133話 1人で街巡り 武器防具屋
「いやはや…テンション上がってそのまま街中に向かったまではいいけど、慣れてない街だってのにこれ持ってかなかったらどこに行けばいいかすらわかんねぇっての」
街中に向けて足を進めた将一だったが、せっかくもらった地図を車に置きっぱなしだった事実に気がつき、体を反転させると車が止まっている駐車場に足を向ける羽目になった。
出だしからいきなり忘れ物するとかあるあるだけども何とも締まらない出発となってしまったな…。
車から地図を取ってくると、今度こそ行くかと歩き出す。とりあえず地図は持ってきたが、目的地は足が進むその先だと確認することなく進み始めた。
「しかしダンジョンや管理部から離れても流石はダンジョン街だな、武器持ち防具装着済みの多いこと多いこと」
管理部があった中心街から外側に向かって適当に歩を進めてるが、すれ違う者だったり反対車線側の歩道を歩いている者達はたいてい武器防具を装備していた。
まだ朝の時間帯なのだし、これからダンジョンに向かう者も多いのだろう。逆にダンジョン探索を切り上げて帰る者達もいそうだ。
「あの集団なんていかにもダンジョン帰りって感じだな。装備に返り血ついてるし…帰る前に落としたりしないのかね? 軽くぬぐうだけでもしておけばいいのに」
血って乾くと取りにくいよなぁ…と、若干がずれた考えをしながら道路の反対側を歩く集団を見ていた。
そう言えば広場や管理部内に目立った洗い場ってなかったんだよなぁと、施設の内容を思い出す。素材の確認の為に倉庫の方にはあるだろうけどそっちを使うわけにはいかないのだろうか?
「探索者が全員で使ってたら混むだろうし、その辺は各自帰ってからってことなのかねぇ? ひどい状態なら最低限は取るだろうしあの集団がそれをさぼってるだけの可能性もあるな」
自分の中であの集団は装備の手入れを怠っているのかなと結論をつけるとそれで納得した。
もし自分がそんな状態なら手入れは怠らないようにしようと心に決めて。(そもそも防具をまだ持ってすらいないが)
「お? そんなこと思ってたら丁度武器屋があんじゃん。まずはここから覗いてみっかな」
その集団から視線を外し歩道側の建物を見ていくと武器屋の看板が目に入った。丁度装備の事を考えていたタイミングで見つけたこともあって、興味が引かれて足をその店に向ける。大きさからして個人経営の店だろうか?
その店舗を見上げながら、どういった武器を置いているのかなぁ…と、中にある商品を想像する。槍一さんが言うには個人店は店主の趣味が入った武器があるという事だし色々期待しながら店の扉をくぐった。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
店側と客。お決まりのセリフを言い合うと目を周りの商品に向けた。
(おおー! 確かに店主の趣味が入ったような武器ばっかじゃん。形、色、よくわからんアクセサリー。大きな店舗の武器とはまた違った趣の武器がいっぱいだぁ!)
周りを見渡す限り雑多な武器がその辺に飾られていた。量産品ではなく一品物と思われる武器がやはり多い。
(大きい店はいろいろ置いてあったけどあっちは基本って感じだな。アレンジな武器を求めるなら個人店もいいね)
剣に槍にハンマーに斧にととにかく雑多な種類が飾られている。整理された武器群もよかったけどこれはこれで楽しいな。
「お客さん今日はどんなものをお求めで? うちは結構な種類を置いてるからお客さんの手に合いそうなものが何個はあると思いますよ」
そんな風にして武器に目を向けていると店主から声がかかった。とりあえず興味は引けたと見たのだろう。
「すいません、実は個人店のお店ってどんなものを置いてるのかを見てみたくて。大きい所とはまた違ったものが多くて目を引かれてました」
「個人経営の店を見るのは初めてなのか? その店その店でいろいろ違うからこれといった決まりもないし、目が引かれるのも仕方ないっちゃ仕方ないかね」
ある意味見に来ただけ発言なのだが、こういった客には慣れているのか気を悪くするそぶりも見せずに個人店の説明をしてくれた。
