171話 ダンジョン1層(ソロ) 救済
「お? やっと出口の光石見えてきたかぁ…なんか今までで一番モンスターと遭遇したなココ」
あれからもモンスターはひっきりなしに訪れ、その度に倒しながら進んでいた。
流石にここまで戦闘する予定ではなかったので夕飯の時間が結構遅れていた。地底湖出て少し行ったとこの休憩部屋で今日はもうお終いでいいかな。
探知をかけて出口付近にモンスターが居ないかを確認する。だいたいこういう終わりで待ち受けてたりしそうなもんだけども…。
「居ないみたいだな…まぁ、アレだけ倒したんだから全部こっちに来てたんだろ。
で、それはいいんだが…出口過ぎてすぐ行った所に反応があるんだけどこれ待ち伏せされてんのか? 地底湖を出たと油断したところを襲う作戦なのかね?」
モンスターがそこまで考えているのかは知らないが、現に反応がそこにあるんだから待ち伏せされていると思ったほうが安全だろう。
「休憩部屋行く前の最後の一戦と思えばいいか…もしかしたら奥にまだいるかもしれんけど」
地底湖内部にもうモンスターは居ないとわかってるし、出口付近の待ち伏せについて意識を向ける。
高台の所で戦闘が始まると想定するなら高台は少し拡張するべきか…と思った。少し手前に階段を作ればいいだろう。
水上から陸に上がると、土魔法を使って足場を整える。全く動かない所を見るにゴーレム系か? と、そこにいるモンスターを予想しつつ足場に上がった。
反応は3なのでこちらの方が数が多い。一度通路から引っ張り出して足場の上で囲むのがベストかな? と、作戦を考えてゴーレム達には防御したまま一度下がれと指示を伝えておいた。
相手側のゴーレム達には錬金で炭にでも変化してもらい、休憩の際焚き火の薪代わりにでもするかと考えを立てる。何なら七輪でも作って晩飯はソロBBQにでも…と。
そんなことを考えつつ、ゴーレムが本来の高台の部分に足をかけて通路に進み出るのを見守る。大盾を装備しているし奇襲してきたとしても問題はない。何より居るのが分かっているなら奇襲でも何でもないしな。
しかしここで予想外な事態が発生した。相手側が攻撃をしてこないのだ。反応は真横だしゴーレムが見えてないってことはないだろうに…。
大盾も装備しているし人間側のゴーレムなのは一目瞭然だ。相手がゴーレムの場合確実にばれるのはあれからなんとなく分かった。ゴーレム相手には擬装が通じないらしいね。
なので今の状況をおかしいと感じているわけだ。なんで攻撃されない?
そう不思議に思っているとゴーレムがこちらを向いて頷いた。危険はない感じか? 一応警戒はした状態でゴーレムに近づいていく。いったい何だっていうんだろ?
ゴーレムの横に着くと反応があった場所をのぞき込む。そこにはモンスターなんていなかった。
「ちょっ!? おいっ! 大丈夫かっ!?」
そこに居たのはボロボロの状態でだいぶやつれた人間3名だった。全員まだ若い女性だ。
まさか他の探索者が居ると思わず普通に熱感知と震動感知で探っていた所為か、今までモンスターと間違えていたらしい。だってこんなところにいるとは思わんやん!
発見した女性3名は見ただけで憔悴しきっているのが分かるほどだった。とりあえず呼吸はしているので生きてはいるらしい。まぁ、だからこそ熱感知に引っかかったんだが。
眠っているわけでは無いのだろうがこちらの声に中々反応を示さない。ほぼ意識が飛びかけているらしい。
体を横にすると軽く肩や頬を叩いてこちらに意識を向けさせようといろいろ試してみた。すると、少しだが眼を開いてこちらを見てきた。
「おい! わかるかっ! 意識をしっかり持てっ!」
「…………ぁ」
かすかに開く唇。まだ若いはずだがその唇はすっかり乾いており、口の端が切れているのか少しばかり血が付いていた。いや…これは付着した血か?
