盗賊少年と、やさぐれ聖女〜冒険者になれなかった俺は正統派(見た目だけ)聖女のそばで一生を過ごすことにした〜
俺、ロイズは、スラムと商店街との、ちょうど真ん中の通りをとぼとぼと歩いていた。
常人なら絶対に近づかないであろう、スラムだが、あまりに先の出来事がショックであったため、知らぬ間にこんなところまで来てしまっていたようだ。
...............俺は、この街の生まれじゃない。
近くの小さな村に生まれ、幼い頃から冒険者になることを夢に見て暮らしてきた。
そして、今年。成人とされる15歳になった俺は、村を出て冒険者になるため、この街を訪れた。
.......それなのに、冒険者ギルドで伝えられた俺の適正職業は、人々が忌み嫌われるものであった。
"盗賊"
それが、僕の適正職業であった。
それが分かった瞬間、受付嬢からは蔑んだ目で見られ、周りにいた冒険者からは嘲笑を受けた。
それでも俺は、探せば誰かはパーティーに入れてくれるだろうと信じて、空きがあるパーティーを必死に探した。.................だか、、、、
「お!パーティー加入希望者か?........................え?"盗賊"?そんなやつパーティーに入れるわけねぇだろぉが。他当たれ。」
「.............."盗賊"だと?そんなもん入れちまったら、俺らまで犯罪者扱いされちまう。周りからのパーティーの印象が悪くなるだろうが。」
彼らは俺が"盗賊"だと分かった瞬間、彼らは俺のパーティー加入を拒否した。
........それでも、希望を捨てず、俺は何十ものパーティに加入してもいいかと聞いて回った。
.............結果は、すべて、拒否であった。
理由はすべて、俺が"盗賊"であるからだった。
誰も俺自身を見ようとはしなかった。職業を聞いた時点で俺への興味をなくし、あっちにいけ、と手を払った。
こうして俺の長年の夢だった冒険者になるという夢は、俺が"盗賊"であったせいで、あっけなく終わった。
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ショックと絶望の中、おぼろげな意識の中歩いていたら、スラムと商店街の真ん中ぐらいに、小さな、古びた教会のような建物を発見した。
俺が休憩のために、教会に近づいていくと、何か、感嘆の声をあげる子供たちの声と、若い女の声が聞こえてきた。
「「おーーー!」「あははは!!」「セーラねーちゃんすごーい」」
「いーい?治すこともできるけど、一番は怪我をしないことねだからね?分かった?」
「「はーーい!」」
回復魔法だろうか。白い修道服のようなものに身を包んだ若い女の手元が淡く黄緑に光り、子供の膝ら辺に手を向けていた。
その後、女は子供たちに諫めるような声をかけ、こちらに向かって歩いてきたので、反射的に俺は物陰に身を隠してしまった。
歩きながら女は、さっきの明るい声から一変して暗く、ゲスな声で独り言を呟いた。
「ハァァァーーーー。。だりぃーーーーー。チビどもはすぐ怪我するし、騒いでうるさいったらありゃしない。」
_________ガサッ、ガサガサッ
「?!............誰かそこにいるの?」
....................................
..........................
.............
