143話 家電を選ぼう
「お待たせいたしました。ご要望の件ですが「まだ返答が来ていないから待ってほしい」とのことです」
「あ、わかりました。ありがとうございます」
次の日の朝、管理部に腕輪の事を聞きに来るという予定はさっそく終了した。
買い取りの手続きは準備中とでも言って、買い取るという事実だけでも先に伝えることは出来るはずなのだけどそれすらもないのがこちらを焦らさせる。これについてもいくらになるかとかの議論でもめてるんだろうか? なんにせよ結果を早く聞きたいものだ。
「休暇期間はありがたいけど心配の種が消えないからなぁ…これがわからない事には気になってダンジョンに潜れんよ…」
心配事を抱えながらのダンジョン探索など未だ初心者探索者の自分には負担が掛かる。買い取るのか買い取らないのか…どちらになるにしても、結果だけは早く知りたいと思いながら管理部から出て車に戻るのだった。
そして車まで戻ってくると、予定していた家電の店に行き先を向ける。
今日は管理部では他の用事も言われなかったし、特に気にする事は無い。時間をフルに使えることに感謝すると、目的の品が雑貨店にちゃんと有ってくれよと祈りつつ車を動かし始めた。
「よし、無事到着…っと。さーて…問題の家電はちゃんと置いてあるかねぇ?」
しばらく車を走らせると、以前槍一さんに教えてもらった雑貨店までやって来た。
途中で電話に連絡が来るというようなハプニングもなく、ここまでくればこちらの用事を優先させてくれとも言える。万が一これから電話が来たとしても後に回すことが出来るだろう。
「せっかくの休暇なんだし、面倒な話し合いとかはなるべくならしたくないわなぁ…。避けられはせんだろうけどこっちの事が片付いてからにしてほしいね」
今回の買い物だったり腕輪の件だったりと、こちらの用事がまだあるうちはなるべく遠慮したい。夜間学校での講義だってこの休暇の期間中に行ってみたかったりするのだ。
管理部内での話し合いがまとまり次第ってお願いしてるけどそれがいつになるのかこっちじゃ全く分からんのが心配なんだよね。出来るだけ暇な時がいいな…。
「まぁ、あんまり気にしすぎていても仕方ないわな。とりあえず今は家電を揃えるのが優先なわけだ。連絡が来たら来たでしょうが無いと思うしかないか」
そう思いながら車を駐車場に止めると車から降りて入り口に向かう。案内板でどこに家電コーナーがあるか探さないとな。
入り口から入ってすぐの所にある案内板を見つめる。どうやら家電・電化製品は2階に大きい所があるようだった。
「まぁ、予想通りだったけど普通にあるよな。問題は電気屋で買うのとここで買うのどっちが良さげかってことなんだが…こっちだと配送サービスはあってもトラック貸し出しが出来るかどうかわからんのよな…」
元居た世界だと時間制限でだが軽トラの貸し出しをしてくれるところはそれなりにあったけどこっちではどうなのかわからない。配送無料サービスだけでないことを祈る…。
とりあえず2階の売り場に向かった。まずは物を選ぶ方が先だ。
2階にある売り場に来ると、洗濯機、冷蔵庫、エアコンと各種取り揃えていた。垂れ幕には火の魔石を使った発電機が出血大サービスともある。
「これは買えっていうお告げに違いない…それとも型落ちのみとかそういうのだったりするのかね?」
垂れ幕には他にも期間限定のモデルやら今月15%OFF等いろいろ書いてあった。一応買い時ではあるらしい。
「ともかく見て回るとするか。見てたらほしそうなやつ出てくるだろ」
買い物は見て回るだけでも楽しかったりするし、買い時だというのならなおさらいろいろ探してみるかという気にもなる。通常よりお得だと書いてあるとどうしても確認してみたくなるんだよね。(そもそもこれらの家電の相場を知らないから安いのかどうかよくわからないのだが…)
そんな相場もわからない状態ではあるが、自分でこれは良い! と思って買うのであれば納得も出来るだろうと、まずは手直にある炊飯器から見始めた。
竈で炊くのも味があっていいのだが、一々火を起こして炊くのは手間なのだ…。
「ふっくら仕上がりの早炊きかぁ…売り文句は何処も似たようなこと書いてあるな。予約炊きに真空保温機能、お釜に張り付きません…か。
効果は似たようなものだし、炊けるご飯の量で決める方がいいかなこりゃ」
