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201話 ダンジョン1層(PT) ボス戦前夜




 昼食を食べた一同はボス部屋を目指して再び洞窟を進み始めた。

 食事をして気力も回復したのかその歩みには疲れも見られない。転送された当初のような足取りでひたすら目的地に向かって歩き続けた。


 そして今…ひたすら歩き続けたこともあり、ボス部屋へと続く通路の端に到着していた。


 「ふぅ…やっと着いたか…。皆、今日はここまでだ」

 「はぁ…やっと探知を終えられるわ…」

 「明日香さんお疲れ! 次は俺達の番だな!」

 「明日で1層の攻略が終わるか…1月かかったがようやくといった感じだな」

 「最初はいろんな依頼こなしながらだったから仕方ないじゃない? 1月あったからこそダンジョンにも慣れたんだし」

 「まぁ、早いPTなら数週間で2層に行ってるって言うし京谷さんがようやくって思うのもわかるけどね。」

 「でも私達は安全性を取ってたから仕方ないわ。丈さん以外学校卒業からほとんど経ってない新米も新米なのだから」

 「安全性…な…。まさか攻略間近であんなことなるとは思いもしなかったけどよ。

 本来ならあいつもここに居るはずだったって言うのに…」

 「そればかりは…な。

 いざ攻略! という時期に安全性の大事さを思い知らされた教訓として私達の中にいつまでも残るのだろうな。私達が彼のためにしてやれる事と言えばここでしっかり攻略してやるほかあるまい」


 皆それぞれ、ようやくここまでたどり着いたという事に感慨深い思いがあるようだった。

 1月という期間は初心者探索者(ルーキー)として考えても少し遅いらしく、数名はさっさと2層に行ってしまいたい願望が見えていた。


 「ここまで来たんだ、もう目と鼻の先なんだし今から急いても同じことだよ。あと少しの我慢だ」


 理人さんが逸る気持ちの数名を窘める。確かにここまで来てしまえばほとんど違いはない。急いだとしても何も変わらんだろう。

 それどころか焦ることでちょっとしたミスを引き起こしかねない。当初の予定通り、万全の態勢で挑んだ方がいいと思うね。


 「安全性を重視しているのでしょう? ならばここで急いても仕方ありませんよ。

 一昨日参加した私に皆さんの気持ちはわかりませんが、どうせ今夜か明日の朝の違いだけです。急ぐ理由もないのであれば今まで通りで行った方がいいと思いますよ?」

 「…そうだな。ここで焦っても仕方ないか。1ヶ月かけたのだから確実に突破できる方を選ぶべきか」

 「それに明日香さんは疲れてるもんね…。皆が万全の状況で行かないと危険か」

 気持ちも落ち着いたのか、気が逸っていた2人は通路に腰を下ろして休憩の態勢に入った。これから明日の朝までここで待機となる。


 「石田さん、皆にお茶をお願いします。一息ついたら野営の準備をしましょう」

 「ええ、わかりました。ボス戦前ですからね、しっかり英気を養いましょうか」


 そう言って理人さんにお茶を渡す。陶器のコップの方が味わい深いからという事で、ここに来るまでの休憩の際にそうお願いされた。そのぐらいは構わないからね。

 そうして皆にお茶を配っていった。

 この通路は帰還陣までの通路と同じく、モンスターがやってこないし湧かない通路らしい。ダンジョンにおいて安全地帯と言われるのはこの2カ所の通路だけという事もあり、皆完全に休養モードだ。

 

 「んー! ボスの前だって言うのに完全休養できるのはいいよねぇ。まるで休んでくださいって言ってるようなもんじゃん」

 「言い換えれば万全の状態で挑めとも聞き取れますけどね。

 今は特にそんな思わないのかもしれませんけど、下の層に行く度この休憩場所がありがたくなっていくんでしょう。それこそ到着と同時に眠りこけるほど…」

 「モンスターが居ないからねぇ…どうしたって気が緩むわよ」

 「私は今からでもありがたいわ…。ゆっくり休める場所なんてダンジョンじゃほとんどないんだから」

 女性4人が集まってお茶をしながら完全休養を満喫していた。水筒に追加のお茶も入れてあるし、おかわりはそちらから使うとのことだ。


 「まぁ、なんにせよこういう場所があって助かるよな。トイレ休憩ができる小部屋は湧きが少ないってだけで0じゃねぇしな。ここみたいなモンスターが居ねぇ場所ってのはもっとあってくれていいと思うんだわ…」

 「だな。せめて途中途中にあってくれればそこで長めの休憩も安心して取れるんだがなぁ…」

 こっちは男同士で集まってのんびりお茶休憩だ。日向さんと蔵人さんがダンジョン内にここと同じような安全地帯がもっと欲しいと口にする。


 「この通路と帰還陣の通路は特別感を出すためにあえてそうしてるとも考えられるな。あくまでダンジョン内だという事を忘れるなとも取れる。

 それにダンジョンからしてみれば、気を抜いてやらかす人間が増えてくれるというのならここと同じような安全地帯を各所に作ることもやぶさかではないのだろう…」

 「京谷君の言う事もあり得なくはないな。ダンジョンはそういったいやらしい考えを躊躇なくやるイメージだ。

 現に新たな通路を作ったり、元からあった通路を消したりと手を加えている。そういったことも不可能ではないだろう」

 「とはいえ…モンスターの素材とかを手に入れたまではいいですが、安心できる帰還陣の通路まで気を張って持っていくってなると大変です。途中で休める場所はやっぱり欲しいですよ。戦闘の疲れなんかもそこで取ってから帰還陣に向かいたいし…」

