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181話 郷田さん達と雑談




 「う~ん…冷凍して真空パック状態を探索者に販売ですか…」

 「おう、そうなんだわ」

 「どうですかね?」

 

 槍一さんと一緒に以前考えていた案を店長の郷田さんに話してみた。

 結果は…どうも悩んでいる感じだな。まぁ、直ぐにっていうのは無茶だろうけどさ。


 「例えば今俺が食ってるこのシチューなんかをよ、1人前に小分けして冷凍しておくとかってできねぇのか?」

 「出来ない事はないですね。真空パック用の袋に入れて空気を抜いた後に冷凍すれば1人分のものが出来ます。後は保冷バッグなりクーラーボックスに入れればそれなりの時間冷凍を保つでしょう。しかし…」

 そこまで言うと郷田さんは考え込むようにして顎に手をやる。問題はまだあるといった所か。


 「まぁ、言っておいてなんですけどクリアしなきゃいけない課題がそれなりにあるのは私達もわかってます。

 まずはそれを作ってくれる人手。余計な手間がかかる分作業時間に遅れが出るでしょうからそれを何とかする必要があるでしょうね。

 次に衛生面…いくら冷凍にしたとはいえ、いつどこで食中毒になったりするかわかりませんよね。それも自分達の手を離れて個別に調理されると料理に問題があったのか、食べる工程で問題があったのか判断するのが難しい。売り出すとなればそこらへんも考える必要が出てきますし。

 ダンジョンで食中毒になって腹痛を起こそうものなら命に直結しますからね。細心の注意が要ると思います。

 それと商品にして問題がないかなどのチェックもいるでしょうし、冷凍庫にそれを置いとく用の空きを確保したり冷凍したものの売り上げなんかを確認する手間など…挙げたらきりがありませんよね」

 「ははは…お若いのによくわかってらっしゃいますね。ええ、そういった問題などがありますから今すぐにどうこできるものではないんですよ」

 「はぁー、結構良い案だと思って賛同してたが実際売りに出すと…いや、売り出そうとすると…か。商品にするまでにクリアしなきゃいけない問題が山積みってわけかい。少しは俺にもやんなきゃいけないことがあるとは思ってたが、そう口にされると面倒臭せぇもんだな商品にするまでってのはよ」

 「そうなんですよ…特に食品衛生に関してはいろいろクリアしなきゃいけない基準がありますから面倒この上ないです」

 「…石田さん、調理学校にでも行ってらしたんですかね? なんならうちでバイトしますか? 厨房の手はいくらでも歓迎しますよ」

 郷田さんが自分を見ながらそう口にする。確かにそれもいい。実際そこで働いてればどういった料理が有るかとかわかりやすいしな。モンスター料理を自分で作るうえでの参考になるだろうし興味深い提案だ。

 

 (しかしバイトねぇ…探索者とはいえ短期のバイト(依頼?)をしてる人もいるしあんがい声かけられること多いんかね? 田島さんだって訓練室の観察員やってたりするし。槍一さんも火の魔石のエネルギー補給のバイトしてるんだっけ? いや…探索者になる前の話だったか?)


 意外とバイトをするのも悪くはないのかもと思った。

 とはいえ今は探索者の方で手いっぱいなのも事実。掛け持ちするような余裕はないよな…。


 「嬉しいお話なんですけど、今は探索者の方を頑張るのに手いっぱいでして…ある程度自分の中で落ち着いたらこちらからお願いに行くかもしれません」

 「いえいえ、こちらはいつでも構いませんよ? 万年人手は募集中ですからね。かれこれ数年単位で厨房スタッフのバイトを募集してますし。それだけやることが多い仕事場ってことですから」

 「俺も一時期皿洗い程度でバイトしてた気がするが延々と皿洗ってたぜ…特に夜なんて次から次へと洗いもんがやってきやがる。

 そういう意味じゃ水の魔法が使える将一は適材適所じゃねぇか? 人力食器洗浄機っぷりの活躍が出来そうだな」

 「ほう? 水の…」

 郷田さんがそれはいい! といった顔を見せる。やっぱりこっちでも能力者は好待遇とかあるんだろうか? 


