170話 ダンジョン1層(ソロ) 最短ルートだとまたここ通るのか
あれから広場に戻ってきた将一達は、お互いの目的に向けて動きだした。
実際に駒の性能を見るまでは一緒に居たがそれが終わると互いの無事と再会を祈って別れた。
ちなみにゴーレムが駒に仕舞われる様には皆が驚いていた。これがあるならゴーレムを使う人も出てくるかもしれないと田淵さんは言う。別れ際に今度1個売ってくれと言われたし。
そして今、目的としていた通路をゴーレムを連れずに将一は歩いていた。
「う~ん、やっぱり移動速度が違うなぁ…。ゴーレムはあの体ゆえどうしても足音が出てしまうし、それを押さえる為にゆっくり歩くことになるのは仕方ないんだけどねぇ…。
今回はほとんど足音を気にせず歩いてたからまだ良かったけど…広場みたいにずっとあのペースだったら今頃どのあたりだったんだろう?」
モンスターとの遭遇を望んでいたこともあり、ゴーレムの足音はむしろ聞かせるぐらいのつもりで移動していた。戦闘音もどちらかと言えばわざと派手に出していた所もある。
広場では近くに他の探索者が居たこともあってゴーレムの使い方を変えていたが、あれがダンジョンでは普通だと思うと確かにゴーレムは遠慮されるだろうな…と感じた。
「まぁ、その結果米田さん達とも会えて盾を披露することが出来たと思えばそう悪いことばかりでもなかったわけだけど…。
宝箱も見つけられて良いマジックアイテムも手に入ったし、どちらかと言えば良いことの方が多かったか。なんか広場に偶然来ると美味しい思いばかりしてるな。全滅した探索者PTの事は別として…」
時折探知をしながら帰還陣までの最短ルートを歩く。
頼まれた以上はしっかりこなそうと、ゴーレムを仕舞って移動優先で動いていた。
そうしてしばらく歩いていると、目の前には朝方に見た光景が再び映っていた。
「早く行くならこの地底湖を突っ切るのが早いってわけね。まぁ…ゴーレムを仕舞えば移動時間はかなり短縮できるから地底湖を行く分に支障はないわな」
それにもっと早く行くなら飛行魔法で水上の更に上を飛んで行けばさらに短縮できる。
しかし早く帰還陣に行きすぎるとそれはそれで変に思われそうだから普通に水上を行くんだけども。
目安としては明日の朝って所だろうか? それぐらいに帰ってきたとなれば米田さん達が知っても不思議に思われんだろう。
「流石に夜通し歩く気はないしなぁ…それに野営を体験するのも今回の目的の1つだし、その辺りは自分の都合優先させてもらいますよ…っと」
やはりというか、高台となっている所から土魔法を使って降りると探知魔法を使って周辺の様子を探る。ああ…ここにも感知蟹居るのね。
モンスターの情報なんかも事前に察知すると、空間魔法から駒が入ったケースを取り出してゴーレムを仕舞った駒を5個手に取る。
「『出ろ』」
その内の1つをつまみ、下側の部分を地面に向けてそう口にする。
すると下側の部分から光があふれ、それが形を作り出した。それは間違いなく将一が広場で仕舞ったゴーレムだ。しかもすでに盾持ちである。
「うんうん、やっぱこれ便利だよなぁ…。仕舞うのになにか武装させておかないといけないみたいだけど、一々盾を取り出して装備させる手間も省けるし楽でいいね」
続いて2体目3体目とゴーレムを出していく。すぐに出てきてくれるので戦闘に素早く移れるのもありがたい。奇襲されるのでもなければ十分間に合う速度だ。
5体とも出し終わるとモンスターの反応があったところまで進み始めた。やはり先にこちらから探知できているなら感知蟹も2重の意味で美味しい相手だよな。
奇襲される前にこちらからしてやろうと、討伐後手に入る素材の事を考えて口元に笑みを浮かべるのだった。
「いやー、やはり地底湖はモンスターがいっぱい居るなぁ…。これも最初で戦闘するからなんだろうけど…魔石を稼ぐなら地底湖来るのがいいのかもしんないな」
感知蟹を問題なく撃破した後、水上に出た将一達を待ち構える形で次々モンスターが襲い掛かってきた。見た事ある奴も初見の奴も結構混じっていたように思う。
「やっぱり帰還陣に近いほうの地底湖だからかな? 帰還陣近くに来てまで地底湖に行きたくないって探索者が多いから討伐されずに溜まっていってる感じかね?
