17話 施設での調査(4) 一段落? ならダンジョンについて分析しよう
1番奥に別の魔法陣があるという事実は当時秘匿されることとなった。
しかし調査は継続して行わなければいけないということで、攻略した階層の調査という名目を掲げ、その後も再びダンジョンに定期的に人が入ることとなる。
すると、ここで余った軍人がついに他のダンジョンにも送られることとなった。
最初は世界各地に現れたダンジョンの周辺調査や、人が入らないようにと隔離しただけであったが、1個目のダンジョンの目途が付いたこともあり、各国は自国の他のダンジョンに目を向ける余裕ができてきた。
しかし中に入ったことはなくどのような状況かはわからない為、最初に攻略した洞窟を参考に装備を整えた部隊が送り込まれることとなった。
とはいえ数が多すぎた。ゆえに優先順位をつけて攻略していくこととなる。
まずは街に比較的近いダンジョンを、次に町から少し離れたダンジョン、最後に山や森の中、砂漠や荒野といった人が立ち入ることが難しい場所の順で。
(そういや世界中のダンジョンの数計測した図はあるのか? ダンジョン内の地図は部外秘だとしても光が空に見えている以上そっちは隠せないはずだよな…。お、あったあった。
おい…なんだこの数、冗談だろう?)
別ウィンドウで世界のダンジョン数と調べると、すぐにでも赤点で表示されたものが出てきた。世界全体で表示したもの、各国の大きさで表示したもの、各国の都市別で表示されたものと分けられた。
とりあえず一番上にあったページの世界各地のダンジョン数を表す赤点を目にするが…世界地図の至る所に赤点があった。そしてその中で2個だけ青点がある。
(これ全部がダンジョンだって? いったいどれだけ地面から生えたんだよ?
合計数が……ははっ…すさまじいなこりゃ…)
マップの右下に書いてある数字を見て乾いた笑いが出た。
世界各地で出現したダンジョン数:50万
攻略した数:2
1か所に数個固まっているところがあれば、ぽつんと1個だけあるような赤点も見受けられる。このような感じで世界全体にあるというダンジョン。そりゃ人手が足りんくなるというのもうなづけると理解した。
そして現在攻略した数を見て、まだまだ攻略できてない所ありすぎだろうと呆れた。
世界のダンジョンの総数と攻略済み数を見て、若干ひきつった顔をしながらも、この数相手にどうしたのかと歴史表の続きを読む作業に戻る。
世界にあまねく出現したダンジョンに各国の上層部は頭を抱える。町の中にある近い所の1層を攻略するだけで、こうも人員と時間を消費したのだ。
他の場所に手を出すと決めはしたが、ダンジョンの多さと出現場所に唸る者が続出する。
とにかく少しでも調査はしなければと、軍を分散させてでも対応するしか選択肢はなかった。
少ない人員で初めから攻略することなど不可能と各国は結論を出した。とりあえず状態だけでも知りたいということから、無茶かもしれないが混成部隊を各ダンジョンに送り込んだ。
今度は中にモンスターがいるという前提で進むし、1層攻略したという経験もあるからいけるだろうと。もちろん一斉に送り出すのではなく町の近場からという優先順位に沿ってだが。
他のダンジョンに送り出した人員が戻ってきたのは意外と早かった。
転送された近くに帰還陣があったという運も関係したのだが、世界各国の第1陣調査隊が潜ったダンジョンが全て暗い洞窟だったこともあって、第1層は暗い洞窟なのではないかという憶測が的中したのだ。
中にはなかなか戻らないものも出てきたが、多くは帰還できている。
装備も経験も生きた部隊は、調査というよりも生きて脱出することを今回は主眼に置いたため、無理に奥に侵入する必要も、モンスターと戦闘する必要もなかったのが大きいと考えられた。
無理をせず、まずは転送先を知ること。
転送先は暗い洞窟と考え、理にかなった装備と設備を持って生還を何よりも優先すること。
この2点を大前提とした調査隊は、最初の頃とは比較にならない程スムーズに成果を上げた。
そうして、軍は順調に他のダンジョンに潜ることが出来るようになった。
無論、手が足りず手つかずのダンジョンはまだまだあるのだが…。
ここで少し場面が変わり最初に1層を攻略したダンジョンに戻る。
1層の地図はほぼ完成し、大規模部隊でなくとも探査が可能になった最初のダンジョンで実験や検証が行われるようになっていったのは自然な事だろう。
まず何をするか。そもそも自分達が知らなければいけないことは何なのか。そう考え始めると多くの研究者がモンスターについて、と考えるようになった。
モンスターとは何なのか? どこから来てるのか? 死体は何処へ行くのか?
ダンジョンの調査にかまけて、モンスターの生態を自分達は何も知らないのだという事実に恥ずかしくなった。
そう考えると、調べなければ収まりがつかないのが学者や研究者という人種だろう。
国にその言い分を伝え、軍にどうにかして捕まえてこれないか等の注文をする。
国としてもモンスターの実態というのには興味があるし、軍も自分たちが何と戦っているのか知る必要があるということで、研究者たちの言葉はすぐに実行され始めた。
ダンジョンに潜ってモンスターを捕獲し、実体を調査するという研究が始まったのは、ダンジョンが現れてから約10か月が過ぎた頃だった。
(なるほど、ちょっと余裕出てきたからモンスターについての本格的な調査はここから始まったわけか。意外と遅かったような気もするけど、当時の状況なんて知らないから何とも言えないな。
そういや魔石は見たけど、モンスターの素材とかってどうなってるんだろうか? やっぱりそれもダンジョン街に行かないと見れないのかな?)
