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207話 ダンジョン2層(PT) 2層からの帰還 お昼まだかな…




 「帰還陣が見えたぞ! 皆お疲れっ!」

 「よっしゃ! ようやく地上だな!」


 先頭を歩いていた理人さんが帰還陣の部屋に着いたことを皆に知らせる。帰還陣前の通路に来た時点で問題ないとは思っていたが、陣そのものを見た事で確実に安心できた。

 これで本当に1層をクリアして2層まで行けたと言っていいだろうな。


 「やったーっ! これで帰れるぅ!」

 「無事1層クリアね!」

 帰還陣を前にして皆が喜びを顕わに出した。1月かかった攻略もこれで終了だからだろう。感動も一入かねぇ…。


 「最後の最後でこんな物を目にしましたけど概ね問題のない攻略でしたね。無事にいけてホッとしますよ…」

 「石田さん、お疲れ! それずっと持ってて大変だったろ?」

 そう言って日向さんが声をかけてきた。水晶の像を持ってない彼等から見ると確かに大変な感じもしなくもないか。


 「日向さんもお疲れ様です。

 像の重さ自体はそうでもないんですけどね…。ただどっかにぶつけたり、躓いたりしないかと冷や冷やしてましたよ」

 「壊れやすそうだもんなぁ…せっかくこうしてまともな状態なんだから欠けさせたりしないよう気を遣うわな。

 なんにせよそれもここまでだろ。後は帰還陣乗って帰るだけさ」

 「ですね」

 そう会話すると、とにかく像を帰還陣の上に乗せて帰る準備を行う。皆さっさと帰りたいのか像を乗せに来た、考えることは同じようだ。


 「とりあえず目立たないようにシートかぶせておきましょう。広場で騒がれるのもあれですし」

 「そうしよう。あまり注目されるのも面倒だからな」

 「じゃあちゃちゃっと済ましてしまおうぜ。早く帰ってゆっくりしてぇわ」

 「全く…後方担当から1人運ぶの手伝ってくれってのはわかるけど女の私にこんな像運ばせる普通?」

 京谷さん、蔵人さん、由利さんが陣の上に像をゆっくりと乗せた。唯一の女性である由利さんはどことなく不満顔だ。

 

 「って言っても後方担当は全員女じゃんか…誰でも同じっしょ? それに怪力のグローブのおかげで重くなかっただろ?」

 「重くはなかったんだけどねぇ…地上に出たら男組誰か交代頼むわよ?」

 「地上までくれば警戒も必要ないからな、日向にでも持たせよう。リーダーは報告に行くだろうしな」

 「とりあえず倉庫でいいんですかね? 軽トラで良ければ運転できますし広場まで回しますよ」

 

 中には怪力の能力を持っている女性だっているし像を担いでいようと見た目でおかしなことは言われなさそうだけどね。とはいえ女性はその辺気にするか。

 京谷さんが言うように地上に出れば警戒も必要ない。手が空いてるなら日向さんと交代で問題なかろう。少しの間だが日向さんにもこの冷や冷やを感じて貰えるだろうしな。

 そんなことを言いながら像をシートで包む。ゴーレムが運んで来た1体もシートで包み終えると準備完了だ。ゴーレムの運搬も問題が無いようで安心した。寝袋をクッションにしてたのが良かったのかね?

 ゴーレムを駒に仕舞い、最後に破片の入った土の箱に同じく土で蓋をして本当に終了だ。後は自分達が陣に乗るだけだな。


 「像の方はOKです。いつでも帰還行けますよ」

 「よし! ならさっさと帰ろうか。皆も待ち遠しいみたいだし」

 

 その言葉を聞いて皆が陣の上にやって来た。確かにさっさと帰りたいって気持ちが態度にはっきり出てるわ。

 皆が帰還陣の上に乗ったのを見届けるとスイッチを押す。上で先に転送があったのか、少し時間をおいて陣が光り始めた。

 

 今回はあまり戦闘をしなかったからかなんか不思議な気分だった。マジックアイテムを見つけたりクリスタルゴーレムの痕跡にあったりとそれらしいことはしたが何か腑に落ちない。

