178話 いろいろな説明
秘書さんが戻ってくるまでの間盾に再び興味がわいたのか、増田支部長は攻撃を受け止めるという遊びのような感じで暇をつぶしていた。
攻撃役に回るこちらはは毎回あの奇妙な感覚を味わうのでそろそろお終いにしたいのだが…。
「うぅむ…やはりいいものだな。私が現場に居た時にこいつが欲しかったものだ…」
今も自分の拳を何食わぬ顔で止めながらそう呟いた。
やはり現役時代は盾を使った前衛でもしてたのかね? ショットガン片手に盾を装備してたとか? 軍人さんの最前列装備ってなんだろうな…。
増田支部長って意外と階級高そうだし、マジックアイテムで身を固めてたってこともあるか。そんな人が最前列っていくもんなのかね?
管理部の支部長クラスになったという事は軍の退役時にはそれなりの階級だったろうしそんな人が前線張るって…。他の隊員さんらが必死になって付いて行った姿がなんか目に浮かぶなぁ…。
出来ればお偉いさんは後ろに居てほしいと思うのは自分だけではないはずだ。
さぁ次だ…と、増田支部長が口にしたところで部屋の扉がノックされた。やっと秘書さん戻ってきてくれたか!
なんか残念そうな顔をしながら入室許可を出す増田支部長。そんなに現役時代思い出せて楽しかったんですかねぇ…。
「失礼します。聞き取りが終わりましたのでご報告を…何ですか? その盾」
「いやいや、これは気にしないでくれ。っと…これはお返ししよう」
「あ、はい…」
そう言って盾を受け取る。よかった…この謎のスパーリングも終わりに出来て。
盾を受け取ると互いが席に着いた。
「では報告を頼む」
「畏まりました。PTリーダーが田代という名前での調査結果は5人でした。その内19歳で火魔法使いという条件だと1人に絞れましたね」
「まぁ、同じ苗字の者は普通に居そうだしな。それで?」
「はい。田代 学。その名前でヒットしましたが、現在はダンジョンからの帰還が記録されていました」
「そうか…」
帰還できてたかぁ…と、死を願うのはあれだが出来れば未帰還だと面倒がなかったのにと思わずにはいられなかった。
「そういう事だ。石田さんが救助した3人のPTリーダーはダンジョン外にもういるらしいな」
「みたいですね…はてさて、どうなることやら」
「まぁ、ここから先はそのPTリーダーとその救助したメンバーの話だ。石田さん的にはもう終わった話になるのではないかね?」
「だったらよかったんですけどねぇ…」
精子提供やらなんやらで無関係ではいられなさそうな予感をひしひしと感じているのだが…杞憂で済めばいいなぁ…。
「せっかく助かった命ですからね。これからは面倒事なく普通に生活してほしいという些細な願いですよ…」
「まぁ、それもわからんくはないな。救助した者としては今後の生活がしっかりしたものであってほしいと思うのは普通だろう」
増田支部長も自分の言葉に同意する。
しかしあの3人の目を見ている以上穏便に済むかどうか怪しいのが気がかりなんだよね。恨みは相当深そうなんだよな…。
「とりあえずはしばらく様子を見るしかないですね。まず何はともあれ、しっかり回復してもらってそれからでしょうし」
「そうだな。なんにせよ体力をまずは取り戻すのが先決だろう。
回復魔法を使う能力者も病院にはいるし、そう時間はかからずに元の生活が出来る体にはなるだろう」
「あっ…助けた3人ですが、探索者をやめるかもと言ってましたね。何でも今回の事で相当応えたようで…」
「むぅ、そうか…。まぁ、今回のような目にあったというのであればそれも仕方ない…な」
洞窟エリアの中層に行くか行かないかというPTではあったが、2人は他のメンバーを見捨てた為探索者として生きづらくなった。
そして3人は今回の件で探索者そのものに疲れた様子だ。他のメンバーに至っては全員既に死亡…。1PTがほぼ壊滅したこととなった。
ダンジョン探索においては日常茶飯事かもしれないが、探索者が減るのはそれだけ管理部にとっても痛手だった。
「あ…でも管理部スタッフとして就職するかもとも言ってましたしそちらで3人新人が増えるかもしれませんね」
「ほう? 探索者としてのダンジョン経験があるスタッフは意外と助かるのでな。それは朗報だ」
「まぁ、未定なんですけどね…」
それでもいいと、笑顔で頷く増田支部長。それだけ管理部スタッフの人員も切羽詰まってるってことなんだろうか?
