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121話 魔石の査定忘れてたよ…




 「では石田さん、この辺りで私も戻ろうかと思います」

 増田支部長と面会した部屋を出てロビーまで戻ってくると浜田さんはそう口にした。まぁ、用事もこれで終わったしな。いつまでもこっちに付き合う事もないだろう。


 「わかりました。ここまでいろいろとお世話になりました」

 「いえ、私の方こそいろいろ知ることが出来ましたよ。報告がその分大変ですけどね」


 苦笑いを浮かべながら手を差しだしてくる浜田さん。報告が大変なのは自分のせいなのか? 半分自分かもしれないがもう半分はダンジョンの所為だと思うぞ。

 そんなことを思いながらその手を握り返す。


 「お疲れさまでした。地上に戻ったんですしゆっくり休んでくださいね。あと報告書…頑張ってください」

 「石田さんも初ダンジョン探索お疲れさまでした。今回の探索の経験を活かしてこれからも探索者として頑張ってください。

 それとちゃんとしっかりした報告書を提出させていただきますよ。ずいぶん濃い内容の物になりそうで今から大変な気がしてなりませんけどね…」

 マップ端に飛ばされてから地上に帰還するまで確かにいろいろあったし濃い内容になるだろうなぁ…と思った。しょっぱなから魔法で出した物を自在に消せるのかどうかといった話だしな。書かなきゃいけないことは盛りだくさんだろう。


 「おっと…どうせだし石田さんに渡しておきます」

 「ん? なんでしょう?」

 握っていた手を離すと腰のポーチから何かのケースを取り出す。タグケースか?


 「これ私の連絡先です。名刺を作ってみたはいいのですけど渡す相手があんまりいませんで。広田や深田の休みと重なった時はご連絡しますよ。

 今日はこれから報告書作りでしょうし時間は取れないですがいつか飲みに行きましょう」

 「いいですねぇ。こっちはしばらく素材の事だったり腕輪の事だったりで地上にいるでしょうから時間はいつでも取れそうです。ご連絡お待ちしてますね」


 名刺入れをずっと腰ポーチに入れてダンジョン探索をしていたのかという小さな疑問はあったが、プライベートで飲みに行くという提案は賛成だ。

 1層の注意喚起もあるからしばらくダンジョン探索は様子見となるだろうし、そうなると時間が空く。その間はダンジョン街でまったりさせてもらおう。


 自分の携帯の番号を名刺の1枚に書いて渡す。それをケースにしまうと最後に敬礼を一度し、浜田さんは入り口に向かい歩き出した。なるべく早くに飲む機会が来るといいね。


 玄関から出ていったところを見送ると、自分も行くかと思い足を動かす。

 先ほど荷物を出しているときに見つけたが、魔石の入った袋を倉庫で出すのを忘れていたのだ。今からそいつの査定をしてもらわにゃならん。金に意識がいきすぎて魔石の事すっかり忘れてたわ…。

 何個かは自分用に取っておくがそれ以外は全部卸そうと思い足を倉庫に向けた。





 「すいません、持ってきた魔石の査定をしてもらいたいのですが…」

 「魔石ですね。それではあちらのカウンターにお願いします」


 倉庫に着くと一番最初に向かった受付で要件を告げる。どうやら素材によってそれぞれ扱うカウンターが違うらしい。大物を持ち込んだ人と魔石だけ持ってきた人が同じカウンターだと変だわな…。

 素材それぞれに適した係の人が居るだろうし、特に疑問を感じることなく言われたカウンターに向かう。ここにいる人は魔石鑑定のプロってことなんだろうな。


 「すいません、魔石の査定をお願いしたいのですが」

 「はい、承りました。それでは魔石をこちらの籠の中にお入れください」


 『魔石』と書かれた看板の所に行き、カウンターに居た人(鑑定士さんかな?)に声をかけると籠を差し出された。持ってる魔石全てこの中に入れてくれとな。数もそれなりにあるし終わるまで時間かかっちゃうかねぇ…。

 リュックを降ろして魔石を入れていた袋を籠の中に次々入れていく。倒したほうが時間短縮になると判断してからはそれなりに倒したからなぁ…意外と袋も多いわ。


 「よし、これで全部かな。他の荷物の間とかに紛れ込んでないよな…?」


 目につく魔石の袋を全部出して籠に入れる。服の間とかにも感触はないし全部出せたと思うんだけど…まぁ、あったらあったで今度また出せばいいよな。

 全部入れ終わったと伝えると、籠を鑑定士さんと思われる人に渡す。こうやって出してみると結構倒してきたなぁというのが実感できた。

 

