101話 ダンジョン1層 昼休憩
「通路見えました! 何とか無事に来れましたね」
「ああ、モンスターと鉢合わせせずに来れて何よりだ」
深田さんに抱えられながら道を作っていた将一はついに通路を視界にとらえた。深田さんも見えたのだろう、走りながらこちらの言葉に答える。この運搬方法からもやっと解放されるな…。
「とりあえず通路の前で止まるぞ。そこからは広田が先行するはずだ」
「わかりました」
あともう少しの辛抱かと感じながら後ろを監視する。浜田さんや広田さんからも通路は見えてるだろうしラストスパートだろう。
最後の最後でモンスターに襲われるのもあれだし、降ろされるまでは自分の役割をこなす。結局広場で直接モンスターを見ることはなかったな。
「よし…広田は通路の先を偵察だ。走りっぱなしの後で悪いが頼むぞ?」
「了解。なるべく早めに戻ります」
「私達は通路に入ってしばらく待つぞ。石田さんは通路の入り口に壁をお願いします。追撃されると面倒ですからね」
「了解」
「移動するときに消せばいいですかね? 任されました」
しばらく走り続け、深田さん達は通路の前までくると息を整えてから次の指示をこなす。
休憩するところはこの先にあるらしいから今は止まらずに進むという事だ。まぁ、自分は走ってないから疲れてるとかはないんだけども。
浜田さんの指示で広田さんは通路の奥に向かった。先行偵察ってやっぱ大変な役だなぁ…。
「広田が戻って来るまではこの場所で待機です。とりあえずは無事に目的地の通路まで来れたので少しホッとしましたね」
「なんだかんだと広場でモンスターに遭いませんでしたし、順調といえば順調ですか?」
壁を張り終えた将一が待機している2人の所に戻ってきて問いかける。マジックアイテムも手に入ったし順調だよな?
「今のところはそうですね。少し危うい場面はありましたが大型モンスターとも遭遇しませんでしたし。それにマジックアイテムが手に入ったのが予想外の報酬ですよ」
「ああ、この手袋はいいな…ずいぶん楽だった。と、これはお返ししておきます」
深田さんから手袋を受け取ってリュックに入れておく。どうせならずっとつけっぱなしにしてリュックを手で持つのも有りかな?
自分は武器も手にしていないし、いざという時はすぐ荷を降ろせるのでそれでもいいような気がした。効果の程は自分の体で実体験済みなのだし。
「ところでこの手袋のマジックアイテムって有名なんですか? あまり驚いた様子もありませんでしたけども」
「そうですね。その手袋に関しては似たような品が既にありますので。
手の甲にある数字の分まで重量を感じないで持てるんです。確か現在見つかっている中だと800が最高だったか?」
「間違ってなければ800かと。一番小さいので100だったか?」
「結構メジャーなマジックアイテムなんですね」
検分することもなく効果を知っていたのはそのためかと納得した。類似品があるという事なら自分が流そうと思ってる盾も安心そうだ。あれも類似品扱いになるだろう。
「メジャー…そうですね。複数確認されているマジックアイテムとしてはその通りです。ですけどマジックアイテム自体は完全にダンジョン任せですからね、数でみるとやはり希少品ですよ?」
「同じような物が複数あるから話が広まりもするが希少な物には変わらん。それだけでも怪力の能力者の真似事が出来るアイテムなのだからな」
世界全体で見ても100はないだろうという事だ。そう聞くと確かに希少なものだなと思った。
「誰が使っても怪力の能力者に成れるマジックアイテム。重量でこそ差がありますが、300もあれば十分でしょう。
複数見つかっているとはいえ100もないんですから管理部に売ればかなりの値段で買い取ってもらえますよ。出来る事なら私が買い取りたいぐらいです…」
「それを言うなら俺もだな。
探索者になれば武器は今使っているような重火器ではなくなるだろうし、重量無視で武器を持ち運べるのはかなりでかい。武器だけでなく重い盾だっていけるんだ。ぜひとも欲しいマジックアイテムだぞ」
「やっぱり売ればいい値がするんですねぇ。今は武器使ってませんけどこれから使うかもしれませんし、いきなり売りに出すなんてことはしないでしょうね」
まぁ、そりゃそうだな…と言って頷く2人。
怪力の能力者と同じことが出来るならダンジョンに潜って探索業をすればいいだけだし、売るなんて事はせんよなぁと思った。
「武器防具にこだわらなくても今回みたいに人を運んだりするのにも使えたわけですし、売りに出す理由はないですよねぇ…」
「使ってみての感想だがだいぶん便利だったぞ。背中の荷物をああいうふうに待てるならなおさら楽だろうな」
「私としてはああいう運ばれ方はもうないほうがいいんですけどねぇ…」
「まぁ…確かにあの運ばれ方は私も出来るなら避けたいですかねぇ」
浜田さんが苦笑しながら答える。やはり内心笑ってたんじゃないかなこの人も…。
手袋についてそんな話をしていると、しばらくして偵察に出た広田さんが戻ってきた。休憩するところまで進んでみたがモンスターがいる様子は無しとのことだ。