 2層にも来たことだし少し休んだらまた潜ってみるのもいいかな…と思った。物資はあるので無理という事もない。理人さん達と交換する香炉の試験なども出来ればいいなぁ…と考えていると視界が切り替わった。無事帰還終了…っと。


 「うへぇ…雨降ってやがる。夏だってのにジメジメするんだよなぁ…」

 そんな声と共に自分の耳も地面を叩くその音を聞いた。広場のざわつきも雨の音でわからないな。


 「夏の雨か…濡れるのは嫌だな」

 

 理人さんはそう言うと部屋の入り口にあった傘を手に取った。

 これは探索者が置いて行ったものだ。広場で順番待ちをしてる間に傘や雨具といった物を置いていくのだ。そんな物をダンジョンに持っていくのは邪魔でしかない。

 そして置いて行った物はこうして出てきた探索者が利用する。これらの貸し借りはこうして定着したらしい。


 「じゃあ俺は管理部に今回の事報告に行ってくるから。

 石田さん、軽トラ運転できるんですよね? なら像は石田さんにお任せします。丈さんを助手席に乗せて倉庫まで行っちゃってください。他の皆は荷台で像を守ってくれ。最後に引き渡すまでが俺達のやるべきことだからな」

 『了解』

 そう言うと理人さんは傘を差して先に出ていった。


 「では軽トラを借りてきます、しばらく待っていてください。怪力の手袋をお渡しするので像も外にお願いします」

 「私も石田さんと一緒に借りて来よう。そう長くは待たせんよ。傘や雨具でしばらく耐えていてくれ」

 「なるべく早めに頼むわ」

 「よろしくねー」

 皆の声を後に丈さんと2人軽トラを借りに行く。結構借りられてるらしいしそれなりの数を用意してるのだとか。なら早めに戻ってこれるかな?

 

 「しかし雨とはついてませんねぇ…荷物がある日なんて特に困りますよね」

 「ですな…ダンジョンの中は天候などお構いなしなので入ってさえしまえば気にすることもないのだが戻りがこれでは気が滅入るというもの。

 皆さんを待たせるわけにもいきませんしさっさと借りてくることにしましょう」

 「傘等があるとはいえ外で待つのも辛いですからね」

 

 2人で傘を差しながらレンタルしているところまで早足気味に向かう。外で待つ皆よりかは車の中に入れる自分達のが良さげに思える。荷台に乗っても雨はどうにもならんし…。

 さっさと皆を回収して早い所倉庫まで向かうべきと更に歩く速度を上げる2人だった。





 「はぁ…倉庫あったかぁ~い…」

 「がぁー…ひどい目にあった。結構濡れたなぁ…」

 「雨除けのテントもっと増やしてくれればいいのにねぇ?」

 「全部埋まっていたしな、間の悪い時に戻ってきたと諦めるしかないな」

 「雨具してても濡れて寒いー! 凜さん、温風お願いぃ…」

 「後で着替えないと…」

 「くっ…俺も助手席が良かったぜ」

 「まずは運転免許証を取ることだな。普通車の免許だけでもあればいろいろと便利だぞ?」


 倉庫について像や破片の入った箱を移動させ終わると自分は軽トラを返しに行くため皆を降ろした。帰りは歩きだったので少し降られたが…まぁ、この程度なら大丈夫か。


 倉庫の中は夏だというのにストーブが焚かれていた。それだけ雨に降られ寒い思いをした探索者が多いという事らしい。

 先に下りた皆も暖を取るついでに服を乾かしている所だった。交代交代で着替えに行けばいいと思うんだけどね?


 「お待たせしました。軽トラ返してきましたよ」

 『お帰りー』

 ストーブで温まりながらそう返事をする皆。こりゃ着替えてきてもらった方がいいな…。


 「像の方は私が見ておきますから皆さんどこかで着替えてこられたらどうです? 帰って来たのに風邪をひくのもなんですし…」

 「私も残ろう。荷台で雨に打たれて大変だったろうから着替えてくるといい」

 「ならお言葉に甘えさせてもらおうかしらね」

 「荷物の中の着替えを地上で使うとはなぁ…」

 「シャワールーム使いたいけど着替えだけで我慢我慢…。何はともあれ着替えてくる」

 「すまないが荷物番頼んだぞ」

 「了解です」

 皆はそう言うと荷物から着替えを取り出して足早に奥へ向かった。会議室の1部屋でも借りるのかね?