......っは!!....まずい。あまりの豹変の仕方に驚きすぎて物音を立ててしまった。というか、あの女口悪すぎだろ。
仕方ない。ここは大人しく出るとするか。
「あーー。なんだ、盗み聞きするつもりはなかったんだ。ただいきなりこっちに来たから反射的に隠れてしまった。」
「........聞いたんですか?私の独り言。」
「...まぁ、全部........。」
「はぁぁーー。。仕方ないですね。これは私の落ち度です。もっと周囲に気を払っていればよかったのです。....ところで、あなたはどなたですか?......見たところ旅人のような服装ですが。この教会に何か用でも?」
口調を直した女が、今の俺にとって一番痛い質問をしてきた。
「俺は、ロイズだ。えっと.........冒険者になるために近くの村から出てきて、この街に来たんだ。.....けど、結局、俺の"職業"じゃ冒険者にはなれないと言われて、途方に暮れていた。ちょうどその時、この建物を見つけ、休憩させてくれないかと来たってわけだ。」
「........ごめんなさい、ロイズ。辛いことを聞いてしまいましたね。...分かりました。あまり、おもてなしすることは出来ませんが、それでもよければ中で休憩していってください。」
そう口にする彼女の、丁寧に対応するだけでなく、他人の気持ちを慮って話をする様子は、さっき独り言をしていた姿とは似ても似つかないもので、少し、興味が湧いてしまった。
そして、なぜか、なぜか分からないが、俺は気づいたら彼女に一歩踏み込んでしまっていた。
「..........?どうされましたか?」
「....なぁ、さっきのお前と、今のお前、どっちが本当の姿なんだ?」
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「さっきの.......とは、独り言を言っていた時の私のことですね。やはり、全部聞かれてしまっていましたか。......そうですね。どっちが本当の姿と言われれば、どちらも本物であると言って差し支えないと思います。.............しかし、本当に飾りのない自分と言われたらやはり、さっきの姿なのでしょう。」
そう言い放ち下を向くのは、あの口悪い姿が他人からどう見られるのかよく理解しているからこその行動だろうか。
「修道院では、よく"やさぐれ聖女"と揶揄されたものです。幸い他は優秀であったので落第などはしませんでしたが、上の反感を日常的に買っていた私は、廃墟一歩手前の教会に配属されてしまい、今に至ります。」
彼女も、なかなかに波風の高い人生を歩んできたのだろう。そう思わせるだけの声の重さと暗い表情があった。
「今は、だいぶ口調を丁寧にすることができるようになりましたが、昔は口の悪い自分を隠すことができなかったので、よく私の中身までも誤解されたものです。」
(俺と似てるな………)
ふいに俺はそう、思った。
彼女はその悪い口調ゆえ、周囲から疎まれ、辺境に飛ばされた。
俺は"盗賊"ゆえ、周囲から蔑まれ、仲間になることを拒絶された。
まったく違うようで、俺たちの境遇はある意味似ているのもしれない。
「.......なんだか、私たち似たもの同士なのかもしれませんね」
そう、彼女は言い、出会ってから初めて................笑った。
陰りを帯びていた彼女の雰囲気が明るくなり、少しだけ口角を上げ、軽く手を添えて淑やかに笑う彼女の姿に、俺は、気づいたら見惚れてしまっていた。
「..............??どうかされました?」
「いや、なに..........どうしてお前が"やさぐれ聖女"と呼ばれていたのか分かった気がしてね。」
「.............なんですか。嫌味ですか、皮肉ですか。いいですよーだ。別にそんなこと言われても気にしませんですぅーー。」
今度は俺が笑う番だった。
「あはは.........違うよ。そうじゃなくて、"聖女"の方。.........君が、こんなに綺麗で、美人だったから"聖女"なんて呼ばられてたのかな、、って思ってさ。」
一瞬、ぽかんとした彼女の顔が徐々に赤面していき、慌てたように言ってきた。
「ななななんですか!今度はからかってるんですか!わ、、わたしがき、綺麗なんて、、そんなことあるわけありません!!」
「いや、とても綺麗だよ。もし、俺が君の近くにいたなら、絶対にほっとかなかっただろうね。」
その言葉を聞いた彼女はさらに赤面して、しばらく慌てていたが、フー、フー、と呼吸を整えて冷静になった後、改まった態度でこちらに向き、思いもよらないことを言ってきた。
「......................じゃあ、これからの人生を私のそばで歩んでみませんか?」
、、、、、、、、、、、、、、、??!?
「......?!ど、、どうしてそんな話になったの??」
まるで、長年連れ添った恋人に告白をするような言葉を彼女は平然と言ってきた。
「だって、、、近くにいたら私をほっとかないんでしょ?......それに、あなたは今冒険者になることができず、これからの身の振り方に迷っているはず。なら、私と一緒にこの教会......というよりはほとんど孤児院みたいなものだけど、を運営していくっていうのも一つの選択肢としてあるんじゃないかなと思って。」
...なるほど。そういうことだったのか。つまり、私のそばで人生を歩む。というのは、私と一緒に仕事をしよう。ということだったのか。
.................別に、、、ガッカリなんてしていない。まぁ、それはそれとして、俺には、彼女に伝えなきゃいけないことがある。
「それは、嬉しい話ではある。だけど、さっき言っていた俺が冒険者になれなかった理由っていうのはな...................."盗賊"なんだよ。俺は......"盗賊"だったから冒険者になれなかった。それどころか村に帰っても厄介者扱いされるかもしれない。.....そういう"職業"だったんだよ。ごめんな、誘ってくれたのに。俺がここにいたら、この教会の評判まで下がっちまうんだ。だから、俺はここにいちゃいけないんだ。」
だが彼女は、なにも分かっていなさそうに首を傾げた。
「???今の話のどこに問題があったんですか?」
「いや、、だから、俺は"盗ぞ「それのどこが問題なんです。」
突然放たれた彼女の強い語気の意志のこもった言葉に、俺は思わず口を閉ざしてしまった。
「いいですか。中身もみようとしない人たちの評価なんて捨て置けばいいのです。それに、元々この教会には評判のひの字もないわけですし。......大事なのは、当人の思いです。私はあなたみたいな人に、この教会にいて欲しい。その思いに、"盗賊"だからどうだとかは関係ありません。私はただ、あなたの建前なんかじゃない、本当の思いを聞きたい。」
(......俺の、本当の思い...)
