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174話 ダンジョン1層(ソロ) とりあえず落ち着いた?




 「えーっと…それはつまりどういうことだ? 結局さっきの話とあんまり変わらなくないか?」

 「やけっぱちなのがいけないと言ったじゃないですか…これはそういったのではありませんよ?」

 「うん…ちょっとこっちも混乱してきたぞ。お礼の話だったような…」


 なんか話がずいぶん変な方向言ってないかコレ? とりあえずダンジョン内でこれ以上の展開は無くなったとみるとマシな方向にはなったのかな?

 結局森田さんは体をお礼の代価にってのは変わってない気がするけど…ひとまずは落ち着いた話が出来そうか?


 「石田さん…精子提供の話をお聞きなった事は?」

 「あー…先輩探索者に街案内された時にそんな話を聞いたかなぁ…」

 「なら話は早いです。

 ……おそらく両親には探索者なんてやめろって言われると思います。それは残念ですが…一緒に組んでいた皆と探索することはもう叶いません…もう2度と…。

 私も今回ので少し嫌気が出てきました…。関わるとしても探索者の経験を活かして管理部でスタッフでもやろうかな…?

 そうなると私もこの歳ですし…両親は結婚を考えろって言ってくると思います。…それを何とかするのにも今回石田さんにお願いしたいんです」

 

 そう言うと森田さんはよろよろと立ち上がり、部屋の前に置いてある水を取って来ようとしたので代わりに取ってきてあげた。

 落ち着くためにもゴクゴクと水を飲み込む。さっきまでヒートアップしてただろうし、水でも飲めばまた少し落ち着くかね?

 森田さんが水を飲み終わるのを確認すると、今度はこちらが口を開いて質問してみた。


 「あの制度ってよく知らないんだけどどういうものなの?」

 「まぁ…気にしない人は詳細知らないですよね。私みたいな無能力者の女性は調べますけど…。

 要は結婚はしないけど子供が欲しいっていう人が使う物です。

 今回の事で結婚なんてしたいって思わなくなりました…両親は薦めてくるでしょうけどごめんです…。だけど子供は産みたいですし育ててあげたくはあります。なので石田さん…あなたに精子提供をしてもらいたいんです…知らない人とやるのは私はちょっと…」

 そう言うと森田さんがこっちをじっと見つめてきた。やけっぱち気味に体でお返ししますって言われてるよりはいいんだけども…なんだかなぁ…。

 

 「石田さんへのお礼は相変わらず私の体ですけど…私はそれで精を頂きたいんです。

 石田さん言ったじゃないですか? もっとしっかり考えろって…。石田さんに助けてもらったこの命を大事にするなら次の命を育むのが私の生き残った意味でもあると思います…。

 助けてもらった命ですから…しっかり生きていくためにも子供を産みたいんです」

 「それでまだ大丈夫な私から精子の提供を…ってことですか。確かに最初よりは考えてはいますけど…」

 

 結局お礼に自分の体を…って考えは無くさんのね。

 森田さんにしてみればそれで子が出来るとついでに自分の利にもなるってことらしいからwinwinな関係って言いたいのだろうけども…この制度なぁ…。


 「資金的には今までの貯えも出来てますし…両親もなんだかんだで子供に弱い所があります…孫なら私の時よりかわいがるかもしれませんね…。

 普通に結婚してほしいんでしょうけど…それは私の方が耐えられません…。命の恩人である石田さんが提供者となってくれるのならまだ納得してくれると思うんです…。

 子供が出来た後は私の問題です…。国からは支援も出ますし相談なんかも乗ってもらえるみたいですから…。石田さんとはそれまでですけど…その間に恩返しできればいいですね」

 「そこに関してはあまり考えなくていいんですけどね…。

 はぁ……とりあえずその話は無事地上出てからにしましょうか。しっかり休養していろいろ落ち着いてから話聞きますので…」

 『はい』

 

 自分は森田さんに言ったつもりだったのだがなぜか後ろの2人からも返事が聞こえてきた。なんか嫌な予感が…。

 恐る恐る後ろを振り返ると、先ほどまでと変わらない姿でじっと自分を見ている4つの目とかち合った。


 「あの…なぜ2人も返事を? そりゃ地上に出てから今回のお礼について話をしましょうと3人に私は言いましたけど…」

 「え? 私達も同じ条件でいいッスよ」

 「私達に異論はないので」

 その言葉に再び思考が停止した。同じ条件って…。

 

 「まさか2人も森田さんと同じ精子提供をしてくれなんて…」

 「当たりッス。うちらも探索で石田さんに恩返しできるとは思えないッスから…」

 「仲間がいなくなってPTは瓦解しているし…年齢的にそれもいいかな…って。

 精子提供者が能力者の石田さんなら子供についても安心できるし…唯の両親程私の所はうるさくなさそうに思います。命の恩人からの提供なら納得するかと…いえ、納得させます」


