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129話 少しお堅い食事会?




 「こんばんは。今日はこちらでご夕食ですか、成田さん」

 「ええ、こんばんは。石田さんもこちらで夕食でしょうか?」

 券売機付近で見かけた成田さんの所に来て挨拶を交わす。1回しか会ってないけど最近の事だからか覚えていてくれたか。


 「実は初ダンジョン探索生還記念と称して今食べてる最中なんですよ。そこでたまたまお見掛けしたものでして」

 「なるほど、ダンジョンに行ってこられたのですね。そして無事に戻ってこられたと。お疲れ様でした。初探索だとかなり苦戦されたのでは?」

 そう言って成田さんが聞いてくる。情報担当とはいえ軍人さんだからダンジョン探索がどんなものぐらいかは知っているよな。

 

 「ええ…探索が大変なものだという事を思い知らされましたね。それの慰労もかねてってことでちょっと豪勢な夕飯を食べてるんですよ。

 で、ですね? ちょっと資料室勤務の成田さんにお聞きしたいことがあってこうしてお声がけさせていただいたわけなんですが…」

 「なんでしょう? 石田さんは年間契約もされておりますのでお聞きしたいことがあるのであれば問題にならない範囲でお答えさせていただきますが」


 そういや3年コースだったんだよな自分。これ1日単位で使用申請してる人には対応やっぱ違ってくるのかな…?

 そんなちょっと気になることを思いついたが、今はどうでもいいかと頭から捨て去る。


 「食事をご一緒しながらでもどうです? 先ほど材料も追加したばっかりなので1人増えても問題ないのですよ。ちなみに蟹ざんまいセットの蟹しゃぶ食べてます」

 「ああ、あれですか…確かにこの食堂の中でも豪勢な部類ですね。しかし…急に私が参加するわけにも。それに…」

 「大丈夫ですよ、先ほども急遽1人追加で入ったりしたので。

 今3人なんですが、1人は管理部にそれなりに勤めてるスタッフさんでもう1人は自分とは違って中堅クラスの探索者の人です。どちらも女性ですので成田さんが入っても安心? ですよ。それと会計は私持ちですので」

 参加してくれないかなぁ…と、今居る面子の情報を出してみる。正直ぽっと出の自分より信用のおける人達だろうから話も合うと思うんだよね。管理部内で勤務していたんなら顔も知ってるかもだし。


 「管理部スタッフに中堅探索者ですか…ちょうど私も聞きたいことがありました。

 わかりました、参加させていただきます」

 「おお、ありがとうございます。では席まで行きましょう」


 以外に食いつきが良くすんなり参加してくれると言ってくれて安心した。成田さんって真面目だしこういうお誘いNGかもと少し不安だったんだよね。

 そして成田さんを伴って席の所まで戻ってくる。中田さんと田島さんが何やら意外といった表情でこちらを出迎えたが…なんだ?


 「えーっと…一応ご紹介しておきます。管理部の資料室勤めをされてる成田さんです。成田さんには私が地図の書き写しをしている時にお世話になりまして」

 「お世話と言われましても…私としては職務をこなしただけですのであまりそう大きな事では…」

 「いやいや、ダンジョンについてしっかり知ることが出来たのは成田さんがしっかり説明してくれたおかげですよ。臼田さんから脅威度が高いモンスターを教えて貰えたのだって成田さんが仲介してくれたからですし」

 「あれは私の職務内の事ですから。実際に感謝するのであれば質問に答えてくれた者かと」

 「ですが私はその質問システム? 自体を知りませんでしたからね。成田さんに言われなければその存在すらいまだに知らなかったと思います」

 「資料室に勤めている者なら誰でも紹介してくれると思います。それに…」

 「いえ、だとしても…」

 互いに話の終わりが見えないままの会話がしばらく続いた。そしてその不毛な会話を聞くのに飽きたのか、呆れたような声がその会話を遮った


 「2人とも、その際限ない誉めと断りはそろそろやめてとりあえず夕飯を食べないか?」

 「ですね…しゃぶしゃぶとはいえこれでは出汁が煮詰まってしまいますよ? 蟹も悪くなりますし」

 中田さんと田島さんの言葉を聞くと、確かにその通りだなと思い全員に頭を下げた。なんか意地になってたな…。


 「いや…どうもすみませんでした。いい加減切り上げればよかったですね。

 成田さんも…教えて下さってありがとうございました。私が言いたかったのはそんな感じでして…」

 「いえ…私も素直に受け入れておけばよかったかと。どうにも意地っ張りでして…」


 2人して互いに頭を下げた。このまま謝り続けることになってもあれだからと、握手を1回して無理やりにでも終わらせる。中田さんの言うように、蟹が悪くなる前に食べねばな…と。

