152話 久しぶりの再会
初講習を終えた後、将一は他の講習に参加することもなく車に戻って今回の事を振り返っていた。元から今日はお試しで受けに来ただけのつもりなので予定通りなのだが。
「やっぱり人から話を聞くっていうのはいいな。今日教えてもらったこともネットで調べられるような事だったんだろうけど…素直な思いをこうして聞けてるのは直に話すからこそだよなぁ。ネットの文面からじゃ伝わらんものもあるし講習も悪いもんじゃないな」
時折ノートに取っていたメモのような言葉を見ながら受けていた授業を思い出す。今回の話でもの足りない所は独自に調べればいいわけだし、まずは調べなければいけない情報の下地をこうして話で知るのはよさげに思えた。
「魔石の基本的な事を調べるにしてもどういった所から調べればいいかと言った取っ掛かりが無かったからなぁ…。でも魔石がどういったものでなんに使われているのかっていうちょっとした基本が知れたし、ここから調べてけば理解しやすいと思うんだよね」
自分で1から調べるのも楽しいっちゃ楽しいのだが、なにぶん調べなければいけない情報が多すぎる…。
金はかかるが、講習といった感じで他人から教えてもらうといったやり方も無知な自分からすると有りだと感じた。教えられるという行為は、『知る』というだけなら一番手っ取り早い情報取得方法だ。知った後どうするかは自分次第なわけだし。
「時間があるなら今回のような基礎的な講習を片っ端から聞いていくのでもいいんだけどなぁ…あいにくダンジョン探索っていう方も気になるし、こっちもいろいろ行ってみたいのが困る所だわ。
どっちかに専念するってのは有りだけど今はどっちも知りたいしなぁ…多分我慢できないと思うわ。興味がありすぎるというのも実に困ったもんだ」
そう言うとノートを仕舞って車を動かし始める。ここでこうしていても埒がないと。
「とりあえず飯食ってから山の自宅に行って最後の休暇を満喫すっかぁ…明日は朝一でゴーレム動かしたら後は山籠もりだし。名目上は…だけど」
ダンジョンに潜る為の情報やこの世界で生きる上での情報なんかは明日から本格的にいろいろ調べればいいと、今はマッタリな休暇最後の夜を味わうことを決めて車を管理部の食堂に向けた。
ここでの食事も山籠もり中は控えるつもりだし、今日は存分に味わおうと思っていた。まぁ、車を運転する都合上酒は結局飲まないのだが…。
「ほぉー…んじゃ今日はさっきまで夜間学校に行ってたと?」
「そういう事です。いろいろやりたいことが多くて迷ってまして」
食堂に着いて食券を買っていると、久しぶりに槍一さんと出くわした。もちろんそうなると一緒に食事しようぜ! となり、向かいに座りあって夕飯を共にしていた。
夕飯を待っている間に以前の酔いの時は迷惑をかけただのの謝罪は既に済んでおり、今では普通に話しながら食事を一緒にするといった状態まで戻っていた。食堂で会ってからの槍一はどこかぎこちなかったのだが、それが改善されてよかったと内心喜んだ。
「にしてもあれから会わない間、いつの間にかダンジョンに潜ってやがったかぁ…。一応初めて潜る時に先導役もしてやろうかとも思ってたんだけど終わっちまってたとはなぁ…酒飲んでぶっ倒れてた自分が恨めしいぜ…」
槍一さんは自身が食堂1オススメするビーフシチューを口にしながらそう口にした。顔からやっちまったなぁ…といった雰囲気がまじまじと伝わってくるのが見て取れた。
「そうだったんですか? ありがとうございます。まさか初探索の時まで気にかけていただいていたとは…」
「結果、あのザマだがな。調子に乗って飲み過ぎたとあの後反省したぜ…」
「結構飲んでましたもんねぇ…よくあれだけ飲めるなと、感心しながら見てましたよ」
「それで潰れてちゃ世話ねぇんだがな…あんま関心出来るもんでもねぇぞ」
とりあえず限界を今後は下げようと思ったそうだが聞いてる分ではまだ多いんじゃないかと思う。おそらく同じような失敗をまたやるのではないかと、苦笑いをしながらその話を聞いていた。
「んでどうだったよ? 初探索の感想はよ」
今日のお勧め(オークと縞牛のハンバーグ デミグラスソース漬け)という料理を口にしている途中で槍一さんがそう聞いてきた。
やはり初探索を終えたと聞いたならその質問は必ずして来るよな…と、口の中の物を片付けてから口を開いた。
ちなみにハンバーグは割ると肉汁たっぷりで、ソースの濃さに負けない程味がしっかりしていてとても美味しい。半熟の目玉焼きを追加して黄身を絡めて食べても美味しそうだ。赤ワインが合いそうだなこいつには…。
「感想ですか…。とりあえず言えるとすれば…大変だった…ですかね」
「そりゃ大変だったろうな。なにせ初めてのダンジョン探索だ、帰還陣前に出たんでも無ければそう思うだろうぜ。
俺も初めて潜った時はすっげぇ疲れたからな。まぁ、興奮のが勝ってた所為かその疲れを感じたのがダンジョン出てからだがよ。でも将一は泊りになっちまったんだろ? ダンジョンの中でそう感じちまったんなら探索中ずっとやばかったんじゃねぇか?」
槍一さんも疲れを実感してからはしばらくの休養が必要だと語った。ダンジョンの外でだからまだよかったが、中で自身と同じような感じになったんだとしたら探索がどうなったのか気になるようだ。
まぁ、こうして無事戻ってきてるのを見れば何とかなったのはわかるのだろうけども。
「正直大変だというのは最初から思ってましたし、潜った皆して絶対外に戻るぞ! っていうやる気もあったので最後まで何とかなった感じですかね。おそらく1人とかだと途中でやけっぱちになってたかもしれません」(土と水以外の全部を使って制限なんて知るかー! って思ってそうだよなぁ…)
どう動けばいいかすらわからず、最初っからはっちゃけていた姿がありありと思い浮かんだ。
現在地把握とかどうやって確認していたんだろうと今にして思う。書き写した地図を無視して魔法でマップでも作成していただろうか?
