21話 施設での調査(8) 進め攻略部隊! フリーとダンジョン管理部の発足
街もそれなりに復興し、物資も少しずつだが余裕ができ、大戦で減った総人口もだんだん増加の傾向を見せ始めてきた。当時は能力者として未成熟だった子供たちもしっかりと育ってくれた。
そのような理由もあって、大国は他の国より先んでて初期に1層を攻略したダンジョンの先を進み、次を目指すと宣言した。
その考えを聞き、各国に衝撃が奔った。
まだ時期尚早ではないのか? もう少し国政の様子を見てからでも遅くはないのでは? と。
とはいえ、そのように思っている国の上層部では誰もが同じ不安を抱えていた。
各ダンジョン1層の調査もそれなりに進み、広くモンスターを間引くことが出来てきたとはいえ、相手はダンジョンだ。人の概念の外にある存在であり、まだ何かできるのではないか? という不安は主導層の中から絶えなかった。
結局そのような不安もあってか、大国が1層の更に先へ行くという考えを積極的に止めようとする国はいなかった。
こうなれば我々も出来る事をしようと、そこまで余裕はないが物資の供給等を行った。
それと能力者の中から翻訳の能力を持っている者が同行することで、他国の能力者を戦力として向かわせることが出来たのは戦力の大幅増強になった。
もちろん成功時には自分達も攻略に加わったのだぞ、という後のことも考えての行動だったが。
そして攻略組の人員と物資が揃い、放送が全世界に向けて絶賛放映されている中、多国籍軍対ダンジョン。人類の反撃ともいえる攻略がついに始まろうとしていた。
まず彼等は他の遺跡と同様様々な場所に転送された後、地図を頼りに合流を図った。正直この階層は以前も攻略されており、抜けるのにはそれほど苦労はないはずと考えられた。
実質その通りになった。むしろ能力者が多様な力を使ってくれたことにより、最初に攻略したときよりもずいぶん楽に行けたと当時攻略に関わった軍人は語った。
モンスターも再びいたが、能力者と軍の連携によってボス部屋までは比較的楽に行けた。そして再びボス部屋に挑む攻略部隊。
数は多かったが、こちらも前回とは違い能力者達の増援もあってほどなくして終了。1層の攻略はこうして無事に終わった。
そして問題の部屋。新たな転送陣に向かうことになる。
ここまでは予定されていた作戦だ。ここからが真の攻略となった。
攻略部隊が転送陣に乗り、また複数に分かれて転送された場所。そこは1層と同じ暗闇の洞窟だった。
(ふむ…2層目も同じような地形ってことか。いきなり砂漠になりました、とかでなくてよかったかな? 同じ装備が使えるわけだし)
2層目の様子が分かっただけでも外部には影響が大きかった。
無論全てのダンジョンがそうだと決まったわけではないが、先が分からなかったため手を出せなかったという事も事実なのだ。(ひそかに部隊を送っていた国はあるかもしれないが、発表されることはなかった)
2層目に入った攻略部隊は、転送先の情報をまずは持ち帰る決定がなされていた為、各自は帰還陣を探した。幸い出てきたモンスターは1層とそう変わっておらず、攻略部隊は1人として欠けることなく帰還を果たすことに成功した。
帰還した部隊は、軍本部と各国に2層目の事を知らせた。これで多少尻込みはするも、各国も手を出せることとなった。
今は攻略部隊が出払っているため手は出さないが、帰ってきたのなら自分達も2層目の確認ぐらいはしようと思う国が増えただろう。
攻略部隊は多少休憩をとると、再び転送陣に乗る。
そしてこの時、以前から考えられていたことを試すことになった。地上の転送陣から、2層に直接飛べるのではないかという事を。
この考えは結構前から出されてはいたが、2層に行ったのがこの時初めてであった為見送られていたのだ。
正直ぶっつけ本番だが、攻略部隊の士気は高かったのでそのまま行くことになる。
そして考えは試され、攻略部隊は再びダンジョンへ。
ぶっつけ本番ではあったが、それはどうやら正しかったらしい。飛ばされた部隊が1層の地図と照らし合わせるが一致しなかったのだ。
攻略部隊はここからが本番とばかりに各々能力を発揮し、まずは周辺調査を完全なものにする作業から始めた。
こうして攻略部隊は、地道にだがダンジョンを更に1層2層と潜ることとなった。
詳しい情報は伏せられたが、道中で出るモンスターは種類が変わり、体格が大きくなった物や新種を見かけることになったという。
ボス部屋に関しても数が増えたり、ビッグサイズになった分、数が減ったりと痛し痒しといったところだそうだ。
(ビッグサイズや新種が出始めたのか…。結局潜っても2層以降も暗闇の洞窟は変わらなかったのかな? 機密事項に抵触しているのか、そのままなのか…。続きを読めば書いてあるか?)
