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117話 帰還報告 素材卸し




 思考の途中で目の前の景色が変わったこともあり、将一はその考えを一度端に置いておくことにした。転送陣の部屋の中から久しぶりに見た外の景色に意識が持ってかれたことも影響しているが。


 「おぅ…久しぶりの地上だ~。1日ちょっとだっていうのになんか長いこと見てなかった気になるなぁ。やっぱ地下より地上だわ…」

 「洞窟エリアに潜ってるとどうしてもそんな気がしてしまいますね。

 さて…とりあえず邪魔になりますし広場に移動してしまいましょう。広田、深田。2人で運搬車を手配してきてくれ」

 「「了解」」


 広田さんと深田さんがこの場を離れる為、一度こちらに断りを入れて先に出ていった。邪魔になるという言葉も聞いたし、将一もこの鉄球をさっさと外に出してしまおうと急いだ。

 部屋の外に出すと人が少ない所に向かって7つの鉄球をゴロゴロと移動させる。その際注目を浴びることになったがこんなものを転がしていればそりゃ注目もされるか…。

 運ぶのに便利だったとはいえ、こんな鉄球を運ぶ者はまずいないだろうし。


 とりあえず周囲からの視線は痛かったが、全部を動かし終える事には成功した。後はこれを管理部の隣にある倉庫に運び込むだけなのだが…。


 「運搬車とやらを使って倉庫まで持ってくんですか?」

 「そうなります。そのままでも運べるでしょうがそちらの方が楽でしょうし」


 探索者の中には倒したモンスターを丸ごと持ち込む者もいるそうだ。森林エリアから縞牛だったりフォレストクラブ(体長2m)といったモンスターを解体せず持ってくるのだとか。

 そういったPTには大抵怪力の能力者か浮遊させる能力者がいるんだとか。帰還陣までは能力で、地上からは運搬車に乗せて運ぶそうな。まぁ、楽なら能力じゃなくて車を使うかと納得した。


 「それでこの鉄球の運搬の為に広田さん達に取りに行ってもらったと」

 「はい。それに安全面を考慮しても転がしていくよりはいいはずです」

 「確かにぶつかる人が居ないとも限りませんね。そういう事なら到着するまで待ちましょうか」

 大物を運び込むときは運搬車で。今後運び込むかはともかくとして、そういった物を使って運搬をするんだという事を知れた。多分知らなかったら能力をずっと使って倉庫まで持っていったんだろうなぁと。





 「お待たせしました。それらが全部乗る運搬車があまりありませんでしたので」

 そう言って広田さん達が運搬車を運んできた。確かに結構でかいトラックだな。


 (昇降機付きのこのトラックってなんていう名前なんだっけ? 昔家にプロパンガスを運んできてくれた人がこんな荷台があるトラックで来てたよなぁ…)


 そんなどうでもいいことを思い出しながら、早速乗せるかと鉄球を昇降機の所に転がす。端にストッパーが付いてるので勢いをつけても転がっていくことはないだろうな。

 そんな作業を都度7回繰り返して荷台に全ての鉄球を乗せ終わる。荷台には300kgまでの金塊2つが既に先客として置かれていた。(見られても大丈夫な様シートが巻かれている)

 

 「よし、では倉庫前まで回してくれ」

 「了解」


 大型車の免許を持っているらしい深田さんが運搬車を倉庫前まで動かし始めた。助手席には広田さんがいるので、自分と浜田さんは鉄球たちと同じ荷台に乗った状態だ。まぁ、場所もすぐそこだし何も問題はないよな。

 少しして倉庫前に運搬車を止めると鉄球を降ろす作業だ。ちょっと手間ではあるが、この方が安全なので仕方あるまい。

 全部の鉄球を降ろし終わると浜田さんが怪力の手袋を着けて金塊2つを持ってくる。


 「よし、管理部への報告は私と石田さんで行ってくる。お前たちは広場の指揮所に帰還した報告を頼む。

 詳細は後で報告書でも出すことになるだろうが…ダンジョンの広場の件、想定外のモンスターが出現することを簡単に報告しといてくれ」

 「「了解です」」


 そう言うと広田さん達はリュックから持てる分だけ回収した砂金の入った袋を浜田さんに渡す。

 それをリュックに結構無理やりとりつけて再び背負いなおそうとするが重さがすごいのか中々上がらない。そりゃ砂金の袋を2人分も足せば重くもなるよな…と、怪力の手袋を一度自分で着けて立ち上がる手伝いをする。立ってさえしまえば多少重くとも何とか大丈夫な様子だ。


