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10話 神様のありがたい贈り物



 外での作業をやめ、再び玄関の扉を潜り抜けた将一。そして真っ先に目に映ったのは…薄暗くてよく見えない玄関先だった。


 「…そうだよな、いい加減明かり出すか」


 洗濯している間に日が山の陰に隠れ、暗さが増した山の中は想像以上に見えなくなり、明かりが必須と思ってしまうほどになっていた。

 月が見えるまではもう少しかかるだろうし、外灯も1つとしてない。星は綺麗見えるが光源としては弱かった。

 

 「光よ、辺りを照らす球となれ」

 思い浮かべるイメージは祭りとかでよく見る裸のまあるい電球。かなりの明るさがあるため、これ一個でも自分の周りは良く見えるだろうと。

 

 「よし、これでOKと。頭の上に固定にしてあるし、持たなくても全体照らしてくれるから楽でいいな。直視することもないし、頭が熱で熱くもない。今度から外で作業するときはこれで行こう」

 光を確保し、再度玄関を見直す。そこには最初見たときのような廃墟ではなく、物が色を形を再び取り戻し、まさしく生き返ったようだ。


 「はー…玄関もずいぶん立派になったもんだ。これがあの玄関の姿かぁ。この家に住んでた人、コーディネイトうまいもんだなぁ。…この高価そうな壺だけは普通の傘立てに変更して別の場所に飾ろ。自分としてはこれ置いておく勇気はないわ」


 綺麗になった玄関にため息をひとつつくと、高価そうな壺に後ろ髪を引かれながらも家に上がるかと靴を脱いで板間に上がった。

 大きな木の彫り物の後ろにはこれまたきれいになった障子が玄関との間を遮っており、それを横にずらして中を見ると、古民家でよく見かけるような居間の姿があった。


 中央にドンッと存在感のある囲炉裏。香りと色を取り戻した畳や家具。大きな鏡台と横に置かれた小物入れ。天井は台所の部分とつながっているからか吹き抜けとなっており、その間は障子で仕切られている。

 右手の障子は台所へ、奥は廊下に出るようだ。


 しかし廊下に出てみるとどうにも変なことに気づく。突き当りがトイレなのはわかる。しかしこの建物、前庭から見た部屋へと続く扉が見当たらないのだ。トイレと思うところを見てみるがやはり他へ続く扉は見当たらない。

 気になったのでいったん外から見てみることにした。台所を横切ろうとしたところで勝手口があったのでそこから出る。そして縁側を上がり部屋の中に入って調べてみた。

 

 調べた結果、どうやらこちらの縁側のある部屋は後で付け足して建てられた住居のようだ。

 とりあえず各部屋の確認は明日でいいかと、この離れ? を今日の寝る場所と決めた。 


 上がった部屋から奥側にあるふすまを開けると、ここと同じような部屋の作りをしている。2つの部屋をつなげればちょっとした会合場所にでもなりそうだ。親戚で集まって宴会でもしたのかな? と想像する。


 しかしここで変わった物を見つけてしまった。この家の雰囲気からすると、ずいぶんかけ離れた物が置いてある。


 「なんでジュラルミンケースがこんなとこにあんだ? 大事な物入れるならせめて古いタイプの金庫とかのがあっているだろうに」


 異様すぎたのか、どうも中身が気になる。確認するために部屋の真ん中まで持ってくるが、何やら非常に軽い。中が空だとしてもケースの重さすら感じられない。

 不思議に思いながらも確認してみる。幸い鍵は掛かっていなかったようだ。


 「…おおーこいつはスゲェ。流石にこんなの見たことねぇわ。というかこういう物ってたいてい別のもん入ってるだろ?」

 

 蓋を開けて目に飛び込んできたのは、金、金、金。ケースにびっしり敷き詰められた大量の金だった。

 しかしそれらは全部500円玉だったが…。


 「普通敷き詰めておくなら紙幣じゃないのか? なんで500円玉が並べてあるんだ」

 疑問に思いながらも蓋を完全に開ける。すると、上ぶたの部分に紙がくっついていた。

 