少し気になってので知らべてみる。モンスターの素材利用法と検索をかけた。
(なんだ、こっちは情報ちゃんと出してるんだな)
鉄のような甲殻は鋳溶かして鉱材に、毛皮を持つ生き物は鞣され敷物や壁飾り、服飾の素材として。鱗はアクセサリーや防具の強度上昇に、骨はアンティークに、肉は精肉に加工して。
魔物素材は希少性が高いものが多く、一般が手にする機会は魔石と比べてそう多くはないとのことだ。
やはり見てみたいならダンジョン街に来ることを押している。
(特殊なものは別として商品自体は店に置いてあるらしいな。高いらしいけど…それもあるから探索者が増えるんだろう。
命を懸けて素材を持ち帰り、大金を手にすることを夢見てってことなんだろうか。まんま異世界に生きる冒険者だな。
でも中にはこういう風にブログとして乗せることを楽しんでやってる人もいるわけだ)
未だにモンスターについて知識がない将一は、ページに書いてあることを詳しく理解することなく流し読みをする。これはダンジョンに行くときにでももっと詳しく見ることにしようと。
(さて、続き読もう。モンスター研究解明の歴史になるんかなぁ?)
モンスターの研究は、やはりというか最初はうまくいかなかった。そもそもモンスターを捕獲してこいというのが困難だった。
モンスター達はだいたい複数でいることが多く、基本こちらに敵意むき出しで襲ってくる。一応足だけを破壊して運ぼうとするも、牙を向いて死に物狂いで暴れるし、中には遠距離攻撃してくる奴もおり拘束が難しい。
檻に入れて運び出そうにも、中で激しく暴れ自分が弱ろうとお構いないしというのも珍しくない。
睡眠薬を投与したり、麻痺させて運び込もうとするも中にはそれらが効かないやつもいて、逆にこちらに犠牲が出る始末。とてもでもないが、猛獣を捕まえるよりよほど難易度が高かった。
それでも何度も挑戦し、鎖でグルグル巻きにした鉄の装甲をした蟻のモンスターを捕獲に成功する。
研究者はなにから調べるかで罵声が飛び交う。食性は? 肉体組織は? 表面の鉄の材質は? 頭を固定してるからいいものの、口から鉄を溶かす微酸はどういった物か? たった1匹の研究対象に業を煮やすのは時間の問題だった。矢継ぎ早に再度捕獲の催促が来る。
軍の人間もわかってはいるが、その難易度が難しいことはやっている自分達が一番よく理解していた。なんでもいいから早くモンスターの生態研究を進めてくれ…と、研究者の言い分にうんざりしてくる。
だが何度も失敗し、何度も試すうちに成功回数は増え、研究対象が増えるのに喜ぶ軍人と研究者。モンスター捕獲作戦は一応の成功を見せた。
しかしそんな研究の中どうにもならないことが起きた。
どんなに元気なモンスターも、ダンジョンから1週間ほど連れ出すと死に絶え動きを止めるのだ。
蘇生措置や生命延長を行うが、甲斐虚しく成果は出ない。そこで結論が出された。モンスターはなぜかダンジョンから外に出ると1週間そこらで死滅するという事実。これは間違いないと決定づけられた。
現に蟻型モンスター、コウモリ型モンスター、モグラ型モンスターと、複数捕獲したがどれも同じだったためだ。
この事実は世界中の研究者の結論として各国に伝えられた。
(ふーん…モンスターは地上だと1週間の命ってわけか。それじゃあ研究も厳しそうだなぁ。数も少ないし、生きたモンスターを調べるってダンジョン外だと制限がかかるのな。ん? じゃあ研究者は最終的に洞窟の中で研究することにでもしたのか? 機材も限られた物しか持っていけないっていうのにそれも難しい話だよなぁ…)
生きたモンスターの生態を調べるのは将一が思った通り研究者たちの頭を悩ませた。結局洞窟の中で調べるという変わった研究者も出てきたのだが、これも労力が馬鹿にならなかった。
結局、まずは生きた生態としてではなく、死んだ状態でもいいから把握しようとなり、ここで魔石などが解剖され発見されることになった。
(魔石発見もこの時期か。まあ当時は何なのかもかわからず、優先順位として低かったみたいだな。のちに利用法が発見されたんだろう)
死んだーモンスターから得た情報も、世界の研究者たちの間で議論を生んだ。死んでいたとしても発見された事実は多かったらしい。
将一は研究者でも学者でもないからあまりそういうことに興味はなく、ダンジョン街で資料がまとめてあるだろうと、今は歴史の続きを見ることにした。
「え…?」
再び画面に目を戻し、歴史を辿る。しかし将一の目に入ってきた文字は、口に出さずにはいられない物だった。
「第3次世界戦争…勃発…」




