。まぁ、いろいろ経験もありますからねぇ…」

 酔っ払いの相手は(元の世界も含めれば)それなりにしてきたからねぇ。あそこまで酔ってると意外とフリだけで向こうは気前が良くなるものだ。


 「お酒はそこまで嫌いというわけではないのでこのぐらいなら大丈夫ですし。こちらで軽く食べたら向こうに行ってきますよ」

 「吞まれないよう気を付けてくださいね?」

 「ええ、そっちも経験済みですから…」

 「お待たせぇっ! 由利さん特製たい焼きのチョコソースがけよ!」

 そんな話の所に由利さんが焼いて戻ってきた。あれ? チーズって言わなかったっけ?

 

 「由利さん、チーズでお願いしませんでした?」

 「ええ? そうだっけぇ? まぁ、なんだっていいわ! 味見したけど美味しいのは確認済みだから!」

 「まぁ…酔ってますからね」

 「らしいね…」

 「なによ2人してぇ? あっ! あの3人にもなんか焼いてあげよっかなぁ。じゃあこれ食べてね。焼いてほしかったらいつでも呼んで頂戴! じゃ!」

 それだけ言うと由利さんは理人さん達の方に向かっていった。次の標的は彼等か…。

 

 「普段料理しないから楽しくなったみたいです」

 「まぁ、楽しめてるならいいかな…チョコもおつまみになるしナッツを砕いてアレンジして食べるよ」


 由利さんが焼いてくれたたい焼きの生地(4枚…)を持って日向さんが飲んでる所に向かう。とりあえず飲まされる事態さえ防げば何とかなるかなと、酒とおつまみ? 持参で近づくのだった。





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