今日俺が、"盗賊"だと分かった。受付嬢からは蔑まれ、冒険者からは、嘲笑を受けた。今まで培ってきたプライドが粉々に打ち砕かれた。全部、全部、俺が"盗賊"だから悪いんだ。俺が"盗賊"だったから、こんな目に遭うんだ。いつのまにかそんなことを考えるようになっていた。その考えは、俺に負の連鎖を呼び、俺は"盗賊"という鎖に縛られていた。悪いのは全て"盗賊"だ。
.........だが、本当にそうだったのだろうか。
何十のパーティを回り、全てに拒否された。だが、もしそこで諦めず何百のパーティを回れば、一つでも、入れてくれるところがあったのではないか。
結局は、俺の意思の弱さの問題だったのかもしれない。
彼女は上辺だけの奴らの評価など、捨て置けと言った。俺は彼女のように強いわけじゃない。そう簡単に切り捨てるものだと、割り切ることもできない。
.......だがもし、彼女のような強い人のそばで、、、彼女を一番近くから見ていれば、俺もいつかそう考えれる日が来るのかもしれない。
大切なのは、俺の意思だ。俺が、どうしたいかだ。そんなものとっくの昔に答えは出ていた。
俺はその自分の気持ちに蓋をして、彼女の迷惑にならないようにと、いや、、、、彼女にもし拒絶されてしまったらと自分を守っていたんだ。
だが、こんな臆病な俺でも。
"盗賊"の俺でも。
彼女が受け入れ、共にいてくれると言うのなら、、、、、、
「俺は、君とこの人生を歩んでみたい。臆病な自分を変えるため。教会を守るため。....................それと、"盗賊"らしく、君の心を奪うため。......なんてね。」
(やばい、やばいっ)
最後に変なこと口走ってしまったと、俺は焦った。だが、
「ッ!!...............っはい、三つとも全部、期待して待ってます。」
そう言い、満開に咲いた彼女の笑顔は、、、やっぱり、とても綺麗だった。
これから、さらなる苦難が待ち受けてるかもしれない。......だが今目の前にいる彼女となら、乗り越えられる気がした。
「セーラお姉ちゃん!!お腹すいた!」「すいたーーー」「すきすきーーーー」「あのお兄ちゃんだれ?」「分かんなーーい」「きっとお姉ちゃんのおともだちだよ!!」
俺がまた、彼女の姿に見惚れていると、玄関から、子供たちが出てきた。
「はいはーい。今作るからちょっと待っててね。」
そう言い残し、途端に、彼女は教会の中に入っていってしまった。
「ねーねーお兄ちゃんだれー?」「セーラお姉ちゃんのともだちー?」
取り残された俺は、子供たちに質問攻めを受けていた。
「俺はロイズだ。これからよろしくな。」
そういえば、彼女の名前を聞いていなかった。セーラっていうのか。
............名前をつけるとしたら、ローラあたりかな。
..........................また変なことを考えてしまった。
その少し後、教会の厨房では、小気味良い包丁の音と上機嫌な鼻歌が響いていた。
(私の心を奪う.......か)
.......さて、彼はいつ私の心を奪ってくれるのでしょう。
.....ふふっ。楽しみです。
短編ということで、スピード重視にしました
ぜひ、下の☆☆☆☆☆から、評価・応援をよろしくお願いします★★★★★
もし、反応が良ければ、この物語をもっと丁寧なストーリー展開にして、ロイズとセーラのこれからの甘々生活を読者に届けるため、連載化します