 「書置きか? っていうかこの材質…なるほど、これが神様からの贈り物ってわけか」

 

 紙を一目見てわかった。玄関にあった神様からの手紙と同じものだったからだ。

 こちらには何が書いてあるのかと封を開け、中の手紙を取り出す。こちらはあまり言うことがなかったのか1枚だけだ。



 『石田さんこの手紙を見ているということはケースを開けられたということでしょう。中に入っているお金は私からの贈り物です。転生後にお金なんて持っていないでしょうからこれを使ってください。

 本当は札束とでも思ったのですが、透かしだったり通し番号だったりと面倒そうなものがあったので手っ取り早く硬貨で用意しました。使いづらければ、お手数ですが銀行等で紙幣に変えてもらってください』


 「なるほど。お札じゃなく硬貨だったのはそういうことね。札束びっしりとか見たことなかったからそっちも見て見たかったけど500円玉をこんなに集めたこともないし、これはこれで初めてだな。

 銀行に行って両替するまで重くてちょっと面倒だけど…まあそれぐらいなら全然問題ってほどでもないな」

  将一はケースに平らに積まれている500円玉を片手でいじりながら、もう片方の手に手紙を持って続きを読む。



 『それとこの手紙を読んだ後で玄関に他の物も現れるよう設定しておきました。

 お金が入っているケースですが、状態保持や重量軽減の力がかかっています。丈夫で持ち運びに便利ですよ。

 …こんなところでしょうか、私からは以上になります。これらの物資が石田さんの生活の助けになることを期待します。

 それではお元気で。』


 「ああ、どおりで見た目より軽いって思ったのか。あのケースも手荒に扱うようなもんじゃないが、壊れないってのは地味に優秀だよな。

 しかし玄関に残りが現れるって…まだなんかあるのか?」

 

 ここからでは見えないが何かが現れているという。どうせならこの場に出してほしかったとは思う…後で確認することがもう少し増えることになったようだ。


 手紙もこれだけだったようで、将一は手紙に向けて手を合わせ感謝の意を表す。

 特にお金に関しては生きていくうえで必要不可欠なものなので、本当にありがたかった。


 「とりあえずこれで落ちつけるかな。転生1日目でこれだけの大作業が終わってホッとしたよ。普通1日で出来るもんじゃないからな今日やった事なんて。

 あー、安心したらなんか腹減ってきたな。時間は…7時か。とりあえず夕飯食べながら一服しよう」


 腕に表示させていた時間を消し、召喚魔法で何を食べるかをイメージしようとし、気になっていたお店の料理とかも可能なのかの確認のため、某ファミレスのメニューを思い出しながら呼び寄せてみることにした。


 結果は可能。目の前に並べられた料理たちがそれを物語っている。召喚魔法のすごさに改めて驚くのだった。


 「よし、無事全部呼び出せたし冷めないうちに頂くか。あ、転送魔法で昼使ったスプーンとか出して…それと汚れないようにランチマットも呼び出して引いておこう。

 …これでよしっと。それでは改めて、頂きます」

 そう言って手を合わせてから、呼び出した夕飯を今日のことを思い返しながら食べ始める。

 

 

 「それにしても…今日1日大変な思いはしたけれど、どうにも別世界に来たっていう実感が薄いなぁ。魔法は確かにすごかったけどこれは神様にもらった力だから関係ないし、若返りだってそうだしなぁ。

 今日やった事って規模は大きいけど家の立て直しと庭掃除だし。

 あ…でも草除去してるとき前庭の方からはよくわからなかったけど、裏側回ったら山のあっち側に青い光みたいなの空に向かって伸びてたんだよな。あれなんだったんだろ? 暗くなってきたから気づいたけど、あんな空まで伸びるような光ってなんだ? 下から強力なライト向けてるにしてもなんかそんな感じじゃなかったし、あそこまで伸びるもんか?」