初探索をソロで行っていた場合はどうなっていたのかという不安が今にして襲ってきた。やはり浜田さん達経験者と潜れたのはよかったと改めて感じ始めていた。
「初探索を1人で行く奴なんてまずいねぇっての。右も左もわからねぇ素人が何とかなるほど甘いもんじゃねぇからな。特に1層からの洞窟エリアは入り組みすぎて地図があろうと不安になっちまう。
どうしたって経験者が付いて行ってやんねぇと気持ちが途中で折れちまうぜ」
「それを強く実感した探索でしたねぇ…中で他の探索者の人と合う確率なんて低いですし、ソロだとそこが問題だと思い知りましたよ」
まぁ…そのソロ探索を次は行おうというのだからまだ早いんじゃないかとも感じるわけだが。ゴーレムも連れてくし全くのソロというわ けでもないのが救いかねぇ?
「潜ってみてわかっただろうけど洞窟エリアってのは人の心をどんどん不安にさせてく厄介な場所だ。
先は見えないわ、音は吸収されて自分等の靴音と息遣い以外の無音が続く、明かりは一応あるがそれでも足りない場所は普通にある。暗がりからの奇襲は洞窟エリアじゃ嫌って程味わうことになるだろうぜ」
シチューを時折口に含みながら洞窟エリアの事を説明してくれる。やはり槍一さんも当時は洞窟エリアで苦労したんだろうなぁ…。
「広場なんて明かりが届いてない場所多すぎましたね。自分達は壁伝いに行ったんですけど…中央を通っていくとかどこから襲われるかたまったもんじゃなさそうですねあれだと」
「将一と軍からのサポート3人の計4人だっけか? しかもお前以外は無能力者って話だしその人員なら壁伝いだわな。探知系の能力者が居れば中央を行ってもいいんだが居ねぇんじゃ無茶ってもんだな。目的の通路まで辿り着けねぇよそれじゃあ」
「ですよねぇ…それも入ってきた方向からちょうど反対の通路に行くとしたら着いた先が本当に目的の通路かも調べなきゃわかんないですし」
「先行偵察の人員に余計な手間かけんのはわりぃからな。広場は探知系の能力者が居ねぇんなら壁伝いに目的の通路まで数えながら行くのが無難だぜ」
おまけに広場には大型のモンスターや小型が複数纏まっていることが多いらしく危険度が高い。探索の足を止める要因が大きいとのことだ。
その言葉にあの全滅した探索者達の事を思い出した。
どういう状況で襲われたのかまではわからないが、逃げる事すらできなかったのだから数的には勝っていようとそれを押しつぶすことのできるモンスターが広場には居るわけだ。
(タイラントスネークの上位種にミノタウロス4体だからなぁ…1層が初心者お断りな状況は早く何とかなるといいんだけどね)
「それに今はモンスターがなんかやばいらしいしなぁ…何とも運が悪い時に初探索行ってきたもんだぜ。無事に帰ってこれただけで探索成功と思っとけ」
「あはは…確かにモンスターの湧きが異質だって一緒に潜った軍の人達も言ってましたね。今までこんなことなかったって」
「俺も覚えてる限りじゃこんな異常な現象は初めてなんだよなぁ…いったいぜんたいなんだってこんなことになってやがんだか」
頭を押さえながらダンジョンも面倒なことしやがって…と小さく呟く槍一さん。
ほんとこの原因は何なんだろうな? ダンジョンのただの気まぐれにしては今回が初めてというのも腑に落ちないし。いや…ダンジョンの事を全く知らんから腑に落ちないってのは変か。
「そういえば槍一さんも今回の調査とかに参加するんですか?」
「あん? もちろんだ、1層がこれじゃ初心者探索者もおちおち潜れねぇしな。さっさと片付けてこの湧きが収まるのを手伝うつもりだぜ」
調査よりかは討伐組だけどな…と、付け足す槍一さん。
やはり面倒見がいいなぁ…と感じた。自分の初探索にも付いてきてくれると言うほどだし、初心者探索者の間ではやっぱ兄貴分として慕われていそうだな。
やはり槍一さんにも今回見てきたことをある程度話しておいた方がいいのだろうか? 情報としては既に管理部から受け取っているだろうし、今更な情報ではあるかもしれないが無いよりはましかもしれない。
そう話すことを決めると、田島さんに話したぐらいの情報でいいなら話しておくかと、美味そうにシチューを食べている槍一さんに声をかけた。