 やっとの事で席に着くと、気持ちを切り替えるつもりで再び乾杯の音頭を取った。とりあえず食べてれば何とかなるだろう。ほんと何とも不毛なやり取りだったなぁ…。


 



 「ふぅ…以前から見た事はありましたが食堂で実際に食べるのはこれが初めてです。食堂価格ですから実はあまり良くないのではないかと思っていたのですが…どうやら思い違いをしていたようですね」

 「モンスター食材はこの食堂の華ですからね。食堂価格とはいえまずいものを出すなんてことはしていないでしょう。うん、やっぱ美味し」

 「以前ならいざ知らず、道路もだんだんと整備されてきてますから遠くで獲れた物の運送も格段に良くなってきてますし」

 「能力者に依頼という形で鮮度を保ったまま届けられることは確かに増えたな。今後も運送業は更に進歩していってほしいものだ」


 食事も始まり各々が自由に食べ始めた。成田さんは食堂価格相応だと思っていたようだが、こうして食べてみるとそれは間違いだと気が付いたらしい。今後蟹しゃぶを食べるならここ1択とまで言っているな。

 それと海から運んで来た蟹の鮮度が良いのは道路の復旧が進んできたかららしい。道路の復旧とともに保冷車も良い物が出来れば新鮮なものが更に遠くまで届くようになるな。 


 「そう思ってもらえたなら誘った甲斐がありましたね。

 他の料理屋の蟹しゃぶは知らないですけど、これだけ美味しいなら私もここ1択になりかねませんね」

 「蟹専門店ならばこれ以上のものもあるかもしれませんが、あいにくこのダンジョン街ではありませんからね」

 「道も運搬手段もよくなってきたとはいえ海の近くというわけではありませんからね。そのような店は海の近くのダンジョン街でもないと難しいでしょう」

 「ここからだとどこが近いか…。私は海近くのダンジョン街には行ったことがないし、そういう店は生まれてこの方見た事がないな」

 「採算度外視なら能力者に空輸してもらえれば食べられそうですけどねぇ…。飛行魔法での空輸依頼とかいくらするんだろう?」


 自分の最後のつぶやきに田島さんが物によると答えてくれた。蟹みたいな生ものは高そうだよな。

 中田さんは以前に自分が言ったお酒を頼んだらどうかという話を思い出したのか、依頼をどうするべきか結構真剣に悩み始めていた。自分で言っておいてなんだけど空輸してまでお酒ほしいのかね…。

 

 「現在までにおける日本の道路の復旧率は7割といった所です。日本は山間部が多い為どうしても道路の復旧には時間がかかりますね。

 主要道路を優先して復旧するとともに新幹線、地下鉄、市電といった大量輸送に向けての復興も同時にしていますがこちらは6割程でしょうか。路線の引き直しは急務ですが急いで作って問題が起きて貰っても困りますし、急ぎつつも慎重にといった感じです。

 ですので、個人として頼むのであれば能力者の方に空輸依頼をするというのも手だと思われます。中田さんが言うように物しだいでしょうが」


 成田さんがそう日本の輸送状況の現状を教えてくれた。正直そんなところまで調べてなかったが復興状況としてはまだそんな感じなんだな…。

 能力者がダンジョンを優先して復興に回ってない所為かね? でもその分軍の人達が復興に回ってるんだったか?


 「その話って軍からの情報なんですか? 言ってよかったんです?」

 「ええ、その通りです。しかしこの情報は公に流布されている物ですからね。パソコンで調べれば現在の復興状況などがわかるページも載っていますよ。

 ちなみに軍の方のページで見ると復旧者募集の項目もありますので、もしよろしければ応募してみてください」

 能力者からの応募はありがたいと言われた。いわゆる工事現場のバイトってことかな? 土魔法も使えるし出来ない事もなさそうだが…。


 「私も1回参加した覚えがあるぞ。石田は行ったことあるか知らないがこのダンジョン街から南西へ行ったところにある市だ。

 街がモンスターのスタンピードでやられたところでな。街の復旧はまだ全然だが道路だけでも直したいという事だったから1回応募してみたんだ。私の能力的にも合ってたしな」

 「へー…田島さん参加したことあったんですね。それで今はどうなってるんです?」

 確かに田島さんの能力的に重機の役割が出来るかと納得した。ビルの瓦礫とか持ち上げてトラックに積み込んでたのかね?


