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15話 施設での調査(2) ダンジョンの調査報告 お先真っ暗



 「ふーん、ここがリラックスルームか。自動販売機(飲み物、アイス、軽食)に自動お茶入れ機完備と。椅子とテーブル置いてあるし、自由におくつろぎくださいって感じだな」

 部屋に入った将一の感想はそんなところだった。特に珍しい物もなく、自販機で飲み物を買って椅子に腰かける。すると目の前に軽食の自販機があったので時間を確認するため時計を探した。


 「昼時はいつの間にか過ぎてたか。ちょうどいいから何か買って食べとくか。何があるかね?」


 椅子に座りながら何があるかを確認すると、適当に腹に入れるつもりでたこ焼きを選んだ。

 高速のPAにあるようなあんな感じの軽食自販機でたこ焼きを買うと椅子に座りなおし食事休憩をとる。

 そして食べながら、先ほどまで調べていた内容を思い出して考える。


 (まさかダンジョンがあるとは思いもしなかったよなぁ。武器や防具の店があったけどあそこで装備を整えてあの光の根元にあるダンジョンとやらに向かうってことかぁ。

 魔石とやらの出どころもそのダンジョンなんだろうな。世界各国でダンジョンが出たっていうけどどれだけなんだろうな? ダンジョンが出てから30年経ってるってことだし、ダンジョンの数や分布図なんかも調べたらありそうだな。後で印刷出来たら貰っておくか)


 考えながら食べていたとはいえ、たこ焼きが入っていた数もそう多くなく食事はすぐに終わった。

 後は食後のお茶少し楽しむと一度伸びをしてからリラックスルームを出た。やはり今は続きが気になる。


 30分ほど飲食したしそれでいいだろうと、パソコンが置いてあるところに戻る。

 席は触られた後もなくそのままだったので、荷物をどかし画面の電源を入れ、再び調べものを始めようと先ほどまで読んでいた続きを見始めた。

  


 多くの国民に見送られながら、調査隊が出発して1日2日と経ち、3日4日と時間が経っていく。

 各国の上層部は送り出した調査隊が戻るのを待つしかない。どういう状況かはわからないが、失敗したなら次の手を考えなければならないと第2次調査隊のメンバーも選出しておく。

 月日が経ち、各国が第2次、第3次調査隊メンバーを決めるが、帰還してくる第1調査隊は未だ1人として戻ってくることはなかった。



 そして進展がないまま約半月が経つ。そしてようやく、とある国のダンジョンの入り口から出てくる1人の人物がいた。

 建物を警備していた軍人がその人物に気づく。しかし次の瞬間、彼はぎょっとした顔をすると出てきた人物を警戒することとなった。


 出てきた人物は何日寝てないのか、目の下に濃い隈を作り、異常に痩せ細って、ストレスによる影響なのか髪が真っ白になっていた。

 しかし、そんな状態でも目だけは血走っていた。とてもではないがまともな状態ではない。


 出てきた人物はそこにいた軍人数名によって身柄を拘束されすぐさま病院に搬送される。

 しばらくは絶対安静が言い渡され、報告を受けた軍の上層部は彼の部屋の前で意識がはっきりするまで待つことになった。


 そして彼が回復するまで時間を要したが、医者からOKが出ると報告を聞くため彼の病室に入る。

 言葉に障害でも出たのか、精神に異常をきたしている彼からの報告は困難を極めた。

 要領を得ない報告ではあったが、それだけのことがあったのだと軍の上層部は受け止めることとなった。



 第1次調査隊生き残りの報告 ※(これは世に出されず別途簡易報告が作成された)


 彼等第1調査隊は、魔法陣で転送後それぞれ別の場所に到着したらしい。出発前の決め事で、転送後同じところなら全員到着後調査開始とし、もしそれぞれ場所が違っていた場合は合流を最優先にすることとなっていた。

 彼等の班はその決まりごとに従い、まずは合流を最優先とした。


 しかし転送された先は洞窟で、大きい機材を持ち運んだり野外調査に慣れない研究者を伴っての移動は最初から困難を極めた。

 このままでは合流する目途が立たず、機材を置いてでも移動を最優先することとなった。念のためと用意した食料や水分だけを持って暗い洞窟を進むことになる。


 彼等が合流だけを目的として進んでいると懐中電灯の先に何やら動く物体を見つける。

 最初は一緒に入った仲間かと声をかけるが返事はない。だがそこでうごめいていることだけはわかった。先頭にいた仲間が、光が届く範囲まで歩を進めた。


 しかし次の瞬間、彼は唐突に地面に押し倒されることとなった。

 後ろで見ていたほかの人員は、照らしたライトで何があったのかを確認する。そこで見たのは、体長1mほどの蟻に組み敷かれ噛みつかれている仲間の姿だった。


 それを見た学者や研究者の口から悲鳴が上がる。軍人だった彼と数人は、止まってしまった思考を再び動かしその物体に銃で攻撃を行った。

 だが彼等の放った銃弾は、その物体の体に当たると滑るように後ろに流れていく。

 

 『弾が効いてないぞッ!?』

 仲間のその声に彼も弾が効いていないと悟るが、仲間が現在も目の前で組み敷かれ噛みつかれている状態を目にしている彼は、引き金を引き続けろと大声で怒鳴った。

 フルオートで放たれた多数の銃弾はその物体の体を傷つけることはなかったが、足の関節や触覚に当たったのか動きが鈍る。次々に襲い掛かる銃弾でついに足がちぎれたのか動きが緩慢になった。