 「では拝見させていただきますね」

 「よろしくお願いします」


 鑑定士さんは袋から魔石を取り出すと、何かの液体が入った入れ物に魔石を漬ける。聞いてみるとこれで魔石に着いた付着物を落とすのだとか。

 自分は剥ぎ取った後に洗いはしたけども、中には簡単にしか濯がないで袋に入れる者もいるらしい。それに時間がなければ洗わずにそのままという事もあるようだ。急いでいたりするとそういう事もあるか。


 液体に漬けて付着物を落とした後は布巾で拭いて水気を取る。ここまでして準備完了らしい。

 鑑定士さんは宝石を扱うように手袋を着けると、魔石を光にかざして質を調べ始める。透明度や色、内部に不純物がないか等を確かめているようだ。まるで宝石を扱うかのごとくだな…。

 さらには懐中電灯の光を当ててまで調べ始めている。ダンジョンでも見ていたがこんな調べ方まではしないからな。現地で価値を把握するのは自分じゃきつそうだ…。


 そんな調べ方をしているとついに鑑定が終わったのか、隣の仕切りがされている箱に見ていた魔石を入れた。あれで質を分けているんだろう。


 「袋の中に何のモンスターを狩ったかわかる様名前が書いてある紙切れを入れておいたんですけど…今の魔石はどうでしょう?」

 「少々お待ちください」

 袋の中にピンセットを突っ込んで紙切れを引っ張り出す。それを見てみるとアイスバットとあった。そういや倒した中に1体だけ氷魔法を使って来たのがいたっけと思い出した。アイスバットは本当数少なかったなぁ…。


 「氷の魔石を持つモンスターは全体でみるとあんまりいないんですよ。今のも最低30万はしますね」

 「30万…」


 まさか今の1個で30万とは…。1個目からなんかすごいものを見たと呆気にとられた。氷の魔石はそれ1個だけなので売りに出さず確保するだろうけども、これは幸先がいいと次の魔石にも期待が持てた。

 

 鑑定士さんはそう説明すると次の魔石が入った袋に手を付け始めた。数もそれなりにあるから全部終わるまで少し時間がかかると言う。終わりそうな時間を聞くと番号が書かれた札を渡された。またその時間に来てくれという事だ。

 興味もあるから見ていていいかと聞くと別にいいらしい。邪魔になると言われなくてよかった…ただ手持無沙汰で飽きるのではないかとは言われたが。

 しかし魔石の鑑定なんぞこちとら初めてなんだよね。問題ない、大丈夫だと言っておく。

 それに暇になったら暇になったで適当に倉庫内でも見てくると答えて、鑑定士さんの仕事ぶりを観察させてもらうことにした。

 




 「ふぅ…これで全部ですね」

 「お疲れさまでした。持ち込んだ自分で言うのもなんですけど結構ありますねぇ…」

 

 あれから約2時間ほどだろうか? それなりに長い時間を魔石鑑定見学で費やすことになった。明るい所で見ているといろんな魔石があったんだなぁと思わされた。

 最初の工程の液体で、普通に濯ぐだけだと取れないような汚れも取れるらしく色がだいぶ変わる魔石もあったのだ。見ていて色が変わっていくのは普通に楽しかったな。


 「多くはバット系やラット系から取れた魔石でしたね。この2種は群れて生息していますから魔石回収の量で見ると半分以上占めることが多いんです。

 それに鎧蟻系も群れたりしますしね。今回は3分の1がラット系バット系、もう3分の1が鎧蟻系、残りがその他といった所ですね。結構手ごわいモンスターから取れた魔石もあって質がよさそうな魔石もありましたよ」

 「モンスターと意外と戦闘しましたからねぇ…それなりの戦果にはなってますか」


 たぶん地底湖の奴等の魔石がそれじゃないかなぁ…と思っていた。あいつらには面倒駆けられたしな。相応の魔石は持っているだろうと。

 通路で倒した中にも戦うとそれなりに面倒だなと思うやつはもちろんいたが、足場の事もあってどうしても厄介な相手は地底湖のモンスターだろうという思いがあった。


 「とりあえず魔石の質、それに値段をそれぞれ決めさせてもらいました。モンスター名の紙も一緒に付けてありますのでご確認ください」

 「わかりました。それではちょっと見させてもらいますね」

 「後ろのテーブルでじっくりとご確認くださいませ」


 鑑定士さんがそう言ってテーブルを勧めてくれる。時間がそれなりにかかりそうな時もここで休憩しながら待っていればよかったんだな。

 勧められたテーブルに魔石を置くと、椅子に座りながらジーっと査定された魔石を眺める。こうして見ていると本当に綺麗になったなぁ…と改めて実感するね。輝きが違うわ。

 

 とりあえず眺めているだけじゃどうしようもないと、持ち帰る物と卸す物を分ける。持ち帰るのは各属性1つずつでいいかな。

 どれを残してどれを卸すのか。今度はこっちが真剣な表情で検分する番となった。





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