わざわざ地底湖を狩り場にする探索者も居ないみたいだし結構自分にとっては穴場だったりするかな?」
アロワナみたいな肉食魚っぽいのだったり岩石みたいなタコだったりと、鑑定で調べたら食用可とわかったこともあってなるべく傷つけずに倒すことが多かった。
広場に居た時に宮田さんからモンスターを1度鑑定してから挑むと戦いやすいって聞けたのも助かった。資料で調べた以上の情報が瞬時に頭に入って来るのがいいね。
弱点部位からどんな魔法が効果的かというのが戦闘前に把握できるのは大変助かる。
その時に食べれるのかな? と余計な事を考えていた所為か、料理の種類まで頭に入ってきたのには少し驚かせられたが…。
「まぁ、おかげで食用可能ってのが分かったから問題なしっちゃ問題ないんだけどさ。鑑定の検索範囲意外と広いのな」
鑑定には少し時間がかかるらしいが、自分の場合は結構すぐ行けたのもあって戦闘もスピーディだった。
ゴーレムという前衛がいるおかげでなんにせよ問題はないと思うが、PTで戦う時は自分がその時間稼ぎに動く必要があるんだと頭の隅に記憶しておく。毒持ちなんかは狙う場所も結構考えて攻撃しないといけないらしいしね。
「ダンジョンを探索するには探知係と鑑定係が居るとだいぶ楽らしいし、米田さん達のPTはバランスがいいんだろうな。
人数は5人と少ない方だし、中堅クラスであの人数ってことは他の3人が戦力として相当実力があるって感じなのかね? 田淵さんとか戦闘系って感じしないけど意外と実力者だったり?」
倒したモンスターを回収しながら米田さんPTについて思い返していた。
能力の事もあるし、人は見かけでわからないとは良く言ったものだ。
そんなこと思いながら先に進もうかと思い始めたところ、探知に次のモンスターが引っかかった。
「ほんとよく来る…どんだけ地底湖人気無いんだよ」
明かりを向けると水面に波を立てながら近寄ってくる影が見えた。何度か見たし見間違う事はない相手だ。
「エッジタートル…3体か。意外とすっぽんみたいにいい味してるらしいけど…すっぽん料理屋ならぬエッジタートル屋ってどっかにあるんかね?」
今回は壁の代わりとして、前衛に盾持ちゴーレムを配置して待ち受ける。なるべくなら肉は無事な状態で手に入れたいな…。
そんなことを思っていると向こうから先制攻撃の水弾が発射された。射線上にはゴーレムが居るので届くことはないだろう。
「とはいえ威力結構あるし、当たらないに越したことはないんだよな」
3つの水弾に水魔法で干渉をする。盾に届く前にその弾を霧散させると霧状に変化させて水中に落とした。
初弾は失敗と、次弾を発射してくるエッジタートル。また近寄ることなく水弾を撃ち込む作戦だろうか。
「んじゃ今度はそれ使わせてもらおうかね」
発射された水弾の前に空間魔法を使って歪みを生ませる。水弾は軌道を変えることなく、そこに吸い込まれるようにして消えていった。
また失敗したかと一度水に潜って態勢を整えようとしたところ、いきなり衝撃が背中の甲羅に伝わってきた。
「ガァァッ!?」
いきなり視界外、それも真上からの攻撃に驚きの声を上げるエッジタートル。潜るのをやめ速度を落として首を直上に向ける。しかしそこには暗い天井がかすかに見えるだけだった。
「上を気にしている余裕なんてないっての。思いっきり背中に叩きつけろ」
その声に反応してか、首をまっすぐに戻すエッジタートル達。そこにはもう眼前にまで迫ってきていたゴーレム達が居た。
