188話 次の探索に向けて準備を
業務用スーパーに行った次の日の朝、将一は管理部に来ていた。
次の探索に向けて資料室の情報を更新(PCコピー)する為に。
「ふーん…あれから結構新しい通路増えてるっぽいなぁ。逆に無くなってる通路もあるのか…これは地図をいろいろ書き直さないといけないな…」
資料室で早速PCのコピーを済ませた将一は、新しく追加された情報なんかを見ていた。1層のマップなんか赤色で修正された箇所が結構ある。
新しい通路もそうだが、閉じた通路なんか予定していた道が無くなったりしてルート変更が余儀なくされる自体なんかも起きているらしい。古い地図は更新しないと使い物にならなさそうだな…。
この現象は5層まで起きているという事でそちらのマップも確認してみるが、確かに赤で修正されてる箇所がいくらか見受けられる。
とはいえ1層ほど多くは無いようだ、おそらくまだ調査が進んでないからだろう。これからどんどん増えることになると思うが…。
「せっかく書いたのにいろいろ書き直しかぁ…まだ潜ってすらいない階層の地図とか後回しで良いよな?
6層からは変化ないみたいだしまだ楽か…とりあえず2層ぐらいは急いで修正しないと…」
これでは2層に行ったとしても地図が役に立たないことになりそうだ…。
ナビの魔法が使えるからまだ何とかなるけど、地図そのものが違うとおかしなことになるかもしれんしな。(壁に向かってルートが引かれてたり…)
鞄の中に手を入れると空間魔法からノートと筆記用具を取り出す。鞄さえあればいつでも取り出すように見せかけれるのほんと便利だわ。
資料室をすぐ出るのもなんかあれだし…ここで2層の地図だけでも加筆修正をやってしまおうとPCに向き合う。
まぁ、その前に今居る1層の方をやらないといけないんだが…。
一から書き直すわけでもないし休み休みやって昼までに書ければそれでいいだろうと、結構気楽に構えながら腕を動かした。
前回書き写した際に目が疲れすぎたこと思い出す。根を詰めてまで作業したくないぞ…と。
「ん~っ! おわったぁ…。たった2層だけなのになんか疲れるなぁ…マッピング作業はどうも苦手だわ」
探索者としては苦手と言ってられないのだろうがね。別のダンジョンに行けばこの作業が毎回待っているわけだし…。
「ほんと、これに関しちゃ印刷させてもらいたいわ…。書いた方が覚えられるんだろうけど流石にこの量は覚えてられんだろうに…」
記憶力が良い能力者ってのはこういった物も覚えてられるんだとしたら地図要らずだよな。これ覚えてられるのは素直にスゲェと思うわ…。
その場で伸びを一度すると、ノートと筆記用具を鞄(空間魔法)に仕舞う。とりあえず資料室での作業はこれで終了と…。
今日は成田さんも見かけないし、特に話し相手も居ないとなるとこれでお邪魔するかと思い、自分の使ったPC前を片付けて資料室を出ていく。管理部での用事はこれだけではないしな。
「の、前に…腹ごしらえしてからだな。郷田さんが居たら昨日の感想でも話しながら食事すっかね」
資料室を出た足で食堂に向かう。今日はなにを食べるかなぁ…と考えながら、昨日の土産話でも話せる相手は居るかと思いつつ。
結果的に言うと誰も居なかった…。
郷田さんは居るかと厨房の人に聞いたのだが、今日こそは本当に仕入れに出ているらしく会う事が出来なかった。残念…。
特に誰とも会わなかったがそれで食堂を去る理由もなし。今日のお勧めと書いてあったメニューを注文して食べた。
何やら昨日は森林鮭が大量に持ち帰ってこられたらしく、それを使っての鮭三昧だったようだ。今日はその名残で鮭を使う料理がお勧めという事だった。
(というわけで食べた料理は森林鮭を使った鮭チャーハンだったんだけど…。いや~、脂がのってて美味しかったなぁ!
鮭フレークを使って作った事はあったけど、あそこまで脂がのってる鮭を使って作ったことなかったからなぁ…。ハラスで作るとあんな感じなのかな? 今度自分でも作ってみるか…)
具材はレタスと卵、そこに鮭の3種類。結構簡単に揃えられるとあってチャーハンはよく作っていたっけか…。ハラスはよく焼いて食ってたんだけどなぁ。
購買で買ったウーロン茶を飲みながらそんなことを思う。確か森林鮭はスーパーの鮮魚コーナーにあったはずだし材料は問題ないな…と。
(って…そんなことはまた今度考えるとして…今はこの依頼表の確認しなきゃな。いったいどれだけ依頼あんだこれ…?)
昼食を食べ終わった将一は、管理部に来た理由のもう1つの場所…2階にある依頼受付所に来ていた。
(正確には受付所前に設置されたコンピュータールームだな。いや、ほんと…これやってることがハロワじゃねぇか。確かにある意味仕事探しって事じゃ同じかもしれんけどさ?
依頼を受けるっていうと現代だとこうなるんだなぁ…結構憧れてた場面であったんだがね)
周りには自分と同じようにPCの前に座りながらカチカチとクリックする者ばかりだ。時折唸りながら、どれがいいか…と迷う姿なんてまさしくハロワの姿だった。
まだPTでワイワイ言いながら仕事探しするのならいいのだが場所的に1人1人区切ってるのがなんかねぇ…?
