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11話 町へと向かおう



 まだ朝日が完全に昇る前、周囲が薄暗い時間に起きた将一は眠そうな目をこすりながらも布団から出てきた。

 眠れるか心配していたがいつ間にか無事眠っていたようだ。


 寝起きで意識がはっきりしていない状態を直すために顔でも洗おうと、ポンプまで歩く。持ち手をぎっこんぎっこんと上げたり下げたりしながら水が出るのを待つ。出てきたところで召喚魔法を使い、適当に呼び出した洗面器に水をためる。


 いつまた、寝てしまいそうな顔を地下水の冷たい水で洗っていると、意識がだんだん覚醒してきた。


 「あー、冷てぇっ! でも気持ちぃぃ。

 にしてもやっぱ地下水いいな。冬は厳しそうだけど今の時期ならちょうどいいや」

 昨日洗ったタオル(乾燥済み)で顔を拭くと、ついでに歯を磨き、元の世界で使っていたのと同じ型の髭剃りを呼び出して身だしなみを整える。

 

 「これで良しっと。あとは昨日考えてた通り朝風呂いくか!」


 意識も覚醒しすっきりしたが、やはり体がなんかべたつく気もする。やっぱり日本人、お風呂には出来る限り毎日入りたいと思ってしまうのだろう。

 とりあえず浴槽を用意しようと、昨日は使わなかった土魔法で少し考えてみる。


 「昔見たアニメだと土魔法で錬金術してたけど…錬金術って魔法扱いなのか? 学問って聞いたことあるが。本来手間暇かけて変わるもん一瞬で変えれるなら魔法でいいのか? 時間系も混じってるのかね?

 土魔法での錬金術って…問答無用に物質を変換って感じか? 石がダイヤになったり、水がジュースになったり、牛肉が豚肉になったり? ダメだ…物はわかるが工程が理解不能すぎるぞ…。流石は不可能を可能にする力…魔法を理解するには俺の頭では到底無理だな。使えるならそれでいいか。

 んー…時間もあんまないし、今日は召喚魔法で呼んだ物ですまそう。まあ、難しいことを考えるのはやめよう。要は風呂に入れればいいんだ。凝ったのはまた今度作ろう」


 魔法を使えるようになったとはいえ、その理の端っこにすら全く触れられる気がしない。

 特に頭がいいわけでもない自分としては使えるならそれでいいと、庭に浴槽を呼び出し水魔法で45℃くらいのお湯を注ぎ込む。湯船に8分目ほどまでお湯を張るとそこで止める。

 他に人もおらず、こんな森の中で見られる心配もないと大胆な露天風呂を作った。


 「こんなもんか…。さってと、入りますか!」

 開放的な風呂ができたことに満足すると躊躇なく服を脱ぎ、洗面器で掬ったお湯で掛け湯をしてから湯船につかる。


 「あ゛ぁぁぁぁ……気もちぃぃ……。

 にしてもあの光、夜ほどではないけどこの時間でも見えるんだなぁ…転生後はそれどころじゃなかったから気にしてなかったけどずっとついてるのかぁ? 町に下りたら何なのか調べてやる」


 外気と浴槽の温度で多少熱を取られはしたがむしろちょうどいい塩梅で、その湯に浸かると自然と声が出た。

 湯に浸かりながら首を別の方向に向けると、昨日から気になっている光は周囲が明るくなって来た今でも見えにくくなってはいるが確かに見えている。

 周囲も今までの作業の間に少しづつ明るくなってきており、これなら出発する頃には日も昇っているだろう。



 「うーん…足元が土だと汚れるし、今からでも土を丸石にでも変えるかぁ。それと一応衝立作っとこうっと。

 シャンプーの混じった水を直流しはまずいだろうから洗い場を追加で隣に作って…流れたお湯は転送するかお湯を浄化? して地面に流せばいいよなぁ。こっちは今でなくていいや」


 丁度いい温度のお湯に浸かりながら、緩んだ思考で庭に魔法をふんだんに使用した風呂場の建築を考える。足場だけは今必要なので、お湯に浸かりながら土を丸石に変換してみた。


 元居た地球だと庭で小さな火を起こすのですら消防に連絡がいきかねない程きつきつだったが、人の目もないし敷地内で魔法使ってはダメということもないだろうと、今後の予定として頭の片隅に置いておく。ダメだったら諦めてこの家にある浴室を使うことにする。(確認していないが風呂がない家は流石にないと信じてる)


 そろそろ上がろうかと、しばらく湯船に浸かって体を温め、土魔法で変えた丸石の上に立つ。そしてお湯を頭の上から出るよう固定し、ザーッと浴びた。

 冷めないうちにバスタオルで体の水分をふき取り、風魔法で冷風を体に、温風を髪に当て乾かす。髪も長くないので手櫛で十分だ。


 「はぁー! さっぱりした。朝の露天風呂気持ちよかったー、露天風呂とか以前旅館に行ったっきりだったしな。

 …さて、気持ちも体もさっぱりしたんだ。いよいよ町に向けて出発しますか!」


 将一は神様から贈られた免許証を財布に入れると、500円玉が詰まったケースを転送させいつでも取り出せるようにし昨日見つけた軽トラに向かう。

 幸い車の鍵はドアポケットに入っていたので動かすのに問題はなく、ガソリンも満タンとガス欠の心配もない。あるとすれば軽トラは親戚の家で動かしたきりで、マニュアル車に慣れてないということぐらいだろうか。エンストが怖い…。


 「流石に久しぶりだし、ちょっと家の周り走らせて慣らし運転してから行くか…」


 久しぶりすぎて公道でエンストでも起こそうものなら…と心配していたのもあってか車に乗り込むと教習場でさんざんやらされた確認をする。(本当は乗り込む前に車周りの確認をしなければならないが…)


