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128話 気を揉む女性達と気楽な男




 「さて、2人の時は特に何も言わなかったからな。少し遅れたが石田の初ダンジョン探索生還を祝して…乾杯!」

 「乾杯!」

 「ありがとうございます」

 それぞれがコップを合わせると食事会が始まった。さっきまでのはそんな感じではなかったから実質これからが始まりだろう。

 

 「先ほどまでのは石田の生還を祝うとかそんな感じではなかったしな。初心者探索者(ルーキー)が無事出てこれたというのに先達として祝いの一つもしてやれてなかった…スマンな」

 「いえいえ、私も別に祝ってほしいとか考えていたわけではなかったので。

 最初は1人で粛々とやろうかなぁ程度だったんですよ。ですがこうして一緒に食べているので、これを祝いの食事にするかなぁって思っただけです。後付けみたいなもんですよ

 それに戻ってきた時にねぎらいの言葉はしっかり貰いましたからね、それで十分ですよ」

 「お前がそういうのなら私も気が楽になるがな。まぁ、今からは帰還お疲れ会ってことで。しっかり味わって食べるといい」

 「ええ、そうさせてもらいます」


 実際この蟹しゃぶも自分へのご褒美的なものだったが、誰かと一緒に食べるならそれでもいいかと適当に口にしただけだ。

 そもそも勝手に自分で蟹しゃぶを選んでおいて「さぁ、祝ってくれ!」なんて図々しいこと言えないわ…。 


 「そうですねぇ…初心者探索者(ルーキー)の人達はだいたい一緒に潜ったPTで打ち上げ会をしますからね。こうして石田さんみたいに1人でというのはあまりないですよ。そういった祝い事も集まってできないのがPTでないデメリットでもありますね」

 初心者探索者(ルーキー)を見てきた中田さんはそう言う。確かに最初に潜ったPTならお疲れ会をそうやって済ませているんだろうな。


 「自分が変わってるという事はなんとなくわかっていますよ。まぁ、それでも自分のやりたい様にやっていくことは変えませんけどね。

 正直今からスタイルを変えるのは大変なので…」

 「本来お前ぐらいの年なら知り合いと一緒にっていうのが普通なのだがな。最初から軍のサポートをつけますって言うのはその年だと確かに珍しいか…こうして祝勝会もやれんし」

 「本当なら地上に出たときにお昼をみんなで食べましょうって話はしてたんですけどね。ちょっと最後で予想外なことがあったばかりにそれも流れてしまいましたけど…」


 本当、最後にあんなモンスターが居なければ無事帰還した食事会を浜田さん達とどっかでやってたはずなんだよなぁ…。軍の人達ではあったけれど浜田さん達が自分のPTだったわけだし。PTでの祝勝会を自分も経験できてたはずなんだよね。

 今となってはどうしようもないが、あの事さえなければ他の皆のように打ち上げができてたんだと少し後悔の念が浮かぶ。

 一応連絡先は聞いてあるのでいつかはお疲れさん会はしたいとは思ってるが。


 最後という言葉を聞いて、少し表情を固くする田島さん。ちらりと横を見て中田さんを確認するがどうかしたか?


 「最後の、ねぇ…中田さんは何か聞いているのですか? まぁ、管理部スタッフなのでどういう状況なのかは知っていると思いますが」

 「田島さんがどこまで知っているのかわかりませんからあまり口にすることはできませんけどだいたいは聞いていますね」

 「という事は…報告者が石田という事もですか?」

 「あら? 田島さんもそれは知ってらしたんですね。ご本人から聞いたのでしょうか? 一緒に食事をされるぐらいは仲が良いようですし」

 「探索者として先輩後輩の間柄ですよ。他人に喋らないならと言われるぐらいには信用してもらってはいますけどね」

 「なるほど…条件付きではありますが教えてもらえる程度は信用されているというわけですか」


 目の前でされている会話だがどうにも声がかけづらい…。

 中田さんと田島さんって知り合いなのかな? 受付と探索者ってだけか? 知り合い以上友達未満?


 「あのー…お二人ってお知り合いだったりするんですか?」

 「ん? まぁ…私が探索者になった時から受付で働いていらしたし、それなりに顔見知りではあると思うが…」

 「訓練室の観察員を引き受けてもらっていますので他の探索者の人達よりかは顔を合わせることが多いですね。数年来の顔見知りですよ」


 その言葉を聞いてなんとなく理解できた。数年も同じところで顔合わせをしているならさっきの感じも納得だ。

 ある意味こちらも先輩後輩みたいな感じなのかね。


 「管理部内における先輩後輩みたいな間柄なんですね」

 「あー…確かにそれに近い感覚かもな。私としては先に管理部で働いている方という思いだったしな」

 「そうですねぇ…管理部内での話もしますし、探索者としての話も聞きやすいので私の方もそんな感じでしたでしょうか。

 同性の探索者の知り合いはいますが顔を合わせるのはそこまで多くはないですからね。やはり管理部内で顔合わせしているというのが大きいと思いますよ」

 2人の関係がなんとなく分かったこちらとしては少し安心した。片方には話して、もう片方にはわからないように話すのは大変だからな。

 