 田々良さんが「あたしも納得させるッス」と、最後に言葉を足す。

 それ等の言葉を聞くと呆気にとられたのか、口をポカーンと半開きにして2人を見つめる事しかできなかった。ちょっと理解が追いつかん…。


 「あ…え…? ちょ…ちょっと待ってくれ…? 君達…自分が何言ってるかわかってる?」

 「命を助けてもらったお礼が探索で返せないからって事ッスよね? 唯の話聞いてるとそれもいいかなぁ…って」

 「何より私達も結婚を勧められたとして…それを受け入れたくない気持ちは同じです。唯の思いに共感する部分が多々あるんですよ…」


 2人の目から自分達を置き去りにし、見捨てて逃げたPTリーダーへの恨みが感じられた。男を信じられないというより憎しみの方が強く出てる気がする…そりゃ結婚したいとは思わんか…。

 そんな2人の目を見ていると、男としてはどう言ったらいいものかと思い、視線を彷徨わせることになった。下手なこと言えばもっと憎しみが増しそうだ…。


 「あー…うん…とりあえず3人の考えはわかった…とにかく今日はもう疲れてるだろうからゆっくり休も? 

 見張りはこっちで引き受けるから3人は休んで少しでも早く調子取り戻せるようにね」

 それだけ言うと、地面に落としていた着替えを3人に渡す。というかいつまでも下着姿のままはこっちの心臓に悪い…。


 「ああ…そうですよね。見張りを完全にお任せしちゃうことになりますよね…またお手間をお掛けして…」

 「すいませんッス…なんか話が終わったと思ったら急に疲れが…」

 「体の調子を整えることが先…か。手間ばかりかけることになるし…」

 「そういう事だから3人共今日はもう寝床に入って休んじゃって。なんかあればちゃんと起こすからさ」


 服を着た3人を砂の地面に変えた寝床に案内する。適度に内部の熱を上げてあげれば風邪をひくこともないだろうと小部屋の外から思う。体力が落ちているところに風邪なんかひいたらそれこそやばいだろうし。

 小部屋の中に入ってしばらく見守っていると七輪の所に戻ってくる。これから朝まで見張りの作業を学ばないとな…と気合を入れる。眠くなれば眠気覚ましにあっつい風呂にでも入るかと考えて。


 (それにしても…死にそうな探索者を助けたまではいいけどまさかこんなことになるなんてなぁ。あんまり言いたかないが恨むぞ、PTリーダー君よぉ…完全に今こうして頭を悩ませてんの君の所為だからな…)


 暖を取りながら見張りをしているが、先ほどの話について考えずにはいられなかった。

 PT全員で決めた事(?)とはいえ、それで彼女たちの人生が大変なものになり、自分とこうして関係している。それに大半のメンバーは人生終了だ。結果的に間違った選択って奴だろう今回の探索は。

 中堅クラスや上位クラスが出張って対処している件をなぜ洞窟エリアの半分も超えてない自分達だけでいけると思ったのか…。せめて中堅クラスのPT1つとでも一緒に行動していればこんなことにはならなかったかもしれないというのに…。


 (PTリーダーが最終的に決めたんだろうから責任もリーダーに行くのは当然だよな。ましてや生き残ったうえで見捨てたはずのメンバーがこうして助かった…こういった場合PTリーダーに責任ってどう行くんだろうか? 

 探索者は基本自分本位だし、緊急事態だったというのを言い訳に自分達だけ逃げたとしてもお咎めなしってこともあるのか? そうなったらあの3人どう出るんだろうか…死んだメンバーなんて浮かばれないな…)

 

 個人的な気持ちとしては責任をしっかりとってもらいたいが、探索者がダンジョンで亡くなっても基本自己責任って所がどうももやもやする。本当にお咎めなしってことにならんだろうな?


 (まぁ、明日ダンジョンから出て管理部にあの3人を引き渡してそれから様子を見るしかないよな。この件に関しては自分になんか言う権利はないんだし。

 生き残ったPTリーダー君と探知能力者、それとあの3人の問題になるんだ。何とか穏便に落ち着くところに落ち着いてほしいもんだ…)


 そこまで考えてある可能性を思いついてしまった。4層まで進んだPTなんだから帰還陣まで戻るのは出来るだろうと思っている。探知系の能力者をわざわざ1人だけ連れだしたのも無事戻る為だろうし。

 だがこのモンスターが異質な湧きを起こしてる現状たった2人で無事に戻れるのだろうか? しかも1人は探知系であって戦闘には不向きだ。帰還するためには探知系能力者のメンバーを守る必要がある。リーダー君の実力はわからないが守りながらというのは意外と面倒なものだし、果たして彼等は無事帰還できるのだろうか? と。

 

 (あんましこう思うのもなんだけど、彼等もダンジョンで亡くなっていれば案外丸く収まりそうなもんなんだけどな…)


 不謹慎ではあるだろうが、彼女ら3人を見ているとそう思わずにはいられなかった。それだけ彼女等が見せた剣呑な瞳が印象に残っているのだ…。

 なんにせよ全ては明日地上に戻らんことにはどうにもならんと思いつつ、広田さんに教えてもらった夜警の知識を思い出しながら眠らない夜を過ごしていった。




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