 彼等は襲われた仲間を引っ張るようにして急いで状態を確認する。

 しかし彼等が見たのは、首をかみちぎられ血を流してこと切れている仲間の姿だった。

 彼は助けられなかったことに奥歯をかみしめていると、目の前の物体がまだ弱弱しく鳴いているのが聞こえた。

 彼は仲間のドックタグを引きちぎると、いまだに鳴いている物体に止めを刺そうと近寄る。


 そこで初めて相手の正体をはっきり見ることができた。

 そいつは蟻の形をしているが、体の表面は鉄ででも補強しているのかとても固く、これが原因で銃弾をはじいたのかと理解した。

 彼は装甲が薄い首元にナイフを差し込むと首を落とした。流石にそこまですれば動くこともなく、鳴いていた音も止まった。


 彼等は仲間の遺体をそのままに、学者や研究者に落ち着くよう指示を出す。

 しかしそんな彼等の耳に、かすかな物音が先ほど自分たちがいたところの奥から聞こえてくる。

 全員がなんだ? と不思議そうな顔をしながら警戒をする。先ほどの事もあり、この洞窟がただの洞くつでないと理解したのだ。


 そして彼等は、この音がだんだん大きくなってきていると理解するとすぐさま移動しろと怒鳴る。

 音の発生源は明かりもない状態で、この速さで近づいてきている。どう考えても同じ調査隊の仲間ではないナニカが近づいてきていると悟ったのだ。

 彼等は急いで元来た道を引き返し別の道を選択することを余儀なくされた。


 道を引き返してきた彼等は憔悴しきっていた。

 魔法陣などというわけのわからない物で転送されるという事実。ついた先は真っ暗な迷宮洞窟で、仲間とは合流できず、わけもわからない化け物に襲われ仲間から1人脱落者を出してしまった。

 この洞窟には先ほどのようなわけがわからないナニカがまだいるのだという恐怖。気を落とすなというのが不可能だった。


 それでも足を止めるわけにはいかないとそこにいる全員が励ましあう。こうなった以上力を合わせて他の部隊と合流し、何としてでも生きて脱出するぞと。

 彼等は調査などという考えを放棄して生き残る事だけを目的とした。


 しかし状況は悪くなるばかりだった。

 暗い中、凸凹した歩きにくい道で足を滑らせ骨折をしてしまった者を補佐しての移動。予期せぬ化け物との遭遇。電灯が切れるものが続出し明かり不足。仲間と合流できぬままだんだんと減っていく食料や水。時間ばかりかかるゆえのいら立ちに、彼等は次第に脱落者を出し続ける。



 ここに入って何日経ったのか? 付けていた腕時計は割れてしまい用をなしていない。仲間をどんどん犠牲にしながら進む、物理的にも精神的にも先の見えない洞窟。

 仲間の分を拝借し、洞窟内でたまたま見つけた別部隊の食料と水もとうの昔に尽きた。

 弾がなくなり鈍器とかした銃は、最後に会った化け物にぶつけて今はもうない。かけたナイフ1本を手に、洞窟の壁を確かめながらゆっくりとした歩みで移動する。


 そんな時、手に壁の感触がなくなり、暗い中手探りだけで周囲の状況を確認する。長い時間をかけて自分が大部屋に出たのだと知る。


 そしてついに彼の手が中央辺りにある何かにぶつかった。

 彼はそれが何か理解することもなく、ただ手探りで触り続けた。

 その時、片手で触っていたものが動くと、もう片方の手がなにかボタンのようなものを押し込んだ。


 彼の視界は一瞬にして、暗闇からまぶしいほどの光に包まれた。

 そこは調査の為と、部屋の中に設置していたライトの光でいっぱいだった。今まで暗いところにおり、直視ではないとはいえライトの光は強力過ぎた。


 訳が分からぬままあとずさり、部屋の扉を背で開ける。

 閉じていた眼はすぐには開けられなかったが、時間をかけて周りを見渡す。

 彼はそこがどこなのかすぐにはわからなかった。また別の場所なのかと眼前をにらみつける。


 そんなところに、地上でダンジョンを警備していた軍の仲間が来るが、当然理解できる思考なんか持ち合わせていなかった。

 こうして彼はダンジョンの前で昔の仲間に拘束され病院へと移送された。



 (……真っ暗闇のうえ凸凹した足場の悪い洞窟か。調査隊の人は全滅ではなかったけど、帰還は絶望的な状況だったって言うことか。

 帰ってこれた人は悪運が強かったんだな。調査に出たはずが生か死かって言うことだったんだもんなぁ…)


 将一は第1次調査隊の記録(簡易作成版)を読むと、難しい顔をして考え込む。

 洞窟を進むのに明かりが必須で、それがどれだけいるかもわからない。中にはモンスターがいてそれを何とかしながら進む必要性がある。足場が悪く、怪我に注意が必要不可欠だし、洞窟を進むための道具も持ち込む必要がある。中で泊まることになるだろうし、食料や水、野外宿泊の装備も必須。

 

 (ダンジョン探索きっついな。最初がそんな洞窟ってのがなお意地が悪い。そんなのが世界各国にいくつあるって? 終わりが見えねぇな…)


 元居た世界でも洞窟なんて潜った事のないので、異世界の洞窟の大変さは想像するが…こればかりは経験しないとわからないだろうと、行くのなら覚悟が必要だと思わされた報告書だった。

  



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