「さて…話は以上かな? だとしたらこれで終わりにしよう」
「そうですね…今回お話しておきたいことは以上です」
米田さん達からの報告依頼、森田さん達救助した者についての話と、言いたいこと聞きたいことの全ては終わったはずだ。
「探索明けに長々とすまなかったな。ゆっくり休養してくれ」
「いえ、こちらこそお忙しい時期にお時間を作ってくださってありがとうございました。
それとお言葉に甘えさせてもらってゆっくりと過ごさせてもらいます」
「あー…それと例のモンスターの話についてだが…話が決まり次第連絡が行くと思うから、こちらに来れるようにだけはしといてくれると助かる。今週中には決まると思うのだがね…」
椅子から立ち上がり、さて部屋から出ようか…という所で増田支部長が例の話をしてきた。そういやそれの話もまだあったんだよね。
「私の方としてはそこまで急いでおりませんので管理部の方が落ち着いてからでも問題ありませんよ。その間にダンジョン探索をいろいろしたいと思いますし」
「そうか? 持ち込んだ本人がそういうのであればありがたいがね。
とはいえ今は職人の方からせっつかれている状況でな…。モンスター素材の金を早く加工させてくれ…とね」
「まだ売りに出してもいないのにずいぶん気が早い職人さんもいたものですね? 私としては例の異常湧きの証拠として管理部に預けてるだけなのですけども…」
管理部お抱えの武具職人だろうか? そこならアレの存在も知っているだろうし、あるんなら早く加工させろと言ってくるのもわかるけど…まだ売ってないんだぞ?
「そういうわけでなるべく早く買い取りたいとは思っているのだが…なにしろ値段が値段だからな…」
「最終的な値段はまだ聞いてませんけどそれほどですか?」
「聞いてないのかね? まぁ、そうだな…この支部から出す過去最高金額なのだけは間違いないと言っておこう…」
その言葉を聞くと、うへぇ…といった気持になった。いったいぜんたいあれにどれだけの値を付けたんだか。聞くのが怖くなってきたぞ…。
「金の需要が現在高いという事もあって買い取り高が増えているのもあるし、アレはあの姿のままの方が価値があるのではないか? と言う者もいてな。鋳溶かすのに反対してる派閥と職人連中が議論をしてたりな…。はぁ…」
「あー…そういう人達も出てきたんですね」
確かに切断はされているがくっつければそれなりの姿を保ったゴールデンゴーレムの標本としての価値もあるか…学者さん等かね?
「今となっては扱いが難しいから保留としているが…何とも面倒な事態になったものだよ」
「…お疲れ様です」
持ち込んだ本人としてはなんと言えばいいのかわからず、とりあえずその言葉だけ口にしておいた。
「全くだな…。とはいえ、持ち込んだ石田さんにこちらの話をしても仕方ない。早急に話を決めなくともいいという知らせをしてくれただけ感謝しておこうか」
「はあ…」
確かにそちらの話には自分が口を出すことではないだろうし、わざわざ入りたくもない。結果だけを待っていればそれでいいだろうと、藪蛇をつつくことは避けた。
そして今度こそ面会してくれた礼を言って部屋を出る。
面倒事とはなるべく関わりたくないという思い故だが、すでに物を持ち込んだ以上切り離そうにも無理な状況だ。
自分としては結果を待つ…。なるようにしかならんと思いながら、増田支部長と面会した部屋から離れていった。
「すいません、お見舞いなんですが今大丈夫でしょうか?」
増田支部長との面会を終えた将一は購買に少し寄ると医務室に向かった。一応3人を助けた経緯は管理部に説明してあると伝える為に。
「はいはい…おや? ゴーレムの。あの3人なら奥で寝てるよ」
「そうですか」
デスクに座ってこちらに返事を返してくれたのは先ほど自分の所に来た医療スタッフさんだ。一応知り合いという事で面会もスムーズにいけるのはありがたい。
「状態はどんなもんでしょうか?」
「過度のストレスによる衰弱だね。まぁ、荷物もなくして碌な装備も無しにダンジョンに居たんだから当然っちゃ当然だわ。見つけた時は相当だったろ?」
「ですね…何とか喋るぐらいまでは回復してくれたようなんで助かりました」