中には今買うと炊飯料理本もついて来るなどあるが、正直そこまで引かれるような特典はなかった。やはり何合炊きかで決めるのでいいか…。
半額セールで型落ちの物が特売売り場にあるがどうせ買うなら最新のか少し下のがいいと思った。この世界の先端がどういったものかもそれでわかるのだし。
「とはいえ炊飯器じゃ大した情報にならないかもしれないけどな。まぁ、新しい物を買っておくに越したことはないだろ。……うん、これでいいかな」
家電コーナーの入り口から押して持ってきていたカートに5合炊きの炊飯器を1個いれる。
1人で5合もまず使わないのだが、空間魔法に入れて取っておける自分からすれば多かろうと特に困ることはないのだ。大は小を兼ねるともいうしな。
(まぁ、召喚魔法で全部済むって言えばそうなんだが…楽したい時ぐらいでいいんだよなあの魔法。自分で作ったっていう満足感も得られないしなぁ…)
ぶっちゃけ召喚魔法があればこのような買い物をせずともよく、今日の用事の大半を終えることが出来る。便利も便利、これ1つで普通に生活できるレベルの魔法ではあるのだが…これに頼りすぎるとダメになる気がしてならない。便利すぎると言っていい。
(ほんとこの魔法インチキレベルよなぁ…物を買うっていう意味が揺らぎかねないわ)
経済に喧嘩を売るレベルの魔法でもあるので、流石に乱用は控えている。まぁ、それを言ったら土魔法で出来る錬金も大概なのだが…。
魔法とはつくづく法外なものだと思わずにはいられない力だった。
(まぁ、それがある世界に飛ばされたわけだし後はどうやってうまく付き合っていくかだよなぁ…。いろんなところから目ぇ付けられん程度に使う分には良いとは思うんだけどね)
既にちょっとやらかしてしまっているような気がしなくもないが、やったもんは仕方ないと今は割り切っていた。これから気を付けていくしかなかろうと。
「って…こんなこと考えてたら買い物終わんねぇか。とにかく買い物だ買い物。
んーっと…冷蔵庫はあれば便利だけどそこまで必須って程じゃないか。洗濯機も特に今必要ないし…やっぱテレビか? あれは代用のしようがないしな」
冷やして仕舞うという事なら空間魔法が既にやってくれている。洗濯も新品の状態に戻す魔法で一瞬で完了だ。あまりにも便利すぎてこいつらだけはなぜか機械を使ってまでやろうとは思えなかった。
召喚魔法も同じようなもんだと思うのだが何でだろうか?
「炊飯器と違って場所とるからあんまし置きたくない所為かぁ? 確かにこれらを買っても置いとく場所に困りそうだよなあの家…」
台所は土間だしなんとなくだが冷蔵庫を置いておきたくない。洗濯機はそもそも置くスペースが設けられていない作りだ。置くとすれば外に置くことになるんだが…わざわざ洗濯場を作るのも手間だしなぁ…。
家の間取りを思い出して脳が知らず知らずのうちに敬遠しているのだろう。どうにもこいつ等は買う気にならなかった。
「必要になったらでいいかなぁ…これは。置き場所に困るんじゃ買ってもね」
一々空間魔法から出して使うのも何かしっくりこなかった。それをするぐらいなら空間魔法から直接材料を出すし、時間を戻して一瞬にして綺麗にする方を選ぶと。
冷蔵庫と洗濯機はスルーの方向で行くことにした。本当に必要なら買うが、今はその時ではないとこれらの売り場を離れた。とりあえず必要そうな物から選んでいくことにする。
「テレビは離れのどっちかに置いとくのがいいよなぁ…居間だと小さいテレビぐらいしか置けないし。基本居るのもあっちだしな」
先ほどの売り場から離れると、今度はテレビの売り場にやってきていた。売り場には今は懐かしいブラウン管のテレビがまだ置いてあったりして、なにやら懐かしい気分を思い起こさせてくれる。家はいつまでブラウン管で見ていたっけなぁ…と。
そんな懐かしい思い出に浸っていると横から声が掛けられた。
「いらっしゃいませ。今日はテレビをお求めでしょうか? 当店では小型のテレビから大型のスクリーンまで幅広くご用意させていただいておりますよ」
「大型のスクリーンまでは流石に使わないかなぁ…」
スクリーンで見たのなんて学生の時にプロジェクターで映し出していたのが最後じゃないかと店員さんの言葉で思い起こされた。いや…免許取った時に見せられたビデオが最後だったか?