 「っ! とととっ! ふぅ…これで忘れ物はないか。

 石田さん、ここで2人とはお別れです。何か2人にいいたいことはありますでしょうか?」


 若干ふらふらしながらそう問いかける浜田さん。そうか…契約終了になるんだしここでお別れになるんだな。

 そう思うと着けていた怪力の手袋を外して2人に手を差しだした。 


 「短い間でしたがお世話になりました。いろいろと足りない私には御2人の知識と経験はとても勉強になりました。こうして無事地上に戻ってこれたのも御2人のサポートがあったからこそです。

 先行偵察に運搬(お姫様抱っこ)と大変お世話になりましたね。とても感謝しています」

 「いえ、私の責務を果たしただけのことですので」

 「同じく。今回私達が石田さんのダンジョン探索をしっかりサポートできていたというのならばそのお言葉が何よりのねぎらいです」

 地上に出てきたからか、口調も最初会った時のようなものに変わり少し寂しく感じるが何かあればプライベートの時にでも話をすればいいかと割り切ることにした。


 「とはいえ、ダンジョン探索をご一緒出来て私達も勉強になったこともあります。私達の方からこそ感謝するべきところが多いでしょう。ありがとうございました。頬は軍医の所で回復魔法をしてもらいます」

 そう言って広田さんが差し出した手を握り返してくれた。

 

 「石田さんの魔法には私達も大いに助けられました。むしろこうして無事に地上に戻ってこれたのは石田さんの魔法があってこそでしょう。本当にありがとうございました。そしてお疲れ様です」


 次は深田さんが握手してくれた。

 うん…やっぱり〆はお堅いのよりこういう方がいいよな。軍人さんとはいえこういう感じの方が印象いいよな。


 「こちらこそありがとうございました。至らない初心者探索者でしたがご一緒出来てよかったです。

 今回は本当にお疲れさまでした。お仕事がお休みの時にでもお会いしたらどこかで飲みにでも行きましょう。今度はお酒と一緒に蟹でもどうですかね」

 「お酒が一緒にあるのならさぞ蟹も美味しく食べれるでしょう」

 「またどこかでお会いする時を楽しみにしています」

 そう言って2人と腕を離す。お別れの言葉はこんなものでいいかな?


 「それでは私達はこれで」

 「石田さんの探索者生活を陰ながら応援させていただきます」

 「はい、ありがとうございました。地上に戻ってきたんですしゆっくり体を休めてください」

 「「はっ! ありがとうございます!」」

 そう言って2人は運搬車に乗った。これを返してから指揮所に行くんだろう。最後までお世話様です。


 「あんな感じの挨拶で良かったんですかね?」

 去っていった2人から顔をそらし、浜田さんに感想を聞いてみる。


 「問題ないでしょう。互いに感謝し合って言葉を述べただけです。ダンジョンに一緒に潜った間柄ですしあんな感じで良いと思われます。

 もし今度ダンジョンに潜る際、軍のサポートを受ける時に指定いただけましたら同じメンバーというのも可能です。もちろんその時手が空いていればになりますが」

 「なんとなく気心知れた相手の方が動きもわかりますしそういうのはいいですね。

 うーん…1層を攻略する時にでもまたサポートを頼むかなぁ…でも攻略する探索者PTとかの方がいいのか? 攻略に向かうってことを事前に告げれば持ち込む武装なんかも変えて貰えるかもだし…必ずしも探索者PTでなくともいいのかね? その時しだいだなぁ…」

 

 特に問題なしという言葉も聞けたし、次のサポート時も同じメンバーを呼ぶのが可能と良いことを聞けた。

 やはりある程度見知った仲の方が気兼ねがないというのは洞窟エリアを潜っていて大事だと思わされた。ただでさえずっと洞窟と気が滅入るのに、PTメンバーにも気を使い続けるというのは攻略上よろしくないだろう。固定PTを推奨されるのが今回の探索でよくわかったわ。