「お客さん探索者だろ? 腕前としてはどんなもんなんだい?」
「ついこの間探索者登録したばかりの新人も新人ですよ。一応ダンジョンに入って帰還した経験はしましたけど」
「ふーん…初探索は終えたわけだ、ならこれからって所だね。武器はなにを使ってるんだ?」
こちらが新米なのを知るとあんまし商売っ気が無くなったような気がしてきた。初心者なら素直に基本的な武器を使っておけってことだろうかね。
「能力を使うのが主なんで武器は剥ぎ取り用に使うナイフと少しゴツイナイフって所ですかね。土の魔法が出来るんで形だけですけど剣やら槍やらを使うとも言えますが」
「武器がまだ決まってないなら個人店の武器はちょっと待った方がいいぞ? 特にうちは一品もんを作ってるからな。まだ基本的な奴をいじった武器にとどめておくといい。慣れてきたらいろいろ探してみるといいんじゃないか?」
売る気がほぼないのか、もうアドバイスをしてくれる店主。客じゃなくてなんか申し訳なくなるね…。
「そんな感じですか。私も武器に慣れるところから始めないとなぁと思っていたので、今回は見るだけで寄らせてもらったんです。すいませんね…」
「まぁ、武器選びは重要だからな。まずは下見でいろいろ見ているだけってのは多いんだよ。お客さんもあんま気にしなくていいよ」
「そうなんですね」
やはり自分のような見に来るだけの客は一定数いるようで特に気にもしていないらしい。まぁ…全部の店がそう思ってくれるわけではないらしいのであんまし余計なことは言わない方がいいかもしれないな。
適当に武器選びのアドバイスをいくつかしてくれると、後は好きなだけ見てっていいと言われたのでお言葉通り好きに見学させてもらうとするかね。
(これ金属製だけどモンスター武器に似せた形にしてるのか。土と風の魔石の粉末入りで重量と強化はされてるし見た目だけってわけじゃないんだな。ちょ!? こっちの刀とか刃の部分が鋸みたいになってるけどなんか見た事あるぞこれっ! ほんと趣味はいったもん作ってんなぁ…)
見た目だけけかと思えば普通に武器としていいものもあるし、なんかネタ武器のようなものまである始末。個人店の物はいろいろ楽しませてくれるなぁ…と、端っこの方までじっくり見させてもらう事になった。
「いやー、自分で使えるかどうかはわかんないけどいろいろ楽しませてもらったなぁ。武器を使えるようになると個人店巡りももっと楽しめそうだわ」
店を出て、再び街中を歩きながら先ほどの店の感想を口ずさむ。店主からも武器を使うようになったらまたよろしくとも言われたし、いつかは再び行ってみたいものだね。
そんなことを思いながら歩いていると今度は防具の店が目についた。
やはりダンジョン街、少し歩けば何かしらダンジョンと関係する店がそこかしこにある印象だ。
「今度はここに入って見るかな。武器はともかく防具は盾がまだだしなんか1個ぐらい用意しといた方がいいかもしんないんだよね」
そう思いながら店の扉に手をかけて中に入る。
「いらっしゃーい」
「お邪魔します」
武器屋と同じやり取りをして目を周りの防具類に向ける。盾に鎧に兜と、防具屋としてはありきたりなラインナップがそこに並べてあった。さっきの武器屋さんよりかは趣味に奔ってない感じかな?
デザインは何か凝っているようにも見える。店主が女性だし見た目にこだわっているのだろうか? 見た目よりは実用性を優先する自分からするとなにか違うなぁ…とも思うがどうなんだろう?
「お客さん御用は? どういった物をお探し?」
気だるげな様子で話す女店主さん。風邪気味なのかね? その割には顔色も悪くないし咳などもしない。ふらふらしてるわけでもないしこれが通常なのかもしれない。
「すいません、個人店のお店はどういった物を置いてるのか興味があって立ち寄らせてもらいました。ちょっと見させてもらってもいいですかね?」
武器屋の店主さんにも同じようなことを言ったがあちらは笑ってOKしてくれたがこちらの女店主さんはどうだろうか?