 

 草を撤去している最中、暗くなってきて初めてその不思議な現象に気づいた。作業の手をいったん止めて同じことを考えていたが結局答えは出ず後回しにしていた。


 元居た地球なら強力なライトを下から上に向ければ、光が空に向かって伸びている光景を見た覚えがある。青い光というがガラスのレンズを変えれば何色にでもなるだろう。

 だけど距離がどうにもおかしく感じたのだ。流石にあんな空高くまではっきり伸びるような光は見たことがなかった。


 「今日見た中じゃあれがダントツに別世界っぽいもんだったんだよな。草掃除中にいいもんも見つけたし、明日は町に降りて色々調べられるといいんだが…」


 料理を食べながらもどこか上の空であの光の事を考え続けてしまう。しかし気にはなるがどうも納得できる答えにたどり着かない。

 料理も食べ終わり、どこか後ろ髪を引かれるがまだ神様の贈り物が残っている。先にそちらの確認だけを済ましてしまおうと離れから玄関に向かった。


 「お、ほんとになんか置いてある。いったい何だろう?」


 玄関を開けると、目の前の板間に大学ノートサイズの小箱がぽつんと置かれていた。間違いなく先ほど来た時にはなかった物だ。

 箱の蓋を持ち上げると、一番上にあったのは自分の顔写真が写っている運転免許証だった。

 

 「お! 丁度ほしかったんだよ。これで裏にあったあれが動かせるな!」


 免許証を手に喜びをあらわにする。

 実は先ほど草を撤去しているときに裏に納屋を発見し、そこで動かなくなっていた軽トラックも見つけていたのだ。いつか動かしてやると車の時間を巻き戻し、新車同様にしたところで免許が手に入った。渡りに船とはまさにこのことである。それに身分証明をどうしようかと困っていたのも事実だった。

 森の中の草を撤去しても、明日は歩きで山を下りなければけないと思っていたので本当にタイミングが良かった。

  

 「えっと後は何だ? 通帳か…銀行に行ったらケースに入ってるお金これに入れてもらえばいいな。それと…土地の権利証と印鑑証明書、それにこまごました書類複数…。やっべぇもん出てきたな…無くさないようしっかり持っとかなきゃ。それと印鑑か。この3つはこの箱に入れて転送しとこう。それなら絶対無くさんだろう」

 

 神様からの最後の贈り物は、これからの生活を守るうえでとても大切なものすぎた。手に入れた今だからこそ痛感しているが、後回しどころか一番最初にもらっておいた方がいい物だった。


 元居た世界では貸し物件住まいだった将一にとってずいぶん複雑そうなものだったが、面倒事が起きたら弁護士挟んでやり取りするしかないかと頭の片隅に置いておく。そんな事態にならないことを祈りつつ。


 ともかくこれで明日山を下りるのに問題は解消されたといっていいだろう。後は明日町に下りてから考えようと、まだ早い時間だが寝ることにした。

 ここから町まで車でどれくらいかかるかもわからないのだから、早起きの為にも寝ようと気持ちを落ち着かせる。


 離れに戻ってくると押し入れ(母屋との間)から布団を引っ張り出す。これも他の家具と同じく新品同然でしまってあった。

 

 元の世界で死んで神様に出会い、別世界に転生されそこで大規模リフォームをし、今やっと怒涛の1日が終わろうとしていた。

 流石にいろいろありすぎて疲れているはずだが、明日は町に下りるという目的もすでに決まっている。興奮していて寝れるか心配だが、これも明日の為と思い目を閉じ就寝に入った。



 しばらくして風呂に入っていないことに気づくが、むしろ朝風呂に入って気分をすっきりさせていけばいいんだとポジティブに考えることにした。




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