「よし、時間もいい頃合いだしそこで昼休憩を取るぞ。各自もうひと踏ん張りだ!」
「了解!(です)」
隊列を組んで通路の移動を開始する。
モンスターがいないとわかっているので洞窟を進む足も軽快だ。もちろん絶対ではないから注意はしているが、もうすぐ休憩とあって全員の足から速度が落ちることはなかった。
「到着だな。ここで30分ばかり昼休憩を取るぞ。今のうちにしっかり休んで腹に物を入れておけよ」
「30分か…だいたい昼休憩ってそんなもんなんですかね?」
各自荷物を下ろして、ここまで歩いてきた疲れを取り始めた。全員が携帯食料を片手に持ってとやることは変わらないが。
「休む時間はPT次第ですね。私達はほら、地図の端っこという事で移動を多くしないといけませんから休憩の時間を最低限という感じにしてますけどね。これが帰還陣から近いとかならば1時間休んでも大丈夫でしょうが」
「後は狩った獲物を食べる場合は採取の時間も入れたりする。あいにくここは獲物がいないからどうしようもないのだが…」
「夕飯には簡単にスープでも作るつもりだ。お湯で戻すアレだな。その時にお湯を頼んでもいいか?」
「夕飯時にお湯ですね、了解です。それと洞窟ですから採取したもので昼というのはなかなか難しそうですね…。やはり洞窟エリアだと食事も簡素になっちゃいますか」
手元の携帯食料をかじりながら思う。これで時間でもあればもう少しましになるのになぁ…と。
「まぁ、私達が軍人という事もありますので食事に時間をかけないっていうのはありますがね。それともう何泊か伸ばしていいというのなら最初からペース配分も変えていましたね」
「日帰りもしくは1泊といったのは私ですからねぇ…それでこの時間配分なら何を言えるものでもありませんか。納得しました。
それでですね…この小部屋に来てからずっと疑問だったことがあるんですけども…」
「なんでしょう?」
不思議そうな浜田さん達から視線を外して小部屋の隅に設置された物を注視する。何であんなものが置かれてるんだろうか…。
「あれってどう見ても仮設トイレですよね? あんなものまで洞窟に持ち込んだんですか?」
「ああ…トイレですか。地図を書き写したときににトイレのマークありませんでした? あれもそれなりの数設置しているんですけども…」
「いえ、トイレのマークはわかってたんです。トイレ休憩はこの辺りが良いのかなぁ…程度に考えて書き写していたんですけどね。まさか仮設トイレがあるとは思ってもいませんでしたけど」
地図を書き写していた時は結構大変なこともあってそこまで気にしていなかったが、今にして思えば疑問も出た。わざわざトイレ休憩する場所を指定していることに。
「あれスライムに消化されないんです? 明かりが消化されないってのは知っていましたけども」
「最初は明かりと同じで消化されていましたね。モンスターに破壊されてたり。
しかしいつからか明かりと同じく無視され始めたんですよ。明かりと同じくしつこく設置し続けたからなのかは謎ですが」
「それと謎といえば、スライムがなぜか私達の出した物を消化するといった行動も謎だな。非常に助かってはいるが…」
「…スライムが?」
まさかのスライムの行動に呆気にとられた。仮設トイレそのものを無視するならわかるがなんで内容物は消化するんだ? 広田さんが言うように非常に助かる行動だけれども。
「スライムがなぜかそんなことをしてくれるから地図にもトイレマークが追加されたんですよね。壊されない限りは仮設トイレが使えますから。
探索者の暗黙の掟みたいなものですが…トイレのある場所に着いたら仮設トイレの下の部分の確認はした方がいいでしょう。引き出しておけばスライムがいつの間にか処理してくれますので」
「俺がこの部屋に来た時は引き出された状態だったな。
使ったら引き出しておく。これは探索者のマナー的なものだと思っておいた方がいい」
「それと壊れている仮設トイレを見つけたら管理部に報告をすることだ。これも公共物だと思えば不思議でもないだろう」
まぁ、ダンジョンの中にトイレがあるんであれば利用はするだろうし、それぐらいは全然かまわないのだが…。
「ダンジョンが何を考えてスライムにそうさせているのか謎すぎますね」
「明かりと同じく進むためにあえて手助けをしているのか、それとも別の意図があるのか…ダンジョンの意味不明さは今に始まった事ではないんですけどね」
「とりあえず使ったらケースを引き出しておく。これだけ覚えておけばいい」
「困るのは自分達だからな。ダンジョンが何を考えていようが利用できるならさせてもらう。そういった程度でいいだろう」
ダンジョンの意図は考えるだけ無駄。利用できるものは利用しようという考えでいいらしい。
何ともおかしな話を聞きながらダンジョンの知識をこうしてまた1つ覚えた。
ほんとダンジョンってのは意味わかんないなぁ…と思いながら昼休憩を過ごす。
どうせだから後で体験しようとトイレを使うかと考えて。