 「水の能力という事はお湯だって出せちゃいますよね。いちいち沸騰させる手間なんかも減らせますし、水の能力を使える人はバイト代を上げてるんですよ。その代わりいろいろ頑張ってもらうんですけども」

 「調理と水は切っても切り離せませんからねぇ…食材の洗浄にしろ調理に使うにしろ。厨房の掃除だって細かい所が洗えますし」

 「それと氷水のようなキンキンに冷えたものだって出せるでしょう? 鍋を急激に冷やしたいときなんかも頼めます」

 1人でも厨房に居ると何かと便利なんだと口にする郷田さん。生前の経験故、厨房での必要性もそれとなくわかってしまった。


 「既にバイト経験済みか? 皿洗い以外も出来そうじゃねぇか将一よ」

 「いえ…自炊するんで使いそうなところがなんとなくわかるってだけですよ。お店での規模だと使う量が段違いな気がしますね」

 「未経験者じゃない分こちらとしても教えるところが少なそうでそれはそれで助かります。もしお時間が出来ましたら是非バイトに応募してみてください。いつでもお待ちしておりますよ」


 そう言って郷田さんはニコリとほほ笑んだ。しかしその目からは今すぐ来てくれていいんですよ? と言ってるように思えて仕方ないんだがな…。

 その目を見ながら苦笑いをして時間がありましたら…と言葉を濁して返事をしておく。入ったら結構頻繁にシフト組まれそうで怖い所があるぞ。


 「あ、そう言えば少し聞きたいんですけど…この食堂で使ってる麺ってどこかから直販されてます? 今食べてるうどんや蕎麦が美味しいので買えるんなら買えたらなぁ…って」

 「業者から買ってたはずですよ? 一般のスーパーには卸してなかったと思いますね。買うのであれば業務用スーパーになら置いてるかもしれませんねぇ…」

 これはいい情報が聞けたと、内心で喜んだ。空間魔法という保存先がある自分としては業務用で買えるのならむしろありがたかった。


 「槍一さん、街案内の時に業務用スーパーって案内してもらいましたっけ?」

 「あー…俺はあんまし利用しねぇから紹介してないなぁ。大量にあっても探索者やってると余らして使いきれねぇからな。地上帰ってきた時には悪くなってましたってことがあってもあれだしよ…」

 「ダンジョンに持っていくってのはしないんですか? PTなら消費も出来ると思いますけど?」

 「んー…持っていくって言っても何持っていくよ? 

 俺らが居るのは11層の森林エリアだからな。基本はあっちで現地調達できるもんが多いし、肉類なんてモンスター狩れば何頭単位で手に入るんだぜ? 野菜だって現地の新鮮なもんで十分だしよ。それを調理できるかはPT次第だがな…」

 そう言えば槍一さん達が居るのは地上に逆に卸しているような食材にかかないエリアだっけか…洞窟エリアとは真逆だったわ。


 「調味料とか?」

 「基本獲れたもんは塩コショウで事足りる食事事情だからなぁ…。1瓶分…多くても2瓶ありゃ余るな」

 「インスタント食品は…袋麺とか」

 「ちっと手間はかかるが現地のもんを料理した方がうめぇし、そっち食った方が探索もやる気が出るからな。持っていくにしろいざって時の携帯食料ぐらいだな。

 瑞々しいやつより干したやつのが好きって奴はドライ系を持ってきてたりはするかねぇ?」

 「え~っと…あっ、パンとかどうです? 炭水化物系で持ち運びしやすいですよ」

 「パンって…あの丸っこいようなちょっと硬めに作ってあるような奴か? 悪かねぇが…本格攻略をするでもなければ滞在日数なんてせいぜい数日って所だ。食パンで十分だな。わざわざ業務用スーパーで買うもんでもねぇわ」

