19話 施設での調査(6) 戦後の復興 現れた能力者達の可能性
世界におびただしい被害を出した戦争は約1ヶ月ばかりで終結した。
しかしその間に各国に残した爪痕はあまりにも大きい。やはり街中や近隣のダンジョンでモンスターを討伐せず、調査に思いとどまったことでモンスターがいきなり沸いたことが後れを取った原因と言われた。
モンスターがいきなり沸いた町中がパニックとなり、初動が遅れている間にもその数を増やし、迎撃準備が整ったころには手が出せる数ではなかったらしい。
それに現れたモンスターも第1層で見たことのあるやつだけでなく、自分たちが知らないモンスターが多数現れたことも押された一因だったと。
結局手遅れになった町は、モンスターを遅滞させるため空爆し、ミサイルまで落とす羽目になったという。自国の町にミサイルを撃たなければならない決断は相当荒れたのではないかと憶測されている。
ミサイルで自国を焼き払いながらも、それが問題の解決にはならないのも痛かった。ダンジョン内のモンスターを1体でも倒さなければ、ダンジョンは排出をやめない。ダンジョンの周りを排除はできてもすぐに次を出し続けるのだ。ミサイル攻撃も時間稼ぎにしかならなかった。
いざというときは核を使うことも検討されたが、その案だけは最後まで許可されることがなかったのは幸いだろう。
時間が経つにつれ、次から次へと押し寄せるモンスターの群れに防戦一方を余儀なくされる人類。あの玉砕ともいえる人柱作戦が決行されなければ、世界からもう何国かは地図から消えていたはずだと時が経った今でも言われている。
地上におびただしいモンスターと人の死骸を残し、なんとか収束した戦後。各国のトップたちはこうなった原因を至急調べなおす必要があると誰もが言う。
なぜモンスターがあふれたのか? ダンジョンに送り込んだ者たちが後続を絶てた理由は何なのか? ダンジョンの危険性を再認識するには十分だった。
そしてダンジョンの調査は、もはや各国でそれぞれ対応していたのでは間に合わないと判断された。
今回の大戦でどこも余裕はないが、それでも泣き言を言っている場合ではないのだと。
国同士が険悪だったところだろうと、戦地復興に力を貸して早急にダンジョンの再調査はしなければならない。人員や物資などを調整し、それぞれ派遣することになった。
いつまたこのような事が起こるのか、人間にわかる者など誰1人として居ないのだから。
(皮肉なもんだ…全世界共通の敵が現れたからこそなんだろうが、こうでもならなきゃ人は人種も宗教も超えて協力なんてなかったんじゃないか?
それに協力したといっても表面上の物で、水面下ではお互いに今でもなんかやってたりしてるんだろうさ。それでも元居た世界程じゃないのなら…良いことではあるんだろうな。
で…各国でなんとかしてダンジョンを止められないか、復興しながらも解析と調査を続けた…か。数が数だからな、復興もあるし遅々として進まないみたいだな)
戦後の復興と依然としてダンジョンの調査を同時にやらなければいけないことに各国は悲鳴を上げるが、再びモンスターとの戦いはごめんだと生き残った人間はやれることをやった。
軍はとにかくモンスターを間引くことを第一と念を押された。特に、手を出しにくいダンジョンからモンスターが排出された場合、今度は人を送る間に都市が耐え切れないと判断された。
都市近くのダンジョンは必要最低限な人員だけで、時間をかけてでもいいから命を大事にしつつ狩れる奴だけを狩れと。
そんな作戦で、次の年のモンスターの沸きは遠くからは出なかったが、都市から中程度離れたところから出てきた。
しかし今回の湧きは思惑と一致し、今度は最初から迎撃態勢をとっていたこともあって、被害は前ほどではなかったのが幸いだった。
そしてダンジョンが現れてから3年目。人々の中から不思議な力を持った子供の話題が流れ始めた。
そんな子供を、人々は能力者と呼んだ。
(能力者? ここにきて初めての情報だな。名前から察するに超能力とかそういった力を発揮したってことだろ? ダンジョンが出現した所為か…世界にモンスターがあふれた所為で人類が生き残るため的な力に目覚めたのか…。これも異世界の因子を含んだ影響なんだろうけど)
新しい単語を見つけた将一は、さっそく別ページで検索をかける。これまた一番上にあった、能力者の歴史というページをとりあえず開いて読み始めた。
―能力者―
第3次世界大戦の次の年、その子供たちの姿は多くの人の目に映った。
最初は幼児の周りで小火が起きたり、物に傷が入ったりといった不思議なものだった。しかし、そうした不思議なことは成長した子供の周りでも再び起きた。
その内その現場に居合わせるものが増え、子供がどうやってか火を出したり、水を浮かせたり、土を固めたり、風を起こしたりといった不思議な現象を目にする。
大人たちは子供に聞いてみた。今のは何なのか、どうやったのか。子供たちは首をかしげながらもやってみたら出来たと言う。中には自分がやったという自覚がない者もいた。
その他にも記憶力がやたらと良い子供がいたり、物に触れずとも動かせたり、怪力を発揮出来たりと、実に多様な力を持つ子供たちが見つかった。
そんな子供たちに研究者が目を付けたのは時間の問題だった。
子供たちは能力判断テストという名の実験に付き合わされる。もちろん国が観察したうえでの公式なものだ。
その結果は驚きの物だった。
今までそれが出来たのはダンジョンのモンスター達ぐらいで、まさかその力が人間に発現するなど誰も考えなかったことだ。
国はすぐさま彼等を公表することを決めた。新たな時代の担い手として。
だが、その能力者の子供達をすぐに受けいれられなかったのは仕方がないことだろう。
人間の子供とはいえ、数年前に自分達をこうしたモンスターの使う力と何が違うのか? そんな力を野放しにして危険はないのか?