 

 京谷さんと丈さんは、ダンジョンが人間をこれ以上被害に遭うように仕向ける為にもあり得るのではないかと口にした。だとしても、今の状態を少しは改善してほしいと思う理人さん。

 しっかり気を付けていれば安全地帯は人間にとって有用ではあるが、それでも危機意識が下がることは間違いないだろう。

 あと少しで安全地帯だ…そう思って安心し、気が緩む人は絶対いると思う。事故が増える確率は上がりそうだ…。


 「どっちにしろメリットデメリットはつきものですね。ダンジョンが人間に対して良いことだけをするとは思えませんし。

 安全地帯増やした分、モンスターの湧きも増やしました…なんてされるかもしれませんよ?」

 「そいつは困るな…ただでさえ道を選んで進んでいるというのに」

 「中堅や上位の人等は逆に喜びそうにも思うけどね。探す手間が省てたってさ?」

 「困るのは俺達みたいな初心者探索者(ルーキー)だけか…」

 「基本割りを食うのは弱者だし、仕方ねぇっちゃねぇ気もするが…今以上に初心者探索者(ルーキー)が減りそうだなぁ…」

 「やっぱり多くを求めちゃダメかぁ…」


 モンスターが今以上に増えるという自分の言葉を聞くと、全員が困った表情を浮かべた。1層をやっと攻略するというPTにしたら確かに困る要素だわな。

 とはいえこれはもしもの話でしかない。実際にどうなるかなんて誰にも分らないのだ。その時にならないと何とも言えないだろう。

 ダンジョンの気分一つという何とも困った話だ。


 そんな話をしつつお茶休憩を終えた。これから夕飯を軽くとって明日に備えて休まねばならない。万が一にも明日は疲れを残すわけにはいかない日だった。


 「よし、それじゃあ各自夕飯を取ってゆっくり休もう。モンスターは来ないはずだから夜番は1人でいいかな?。時間が来たら交代ってことで」


 理人さんはそう言うと夜番の順番を決めた。これも結構経験済みなのか、皆はなにを言うでもなく受け入れていた。

 明日香さんが当番から外されているが、やはり探知係としてここまで一番大変だったからだろう。ゆっくり休む権利を与えられてるみたいだ。

 そしてやって来た食事の時間。これからが水魔法能力者の忙しい時間だ。


 「石田さん、お湯頼むわ。この鍋に入れてくれ」

 「わかりました。夜はカップ麺じゃないんですね」


 日向さんが持っている鍋は中華鍋だった。荷物に括り付けられていたあれだろう。

 弱い攻撃ならそれ自体が盾にでもなってくれそうだと思って見ていたものだ。


 「流石にこの後寝るだけだしな。レトルトの雑炊が夕飯だよ。温めるのにお湯が欲しいんだわ。それと鍋置くための土台を適当に作ってもらっていいか? 火は自前でいけるしな」

 「竈ですね、了解です。ついでに自分のもいいですか? レトルトのお粥なんですけどね」

 レトルトのお粥はあまり美味しくないと嫌悪していたが、トッピングすることでずいぶんマシになるのを休みの間に見つけていた。ちなみに今回ははトッピングとして高菜の刻んだものを持ってきていた。


 「おう、他の奴のも温めるし構わねぇよ。やっぱ一日の終わりは温かいもんを食いたいからな。レトルト食品も人気だわ」


 日向さんはそう言うと、温めるもんがあればまとめてやっぞーと、皆に声をかけた。

 そして次々に集まってくるレトルトパック。やはりお粥やら雑炊が多い。中にはカレーや牛丼のパックもあるけどご飯は無しでいいのかね?

 数が多く何回かに分けて温めるようだったので、即席で鍋を新たに作り増設した竈にかける。

 土魔法使いがいりゃ鍋要らんなー…と由利さんに目を向ける日向さん。それを受けてそっぽを向く由利さん。どうやらこういった細かい形を作るのは苦手なようだ。

 

 「まぁ、苦手なところを補えるのも同じ能力者のおかげということで…。日向さんも変に煽らない」

 「へーい」

 「全く…」

 

 どうやら以前にもこういったやり取りはあったらしい。そこまで本気で言っていたわけではないらしく、口喧嘩にもならずに終わった。

 そしてしばらくして全部のレトルトパックが温まり、各自がそれを受け取って夕飯を取る。自分も高菜の刻んだものを入れて夕食にした。

 

 (やっぱりそれなりに味のある物をいれると結構マシになるな。なめ茸なんかも追加で入れると更にいい感じかも。

 それとこっちの世界じゃまだ食べるラー油って見たことないんだよなぁ…あれを入れても結構美味しそうだわ。今度自作した奴入れてみっかね?)


 夕飯を取りながらそんなことを思う。基本ご飯のおかずになりそうなものは結構行けると考えている。

 明日はまた別の物を入れる予定だし、トッピング次第ということもあってダンジョン飯として定着しそうな気がしてきた。

 

 (そういやこの後寝るだけなんだっけ? 自分の番は明け方近くってことだし、今日最後の仕事として寝床の整備と風呂用意するか。体が温まれば眠りにもつきやすいだろう。

 今日とかほとんどなーんもしてないんだからこれぐらいのサポートはしないとだなぁ…。依頼を受けた以上、出来る事はやらんとなんか落ち着かんわ…)


 夕飯を食べたらさっそく取り掛かろうと思う将一。

 皆もお湯で体を拭こうかぐらいは思っていたのだが、思わぬところで嬉しい誤算だと満場一致で喜ぶのだった。




 


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