 ミラーや座席の位置を調整し終えるといよいよエンジンをかける。時間が巻き戻り新品となっているため、特に問題もなくエンジンがかかった。後は普通の車と同じようにすればいい。

 納屋からゆっくりと車体を出した軽トラは朝日を浴び新品の輝きを数十年ぶりに放った。


 納屋から軽トラを出し終えると、庭を何周かして練習に入る。曲がるときは車体を考えながらハンドルをきったり、指定したところに後ろ向きで駐車をしたり、車と車の間に駐車させたりと、向こうで使っていた車とは勝手が少々違うゆえの操作確認。

 そうして何度か練習して大丈夫かなと思ったところで車を玄関に回す。

 

 「昨日は石畳が続いてたところまでは草を撤去したけど…今度は森の中の草を撤去して道の確保しないと進むに進めんからな。

 この車が通れそうな場所はわかるが、庭と違って地面がしっかりしてるかはわからんし、うかつには動かせんのよなぁ。

 とりあえず草を何とかするまで待機させとこう。安全第一ってことで」


 車を家の前から、昨日草を撤去したところまで走らせる。そう遠くないところなのですぐに停車させると、エンジンを切って車を降りる。

 目の前には、昨日は手を出さなかった森の中の草が辺り一面に生えていた。


 とりあえずこの車が通れそうな幅でかつては道だったであろう所に見切りをつけ、今はもう慣れた除草作業を開始する。時々草ではなく短めの木を引き抜いたり、岩や切り株をどかしたりと外れの道を進むことになった。数十年と経っていれば細い木ができていたり、落ち葉や枝で道が埋もれていたりかなりややこしくなっているのだ。

 草や木や岩は転送でどかし、落ち葉や枝は風魔法で掃き掃除と、かつて通っていたはずの道を根気よく探す。


 何度も太い木にぶつかったり、段差にぶつかったり、森の中の掃除もして、やっと何もない地面が続いている道を見つけた。

 これを当たりの道と信じ、車が通れる幅の除草をし続ける。

 


 そして長い時間をかけようやく…コンクリートで舗装された人工の道路を発見する。


 「あー、長かったぁ…。この道路見つけるまでどれだけ山の中歩き回ったか。倒木の先に道があると期待したら崖だったり、穴が開いてたり…。

 こんなことならむっちゃ怖そうだけど、浮遊魔法かなんかで森の上まで上がって道路探したほうが楽だったか? それで一直線に木とか障害物どんどん転送させて…流石に怪しまれるか。それに途中であったような段差とかにでもぶつかったらまともな地面まで曲げなきゃいけないし。あんまり手間は変わらんか。

 下手に木抜いたり、段差を土魔法で盛ったり掘ったりして山崩れとか起きたら洒落にならんしな。力技でやるにしても知識が足りんわ」


 ここまで苦労して出てきたが、今になっていろいろ案が出てくる。しかし目立ちすぎるのはこの世界の事を知らなさすぎる現状、選択肢としては却下することになった。

 今後どうするかを今から町に下りて色々調べるのだし、やるにしてもそれからでいいかと割り切る。

 

 「とにかく道はこれで分かったんだ。後は戻りながら土魔法掛けてしっかり固めた道にしてこ。ついでに草が生えないようにもしておくか」


 道が分かったとはいえ、ここから戻ればそれなりに時間がかかる。道探しで時間を食った分、予定より遅れているのだからなるべく急いで戻ろうと元来た道を引き返す。

 道を思い出しながら地面に魔法をかけ、今後迷うことがないようにと捜索中にどけた岩や倒木を目印として道端に置いていく。それと時間ができたときにでも、柵かなんかを危なそうなところには設置していきたいなと崖を見て思った。


 県や市が何もしていないということは、ここは私道ということなのだろう。それにこの道を利用するのは自分ぐらいだ…という考えから道のリフォーム計画をいつかはしようと心に決める。




 「ふう…やっと戻ってきたか。魔法掛けながらとはいえ時間かかったなぁ。一応道は平らにしてきたし、車ならもう少し早く抜けれるかな。崖とかには十分注意だけど」

 

 道整備は魔法任せとはいえ、流石にこれだけ山道を歩くと再び汗をかいてしまった。せっかく朝風呂に入ったというのに…。

 仕方がないので着替えを用意し、汗拭きシートで体を拭いていく。これだけでもかなり違うだろう。


 「それとここまではやっぱり遠いから転送魔法で来られるよう細工しておこう。なんか目印置いとけば間違いなく飛んでこれるだろう」


 着替え終わった将一は車にエアコンをかけると、歩いて自宅前まで戻ってくる。

 転移の目印としてはわかりやすいポンプ小屋があり、邪魔なものもないし転移するならその前でいいかと考え新しく目印を置くことはしなかった。自宅ポンプ小屋の前と思い浮かべるとここに来れるはずだ。


 「これでよし。忘れ物はこれでないよな? 免許証も持った。神様から貰ったお金も転送でいつでも出せる。他に荷物らしい荷物なんて持ってないし…大丈夫だろ」

 最終確認を家の前で行い、準備はOKと車の所に戻る。


 「さて…町までどれぐらいかかるか。公道にさえ出てしまえばあとは道なりに進めばいいし、崖崩れとかでも起きてない限り大丈夫だろ。

 にしてもここまで長く感じたなぁ…けどこれでやっと別世界体験だ。よぉし! 色々調べてみて回るかっ!」


 車に乗った将一はアクセルを踏み、除草を終えた道に向け車を進ませる。


 ついに別世界を色々見て回る機会まで辿り着いたのだ。




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