 「ダンジョンに潜る際不安がおありでしたら今後もよろしくお願いします。

 さて…それではこの鉄球とかを卸しに行きましょう。正直な所これを背負っているのが意外と大変でして…」

 「でしょうね。私の方にも入ってますし姿勢維持が大変なのはわかります。さっさと卸して楽になりましょうか」


 2人して背中に重みを感じながら話し合う。この重みも探索者としての初報酬だと思えば苦笑程度で済ませられるが、浜田さんにしては少しでも早く軽くしたいだろうと思った。

 そして2人は若干ふらふらしながらも倉庫の扉をくぐっていった。





 「すまない、素材を持ってきたんだが物の確認をしてもらえないだろうか」

 「わかりました。結構ある感じでしょうか?」


 倉庫の1画に大き目の受付けがあって、そこに向かった2人。受付けの職員さんに量を聞かれ、背中に入っている分と倉庫の表に鉄球が7個あると伝える。一緒にいた職員さんにすぐさま表の確認を頼むとこちらは別のカウンターに案内された。量が量だからだろうな。

 別の大き目のテーブルに案内された自分と浜田さんは頑丈そうな机にリュックを下ろす。意外と下ろした音が重そうだったのに気が付いた職員さんが「探索お疲れ様です」と、ねぎらいの言葉をかけてくれた。いっぱいあると思ったのだろう。


 「申し訳ないのですが素材受け取り担当をしてる上役の人をお呼びしていただけませんでしょうか。少し卸すにあたって問題がありまして…」

 「? わかりました。少々お時間がかかるかもしれません、申し訳ありませんが少しお待ちください」

 「いえ、急にお呼び出しするのでそれは仕方ありません」

 「それではお呼びしてまいります」

 そう言って職員さんは人を呼びに離れていった。


 「浜田さん、広場の問題なら管理部の受付けの方がいいんじゃないですか?」

 「そちらにももちろん後で伺わせてもらいます。しかし私達が持ち込んだものもちょっと問題がありますので…。物自体はまぁ、なんてことはない…というとあれですが金です。これは他の探索者の方も持ち込むことはあるでしょう。

 しかし問題はそれを持ち込むのが初心者探索者(ルーキー)の石田さんです。必然的にこれは洞窟エリアの1層で得たものとなります。今後1層ではまず目にしない素材が出てくるというのは素材受け取り担当の方にお知らせしておくべき案件です。

 それも持ち込むのが初心者探索者(ルーキー)からが多くなるかもしれないとなればです。まぁ、皆が皆持ち込めるとは限りませんが…確実に増えるとは思います」

 浜田さんが今後の予想を立てる。確かにそれはあり得そうな未来だ。


 「なるほど…そうなると素材受け取りの人達は把握しておかないと混乱するかもですね。どこで手に入れた! と変に疑われるとこちらも困りますし」

 「ええ。なるべく早く知らせておくに越したことはありません。まぁ、米田さん達みたいに1層でミスリルゴーレム探しをしているPTもいますから、もしかしたらもう管理部は事態を把握しているかもしれませんけどね」

 「ああ…それもそうですね。となると上役の人には無駄足になってしまうかもしれませんか」

 「いえいえ、このことがなかったとしても上役の人には話はいくと思いますから無駄足にはならないですよ」

 「ん?」

 まだ何かあるのかなと、浜田さんに続きを聞かせてもらう。今以上に重要な内容なんだろうか?


 「重要なのはさっきの事ですけどこっちはこっちで大変だと思いますよ? いきなり(トン)単位で金を持ってこられたら間違いなく管理部としても素材担当としても大ごとです」

 「ああ…それは確かに。金の値段とか知りませんけど…あれ全部でいくらになるんでしょうね?」

 「さて…今の金の買取額がいくらなのか。ちょっと私程度には想像もつかない値段だという事は確実ですが。うらやましいことです…」


 もったいないというか…折角だから持っていこう程度の考えだったけど普通に考えてこれやばいんじゃないか? 

 探索者の中にはこれ以上に稼いでる人たちも居ると思うけどゴールデンゴーレムそのものを持っていこうなんて普通は思わんか。

 約2,5mぐらいの金の像って総額いくらぐらいすんだろうな…ちょっと今から怖くなってきたぞ。

 




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