「最近は家庭でも映画館で見ているような気分を味わいたいと結構人気な品だったりするんですよこれが」
「あー…知り合いの家にそう言えばありましたね。
確かに大画面で迫力はありましたけど…見る時は常に部屋を暗くしないといけなかったのでちょっとなぁ…って記憶が…」
「まぁ、映画館の雰囲気を味わいようなものですからね」
そこはしょうがないと苦笑いする店員さん。ゲームなんかもそれでやっていたのだが逆に大きすぎて自分には合わなかったなぁというのを思い出した。
「ではスクリーンはおいとくとして他のテレビはいかがでしょうか? 御覧の通り様々な種類をご用意させていただいております」
手を前に伸ばして、通路にズラッっと並んだテレビ各種を紹介してきた。近くにあるカメラの映像が映し出されているのだろう全部同じ映像が映し出されていた。
「畳の上に置きたいのでそこまで重くないテレビがいいですかねぇ? 画面も小さすぎないぐらいで」
とりあえず欲しい形のテレビを伝えてみる。これだけあるのだし条件に合うものはいくつかあるだろう。
「それですと…こちらのテレビはいかがでしょうか? 今ならばテレビ台もお付けいたしておりますよ。畳の上という事ですし台に乗せれば視線の高さ的にも丁度いい大きさかと」
そう言って紹介されたのは液晶タイプのテレビだ。確かに言った条件と当てはまっている。
「そうですねぇ…確かに条件にはあってますけどこれお値段なんかは?」
「こちらは現在1割引きと期間限定で15%割引されておりますので通常時に比べ大変お買い得となっております。大型で更に薄いテレビが出てきたので型としては少し前の物となりまして」
最初から最新のものを勧めると高いと思われるから1つ前くらいの物を紹介したのだろうか? 確かにそれだけ割引されてるなら買ってもいいのだが…。
テレビの所に置いてあるリモコンを手に取って色々操作してみる。
ボタンもそんなに多くなく、テレビを見るぐらいにはこれで十分と思わされた。最新のやつだとリモコンのボタンがかなり多くなっており、こんな使うか? というのも珍しくなかったりする。
「リモコンも使いやすいですね…。番組表も見れますし十分な気もするなぁ…」
「お気に召しましたのなら幸いです。いかがでしょう? 補償も6年間サポートしておりますし、リモコンの予備も1つついております。
離れたところに1つ、テーブルの上に1つと使い分けできるのが意外と便利ですね」
この感じのテレビでそれだけ割引もされ、特典もいろいろついているのなら正直これでいいかなぁ…と思った。
補償も6年と結構長いのがいい。その間にさらなる新型が出るなら買い替えるのも有りだろう。
評価の欄でも星5つ中、4つと半分だし不評な商品というわけでもなさそうだった。
(そこまで大画面にこだわるとかでもないし、映像もこれだけ綺麗に移ってるなら十分じゃないか? 1人で見る分には問題ないよなぁ?)
とりあえずこれを第1候補と決めて、店員さんに最新のテレビや他のお勧めのテレビがあれば見せてほしいと頼んだ。
これ以上のが無ければこれにしてしまえばいいし、意外と早くにテレビも決まりそうだなと内心喜んでいた。興味は外側ではなく内側の情報であり、正直見れればある程度の物でいいというのが本心だったりする。




