飛行船
ぐおおおん……。
エンジンの重々しい音が頭上で聞こえている。
高倉コンツェルンの飛行船だ。
銀色の機体は朝日にまぶしく輝き、ゆっくりと番長島の上空を旋回している。
美和子と太郎は宿泊していたホテルの窓を開け、それを見た。
飛行船がぐるりと横腹を見せ、空中に静止する。その横腹には巨大なテレビ・スクリーンが設置されていた。スクリーンに高倉コンツェルンのロゴ・マークが輝き、音楽が鳴り響いている。スピーカーからは島全体に届くような音量でアナウンスが流れていた。
「トーナメント参加者のみなさん! 大事なお知らせがあります! どうか起きて! 目を覚まして! 大事なお知らせですよ!」
何事かと、あちこちに宿泊所の窓から参加者が顔を出す。空を見上げ、飛行船に気付く。
スクリーンが輝き、画面にひとりの人物の顔が浮かび上がった。
高倉ケン太であった。
かれはにっこりとほほ笑みかけ、口を開いた。
「やあ、トーナメントも今日で最終日となった。今日まで勝ち残ったのは、わずか十数名……まさに精鋭中の精鋭というわけだ。そこで今日最終日は、特別な闘いのステージを用意した」
画面が切り替わり、島の全景が映し出される。その島の北端に、カメラがズームした。円形の構造物が見えてくる。
円形闘技場であった。
コロシアムだ。ローマ時代のコロシアムを再現した、建物がそこにはあった。
ふたたび画面にケン太があらわれた。
「ここで最終決戦をおこなう。トーナメント最終勝者は、ここで勝ち抜き戦を行ってほしい。ではよい勝負を!」
額に指をやり、にやりと笑みを浮かべたケン太はまっすぐカメラを見つめた。
その視線の先に美和子がいた。
まるでふたりは飛行船のスクリーンを介して見詰め合っているようだった。
美和子は太郎に顔を向け口を開いた。
「まいりましょう、太郎さん。いよいよ最後の戦いです」
太郎はうなずいた。
「おともいたします。お嬢さま」