契約書
「なにが偽善者だ!」
ステージの上でマントをなびかせるケン太は怒りに吠えていた。
コロシアムに残っているのは美和子と、太郎だけである。ほかの参加者、勝と茜の兄妹はすでに出口から外へ出て行った。
ケン太の怒りに燃える視線は、飛行船のスクリーンに突き刺さるようだった。コロシアムの観客席に残っている記者たちは食い入るようにそれを見つめている。
スクリーンの千賀子はにこりと笑った。
「あら、言い方が悪かったかしら? それじゃ詐欺漢と言い換えたほうがいいかも」
くっ、とケン太は唸った。
おそらくコロシアムのマイクの音を拾って、放送設備から送信しているのだろう。
木戸がそっとケン太に近づき、ささやいた。
「お言葉にお気をつけてください。おそらく、いまのやりとりは本土のほうにも送信されているはずです。うっかりしたことを言って……」
わかってる、とケン太は手をふった。
「わたしは執事協会から派遣された栗山千賀子というものです。この報告を公にするため、チャンスを狙っていたの。トーナメントの最終日というのは、見逃せなかったわ」
執事協会……?
ケン太は眉をひそめた。
「わたしたち執事協会は主人と、召し使いとの健全な雇用関係をまもるための協会です。真行寺家の破産にたいし、ある疑惑があるため、わたしたち協会は独自の調査を続けてきました」
ぎりり……ケン太は歯噛みをしていた。コロシアムでは美和子と太郎が、じっと飛行船に映し出される千賀子の顔を見つめている。
「高倉コンツェルンの筆頭執事である木戸という人物、かれは以前真行寺家の筆頭執事でありましたが、その来歴を調べますと、真行寺家にはいりこむ以前、高倉コンツェルンに所属していたことがわかりました」
千賀子の言葉に木戸の顔が見る見る青ざめた。はっ、と美和子と太郎は顔を見合わせた。
木戸が、真行寺家以前に高倉家の執事をしていた?
「ということは、木戸氏は高倉ケン太によって真行寺家に送り込まれた可能性があるのです。これを否定いたしますか?」
「出鱈目だ!」
ケン太は吠えた。
画面の千賀子はうなずいた。
「そうですか。しかしほかにも疑わしい証拠があります。これは真行寺家の財産を、木戸氏が所有するにあたっての契約書の写しです」
画面が切り替わり、書類が映し出された。
観客席の記者たちはそれを見て、いっせいにカメラを持ち出しシャッターを切った。
ケン太は凝然となった。
「なんであんなものがある?」
木戸は無言でその場を離れた。