 「確か今は作業中断してるとか聞いた覚えがあるぞ? なんでも地盤が弱まってるからとかで少し遠回りになるが道路を新たに作ったとか言ってたな。私が手伝った意味は何だったんだか…」

 「あの街の復興は現在見合わせられてます。一度更地にする方がいいという意見だったのですが、現地に住んでらした住民の方から反発があったとか。日本廃墟街復興のページにそんなことが載せられていますね」

 

 田島さんの言葉に蟹足を食べ終えた成田さんが情報を補足してくれた。意外と食べるペース早いな…。

 しかし流石は情報部。他の街の情報もしっかり調べてるんだな。というかそんなページもあるのか? ネット巡りとかやってる時間あれば見てみたいんだけどな。


 「田島さんも復旧に手を貸してくださったからこそ、当時あの街の調査が出来たのです。決して無駄な手伝いなどではありませんよ」

 「そう言ってもらえるとありがたい。私が手伝ってからずっと放置されているからどうにも復興作業に再び手が伸びなくてな。まぁ、ダンジョンの探索に興味が出てきたからでもあったのだが…」

 「…私がこの食事の席に参加させていただいた理由ですが、再び手を貸していただけるか確認したくて来たしだいです」

 成田さんはそう言うと食事の手を止めて中田さんと田島さんの方に目を向ける。そう言えばなんかそんなこと言ってたっけか。


 「手を貸してほしいとは? あの街をいよいよ復興再開させると? 先ほど元の住民が反対してると言わなかったか?」

 「いえ、手を貸していただけるかというのは今回のダンジョン1層の探索についてです。緊急放送はお聞きかと思いますが?」

 「ああ、そっち件か。一応参加予定ではあるな。おそらく私の能力的に討伐部隊の方だろうが…まぁ、そこは未定だ」

 田島さんが確認したいこととはそれかと、納得した表情で成田さんに頷いた。


 「参加表明の意思ありがとうございます。それで次は中田さんにお聞きしたいのですが…」

 「なんでしょう? お応えできる問いならよいのですが」

 田島さんに確認したいことは以上だったようで、次の標的は中田さんに移ったようだ。この流れならダンジョン調査の事だろうけども。

 

 「今現在わかっている範囲で、上位クラスから中堅クラスまでの参加人数はどのようなものでしょうか? 軍の方は出来る限り早く把握したいそうで」

 どうやら今回の1層に関しての参加者を知りたいらしい。まぁ、それなりに名のある探索者は軍の方でも把握してるからその人たちの動向を知りたいのだろうが…。


 「そちらに関しては現在管理部スタッフがまとめておりますので今しばらくお待ちいただけるとありがたいです。なにぶん参加か非参加かはっきりしていない方も居りますので」

 「出来れば上位クラスの探索者の名簿は早めに頂けると助かるのですが…」

 「今回の件は急でしたので、はっきりした回答はまだ無理なんですよ」

 「まぁ、それも仕方ないことだろう。なにぶん今日の放送が急すぎたからな。

 今現在ダンジョンに潜っている上位クラスから中堅クラスは今回の件自体知らないのだから。戻って来るまで何とも言えない者も多いだろう」

 「それと現在なんかの依頼を受けてたりでもしたら依頼をほっぽり出すことにもなりかねませんし、この件を知ったとしても参加してくれるか微妙そうですよねぇ…」

 「それは…そうですね…」


 今回の件は急すぎたからダンジョン外にいたものはともかくとして、今もダンジョン内にいる者には知る由もないしそりゃ参加非参加の通達は出来んわな。

 成田さんも中田さんが言った理由が分かって言葉では納得はしたが、その顔は「どうにかならないものか…」と言っているようだった。


 「現在参加者をまとめておりますので、軍の方への報告はそれがわかり次第連絡入れることになると思われます。もうしばらくお待ちくださいませ」

 「まだ今日の昼からそんな時間が経っていませんし仕方ありませんか…わかりました。では管理部の方にはなるべく早くの報告をお待ちいたしております」

 中田さんはその言葉を聞くと軽く頷いた。そして蟹を食べ始める。これ以上言えることはないという事かね。


 「成田さん、聞きたいことは以上で?」

 「そうですね。探索者の方がどれぐらい集まるかというのは早いうちに知っておきたかったのでこうして確認させていただきました。

 物資の用意などもありますので人数把握は早めにしたいのですよ」

 「なるほど。では終わったようなので次は私から質問よろしいですかね?」

 「そう言えば私に聞きたいことがあるとか。答えられることならばお答えいたしますが」


 成田さんはなにを聞くつもりかと軽く身構える。そんな身構える質問じゃないと思うんだけどね。

 今回の初探索の事で少し気になっていたことがあったけど答えてもらえるかな?





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