 「やはり荷台は濡れたようですね」

 「そうらしいね。像の上げ下ろしもしていたし当然と言えば当然だろうな」


 自分以上に濡れていない丈さんがそう口にする。雨の下にほとんどいなかったもんな。そりゃ一番被害が少ないか。

 皆を待つ間に像を確認する。シートも剥がれてないし大丈夫だな。壊れたなら報告があるだろうがそれもない。無事にここまでこの状態を保ったまま持ってこれたか。


 「この像ってどこに見せればいいんですかね?」

 「おそらく理人君が聞いてきてくれるだろう。素材を卸すというわけではないし遺品の提出となれば管理部預りだな。適切な部署が引き取りに来てくれるだろう」

 「遺品…って言っていいんですかね?」

 どちらかというと遺体ではなかろうか。とはいえ棺桶に入れるわけにもいくまいが…。


 「まさかこんなものを持ち帰って来るとは思わんだろうからな…管理部も少し困惑するか。とはいえこちらは遺品ですと言って預けるしかないのも事実。確認した後は遺品扱いするしかあるまいよ」

 「タグもありますし像の顔を確認すれば誰か判別も出来ます。遺品としてあれが遺族の下に行くことを考えると驚かずにはいられないでしょうね…」

 「対処に困るだろうな…。バラバラになった破片とどっちがマシかと言われると何とも答えにくいがね」

 「ですねぇ…」


 皆が着替えて戻って来るまでの間、丈さんと2人して像についてあれこれ話をしていた。

 管理部が資料として引き取りたいといった想像なんかも口にする。こんな状態の死体? は持ち帰られることもないだろうし。 

 以前頭部だけを遺品として持ち帰って来たという話はあるようだが今回は全身だ。クリスタルゴーレムの脅威を見せつけるのにはうってつけだが、流石に遺族が回収するだろうといった結論になった。いくら何でもあれ取っておきたくはないよなぁ…


 そうしてしばらく待っていると皆が戻ってきた。皆一様に格好が変わっている…装備なんかは倉庫に預けてきたとか。皮の防具だろうと邪魔だもんなぁ…。

 そんな皆と一緒に報告に行った理人さんを待つ。その間に今回手に入れた魔石を鑑定してもらったりして時間を潰した。

 この時、例の温冷の水差しを預かっておけば一緒に鑑定出来たのだが失敗したと悔やんでいるようだ。後でやるしかあるまい。

 ちなみに怪力の手袋はそのまま怪力の手袋(200㎏)だった。管理部に流さないと知ると少し残念がられたな。


 そしてさらに待つこと1時間ほどようやく理人さんが倉庫に姿を見せた。

 

 「皆お待たせ。例の像を奥で見せてほしいって。5体いるって言うと呆気にとられたよ」

 「仕方ありますまい。そのようなものが持ち込まれた記録はないのですから…。申し遅れました、私今回皆さんが持ち帰ってこられた像を見させていただく担当となっております。遺品管理の部署の者ですね」

 「こちらとしてはただお渡しするだけなのだがね…。普通に引き取っていただければそれで構いませんよ」

 丈さんが遺品管理を担当している人にそう言う。こちらは遅くなった昼もあるからねぇ…理人さんが報告しているはずだし渡してはい終わりでいいと思うのだが?


 「もちろんお話は既に…。確認でき次第私共が預からせていただきます。要は形的に引き渡したというそれがされればOKですので」

 「なるほど…形式が必要と。物が物だけに丁寧な取り扱いをしないといけないわけですか」

 「お手数おかけします」

 「ならさっさと引き渡そうぜ? 俺達がするべきはここまでらしいしよ」

 「だな。ここまで運んだんだ、最後までやるかぁ…」


 それで終わりと聞いて皆が移動する。像については管理部が用意してくれた台車があるのでそれに乗せて持ってきてほしいようだ。

 これで終わりと皆が最後のやる気を出す。ただ顔からは「お昼ー…」といった考えが見え隠れしていたが…。皆このやり取りを早く終わらせたいという思いで一致しているようだった。




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