「ウィンドウショッピングのような物ね。どうぞご自由に。気に入ったのがあったら教えて頂戴」
そう言うと特に何を言うでもなく店内に目を向ける女店主さん。どうやらこちらも見学はご自由にという事らしい。なら好きに見学させてもらおうかな。
まずは入り口の近くに置いてある兜を見させてもらう。西洋の騎士が被っているような顔全体を覆っているあのタイプだ。鎧一式で飾ってあるとカッコイイよなぁ…こういうのって。
(これも土と風の魔石の粉末入りっと。頑丈なのに軽いってのは防具としてみると最高だよな。盾なんかは重量が逆に欲しかったりするけど身に纏う防具は頑丈さと軽さが重要だよな)
横にある鎧はこの兜とセットなのだろう。同じ色合いなのがそれっぽい。
視線を少しずらすと値札に目がいった。やはり甲冑一式というのは結構いい値段するね…。
これが量産品かどうかはまだわからないが鎧についてる意匠を見るに一点物にも見える。実戦向きではなさそうだよなぁ…。モンスター相手じゃ何の意味もないわな。
「あのー…これってお姉さんが作られてるんです?」
「そうよぉ…男の探索者さんにはあまり売れないけど女性の探索者さんには結構好評なのよねぇ…」
問いかけたからか女店主さんの意識がこちらに向く。まぁ、一応お客なんだからそっけない態度をしないのは当たり前か。
「こういう意匠ってやっぱり人気あるんですかね?」
「まぁ…探索者とはいえ女性だからねぇ…。あたしはテレビや写真でしか知らないけどダンジョン内ってオシャレとは無縁じゃない? 一々お化粧なんてしてられないだろうし、酷い時なんて自分の血で化粧みたいになっちゃうとか? 化粧道具なんて持ち込まないだろうしねぇ…」
そりゃ荷物が制限されてる中で化粧道具を持ち込む人なんてまずいないだろうな。周りの色に合わせて自分の体の色を変えるカモフラージュ? させる人はいるかもしれないけど化粧とはまた違うだろうしなそれは。
自分が知ってる女性探索者だと田島さんと米田さんのPTの女性2人ぐらいしか知らないけどあの3人も化粧っ気はあまりなかったよな。いや…化粧してるかどうか知らんけどすっぴんだったような気がするだけだが。
(というよりこの世界なんか若々しい人多すぎんだよね? 女性は若い人が多いように思うし男性だってそうだ。少し年がいってる人もナイスミドルとかいう言葉が似合いそうな人多いしどうなってんだろ? 全員メイクしてるなんてことはないだろうし…。
と…そんな感想は置いといてだ。化粧なんてほとんどできないって話だっけか?
よくわからんけどファンデーションぐらいなら持ち込んでるかもだけどガチなメイク道具を持ってダンジョンに潜ってる人はいないだろう…いないよな?)
女店主さんの言葉に少し考えた末頷いておく。ダンジョンで化粧をしている人はまずいないと思う。
「見た目気にしてたら探索者なんて出来ないのはわかるけどさ、それならせめて装備する防具に少し華をつけてあげたらいいんじゃないかってね。
まぁ…そしたら女性の探索者にはこれが受けたわけでね…それからあたしが売る防具には出来るだけ意匠つけてあげてるようにしてるってわけさ…」
「なるほど、化粧の代わりに防具で代用ですか…。
私も多く居る男性探索者と同じで見た目よりは実用性を気にする派なもんでして。デザインの事はよくわかりませんけど、そういうのもダンジョンを探索する上でモチベーション維持には役立つんですね」
「男性からは賛否両論だねぇ…そんなのいらないって人もいればPTにいると場が少し華やかになるって受け入れてたりね…」
「ああ…それはなんとなくわかる気がしますね」
実際にPTに女性がいるかいないかでPTの雰囲気は変わるだろうな。それが装備の見た目だけだとしても。
「お客さんも女性の装備でもし意匠をつけたいって相談されたらうちにとりあえず来てみたらいいよ。まぁ…お客さん自身も装備に意匠が欲しいって言うんならあたしが見繕ってあげるよ…?」
「そうですね、もし必要になればお邪魔させていただくかもしれません。とりあえず今は大丈夫なので今日の所はこれで…」
そう言うともう一度店内を見て記憶に留めておく。利用するかはわからないが…。
「なんかあたしの話で時間潰させちゃったかねぇ…ごめんなさいね…」
「いえ、雰囲気の良いお店だというのはよくわかりましたよ。個人店なんですからこういうお店もあるんだなとわかりましたし」
実際物は良いように思う。ただデザイン料の分普通の装備よりは高くつくのかもしれないのがちょっと躊躇するかも…。お客の事を考えて商売してるし印象は良いんだけどね。
「ならいいけどねぇ…じゃあ、またよろしくぅ…」
「ええ、お邪魔しました。誰かにオススメすることがあればここの名前出させてもらいますね」
そう言うと女店主さんから「これ…」と言って店のカードを渡された。連絡してくれってことかな? まぁ、作るのに少し時間かかるかもだし事前連絡は欲しいか。
カードを受け取ると最後に挨拶をして店を出た。
こういった店もあるんだなぁ…と、利用はしないかもしれないが知れて面白かったし来れてよかったかな。
防具屋を出て次は何処に行こうかなぁと足を進める。
店はまだまだあるのだ。店に限らず見る所はいろいろあるし、飽きることがないと感じつつ次の見物先を探し始めた。