攻略部隊がダンジョンに挑み始めてから1ヶ月2ヶ月と時が過ぎた。その間地上で目立ったことといえば、フリーと呼ばれる探索者が生まれたことだろう。
フリー、はぐれ者、不適合者、呼び方は様々だった。彼等は軍に入ることを拒みつつも、自分の能力を生かそうと動いていた者たちだった。
軍に入ることになった能力者の多くは、軍人と一緒に多国籍軍として派遣されていた。その間、自国のダンジョンに向かう軍人が減った穴をどうするかと悩んでいるところにその知らせは届いた。
国の軍が潜れないなら自分達が潜ってもいいだろうと。
正直この提案はうれしくもあったが、国としてはこちらの意図しない集団が出来る事に不安も生まれた。
彼らの多くは、国の汚点…能力者を秘密裏に集めていた事件に対し、今でも疑惑を感じている者たちだった。国の管理下の軍籍になることを嫌った集団だ。
このフリーの集団の気持ちは理解できる。かといって野放しにしていいのかという思いが残る。
そこで各国は新たな部署を立ち上げることにした。ダンジョン管理部の建設である。
ダンジョン管理部は、国をまたいで活動している能力者観察機関も関係した組織として運営されることとなった。
ダンジョンの情報やモンスターの有用部分をこの部署に降ろすことで、条件次第で様々な便宜を図れるようにしたのである。
フリー達は国の管理下ではないのならそれでいいかと、その部署を利用してダンジョンに潜ってみようと試みた。
軍の支援がないとはいえ、成人した能力者達はその力を扱えるよう教育を受けてきたのだ。
最初は失敗もあった。しかしその内彼等はパーティーを組み出し、自分の足りていない能力を他者の力で補うことで安定を見せ始めた。
火の力を使うものは、攻撃と明かりと暖を。
水の力を使うものは、ダンジョン内で喉の渇きと身の回りの水関係が必要なところを。
土の力を使うものは、攻撃と防御、泊まりの間の安全な空間を。
風の力を持つものは、物資の運搬の補助、モンスターの索敵を。
この他にもいろんな能力持ちが寄り添ってダンジョンに潜った。
フリー達がそうして安定性を見せると、ダンジョン管理部は足を用意してダンジョン間の移動を補助したり、物資の卸し先をフリーに介したりと彼らが潜りやすいよう動いた。
こうしたフリーとダンジョン管理部の動きにより、軍人が少なくなっていた各国は大いに見直すようになる。
軍が少数で賄っていた街の近場のダンジョンを彼らに任せることで、軍の人員を遠くのダンジョンに優先して動かせることに気づいた各国にとって、彼らの存在はとてもありがたいものとなった。
(フリーか…。いわばこれが冒険者ってことか。自分もこれに当たりそうだな。軍とかは今からじゃあれだし、自分には向いてないだろうさ。
フリーなら魔法制限も緩むし、軍より動きやすそうだ。この辺もダンジョン街で再度考えるか。
で、攻略組はずっと潜ってるのか? ほんと何層まであるんだろうなダンジョンって…)
フリーという、異世界ではおなじみ冒険者という存在がこの世界でもできたことをうれしく思った。実は軍関係者じゃないとダンジョン潜るのは違法なのかと思っていたのだ。
現役探索者のブログの人も実は軍関係者で、許可された情報だけ載せているだけかもと思っていた。
そして未だに潜っている攻略部隊の事を考える。フリーの登場で意識の外に一時追いやられてしまっていたが、彼らの情報は自分が今後ダンジョンに潜る際必要となるはずなのだから。