民衆の中から能力者を疎ましく思うものが自然と現れた。
各国は対応に迫られることとなる。ダンジョンの事もまだまだ途中だし、復興だって途中だ。さらに能力者を受けいられない勢力までできてしまった。国の中には発表は軽率すぎたかと後悔する者も出てきた。
しかし確実に言えるが、国がこの時発表しなくても能力者に対する偏見や妬みは変わらなかったろう。時代が進んだ今でも一部は能力者を疎んじているのだから。
そんな能力者の子供たちが見直されたのは、国から発表があった時から2年が経ってからであった。
子供故飽きやすく持続力はないが、目の前で街が壊れているのをずっと見てきた。自分もお手伝いをしたいという子供の素直な心は、偏見を持っていた者たちの気持ちに波紋を起こした。
街の復興中に、たとえ親切心を持った子供がいたとしても普通は相手にしない。しかし、能力を持った子供たちは大人顔負けの働きをしてくれたのだ。
火の力を持った子は、夜の寒さと闇を追い払った。
水の力を持った子は、喉の渇きを潤し、労働後に綺麗なお湯で安らぎを与えた。
土の力を持った子は、重機ばりに土砂を移動させたり、田畑の土をおこした。
風の力を持った子は、暑い日には涼風を、寒い日には温風を。
記憶力がいい子は、指示されたことを教えてくれ、メモ帳いらず。
怪力の力を持った子は、足りない重機の代わりに重い物を動かしてくれた。
物を自在に動かせる子は、物を動かさなければいけない所ならどこでも重宝された。
子供故に、確かに長時間は無理だ。中には遊びの延長感覚のような子もいた。しかしこの子達の力を知った現場の者は、皆が予定していたよりもずっと早く終わったと口をそろえて報告してきた。
この結果が1月2月と続けば、最初は懐疑的だった者たちも納得しざるを得なかった。何よりこのような苦境の中、子供が頑張っている姿を見て、自分達が文句を言って作業を遅らせる姿は見せられなかった。
それから月日が経つにつれ、表立って能力者を侮る者は極端に減った。子供たちの方も、自分達がこれをやっているのだと教えられると喜ぶ顔の子が増えた。日ごとに変わっていく場所を見るのが楽しかったのだ。
無論、能力者の子供たちを疎んじる者は一定数残った。
子供を働かせるなんて…すぐいなくなるじゃないか…。理由はいくつも出る。
不満を言われた者は、確かにそれはそうだが…と、彼等の言い分も理解はできた。
この者たちの言うこともわからないではない、かつては自分達もそう口にしていたのだから。
しかしだからと言って、あの頑張っている子供たちに面と向かって今更いらないなんて言葉は、とてもではないが言うことが出来ないのも事実だった。
能力者の活躍は日増しに良くも悪くも衆目を浴びた。
(能力者かぁ…自分が神様にもらった力もこっちの世界で言う能力者に類する力なんだろうか? こっちの世界の能力者にまだあったことないからわかんないけど、いろんな能力者の力をまとめたのが魔法の力ってことになるのかなぁ…。ダンジョン街でこれについても聞いてみないとな)
将一が神々から与えてもらった魔法の能力。火も水も土も風も時間や空間さえこなす万能な力。この世界の人達みたいに自然に発現したわけではない所が悩みの種だった。
(こっちの世界に来た際、神様が自分の事についていろいろ骨を折ってくださったみたいだし、たぶんそういう扱いになっているとは思うんだよな。
ただこちらの世界だと能力者って力が1つだけなのかな? だとしたらあまりにも多くの種類使ってると目立つかぁ…。これもダンジョン街で考えなきゃなぁ)
最初の生活空間づくりで魔法をいろいろ使ったのは自分だけの秘密にするか…と思ってしまう将一だった。
神様がせっかくあまり目立たないようにとこの世界に変えてくれたのに、自分からそれを壊すこともないだろうと。人目に付くところでは出来て2,3種類に止めておくかと頭の隅に置いておく。
(でだ…結局能力者は一部に疎んじられながらも戦後では大活躍してその地位を上げていったわけか。まぁ自分で使ってても便利だなって思うしな。活躍できる場があれば認められもするよなぁ。彼らが成長してからが本領発揮ってところか? 記事にもあるが、子供の時分じゃ厳しいだろうし)
彼らの今後の活躍にご期待ください…という、ありきたりな言葉を思いながら記事の続きに目を戻す。
能力者が復興に関わってからだいぶ時間が過ぎ、再びモンスターが出現するかという時期まで1ヶ月を切っていた頃、各国では能力者の今後について真剣に考える必要があった。
能力者の力はモンスターに匹敵する。この発言がそもそもの発端だった。
モンスターと同じような力を発揮するからといってそれを戦闘に使うつもりか? その発言があった時、各国はそう思った。
あの力が戦闘で活きるのは、『使える』からではなく『扱える』からだと。復興で使うのと戦闘で使うのとではあまりにも違うと誰もが思った。
しかし各国は、心のどこかでそういった活躍も必要だと感じていた。
軍の人間が大勢亡くなった今、能力者が今後ダンジョンで活躍できる可能性は何処の国も考えた。
復興の合間、各国は若い男性に軍で働かないかと募集をかけ続けている。大戦の影響で、軍はダンジョンに復興にと、疲労困憊なのはどの国も同じなのであった。
未来をかけた政策として、能力者育成を目指す必要があるとどの国も見ている。
今の能力者の地位は決して高く見られてはいない。
しかし、今後国の、世界の未来を左右する存在だと感じた各国は、今から動くべきだと周囲に同調を求めた。




