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177話 すごい能力もあったもんだなぁ…




 「なるほどな、そんな事態に遭遇したか…」

 「まさかの出来事でしたね。モンスターが出待ちしているのかと思いましたし」


 増田支部長に森田さん達3人を救助したところから帰って来るまでの出来事を話した。

 過去にもダンジョンではぐれ探索者を救助した話はいくつかあるのか、そこまで驚いた様子は見せなかった。


 「それで今は管理部の医務室に居るわけか」

 「医務室勤務のスタッフさんですかね? 3人ほど来てストレッチャーで運んで行きましたよ。後は専門家の人達にお任せしてきました」

 「まぁ、地上まで連れ帰って来た時点で十分してくれたからな。探索者の死亡率を少しでも下げてくれたことに感謝しよう。

 しかしPTリーダーがメンバーを出し抜いて逃げ出した…か。…何とも難しい話だな」

 「難しいんですか?」

 口元に手を当てて考え込む支部長。管理部としては動けないってことかね?


 「状況がその通りなら、緊急事態故の行動として咎める対象にはならんからな。

 探知能力者のメンバーを連れて2人で先に逃げたとして…自分の一番近くに居たからという言い訳も立つ。まぁ…逃げる際に周りに一言も言わなかったとなれば、2人だけで逃げたと言われてもおかしくはないがね。それにしても気が動転していて声がけを忘れたと言われればあまり強くも責められんからな」

 「そういうものですか…まぁ…確かに証拠は何一つありませんからね。この話自体助けた探索者3人からの証言だけです。

 自身の命が危ない時に作り話として出したとは思えなかったので私も信じていたんですけど…生命の危機に瀕していたために記憶を悪い方向へと作り変えたのではないか…と言われれば否定はできませんね。パニック時に確かな記憶を有していたかどうかは何とも言えませんし」

 「そういった場合もあるだろうな。まぁ、3人共食い違った証言をしているわけではないから少しは信憑性もあるが…これも3人がダンジョン内で危険な状態だったからこそ『そうだったんじゃないか?』と思い込んでしまってる可能性もある。もちろん見たそのままを石田さんに話しているという事だって十分考えられるのだがね」

 「…間違った記憶を作り出してしまい、それが本当にあった事だと思い込んでしまっているという可能性…か。本人は嘘を言ってる自覚がない分なんとも判断しずらいですね」


 個人的には嘘や間違った記憶で話してはいないと思いたい…だが彼女達の危機的状況を鑑みるにそういった可能性も無くはないんじゃないかと思った。

 カメラなどの映像があるわけではない、証言だけだと信憑性はいまいちだろう。人の記憶なんて曖昧なものだ…特にパニック時なんてものは。

 

 「ダンジョン内だと立証できませんからね。彼女達無事助かったんですから何とかなってほしいものですが…」

 「うぅむ…自身の身を危険にさらす覚悟があるのなら手が無いことはないが…」

 「え? なんか手立てがあるんですか?」

 増田支部長が唸りながらそう口にする。どうやら手立てが無いわけではないらしい。

 

 「有るには有る…ただ嘘や間違いを口にすればそれで終了だ。その助けた彼女達が間違った記憶で間違いありませんと口にした瞬間、罰は彼女達に下るだろうな」

 「罰って…誰が下すんです?」

 「見方はいろいろだが…よく言われているのは神が下している説だな」

 「え?」

 その言葉を聞くと、一気に頭の中が???で埋まった。いったいどういう事なのか…と。


 「聞いたことがあるかはわからないが、裁判所限定で使われる能力がある。『神判』という能力だ」

 「『神判』…」


 なんとなく能力だろうなぁ…とは思っていたが、まさか神が関わってくる能力があるのかと若干胡散臭く感じてきた。

 将一にとって神と名が出てくる話はどれもが胡散臭く思えて仕方がない。実際その神様の手によってこの世界に送られた経緯を持つのだから当たり前っちゃ当たり前だった。


 (神様が現在手を出すなんてのはそれこそよっぽどの時だけだろう? まぁ、自分の運命を狂わせた神様がいるから0とは言えないけどさ…)


 神様達が現状手を出さないというのを本人(本神?)達から直に聞いている身としては、たとえ能力だろうと無いのでは? と思った。

 しかも隠れてひそかにというわけではなく、周囲にわかる形で行われる裁判で手を出すなんてあり得るのかと…。


 「本当に神様が判断してると思ってるんでしょうか?」

 「私自身はあまり信じていないがね…それでも一定数はいるんだよ。なにしろ現に神判の能力が発揮しているからな」


 話によると子供の証言が取り扱われなかった事件でその能力は使われたらしい。

 子供は本当のことを言って犯人は嘘を吐いた。その瞬間犯人の体に電撃が奔って体を焼いたのだとか…。


 子供の証言が信用されないのは世界が変わろうと同じだ。信憑性に欠ける…そう思い込んでるだけかもしれない…そんな理屈から証拠として取り扱われることが無い。

 だが神判の能力はそんな理屈なんて知った事ではないと、本当に正しい証言をしてる者にはお咎めなし。嘘や間違った証言をした者には電撃を奔らせるという事だった。


 「自分の身を危険にさらしてでも証言するつもりがあるのならそういった手段がある。本当に真実を求めるのならば神判の能力を受け入れるといった手は取れるだろうな」

 「けど自覚がなく、間違った情報を真実だと思い込んで口にした瞬間…」

 「そういう事だな…」


 神が罰を下してる云々は正直どうでもいい…おそらく能力的にそうなっているだけだろう。しかし能力的にも神が審判を下していると言った方がすごそうに感じる部分はある。

 神罰による電撃…裁きの雷とかって表現よく聞くもんなぁ…。

 増田支部長が言うには、その能力者をまるで神の代行者として信奉している人もいるとか。

 わからなくもないが完全宗教の教祖扱いじゃねぇか…できれば近づきたくないぞ…。

 