咄嗟に潜ろうとするがゴーレム達の攻撃のが一歩速い。装備している大盾を背中の甲羅に向かって叩きつける。
「ゴァァッ!!」
すさまじい音をたてながら体を水中に沈められるエッジタートル。今の一撃で甲羅全面に罅が奔った。
背中の甲羅を殴打された衝撃に戸惑いを見せるが、まだどうとでもなると思ったのか勢いに任せて水中に沈む。水中に居れば向こうは手が出せんだろうと。
「もちろんそっちも対処済みだけどな…」
将一がそう呟いた瞬間、水中に沈んだはずのエッジタートル2体が水上に出てきた。ゴーレム2体に首を締めあげられ持ち上げられている。
エッジタートルも宙づり状態で必死に振りほどこうと力を入れるがゴーレムの締め付けはそれだけでどうにかなるほど弱くはなかった。自慢のエッジも岩の体では全く効果が無く、力を弱らせる事が出来ない。
そのままゴーレムが力を込めると首を持ち上げられていた2体のエッジタートルはその体をぐったりとさせ、半身を水中に付けながら事切れた。首を折り切ったらしい。
「さて…残った1体はどうしてるかね?」
探知魔法で水中に居るはずの残りの1体の場所を探ると、水中に潜った場所から動いていなかった。どうやら無事押さえられているらしい。
場所さえわかれば後は簡単だと、その場所だけ水を除外する。規模は違うがヘビーアリゲーター達にしたあの結界だ。
水が抜けた底ではゴーレム3体がエッジタートルに圧し掛かって身動きをできなくしていた。こちらもエッジなんて何のそのといった感じだ。
「首落とせば死ぬだろ」
ゴーレムが押さえていた所を少し開けさせると、風魔法で引き出されていた首を落とす。まさにギロチンだ。
しばらく血を出しながら痙攣していたがそれも次第に弱まってきた。解体はまた今度と、落とした首と体を空間魔法にしまう。
これで戦闘は終了と、水を元に戻そうとして底に溜まっている血を見て思った。
「すっぽんの生き血ってのは聞くけどこいつ等のは流石にどうしようもないよな?」
試しにその溜まっている血に鑑定をかけてみる。飲用可だった…。
特に効能らしいものはないが、寄生虫や菌がいるわけでもないので少量飲む分には問題ないとのことらしい。
これ飲めるのかぁ…と、その血を見て味を想像する。問題はないらしいがあまり飲みたくはないかなぁ…。
確保した奴は他にもいるのだし少しだけなら試してみようかなと思いつつ水を元に戻す。今回は範囲が範囲なのでそこまで影響は見られなかった。
「やっぱりゴーレムは便利だよなぁ…。格闘戦とかまず想定しない攻撃もいけるし、水中で活動可なのがでかいよな」
水上に再び浮かせたゴーレムを見ながらそんなことを思う。
水上に浮かべば足音も立てずに移動させられるし、そのまま落とせば水中でも行動が出来ると。
相手の水弾を転送させてうまく注意を引けたのが良かったとはいえ、その後の行動も指示通り動いてくれたし、忠実に動いてくれる歩兵は指揮者からみて理想的だと感じた。
「数をもっと増やしてもあの駒に仕舞っておけるしな。ほんと、いいマジックアイテム手に入れたわ」
とりあえず水トカゲが落ちてこないうちにさっさと先に進んでしまうかと探知をかけた所、また少し先に別のモンスターが居るのを感じた。
いったいどれぐらいの間この地底湖は放置されていたんだろう…。あまりにもひっきりなしなモンスター襲来に、こちらが望んでいたこととはいえ若干引き始めた将一だった。