「……ぁ……ぁ」
「どうした? よく聞こえないんだ」
再び口を開くが言葉になってはいなかった。喋るのすら億劫なようだ。
しかし言葉は伝わらなかったが、それでもこちらに伝えてきたものがあった……涙だ。
相変わらず声はかすれていてわからないが、眼の端に次々と浮かぶ涙がこちらに伝わってきたものだった。
「安心しろ、近くにモンスターは居ない。ここは安全だ」
「ぁ……ぁ…ぁ」
その言葉を理解したのか、彼女はいっそう涙を浮かべて顔を歪ませる。口も少し開きかけてきている。
とりあえず土魔法で吸い飲みの形をした物を作り、その中に水魔法を使って人肌程度の水を用意する。
「ほら、ゆっくりでいいから飲め」
「ぁ……ぁ…ぉ」
頭を少し起こしてあげると、吸い飲みを口元に運んで水を口の中に入れる。飲むという事すら億劫らしく、結構咽ることが多い。しかし喉は動いているので飲めてはいるはずだった。
しばらくそうして水を飲ませていると、他の2名もわずかだが意識を取り戻したようだ。
「おいっ、しっかりしろよ! 周りにモンスターは居ない! ここは安全だぞっ!」
将一の声に反応したのか、薄く開いた瞼の奥で目を声がした方に向ける。そして将一の姿を見たからか、この少女と同じくわずかに口を開くと薄く開かれた目から涙を流す。
他の2名もこの女性と同じく言葉になってはいないが、わずかに開いた口の奥からかすかな音を発していた。
「今そっちにも向かうから少し待ってくれ」
そう言うと背後に出した荷物をゴーレムに取ってもらい、その中から着替えを出すと女性の頭の下に入れる。
「あっちの2人にも水を少し飲ませてくる。少し待っていてくれ」
その言葉答えることなく、彼女はわずかに顎を引いた。一応頷いたつもりだろう。
その反応を見ると将一は2人の方に近づき彼女と同じ処方を取った。この2人もしきりにしゃべろうとするが相変わらず声にはなっていない。
今はおとなしく水でも飲めと吸い飲みを口に入れる。まずは間違いなく起きているであろう脱水症状を何とかした方がいいと感じていた。
しばらく彼女たち3人の介抱を行いながら軽く質問をしてみた。わずかに頷く、首を横に振るといったものだが少しは状況が飲み込めた。
どうやらPTとばらばらになってダンジョンを彷徨っていたらしい。いつからかはわからないが、この衰弱具合を見るに1日2日ってことはないだろう。現在モンスターが異常に湧いてるこの時期に何とも災難な事だ。
それに荷物なんかも辺りには見当たらない。当人たちに至っては防具も壊れたから捨てたのか、防具の下に着ていた服のみだ。だいぶ汚れて擦り切れているのが見て取れる。
一応最後の頼みの綱でもある武器の剣やナイフは転がっているがそれだけだ。というかこの剣…剣は剣でも大剣だった。彼女たちが振り回せる代物にしてはでかいな…。怪力の能力者か?
聞けたのは今のところそれだけだ。とりあえず話がまともに出来んことにはどうしようもないと、不自然に見えないよう徐々に体力が回復する魔法をかけた。しばらくして話せるぐらいにはなってくれてると良いのだが…。
そんな感じで介抱を続けていると、かすれ声ではあるが少しだけ彼女達に声が戻った。
「たs…ぁ…った…」
「あー…たすかった…かな?」
なんとなく言葉を想像して返事をする。あっていたのか、彼女達がわずかに頷いた。
「どういたしまして…かな。地底湖を抜けてきて直ぐ君たちを発見したからだいぶ焦ったよ。3人共だいぶ参ってた様子だったからね」
「あr…g…とぉ…」
「ありがとう…ね。うん、とりあえずなんとかなってこっちも安心した…あまりにも予想外な事態だったからね」
場所的にもまさかと思うところで発見したので嘘偽りない思いだった。何でここで倒れていたんだろうか?