 「能力者本人が宗教なんて何でもいいだろう…といった考えの持ち主だったりするから変な事にはなっていないがね。日本人なんてそんなものだろう?」

 「まぁ…そうですね。海外にもその能力者っているんですかね? そっちはちょっと怖いですが…」

 「居るとは聞くが…宗教家に祭り上げられてるなんて話は聞かんし、いたって裁判官として正否を判断する役職をこなしていると耳にしたことがあるな。

 宗教家からその能力の持ち主が出ないことを祈るばかりだ…」

 「まったくです…」

 下手したらそれこそ神の代行者として祭り上げられる事態になりかねんよなぁ…





 「んんっ…さて、少し話が逸れたな。

 まぁ、もし証言だけでも身を危険にさらす覚悟があるのなら手が無いこともないというわけだ」

 「なんともすごい能力ですね…どうするかは彼女達次第でしょうけど、そこまでの事態にならないことを祈りますよ」

 「そうだな…そのPTリーダーが潔く謝罪をするというのならば我々管理部としては何とも言えん。それから評判に響くのは仕方があるまい。指名で依頼が来ることはないだろう」

 仕方がなかったとはいえ、真っ先に逃げ出したのは探索者として後に響きそうだ。それに新しくPTを組むのも今後はしづらくなるだろう。


 「とりあえず現状そのPTリーダーがどうしているかという事を聞きたいのかね?」

 「そうですねぇ…2人になりましたし、地上に帰還できているかどうかぐらいは知っておきたいのですけど…そういう事って聞いてもいいんですかね?」

 「まぁ、同じPTの生き残りのメンバーの代わりに聞くという事でそれはいいだろう。受付で申請すれば探している探索者がダンジョンに潜っているかいないかぐらいは聞けるからな。…少し待ってくれ」

 そう言うと増田支部長は机を3回叩いた。人呼ぶ合図ね。


 「お呼びでしょうか?」

 「!?」


 増田支部長が呼んだ相手を見たが内心驚いていた。しばらくは顔見せしないほうがいいと言っていた秘書さんじゃないか!

 秘書さんは一度だけ自分の方を見て少し表情を変えるも、直ぐに増田支部長に視線を戻した。あれ? 意外と問題ない感じか? 


 「ああ、すまないがダンジョンの出入りを確認しているところで名前の確認をしてきてほしい。出てきているかそうじゃないかを知りたい」

 こちらが不思議そうに思っている間に要件を話す増田支部長。彼女もう現場復帰してたんですね…と聞くのは後にするか。


 「畏まりました。それでなんてお名前でしょうか?」

 「あー…石田さん、そのPTリーダーの名前は何というのかね?」

 「え? あ、はい。私が聞いたのは田代という名前です。歳は19で、能力は火の魔法を使うそうです」

 「と、いうわけだ。その条件に合う名前の者がダンジョンを出たか出てないかを聞いてきてくれ」

 「畏まりました」


 そう言うと秘書さんはもうこちらを見ることなく退出していった。

 出て行ってしばらくしたタイミングで今の事を聞いてみる。


 「増田支部長…彼女とはしばらく顔を合わせない方がいいとご自分でおっしゃいませんでしたか?」

 「まぁ、そうなんだがな…。彼女が戻ってきた時に今回の事について詳しく詮索しないこと…と言うと彼女もそれに頷いてな。

 タグを持ってきてくれたことに感謝は有れどそれだけだとね。私はそれを聞いて現場復帰を承諾したわけだ」

 「内心どうなのかわかりませんが…」

 「そうだな…しかしその言葉を私は信用した。私の顔に泥を塗ってくれるような性格はしてないと思いたいね。

 それと…管理部としては今忙しくてな…。私も早々に秘書が戻ってきてくれんと困るというのが本心でね…。

 彼女は優秀だし、今の状況だと早い復帰はありがたいという気持ちもある。管理部の運営の為にも承諾した部分が無いこともない…。現に私の認可待ちの書類なんかがだな…」

 「はあ…」

 何とも現実的な問題が差し迫っていたようだ。管理部の運営に影が差すような事態になるようならやむなしというのは理解できるけども…。


 「そんなわけでな…彼女がこうして秘書として戻ってきてくれたわけだ。まぁ、いつまでも顔を合わせないというのが難しいことは最初から知っていただろうし…」

 「ええ、そうですね。私も管理部の運営に遅れが出るような事態は困りますしそこまで気にはしません。見たところ大丈夫そうではありましたし?」

 「いきなりですまなかったな。まぁ、今後管理部内で見かけることがあるかもしれんから注意してくれるとありがたい」

 「わかりました」

 

 そして秘書さんが戻ってくるまでたわいもない雑談を増田支部長として時間を潰す。腕輪の性能試験はどうだっただの、ソロでどういう風にして潜って来ただのと言った話だ。

 その話の中でゴーレムを連れて潜ったと言った所、「噂のゴーレム連れは石田さんだったか…」とそんなことを言われた。

 なんで増田支部長の所までこんな噂が来てるのかと若干呆れてしまった。本当…ゴーレムってどれだけ珍しがられてんだよ…。


 

 

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