 「中田さん、田島さんには今回の事のあらましは話してありますよ。私から話した情報はしゃべってもらっても大丈夫です」

 「そうなのですか? でしたら言葉を選ぶ必要が少なくて助かりますね」

 「確かに正規の管理部スタッフである中田さんには話せて私に話すのはためらうというのはわかるが…どうにもしっくりこないものがあるな…」

 「それは仕方ありません。他人の情報をそうポンポン話すことなどできないのですから。石田さんと田島さんの関係など私にはわかりませんよ」

 「理解は出来ますけどね…ただ少し燻る物があるというだけですよ。中田さんの言いたいことはわかります」

 「まぁ、今は互いの関係が分かったのでいいじゃないですか。

 さ、食事を再開しましょう。特に気にすることもなくなったわけですし食事は楽しきいきませんと」


 そう言うと解体した蟹足を2人の方に回す。

 一応祝いの席だというのに話に気を張っていては美味い物も美味く感じなくなるわ。そんなのは無理やり参加することになる上司との食事で十分だよ。


 「石田さんは私達どちらにも話をされているので気が楽だったかもしれませんけど…」

 「一応お前の情報が周りに伝わらないよう気を使ってやったというのに本人は随分とお気楽だな…。どっちにも話をしていれば確かに気にする必要はないのだろうが…」


 2人からすれば目の前にいる将一の情報拡散に気を付けていたのだが、当の本人だけは意味のない警戒だと知っているからか、のほほんとした顔で蟹足をしゃぶしゃぶしている。

 そんな姿を見ると毒気が抜かれたような気持ちになった。同時に溜息を吐く中田さんと田島さん。なんか無駄に疲れたというような気がした。


 「石田さん本人が気にしていないのなら私達が気にしていても仕方ないですね」

 「ええ、私達が言葉を選んでいたとしても石田がポロっと言葉をこぼしたら意味がありませんからね。全く…」

 「なんか申し訳ありません。最初に私の方から自由に歓談してくださいとでも言っておけばよかったですかね」

 「それでも言葉には気を配ると思うがな。まぁ、今更言っても仕方ないか…。

 中田さん、そういうわけですので石田のダンジョン探索に関しては好きにしゃべってください。本人がこれですので」

 「そうしましょうか。ご本人から許可も出たことですし」

 そう言うと中田さんと田島さんも皿に盛られた蟹足を手に取った。これで食事が再開できるな。


 「では改めまして。好きに話して好きに食べましょう。せっかくの美味しい料理なんですから楽しんで食べませんと」

 「主賓がそう言うのなら構うまい」

 「ええ、久しぶりの蟹しゃぶですからしっかり味わわせてもらいましょう」


 言葉に気を付けるのはもうやめだと互いに認識し合うと、それぞれ好きに蟹しゃぶを始めた。

 とりあえずこれでやっと祝勝会が出来るなと、2人とは違うところでホッとした将一だった。





 「それで…話が途中で止まりましたけど最後のアレとかって今後どうなるんです? やはり中堅クラスの探索者に依頼が出されるんでしょうか?」

 始まった蟹しゃぶパーティーを楽しみながら、先ほどの話を再開させた。口火を切るならやはり当事者だった自分からのが話しやすいだろう。

 

 「詳しくは2階の依頼受付所で確認されるといいですよ。討伐はまだ先だとしても調査隊はすぐにでも組まれることになると思われます。おそらくですが、軍の方からという形で依頼が来るかと」

 「軍の人間に目撃者がいますからそうなるでしょうね。

 という事は軍との合同調査になるか…物資が用意されるだろうからそこはありがたいのだがな」

 「へぇー、軍との合同調査だとそういう風になるんですね。まぁ、時間もあまりかけたくないでしょうしこういう事には軍が動きますか」

 浜田さんが言ってたのと同じような流れになるわけだ。しかし物資が軍持ちはありがたいな。何を揃えなきゃならんのかわからんけど軍の方で面倒見てくれるのは楽だわ。


 「だが軍が用意するものはある程度の物までだから自分達で必要だと思った物は各自で用意しなくてはならん。昼話していたインスタント食品のようなものだ」

 「なるほど、そこは各自なんですね。消耗品関係は見ておいた方がいいわけですか…大変そうですね」

 「だがその分旨みはあるからな。参加する中堅どころは意外と多いはずだ」

 数が揃うならモンスターも倒せないことはないだろうし、なにより1層とほぼ地図がわかっているのが大きいらしい。確かに地図が不確かな所を潜るわけではないから安心感はあるのか…。

 

 「ん?」

 その時ふと顔を上げると、視線の先に見知った人物がいるのに気が付いた。

 地図の事を考えていたのもあってか、丁度その人に聞きたいことがあったのを思い出した。


 「すいません、ちょっと知り合いを見つけたので少し声かけてきます」


 そう2人に断ると席から立ちあがる。2人は自分が誰の所に行くと思ったのか、振り返って顔を確認しようとしていた。

 そして目的の人物に近づくと、向こうも自分に気が付いたのか軽く頭を下げてきた。相変わらず真面目だなぁ彼女は…。

 そんなことを思いながら、人の合間を縫って目的の人物の前に着いた。





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