でないと状況の把握も難しかっただろうしな。
「そこがちょっと不思議なんだけどねぇ…よく喋れるようになるまで持ち直したもんだ。胃も荒れてたし内臓の機能もかなり弱ってる、けど喋る元気はある…普通は喋るのすらだるいはずだってのにさ?」
「助かったと安堵したからじゃないんですか? それだけ彼女達が生きてやろうって思えたからこそでは?」
体力回復の魔法はバレてはいないが少し不思議がっているようだ。やはり専門家から見たら不自然だったか…あの時は仕方なしにやったからなぁ…。
「生きようとする気力故…って言われると何とも言えないね。人間の底力って奴は侮れないものだしさ」
「ですよね? それで…寝てるって言いましたけど起きてはいますか?」
「ああ、横になってるが正解だね。もちろん今は寝て体を楽にさせてやるのが一番健康になる近道なのは間違いないけども」
「じゃあ少しだけ。睡眠の邪魔するのもあれですから」
「あいよ」
そう言うと案内をしてもらう。移動中に周りを見渡すが、やはり危険なダンジョンの近くだけあってか医務室はでかい。病院に行くまでもない人はここで静養したりするんだろうか?
そしてしばらく歩くと、名前の出てない1室の前に案内された。うん…なるべくなら名前は隠しておいてもらった方がいいだろうね。
「ちょっとお邪魔するよ。3人に面会だ。あんたら連れてきてくれた人だよ」
「石田さんですか…? 入ってもらってください」
ちょいちょいと中から手招きされたのでそのまま部屋に入る。ベッドも4つあるしどうやら4人用の部屋みたいだな。
「お疲れ様です…話の方は終わったんですか?」
「お疲れぇっす。意外と長かったっすね」
「こんな格好で申し訳ない。あ…石田さんの替えの服は今ランドリーに行ってるそうです」
「3人共お疲れ様。
話の方は終了だね。3人を見つけた経緯とかも話してきたから心配しなくていいよ。とはいえもうしばらくしたら病院の方に移送なのかな?」
そう言って医療スタッフさんを見る。頷いたからそういう事なんだろう。
「病院の方に行くみたいだし後は安心して静養してね。着替えの方は後で自分で取りに行くよ」
「ありがとうございました」
「石田さん、ありがとうッス」
「ありがとうございました」
どういたしまして…と口にすると、手に持っていた物を医療スタッフさんに渡す。よくある経口補水液のペットボトルだ。水よりもこういったものの方がいいかと思い買ってきた。スタッフさんが折を見て出してくれるだろう。
そして管理部にどうしてこんな状態になったのかという説明をしてきた話を3人に話す。もちろん神判なんかの話は今は除外して話すが。
3人ともその話を聞き、管理部としては明確な証拠がなければ動けないという事を知ると表情を歪ませる。確かに自分達の証言以外の証拠は何一つないとわかっているようだった。
「そうですか…なんとなくそんな気はしていましたが…」
「証拠ねぇ…」
「あんな非常時にカメラで撮ってられるわけないだろうに…」
「まぁ…リーダーの田代さんだっけ? その人に関しては管理部も悪評があるって目で対処するらしいし、探索者活動は制限がかかるかもって話だったけどね」
その話を聞いても3人の微妙な表情は変わらなかった。まぁ、明確な処罰がないってなるとねぇ…。
その後にリーダーの田代さんが地上に帰還してることなんかを教えてあげた。そこで3人の目が据わったものになる、やっぱり穏便にとはいかないかもしれないなぁ…。
「なんにせよ今の君たちは体を健康な状態に戻すことが第一だからね。それからの事は元気になってから考えるように」
『……』
何とも納得がいかないといった表情だが、そこもわかってはいるのかしぶしぶと頷く3人。
とりあえず体を動かせるようにならない事にはどうしようもないと言って、後の事はスタッフさんに任せた。
部屋を出る際になにかあれば連絡しますと、あの時渡した名刺を振る森田さん。
それに苦笑いで答えるとそのまま部屋を出る。彼女らの恩返しという名の精子提供についても考えることがあるんだったと、部屋を出たところで頭を抱えた。
あの考えを本気でやる気なのだろうか…と。