答えが来るかわからなかったがとりあえず質問してみる。そうすると、彼女たちは今自分が口にしている吸い飲みに視線を向け噛んで知らせる。
「なるほどね…とりあえず水の確保が最重要だった感じか。確かに水分だけは何としても必要だもんな…」
ダンジョンにおいて水は荷物として必須だ。自分は水魔法で出せるが、探索者の多くは大き目の水筒を持ち込んでいる。
彼女たちは地図もなくしたのか水場がある地底湖から離れられなかったわけだ。
とりあえず彼女たちがここに居た理由は知ることが出来た。
さて、次はどうするべきか…。彼女達を連れて行くのは決定としても移動が自力ではまだ無理なんだよね。
(とりあえずゴーレム達に担がせるなり抱きかかえさせて移動するとして…大人しく運ばれてくれるかな? モンスターのゴーレムに似せて作ったのが痛いなぁ…)
モンスター拒絶症…以前コンビニの店員さんに聞いた症状が彼女たちに起きてないことを祈るばかりだった。状況が状況だけに発症していてもおかしくはない。
「あー…ちょっといいかな? とりあえずここからしばらく行ったところにトイレ休憩も出来る小部屋がある。とりあえず今日はそこで休もうと思うんだ。その為には少しばかり移動しなきゃならないんだが…」
そこまで言うと彼女たちは表情を歪ませる。移動できない自分達が居てはどうにもならないと思ったのだろう。
「もちろん君達が自力でまだ移動できないという事は承知している。大丈夫だ…そこまでの移動はこちらが行うから」
その言葉に明らかにホッとした表情を見せる彼女達。流石にこの状況で放置したりなんて真似できるはずがない。後味気持ち悪すぎる…。
「そこで少しだけ我慢…受け入れてほしいことがあるんだけどいいかな? ちょっとだけ待っててくれ…」
そう言うと立ち上がり、通路の先を見張らせていたゴーレム達を呼び戻した。
『!?』
ゴーレムと一緒に戻ってきた将一の姿を見て声にならない悲鳴を上げる彼女達。まだ動けないからか、体にわずかばかりの力を入れる事しかできていなかった。
なんとなくその行動は察していたので、将一は大丈夫と思わせるようにゴーレムを見える位置に置き、屈んで停止…とすぐさま指示を出した。
その言葉に従うゴーレム達を見て、彼女達は動かそうとしていた体から力を抜いて呆然となった。
「今見てわかる通り、このゴーレムは私が使用しているゴーレムなんだ。見た目がモンスターのゴーレムに似ているのは…まぁちょっとした意図があってだね…」
今説明したとしても覚えてるかも怪しいと、言葉を適当に濁らせておく。とりあえず人に危害を加えないという事だけ知ってもらいたいのだし。
「人側が作ったゴーレムだから安全は保障するよ。
そこでなんだけど…ゴーレムは力持ちで荷物運びに適しているという事はわかると思う。つまりこのゴーレム達に君達を運ばせようと思ってるんだけど…大丈夫…かな?」
言葉の終わりに近づきつつ、だんだんと困惑気味に尋ねる将一。彼女達もどうやら暴れる様子はないからモンスター拒絶症までは患ってないと思うのだが…果たしてどうだろうか?
「移動の際は慎重に運ぶよう厳命するよ。中側に入ってもらうからモンスターが来てもまだ安全な位置に配置する。心配せず運ばれてほしい…どうだろうか?」
なんとか納得してくれないかなぁ…と、恐る恐る様子をうかがう。
すると…しばらく迷っていたようだが、3人共軽く頷いてくれたのが確認できた。
「よかった…流石に3人を私が運ぶのは大変だからね…(最悪眠らせて運ぶってことも考えてたけど何とかなったか…)」
ホッと息を吐くと、吸い飲みに水を入れて再び飲ませてあげ始めた。
とりあえず移動は水を摂ってからゆっくり行くと口にして3人の様子をうかがう。
3人もそれに頷いてくれたので何とか移動までは目途がついたかと、再び息を吐いた将一だった。




