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エタナンヤルクで起こるあれこれ

幼馴染の危機的場面に空から降ってきて三点着地で登場する美少女令嬢イオリちゃん

作者: 怠惰な箱

俺の幼馴染の話をしよう。


彼女、イオリ・モノルと俺の出会いは3歳の時だった。今や数少ない古くから存続する名門世襲貴族の家に、俺と同い年で生まれた彼女は、この国の王子である俺のお友達候補として親に連れられてやってきた。


小さい頃はそれなりに落ち着きとかわいげと常識があったのは覚えている。


しかし、いつの日からだろうか。気が付いたら「戦わなくては生き残れない」を地で行く性格になっていた。


学業優秀で武道にも秀でているので、学園では優等生、と思いきや問題児の一人である。隣の敷地の女子部から何か爆音が響けば3分の1の確率でイオリが原因なのだ。


ちなみに俺と彼女が通っている学園は、男女別学で女子部と男子部で敷地が分けられている。合同でやるイベントは入学式くらいなものだ。昔は卒業式も合同だったが、ある年に男子部の学生らが卒業証書を貰うときにズボンを下ろして「父上母上、こんな僕らを生んでありがとう」と大絶叫し、その男だけの閉鎖空間的ノリについていけなかった会場の空気が凍り付くという事件があったので、今は別々に式が執り行われている、らしい。一応ハイレベルな学生を集めており、貴族など上流階級の者が多い学園でこの有様とは、この国はもうだめかもしれない。


話はそれてしまったが、イオリが問題児である最たる事件は旧校舎崩落事件だ。彼女にはライバル(本人に言ったら全力で否定する)がいる。そのライバルは男爵家の庶子として暮らしていたところを父である男爵に引き取られて、女子部に転校してきたキーラという少女だ。少し見かけたことがあるが、あの幼馴染とタイマンを張るとは思えないかわいらしい見た目だった。イオリも外見ははかなげ美少女という詐欺師なので、たぶん同類なんだろう。


事件の経緯はこうだ。いつものように果たし状の送りあいをしていた彼女たちは、どちらかが相手を現在は使われていない取り壊し予定の旧校舎に呼び出した。そしていつものように戦闘が勃発。なぜいつも勃発してしまうのかという疑問は置いておいて、戦闘がエスカレートした果てに、イオリは階段を突き落としてしまった。


イオリがキーラを階段から突き落としたのではない。


階段自体を突き落としたのである。


キーラが攻撃を避けた結果、階段に攻撃が当たってしまって突き落としてしまったらしい。

イオリ曰く、キーラに当たっていれば崩壊しなかったとのことだが、それはそれでキーラという男爵令嬢もだいぶ身体能力がおかしいことがわかってしまう。


今までの戦闘であちこちにダメージが来ていた旧校舎にその攻撃は止めだった。階段の破壊を起点に瞬く間に旧校舎は崩落。その長い歴史に幕を閉じた。こんな終焉はいやだ。


崩落に巻き込まれたイオリとキーラは、がれきから普通に無傷で這い出てきた。そのまま埋まっていてほしかった。

その後、イオリとキーラは停学処分となり、進級テスト受験が不可能からの留年コースに突入した。当初は親に停学期間頭を冷やして来いと都から離れた領地に送られていたが、現在は舞い戻ってきている。勘弁してほしい。


一方の俺は無事学園を卒業することができた。

勢いでイオリに、


「やーい、謹慎処分からの進級テスト受験不可留年令嬢~」


とからかったら、その日地獄を見た。


さて、なぜ俺が幼馴染の事を考えているのかというと、まあ、ぶっちゃけ走馬灯のように思い出がよぎっているから。


学園では同じ教室で机を並べて学ぶということはなかったが、家族や侍従以外で、もっとも長い時間を過ごしてきたのだ。仕方がない。


俺のまわりに人はいない。その代わりと言ってはなんだが、わらわらとクリーチャーと呼ばれる化け物がいる。今にもこいつに襲い掛かっちまおうぜ!と言わんばかりの臨戦態勢だ。


勘弁してほしい。俺はバリバリの文化系王子で守られる側なのだ。脳筋幼馴染の行動に日夜胃を痛めているデスクワークが主戦場の人間なのだ。


一国の王子なのになんでそんな危険な場所に1人でいるんだよと言われるかもしれないが、運が悪かった。公務で乗っていた馬車が転落して、1人山中に投げ出されてしまったのだ。その結果、運よくというべきか、運悪くというべきか、生きている。


もうすぐ死にそうだけどな!


オオカミのような外見のクリーチャーがとびかかってくるのが視界に映る。


最期に伝えたいことは—――


「ごめん、イオリ。10歳の時、寝てるお前の布団におもらしの偽造を施したのは俺なんだ。本当に済まなかったと思っている」


次の瞬間。


周囲にいたクリーチャーは吹き飛ばされた。


そして、上から1人の少女が降ってきて俺の前に着地する。


「あなた本当に何やってるのかしら」


その少女はスッと立ち上がってこちらを向く。

片手には血の付いた槍を持っており、そのはかなげな顔面と大変ミスマッチしていた。

「や、やあ。……イオリ」


ボロボロの俺が片手をあげて話しかけると、大きい目を半開きにしてジトーと見つめてくる。

そして、


「今言ったこと、あとでじっくり聞かせてもらうわよ」


と吐き捨てるや否や、残りのクリーチャーたちを鮮やかな槍さばきで殲滅していく。


その光景を見ていた俺は、今までマヒしていたのか、急激に全身を痛みが襲い始めた。

……痛いのは嫌いなんだけどな。


最後のクリーチャーをイオリが倒すところを見届けたところで、俺の意識は途絶えた。




* * *



目を覚ました時、俺はふかふかのベッドの上にいた。


自分が生きて帰ってこれたことにほっと胸をなでおろすと同時に、下半身の下あたりがじわっと湿った非常に不愉快な感触がした。


…………おのれ。


「やーい、学園卒業してるのにおもらししてやんの~」

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