 「んー……森林エリアの探索者だとそこまで必要性が無い感じですか…。

 槍一さんほとんど自炊しないって言ってましたし…それなら確かに紹介しませんよねぇ」


 こればかりは案内をかって出てくれた槍一さんの需要と合っていない店だったから仕方ない所もあるか…。槍一さんが自炊でもするんであればあの時知ることはできたかもしれないけど…たらればだな。

 他にもダンジョン街にあるのに知らない店ってのは多そうだなぁ…と、やはりもっと歩き回ってみなければダメかと思った。


 「場所なら私がお教えしますよ。店舗が大きいですから敷地がある郊外に建てられていますし、あそこは用がある人だけが行く店って感じですね」

 「基本は近場のスーパーで揃えますもんね。そこの近くに住んでる人が行ったりはありそうですけど、よほどの量が欲しいとかでない限りあんまり行かれませんか。」

 「杉田さんのお話を聞く限り、11層メインの探索者さんはあまり利用しない感じですね。むしろ洞窟エリアを探索してる人たちの方が利用しますかね?」

 「洞窟内での食用可能なモンスターは限られますからねぇ…インスタント食品のような手軽に食べられる物はありがたいと思います。

 地底湖に行けば食用可のモンスターも出てきますけど…人気ありませんからね」


 探索者という職業的間柄、大量の物資を安く揃えられるというのは攻略に役立つがそう頻繁に使うような店でもないかと理解した。

 洞窟エリアの探索者は使うこともあるだろうが、こっちはこっちで周りがずっと閉鎖空間という所為で食欲がそう刺激される環境ではない。食べるものは基本手早く簡単に済ませられるものが多そうだ。

 食肉なんかは洞窟エリアだとありがたいが、重量や環境を考えると持っていく選択肢から外されることもありそうだよな…。


 「基本大量消費を一気に行える環境にいないと業務用スーパーに行くことって少ないですね」

 「そうだねぇ…私達みたいなお店が本来の売り手になるから個人だとどうしてもね…。それこそ複数人で分けて使うの前提なら問題はなさそうだけども。探索者の人達だとPTで分けるとかするなら需要に合うんじゃない?」

 「後今回のような時には利用されてると思うぜ。洞窟エリアに複数のPTが調査やら討伐目的で行くからな。物資集めもあるし、安く大量に買うってことで軍が業務スーパーに行ってんだろうよ」

 「ああ…それはしてるだろうねぇ」

 その言葉を聞き、確かに多くの探索者を集めて洞窟エリアのモンスターを何とかしようとする今の状況だと利用されてそうだなと思った。


 (なるほどねぇ…こういう緊急事態もあるから業務用スーパーはダンジョン街にあるのか。物資を集めるっていうのもそんな直ぐ何とか出来るもんでもないしな)


 という事は他のダンジョン街にも業務用スーパーがある可能性は高いだろう。もしいつか行くことがあっても買い物には困らなさそうだ。

 

 この話の後、郷田さんから業務用スーパーがある所の地図を書いてもらった。すると槍一さんが、日持ちするツマミなんかもあるんなら俺も行くかと言い出した。確かにそういったものも置いてあるよな…。

 自炊をしない槍一さんにも利用目的が出来たようで、今度一緒に行くかと誘われた。元よりそこに用があった自分としては構いませんと答える。

 ダンジョン帰りで少し休むつもりだったこともあり、行くのは明後日に決まった。


 それと郷田さん自身も久しく行けてないらしい。一緒に行きたがったのだがあいにく明後日は仕事の予定があるらしく、自分達をうらやましそうに見ている。

 いや…あなたは仕入れと言えば出てこれるだろうと、2人して郷田さんにツッコミが入ったのだった。



 


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