(もっとあれはどうだこれはどうだと言いあいながら受けるもんだと思ってただけになんか悲しいよな。まぁ、そうワイワイと言い合うようなPTメンバーなんかいないんだけどさ…)
周りと同じく1人でウンウン唸りながらPCを確認する作業にも飽きてきた為、つい先ほどのようなことも考えてしまったがそろそろここに来た理由をしっかりやらねばと気合いを入れなおす。
ここは依頼を更新することが頻発ということもあり、情報を家で見るというのも出来ない。
良いのを見つけて管理部に来た頃にはもう受注されてたなんて事態にもなりかねないのだ…。
(これだけはここで見ない事にはどうしようもないからな。とにかくまずはどんなのがあるかだけでも見ておかないと…)
依頼の種類は多岐にわたる。探索者が受けれる作業がそれだけ幅広いという事だ。なにもダンジョンに潜るだけが探索者ではないという事だろう。
(というより能力者の仕事が…か。探索者が能力者の仕事の1つってことだもんな。
どうしても能力者=探索者ってイメージが自分の中にまだあるなぁ…工場とかでも見てただろうに)
能力者の働き口が多岐にわたるというべきか。
気持ちを落ち着かせる能力者にベビーシッターの依頼…。
空を飛べる能力者に個人輸送の特急便依頼…。
水中を見通せる能力者に海底探索同行依頼…。
土魔法を使える能力者に畑の土おこしの依頼…。
ほんといろんな依頼があるなぁ…それだけ能力がいろいろあるってことか…。まだプリントアウトしただけでしっかり見れてないもんな、あのコピー紙の束…。
時間ができた時に暇を見てと思っていたけど明日にでも1回じっくりと見てみるべきだろうか?
とはいえあの膨大な数の用紙を見るには色々大変そうだ…。
(とりあえずダンジョン関連に限定して依頼を見ていくかな…。まずは探索者活動を優先で良いだろ)
PCを操作してダンジョン依頼と絞り込む。これだけでも膨大な数だった。
それもそのはず…何も依頼表に載ってるのはこのダンジョンに関しての依頼だけではないのだから。
(ダンジョンが違えば出現してるモンスターの割合も変わるってことだもんなぁ…。向こうであまり見かけないモンスターの素材なんかをこうして依頼に出してても何らおかしい話じゃないってことか。こりゃもっと絞り込まんとダメだわ…)
さらに絞り込み、この街のダンジョン限定にする。これでだいぶ絞り込めた。
(食堂からの食材調達依頼か。これは前に聞いたことあるな…。過食可能なモンスターなら結構引き取ってくれてるっぽいな。あ、でも流石にラット系やバット系は買取値段安いし需要が低になってる…。田島さんも言ってたな…食べてる人が限られる食材ならそりゃそうだわな。
お? エッジタートルの肉や内臓が結構いい値段してるな…地底湖が人気無いから持ってくる探索者も少ないって事かね? 納品する程在庫はあるんだけどねぇ…)
空間魔法の中に捌いたやつが丸々残っているのだ。食べ方を聞いて作ってみようと思い、保留中の食材が結構あったりする。ヘビーアリゲーターの肉なんかもエッジタートルと同じくいい値段してたりするな…。
(けど普通はダンジョンから直で運び込まれるもんなぁ…。
冷凍してたとしてもそれを運び出してる所を誰も見てないのに持ってきたら不審に思われかねんし…出すに出せんな)
もともと今回は魔石のみを納品するつもりだったので素材に関してはノータッチだ。これでゴーレムが持ってる所でも見せてれば卸せる言い訳も立つのだが…。
(今回は諦めだな。都合よく依頼と合致してるモンスターの素材はあるけど見送るしかないか。次の探索時にはゴーレムに持たせて帰って来るとすっかね)
素材はあるが仕方がないと割り切る。依頼の期限を見ても急ぎというわけでもないしまた今度でもいいだろうと思うことにした。
(えーっと、他には…。ん? 水魔法を使える能力者急募? 依頼内容は…おっ!? 1層の突破目的! やっぱり今回を機に突破しようとするPT居たみたいだな)
その依頼表を確認するため内容にしっかり目を通してみた。
どうも水魔法使いが攻略間際に同行できなくなったので代わりの人員を急遽募集することにしたらしい。怪我でもしたのかね?
役割なんかは面接時に説明すると書いてあり、ここに詳しい内容は載っていないようだ。まぁ、水魔法の能力者を指定するんだから飲み水確保は間違いなく頼まれるだろうな。
(面接場所は…訓練室にいるから声をかけてくれ、か…。
攻略するともなると事前の訓練なんかも気合い入れてやってるんだろうなぁ。
とりあえず面接だけでも受けてみるってのは有りかねぇ? こっちが気に入らない場合もあるし、その逆だってあるだろうからな。
急募するくらいだからそう長い間この依頼表は出てないだろうし…)
少し考えるが、とりあえず受けるだけ受けて向こうの出方を見ることにした。役割なんかが気に入らなければ依頼キャンセルも十分可能な範囲だしな。
PCを操作して依頼受注の場所をクリックする。すると、PCについている機械が依頼番号を印刷したシートを吐き出してきた。これを受付に出せば受理してくれるらしい。ほんとハロワ…。
とりあえず依頼主のPTは今も訓練室にいると予想し、依頼の受注をしたらそっちに向かってみるかとPCの前から立ち上がる。
資料室のPCと同じでデスクトップ画面に戻しておけばそれでいいらしく、自分が座っていた所を片付けるとその足で受付けに向かった。




